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ヘンゼルとグレーテル

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第一幕その五


第一幕その五

「これだけ買ってもまだこれだけあるんだ。本当によく売れたよ」
「凄いわね、子供達にもお菓子を買ってあげられるわ」
「そうさ、たんまりとな」
「そうね、たんまりと」
「それでだ」
 お父さんはここでお母さんに尋ねました。
「その子供達は何処に行ったんだい?」
「森に」
 お母さんは答えました。
「多分イルゼ岩の方よ」
「何だって!?イルゼ岩だって!?」
 お父さんはそれを聞いて突然驚きの声をあげました。
「ええ、そうだけど」
 お母さんは何気なくそれに答えました。
「もうすぐ暗くなる、大変なことになるぞ」
「大変なことって」
 お母さんはお父さんが突然落ち着きをなくしたのを見て首を傾げさせています。
「何があるのよ、あそこに」
「魔女だよ」
 お父さんは答えました。
「魔女!?」
「知らないのか!?あの辺りには魔女がいるんだよ。恐ろしい魔女が」
「まさか」 
 お母さんは笑ってそれを否定しようとします。
「そんな筈ないじゃない」
「いや、本当だ。あそこの魔女はとんでもない奴でな」
「何をするの?」
「子供を食べるんだよ」
「ええっ!?子供を!?」
 それを聞いたら流石にお母さんも驚いてしまいました。若しかするとヘンゼルとグレーテルが。それを考えただけで気が動転してしまいます。
「そうさ、お菓子に変えてな」
「お菓子に」
「あの魔女は凄い年老いた魔女でな、真夜中皆が寝静まった時に箒で空を飛んでいるらしい」
「箒で」
「獲物を探しているんだよ。山を越え、裂け目を越え、谷を越え、淵を越えて」
 そう妻に言います。
「行けない場所はないのね」
「だから魔女なんだよ。獲物を探して何処までも。そのうえ」
「そのうえ?」
「罠まで張っているらしい。森の奥にお菓子の家を作ってな」
「お菓子の家」
 それを聞いても今一つわかりませんがそこにまた一言。
「そうさ、チョコレートやクッキー、飴にケーキで作った家をな。それで子供達を誘い出すんだ。そして」
「そして!?」
「お菓子の家に誘われた子供達をお菓子に変えて。食べてしまうんだ」
「大変じゃない、それって!」
「だから言ってるんだよ、大変なんだよ!」
 お母さんはやっと事態を飲み込みました。お父さんも言います。
「何とかしないと。子供達が」
「どうしましょう」
「イルゼ岩の辺りなんだな」
「ええ」
 夫の言葉に頷きます。
「すぐに行こう。さもないと取り返しのつかないことになる」
「子供達がお菓子に変えられて」
「魔女に食べられてしまう」
「そんなことになったら私生きてはいられないわ」
「だからだよ。すぐに行くぞ」
「ええ」
 お父さんとお母さんは慌てて家を出て子供達を追いかけに行きました。けれど二人はそんなことを知る由もなく森の中で野苺を摘んでいました。
「ねえグレーテル」
 ヘンゼルが側にしゃがんでいるグレーテルに声をかけます。二人は暗くなってきた森の中で二人しゃがんで野苺を摘んでいるのです。
「そっちはどう?」
「かなり集まったわ」
 グレーテルはお兄さんの方を振り向いて答えました。
「これだけあったら大丈夫よね」
「そうだね」
 見れば籠にはもう野苺が一杯で溢れんばかりです。真っ赤な野苺が暗くなってきた森の中で赤く光っているように見えます。
「あとこんなのを作ったわ」
 グレーテルはその手にあるのを見せました。
 
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