SeventhWrite
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彼の居場所
「夢かよっっ!!」
あれだけ意味深な書き出しから始まって全部夢かよ!納得いかない!!
僕は昼休みのクラスで水瀬君の書いたライトノベルの続きを読んでいた。……だけどあんまりな展開に僕は大声で突っ込んでしまった。
周りの目も気にせずに。
「木崎、うるさい」
そしたら自習をしていた安土山さんに睨まれてしまった。
納得いかないけど彼女は悪くないので、とりあえず謝る。
「ごめんなさい」
すると何も言わずにまた自習に戻る。
どうでもいいけど安土山さんって休み時間は勉強しているところしか見ないな、なんて思考をそらすと
「いくら面白いからってそんなに興奮するなよ」
満足そうな笑顔でふざけた事を言う水瀬君の言葉でこっちに戻る。なんてムカつく解釈の仕方なんだろう、ぶん殴っていいかな?
グーで
「なぁんだ、夢だったんだ、なんか残念」
水瀬君を殴ろうと腰を浮かせた僕は横から声がして、そっちを向くと転校生の水瀬さん(ややこしいな)が水瀬君のライトノベルと呼ぶにはお粗末なものを読んでいた。あれを強要されずに読めるなんてずいぶん神経が太い人だな。
「というかなんで水瀬さんも読んでるの?」
水瀬君の席の隣で『え?今さら?』とでも言いたげな表情で僕を見る。いや、だってね、彼のライトノベルを読むのって体力と集中力使うんだよ、主に突っ込みで。
「隣の席と後ろの席の人が朝から自作の小説の話ばっかりするから、気になって水瀬君に読ましてもらったの。そしたら中々面白くてね」
何……だっ…て。
面白い?
これが!?
「ふん、これが一般的な意見という事だなキサキ君」
斜めの席でたった一人の支持を受けただけの水瀬君がふんぞり返って言う。
確かに世の中にはいろんな感性を持つ人がいる、でも水瀬君の書いた小説を面白いと思う人なんて万人に一人くらいのものだろう、そしてそれがたまたま水瀬さんだったというだけの事だろう。
だけどそれでも認めたくないものだってある。これが……若さ故の……いや自己嫌悪はやめておこう。
「……どうせ万人受けしないさ……」
「なんでそんな事言うの?ふみ君」
僕の苦し紛れの嫌味を否定する声がする。それは予想外の人物だった。
「依都子ちゃんまで……」
クラス一……いや学校一かな?先月の図書室ランキングで四十二冊の本が貸し出しされてて名前が貼ってあったし(さらに市の図書館からも借りている)……の読書家の依都子ちゃんがこっちに来た。
依都子ちゃんと僕は……従兄妹(いとこ)で※ダジャレではない…幼稚園の頃からよく一緒に遊んでいて愛称で呼び合う仲だ、中学生になってからは少し疎遠気味になってたんだけど、いきなり会話にはいって来るなんて、どういう風の吹き回しなのかな?そして気がついたら四面楚歌だった。どうして僕の周りには一般的な感性を持つ人がいないんだろう?
「ええと、木崎君…だっけ、君ってなんか偏見が強くてガンコだよね」
水瀬さんは今朝の水瀬君みたいにフーヤレヤレと溜息をつく(まさに今朝の再現)、どうやらミナセカズミという人種は僕と相性が悪いらしい。
めっちゃムカつく。
「もういいや、だったらもう読まないさ」
言い返すのもアホらしいので相手にしないことにした。どうせまた読まずにはいられなくなるんだろうけど、今くらいは拗ねたっていいだろう。
「ふみ君って昔からこうだから、私のすすめる本もあんまり読んでくれないし」
呆れたように依都子ちゃんが呟く、それは聞き捨てなら無いな。
「ちょっと待てや、よんで数ページ目からのセリフが『お兄様、お兄様、お兄様』ってひたすら連呼する本(夢野久作著 ドグラ・マグラ)なんて読めるか!実際に妹がいるんだぞ!嫌な想像しちまうじゃねぇか!!」※ドグラ・マグラファンの方、申し訳ございません。
自分のキャラを忘れて思わず再度大声を出してしまった。
「木崎!うっさい!」
後ろから安土山さんが投げたシャープぺンシルが飛んできて背中に刺さる。
痛くないけど、クラスメイトの視線が痛い、敵がどんどん増える僕、誰か味方してください。
バァーーーーーーン
そんな事を考えたのがいけなかったのかな、いきなりクラスの扉が勢いよく開きそいつは登場した。
……あぁ、面倒臭いのが来ちゃったよ。
「呼んだかい?愛しの綾文」
隣のクラスの2-Aの美男子、窓辺渡君だ。彼はスポーツ万能で成績優秀、そして眉目秀麗、なのに………
「綾文の心の声を聞いて駆けつけてきたんだ、どんなことだろうと解決してみせるよ!」
物凄く残念なガチホモ野郎なのだった。
「………キモ………」
水瀬さんが呟いた。よかった、渡君は黙ってさえいれば万能美少年なので勿論最初は女子から凄くモテるんだけど、彼の本性を知ると……大概の人がショックを受けちゃうんだよね。だから初対面の内に彼の本性を見れた水瀬さんはラッキーな方だと思う。
ま、関わっただけで十分アンラッキーなんだけどね。
「呼んでないよ渡君、だからさっさと自分のクラスに帰ってね」
下手に出ると渡君は付け上がってくるので、できるだけ冷たく言うんだけど、それをどう解釈したのかな?めちゃくちゃ嬉しそうな顔をしながら彼は頷いた。
「そうかい?…綾文がそういうなら退散するとしよう」
確かに依都子ちゃんは自分の席で我関せずといったように読書していて、安土山さんはうるさ過ぎて教室から出て行き、水瀬コンビは呆れていてポカーンとしている。周りのクラスメイトにいたっては白々しく世間話をし始めた、どうやら皆も渡君と関わりたくないようだ。ま、おかげで助かったけど……
認めたくないなぁ
渡君は出てきた時と同じように騒々しく教室から出て行き、その後面倒臭くなったのか水瀬君達は僕に何も言って来なくて、水瀬さんと仲良く話していた。
全く、今日は厄日だ。
その後、放課後まで僕は水瀬君と一言も話す事は無かった。だからどうしたって訳でもないけど。一つ、今日の教訓、面倒事というのは団体でやって来るのだ。
迷惑な事に。
「迎えに来たよ綾文ぃ!」
六時間目が終わった直後に渡君が現れた。もういいよ、君の出番は一日一回で十分なんだよ。だから引っ込めよ。
「今日こそ一緒にかえ…グボハァァアアアアアァァァァァァ」
大きく振りかぶって、渡君の鳩尾に渾身の右フックをぶち込む。ああ、やかましいなこいつ。少しして大人しくなった渡君の耳元で優しく囁く。
「渡君は部活があるでしょ、さっさと行って来たら、期待のエースなんでしょ?」
こうすると渡君は目を輝かせながら一瞬で消えてくれる。周りでクラスメイトがひそひそと話す声も気にしちゃいられない。
こっちだって必死なのだ。
「分かったよ、愛する綾文がそう言うなら、行って来る!」
激しく痛むであろうお腹を押さえもせずに凄まじい勢いで渡君はグラウンドへと向かった。さっさと行っちまえ、そして出来れば逝っちまえ。
そんな黒いことを考えているとまだクラスに残っていた依都子ちゃんが寄ってきた。
「ねぇふみ君、実は彼とデキてたりする?」
「え?」
一部始終を見ていた依都子ちゃんがとんでもない事を言い出した。それに対し、僕は大げさなくらい全身で否定のアピールをする。
そんな勘違い、あってはいけない。
「何言ってるの?あんなの付き合っているなんて、水瀬君と付き合う方がマシだよ」
ざわざわざわ!?(クラス中が僕を見る音)
ひそひそひそ!?(クラス中が囁きあう音)
???????(全身アピール男の反応)
えっと~僕、何か変な事を言ったかな?ちゃんと渡君とは何にも無いって言ったよね?なのに目の前の依都子ちゃんは目を見開いて顔を真っ赤にしてる。なんで?
「ふみ君って……その……ホモ…………なの?」
その瞬間、思考が止まった。
「ほ?もけ?………」
「あの、ふみ君?大丈夫?」
あ、やべ、なんか電子世界の向こう側にDIVEしてた。いけない、いけない………………っじゃなくて!何で僕がホモなんだよっ!
「君はとてつもない勘違いをしている、僕は決してホモなんかじゃない!っていうか同性愛なんて認めない。僕はちゃんと女性が好きな普通の男だよ」
依都子ちゃんの肩を掴み、力説する僕。周りからひそひそと話す声が聞こえるけど、気にしちゃいられない。これだけは訂正しておかないと。
「でもさっき、渡君と付き合うより水瀬君と付き合うほうがいいって」
……なんて間違った解釈の仕方なんだろう。
「その付き合うは水瀬君の書くライトノベルを書く事に付き合うって意味だったんだけど…ええと、つまりは、面倒事に付き合うって意味で言ったの」
はぁ、今水瀬君が教室に居なくてよかった。HR後に水瀬君は続きを書くため図書室に向かっていた。これを聞かれたらもう自作のライトノベルを読ませてくれなくなるだろう。
「……そっかぁごめんね、変な事言って……」
そうして安心したように彼女は一息ついた。危ない危ない、根も葉もない噂が流れる所だった。
チッ(クラスメイトが一斉に舌打ちした音)
「お前達は一体、僕に何を望んでいるんだぁ!」
いじめだ!クラス単位でのいじめだぁ!助けて桜先生!
学生カバンを持ってダッシュで教室を出ようとしたら何故か助けを求めようとしていた桜先生が立っていた。
あ、これ避けれね。
ゴスッ
鈍い音がした、発生源は桜先生の腹部だった。もうダッシュしていた僕は勢いをそのままダイレクトに桜先生へと叩き込んでいた。
「…おう、木崎……元気いいなあ…ちょっと、職員室までこいや…ぐふっ」
そういって先生は悶絶した。
もう…嫌だ……
その後、お縄を頂戴した僕は職員室に強制連行され、くどくどと三十分間説教を受け、さらに反省文五枚を言い渡された。普段温厚な桜先生があんなに怒るなんて、僕、何か悪い事したかなぁ?
思いっきりしてます。とツッコミを入れてくれる人が誰もいない教室で僕は溜息をついた。
「あれ?木崎、何でいるの?」
ああん?誰だ、放課後にわざわざ教室に来るアホは…って安土山さん?
「どうしたの安土山さん」
あからさまに顔をしかめて彼女は面倒臭そうに僕を見る。あんなに不機嫌な原因は間違いなく昼休みの事だろうけど、そんなに僕は悪い事をしたとは思えない。とりあえず適当に流して刺激しないようにしよう。
「先に質問してるのはこっち、先に答えなさい」
ちっ、言いたくないのに。
「水瀬君の書いたライトノベルの添削してる」
言いたくないから適当に嘘をついた。
皆もよくあるよね言いたくない事を隠すために付く嘘って。
「あんた達って仲いいのか悪いのか分かんないわね」
上手く誤魔化せたようだった。
「別に仲がいいわけじゃないよ、興味本位で話しかけたら、いつの間にか付き合わされちゃってるだけさ」
実際後悔はしている。
「それでもホントに嫌なら付き合わないでしょ、やっぱり木崎ってあれなの……ええとホモ?」
まだそのネタを引っ張るのか、ん?いや待てよ。
「何で、安土山さんがその事知ってるの?」
……ん、あれ?
自分で言った言葉に違和感を感じた。そして安土山さんが目を見開いて…マジ……なの?…という呟きが漏れて、自分の失言に気付いた。今の答え方ではまるで僕がホモであることを言い当てられたみたいじゃないか。
「いや、今の言葉は、その、さっきそういう話題があっただけで、別に僕は男が好きなわけではなくて……」
「…………………………………」
必死で弁解してみるも、彼女は黙って俯いているだけだった。
ええい、なんで一日に二回もホモ疑惑の弁解しなくちゃけないんだ!
「安土山さんがそんな事言い出すとは思えなくて、つい……その、言葉のあやで……」
「…………………………………」
必死で弁解を続けてみるも、やはり僕から目を背けている。
「その、あれだ、いい間違えっていうか……」
(以下同文)
「…………………………………」
「あ、あのね、ぼ、ぼくは……」
あ、とうとう舌が回らなくなってきた………
口もからからになって、嫌な汗を感じる。
あぁもうヤダ……
「もういいよ」
「へ?」
俯いていた安土山さんが顔を上げながらそう言った。
あれ、笑ってる?
「あんた達の会話、廊下にまで響いてたから知ってるよ、今のは昼休みの仕返し」
な、なんだそりゃぁぁ
脱力した僕を尻目にクスクス笑いながら安土山さんはそういえばと呟く。
「さっき杵島…じゃなかった転校生が水瀬を探してたけど居場所、分かる?」
うん?今聞き逃せない単語が出たぞ。
「安土山さん、その杵島って何」
「だから、先に質問してるのはこっち、あんたが先に答えなさい」
こ、この子めんどくせぇ!
「水瀬君はこの時間ならまだ図書室にいるよ、っていうか安土山さんが知ってどうするの?」
その質問はポケットから取り出した携帯電話を見て、なるほどと納得した。
「杵島ってのはあの子が今朝会った時に私にそう名乗ったの、すぐに訂正したけどね」
なるほどね、親の事情で転校してきた………か。
僕の妹も中々複雑な事情があるから人事とは思えないな。
「本人には言わないでね?理由は分かると思うけど」
安土山さんは釘を刺すように僕を睨みつけて教室から出て行った。
そういえば、彼女は何をしに教室に来たのかな?結局聞けず終いだったし、まぁ何かの伏線じゃないといいけど。
と、それはともかく反省文も書き終わったし、さっさと提出してかーえろっと。
「その前に、やることがあるでしょ?」
今度こそ、と荷物をまとめて教室を出た僕に追撃の一言が浴びせられた。
…ええと、なんで学校(ここ)に居るのかな?ちゃんと屋敷で大人しくしてろとあれだけ言ったのに。
「やることって何だよ?…ユウキ」
振り向くとそこには金髪碧眼で白いワンピースを着た、まるで西洋人形のような少女が持って立っていた。
「あの人の書いた筋書き、まだ全部読んでないんでしょ?」
っち、やっぱりお見通しか。
「いいんだよ今日は、夢オチだったし」
投げやりに答えるとユウキは虫けらを見るような目(相手を馬鹿にしきった目)で僕を見た。
「それってつまり、現実の事は何も分かっていないって事じゃないの?」
……あぁ、そっか。
「でも今回は大した事無いと思うよ、主人公が馬鹿だし」
「あの人の小説って話の前半と後半がかみ合ってないってこの前言ってたでしょ、そんな夢の部分だけでその物語の何が分かるの?」
まぁたしかにその通りなんだけど、今はちょっと水瀬君に話しかけるのは気まずいというか………ええい、分かったよ行ってくるよ、行けばいいんだろ!
「あなたがサポートしろって言ったんでしょ?」
はいはいその通りですよ、確かに言いました。
もう、僕以外に理不尽な不幸に悩まされる人なんて見たくないし。
「よし、それでこそあたしの人形ね」
「お互い様だろ」
「なんて奇跡、なんて幸福、綾文が待っててくれ…バフゥゥゥゥゥッ!!!!!」
何も見えない、何も聞こえない………うん、OK図書室に行こう。
「時々思うんだけど、あなたってすぐ暴力行為に走るわね」
まだ居たのか、ユウキ。
「なんの事だい?」
足元に転がる体中が凸凹した物体を足で小突きながら笑顔で聞く。
ユウキは、ドン引きしていた。いやいや僕がユウキにされた事に比べれば可愛いもんだと思うけど?
「えぇと……何かごめん」
いきなり謝られた、頭でも打ったのかな?心配だ。
なんてふざけるのもここまでにして。
「別にユウキが気にする事なんてない、元々僕たちは同じ被害者だからね」
あの男のね。
「じゃ、もう行くから、寄り道せずに真っ直ぐ帰れよ」
「うん」
ユウキが視界からいなくなったことを確認すると再び図書室へと歩き出した。
はぁ、気が進まないな。
「あれ?ふみ君?」
図書室の前に着くと中から依都子ちゃんが現れた。
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