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造られた女と創られた力

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log2 足掻き

 
前書き
序章開始 

 
「どうなっているんだ!? つい先程まで心拍数、呼吸、遺伝子共に正常、何の問題もなかったはずだぞ!?」
「わかりません! いきなり弾けたように上昇し始めました!」
「おい! 義手がひとりでに動き出している! 宝石もひとりでに輝いている! 何なんだこれはぁ!?」

研究所内はにわかに慌しくなった。それもそのはず……巨額の費用、もう二度と手に入らないであろう貴重な素材、そして十数年の月日を注ぎ込んだ物たちが暴走とも呼べる状態になっているのだから。

「どうするんだ!? これでは何もかもが終わりになってしまうぞ!?」

神父の男が焦った調子で白衣の男に怒鳴る

「終わりになどさせるものか! こいつは……こいつらは私の研究成果そのもの! ここで失ってたまるか!」
「当たり前だ! これの失敗が知られれば……とんでもない事になる!」

先程までの余裕はどこへやら、今は捕らぬ狸の皮算用にならないでくれと祈り、研究成果を不意にしたくないと焦っていた。

と、その時だった。あれほど騒がしかった反応が全て正常に戻ったのだ。
神父は胸を撫で下ろし、白衣の男はどっと疲れた顔をした。

「ふぅ~……やれやれ、やt―――」

一息つこうとしたまさにその瞬間―――



試験管が大きな音を立てて吹き飛んだ!

「!? うわああぁぁ!」

研究員達は皆、試験管から猛烈な勢いで離れた。しかし、白衣の男は放心したように試験管を見つめるばかり。
もう使い物にならないのは見て明らかな試験管から、少女が出てきた。それに呼応するように足元にあった義手がひとりでに飛び上がり、彼女の腕に『接続』された。

「おぉ……おおぉぉぉ……!」

白衣の男は感極まれりといった表情で少女に近づいていく。少女は足元にあった”青い蛇の宝石”を拾い上げた。 しかし、使い方が分からないらしく、宝石を眺め回し、なぜか宝石に問いかけた。

「私を……呼んだのは……貴方……?」
「違う、お前を呼んだのは私だ」

少女は白衣の男に宝石を向け、問いかける。

「この子……呼んだのは……この子……どうすればいいの……?」
「ああ、”それ”はね、お前の腕に窪みがあるだろう? そこにはめ込んで使うんだ」

少女は”青い蛇の宝石”をまるで大切な人を抱くようにし、その後はめ込んだ。
宝石が鈍く輝き出す。

「完成だ! 完璧だ! これが私の―――」

そして不気味なほどに濃い色の青い”水流のようなもの”を、白衣の男に叩きつけた!

「―――!? ぎゃあぁぁっ!」

男は叩きつけられた衝撃で吹き飛ばされ、床に転がったと思うと急に苦しみだした。

「熱い! 熱い熱い熱いいぃぃ!?」

水流をぶつけられたはずの男は”熱がって”いた。まるで炎に包まれたかのように暴れまわり、転げ回り、もがき苦しんでいる。……そして、更に驚くべきことが起こった。


―――男がいきなり燃え出したのだ。おまけに炎の色も嵐の海のような不可思議な色の炎だった。炎は男の体を蝕んでいき、徐々に焼き尽くしていく。人がこんなに醜いものだったろうかと思わせるような、焼死体なはずなのに動いているような、そのような状態になってなお、男は少女に這い寄っていった。

「ワダヂのォ……ゲぎゅう―――ぜイが……だぞバ……――ぁぁァ」
数分と経たないうちに男は灰になりこの世から永久に消え去った。

「う……わ……うわああぁぁぁ!!?」

一人の研究者が逃げ出すのを皮切りに他の研究者や、神父、シスターも逃げ出していく。そんな中、

「はあぁっ!」
「おらぁ!」
「喰らえ!」

護衛とみられる男女が少女に斬りかかっていった。どの者達も、ひと目で波の腕ではないとわかる……強者達ばかりだ。

「ははぁっ! この者たちは、我協会でもトップクラスの力を持つ者たちだ! こうなれば、死ね!化物め!」

……が、しかし、少女は慌てる素振りすら見せず、左手を振り上げる。よく見ると、機械らしさを残しながら、化物と融合したような……そんな腕になっている。少女自体の見た目も変わっていた。メッシュ部分が”蒼く”発光し、セミロングだった髪の一部が伸びていたのだ。

「は――っ!」

少女は”水流のようなもの”を出現させるとそれをむちゃくちゃに振り回した! 太さもリーチもあるそれを避けることは不可能に近く、避けきれなくなった護衛の者達はそれを思いっきり喰らい、

「い、嫌!? いやああぁぁぁ!!」
「助け……助けてくれぇぇ!?」
「熱い! 誰かぁ!?」

白衣の男と同じ末路をたどっていく。見ると研究者達の中にも巻き込まれた者はいたらしく、もう数人しか残っていなかった。

「この……化物めぇ……!」

自分たちが”それ”を望んで作り出したにもかかわらずそれが牙を向ければ”化物”、従順に従っていれば”道具”……ヒューマニズム溢れた考えであり、この状況では仕方ないかもしれないが、今の少女にとって”それ”は気分をさらに悪くするものでしかなかった。
少女は”水流のようなもの”を叩きつけるべく、左腕を真上に振り上げ……振り下ろした!

「……!」
「いっ――ぎゃァァ!?」
「ばっぁ……ぁ!」

”水流のようなもの”に叩き潰され、焼き尽くされ、もう後には何も―――

「おのれ……おのれおのれぇ……!」

いや、神父は生き残っていた。 どうやらシスターを盾にして生き残ったようだ。

「こうなったら……悪あがきだ!」

そう言うやいなや地面に散らばった残りの”宝石”を掴み、謎の機械に入れる。

「はーっはっはぁ! これでどうだぁ!」

そして傍にあったボタンを押した。次の瞬間、眩く光りだし―――宝石は消えていた。

「……! みんなが!」
「どうだ、どうだ悔しいだろう! これで少しは―――」

神父はその悪あがきの言葉を最後まで言えなかった。言わせてもらえなかった。(・・・・・・)
少女の”水流のようなもの”で真っ二つにされたからだ。二つに割れた死体は臓物や血液を撒き散らし、他の者たちと同じように燃え上がり、焼き尽くされ、後にはもう何も残らなかった。

「みんな……みんなが……離れ離れに……!」

少女は狼狽え、研究所の残骸の中を歩き回る―――

「そうだ……!」

ふと足を止め、少女は何かを思いついたように顔を上げた。

「私が……探しに行けば……いい! よしっ……!」

少女は頷くと瓦礫の上を歩き出した。巨大な瓦礫は飛び越し、邪魔な瓦礫は退かす。人の姿をしていながら、その力は人を超えていた。


……その場から少女は見えなくなり、後には瓦礫が残るばかりであった……

 
 

 
後書き
主人公の”義手”と”はめ込む宝石で能力が変わる”は実は元ネタがあります 
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