SeventhWrite
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一日目(3)
あ~、朝から最悪の気分だ。
「誰だよ、月村こずえって」
僕にそんな幼馴染いねぇっての。
「にしても、妙にリアルな夢だったな」
誰も居ない四畳半の部屋で一人、呟く。家には母さんと僕しか居ないし、その母さんもパートに朝早く出かけてしまっているので今は僕一人だ。
キッチンにはトーストとスクランブルエッグが用意されていた。
これくらい自分で用意するのに。
朝早くにパートに出かけているのにも関わらず、母さんは毎日しっかり僕の朝食を用意してくれる。家は裕福なほうではないし、父親もいない…というか合った事すらない、その事を一度母さんに聞こうとした事があるけど、母さんは辛そうに目を伏せるだけで何も語ってくれなかった。
でもこうしてしっかりと僕を育ててくれている母さんを困らせたくは無いから僕は父さんの事について聞く事はしなくなった。
そして今では少しでも母さんの負担を減らすためにクラスの皆が当たり前のように持っているケータイを持っていなかったり(なのでメールも出来ない)、バイトを掛け持ちしたり(バイトの掛け持ちついては母さんには内緒だ)と頑張っている。
ま、今一番頑張っている事といえば……唐橋さんへのアタックかな?
「さて学校行くか」
とは言っても結局一週間前から書こうとしている唐橋さんへの手紙は未完のままだ。自分のことながら情けないと思う。
でも仕方ないじゃないか!彼女の魅力と僕の想いを文にするなんて考えるだけで赤面モノだよ。って今時ラブレターというのも古いかな?でも僕ケータイ持ってないからメールも出来ないし、なんて諦めた思考をする今日この頃……というかあの夢って僕が告白しようとしても失敗するって思ってるから見たのかなぁ?
だとしたら僕はとてつもなくヘタレだ。
「駄目だな、僕」
そう呟いた矢先に目の前のT路地から同級生が現れた。
「ああ、その通り!お前は駄目な奴だよ、大樹」
はぁ、朝から面倒な奴と出くわしたよ。
「黙れよ善則」
隣でケラケラ笑いながら現れた、悪友の小島善則に軽くチョップする。
「いや、黙らないぞ、こうやってお前を挑発してやらないといつまでたっても唐橋に告白なんて出来ないだろ?」
「いらんお世話だ」
少しは落ち着かせてくれよ、こちとら今朝から変な夢見たせいでブルーなんだから。
「バカとは失礼な奴だな、ヘタレのくせに」
ふん、実際お前はバカだろう、………僕も十分ヘタレだけど………。
「それにしても善則のバカさ加減は上限が無いよな、一昨日のグラマー(英語の文法)の授業で指名された時の答えが古典の源氏物語の和訳だったよな?」
「それは古典の授業中に寝てて起きたらグラマーだったんだよ」
それはオカシイぞ
「グラマーの前の授業が数学でその前が世界史……古典って一限目だったよな?」
つまり善則は三時間近く、一度も起きることなく寝続けていたという事だ。
うん、バカだね♪
「なるほど、だからあの時、腹が空いてたわけだ」
何やら今さらながらに気付いたようだった。
やっぱりバカだね♪
「それはそうと大樹、先週の掃除当番の時に唐橋と一緒だったのに何で一言、二言しか喋らねぇんだよ、俺の聞いた限り『チリトリとって』と『お疲れ』しか言わなかっただろう?」
何で知ってんの!?
「う、うるさい!あの時は……充電切れだったんだ!!」
「何だ、お前はバッテリーを内蔵して動いてるのか?」
苦しい言い訳に対してバカな善則らしかぬまともな突っ込みに僕は唸るけど、一度アホな事を言っているので言い返しにくい。
そんな下らない言い合いをしていると僕らの通う高校が見えてきた。
「なぁ大樹、思ったんだけどさぁ」
珍しく善則が真面目な声で前置きする。と言ってもどうせ下らない事なんだろうけど。
「何さ、改まって」
だけど茶化すような事はしない、もし真剣な話だったら彼に失礼だからね。
「俺達ってさぁ、……毎朝同じ話題でよく飽きないよなぁ」
それ、お前が言うなよ。
「毎朝善則が同じ話題を振ってくるだけだろうが」
面倒だけど付き合ってやってるんだよ僕は!
「あぁだからか、お前も良く付き合ってくれるな……と、あれ、唐橋じゃね?」
善則がふと明後日の方向を見た。
「え?どこどこ!!」
慌てて周りを見渡すけど、唐橋さんの姿は見えない。
「てめぇ、謀ったな!!!」
ホラ吹きの悪友目掛けて拳を握り振り上げた、その時
「おっはよー!今日も元気だね、峰岸君」
後ろから発せられたエンジェルボイスによって動きが止まった。そしてゆっくりと振り返ると僕の片思いの相手である唐橋美咲さんがいた。
「あ、唐橋さん!?………お、おはっ…おはよう……」
急に滑りの悪くなった舌でかろうじて挨拶を返すと唐橋さんは小さく笑い、じゃぁねといって校舎に入っていった。
「……か…………」
「か?」
「可愛すぎるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
登校途中の校門付近という事も忘れて僕は絶叫していた。そして気がついたら僕の半径4メートル付近に人垣ができ、全員が変な目で僕を見ていた。
「さっさと行くぞ」
状況がよく分からないまま善則に引っ張られ、そそくさと校舎に入った。
「大樹、あんな人の多い場所で叫ぶなよ、恥ずかしいな、今日の昼には有名人だぞ」
「うん、ごめん」
下駄箱を過ぎたあたりで善則に平謝りしているといきなり肩を叩かれた。
「お前も度胸があるのか無いのか分からん奴だな、大樹」
聞き慣れた声がして振り返ると、毎朝遅刻すれすれで登校して来る幼馴染の萩原悠哉がいた。
「あれ?悠哉、今日は早いんだな」
珍しい事もあるもんだいつも予鈴すれすれに登校してくるのに。
「まあな、なんか妙な夢を見て飛び起きたんだよ」
こいつもか
「妙な夢?それってどんな内容なんだ?」
善則が好奇心をむき出しで尋ねる。
遠慮無い奴って良いなぁ…
無神経になるつもりは無いけど。
「それがなぁ、信じられない内容でさぁ……なんと…………」
バコッ!!
「勿体ぶんな、さっさと言え」
善則……容赦ねぇなぁ、悠哉…涙目になってんじゃん。
「あぁハイハイ分かったよ、実はな…大樹に妹が居たんだ」
……………………ゑ?
「しかもな、大樹とその妹が仲良くてさ、もう見ていられないくらいベタベタしてて気味悪くなって飛び起きたんだ」
何……ソレ?
I・MO・U・TO?
「なんとも……突拍子も無い夢だな…お前の頭の中どうなってんだ?」
呆れたように善則が言う。
そうだ、僕に妹なんて突拍子無さ過ぎる。
別に僕は妹が欲しいとか小さい子が好きとか言った覚えが無いし。
シングルマザーだし。
兄妹なんて単語、僕には無縁なのだから。
「そうなんだよな、寝る前に『MASK THE BIKEMAN~BEETL~』を見てたからかな?」
なんで6,7年くらい前の特撮ヒーローなんて見てるんだよ!
MASK THE BIKEMAN(以後MTB)は僕らが小学生の頃に流行った特撮ヒーローで主役が帰国子女の超イケメンだったので女子から大人気だったシリーズだ。
内容は確か……突如隕石が飛来してきてその隕石からエイリアンが出てきて、そいつらから地球を守るために組織が創られ、その組織が開発したパワースーツを装着した主人公がハイスピードで戦うんだけど実はその主人公はその隕石のせいで妹と生き別れているという感じのストーリーだったと思う。
「影響されやすいんだな、悠哉は」
まぁ突拍子もないけど夢ってそんなもんだよね。
「そうかもな、にしてもやっぱあのシリーズが一番面白いな、今の奴ってなんかデザインがカッコいいじゃなくて斬新って感じだし」
それについてはよく分からないな、この歳で特撮ヒーローなんて見ないし。
「そうだよな、もう見た目がギャグにしか見えなくなってきてるよな」
善則は今でも結構見てるらしい。
「今でも特撮ヒーロなんて見てるの?」
小馬鹿にした言い方にならないように気をつけて聞いてみると、二人は真剣な顔になる。
「まぁ確かに世間一般的には小学生向けってイメージがあるけど、ストーリーは中々面白いし、キャストも可愛い子が結構出たりする、主人公がイケメンだから女子も見るし需要はかなりあると思うよ」
これは悠哉の弁
さらに
「最近はCG技術も発達してきてるから、下手なアクション映画よりカッコよく見えるな」
こっちは善則の弁
「へぇ~最近の特撮ヒーローって需要が広いんだなぁ」
全く知らなかった、ぶっちゃけてしまえば要らない情報ではあるけど。
そんなこと言っては二人に悪いので自重しとこ。
「にしても信号機みたいな配色のやつはまだカッコよかったな」
「ああ、でもその前のやつもシンプルなデザインでカッコよかったよ」
「「それに比べてあの宇宙飛行士は…」」
二人は僕のついていけない話題を始めてそこそこ盛り上がっていた。
たまにこうやって置いてきぼりになるけど僕は特撮ヒーローものを見ようとは思わないんだけどね。
そんな事より今は唐橋さんへの…………………
「あ、今思いだしたんだけどさ、夢に出てきた大樹がその妹を名前で呼んでたんだよな」
一人思考にふけっているとそんな言葉が聞こえた。
もちろん悠哉の言葉だ。
「その名前って?」
善則がすかさず質問した、これには僕も興味がある。
「その名前ってのは
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