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ヘンゼルとグレーテル

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第二幕その五


第二幕その五

「これで安心だよ」
「じゃあ私達は」
「ここのお菓子を好きなだけ食べられるんだ」
「好きなだけ?」
「ほら、これだって」
 早速側にあっや果物が置かれているお皿を指差しました。そこには林檎や梨、オレンジ、ナッツがあります。当然周りにはそれ以上のお菓子があちこちにあります。何しろ家全体がお菓子なのですから。
「何を食べてもいいんだぞ」
「何を食べても」
「そうさ、もうあの魔女はやっつけたんだ」
 だからもう怖いものなしなのです。
「さあ、外に出ようよ」
「ええ」
 勿論その手には果物の入ったお皿があります。
「それで何でも食べて」
「お腹一杯食べて」
「楽しくやろう」
「わかったわ、それじゃあ。あっ」
 家を出ようとするところでふと気がつきました。
「兄さん、見て」
「どうしたんだい?」
「ほら、竈が」
「竈が」
「ええ」
 見れば竈からブスブスと煙が出ています。今にも爆発しそうです。
「まさか魔女が」
「それはないわよ。絶対死んでるわよ」
「そうだよな、今頃はあいつ自身がケーキに」
「それだったら」
「一体」
 竈が開きました。するとそこから子供達が次々に現われてきました。
「子供達が」
「どうして!?」
「僕達は魔女にお菓子にされていたんだ」
「それで食べられたのさ。けれど魔女がいなくなったから」
「そうか、助かったんだ」
「そうさ、これも全部君達のおかげだよ」
 子供達は二人に対して言います。
「お菓子の呪いが解けたんだ」
「これで自由なんだ」
「自由なのね?」
「そうさ、自由さ」
 子供達はグレーテルに答えます。
「もう魔女がいなくなったから」
「食べられたけれど助けられたんだ」
「君達にね」
「それじゃあさ」
 ヘンゼルは彼等に提案します。
「皆でお菓子を食べないかい?」
「お菓子を!?」
「そうさ、あの魔女にお菓子に変えられたんだろう?それから解放されたから」
「今度は魔女のお菓子を食べてやる」
「その通り、それに食べるのは二人よりも皆の方が楽しいし」
「それじゃあ」
「皆で楽しく食べようよ」
 こう皆に言うのでした。
「お菓子を食べて喉が渇いたらミルクもあるし」
「何も困ることはないよ。さあ」
「よし、それじゃあ」
「皆で食べよう」
 皆家を出ました。そしてあちこちのお菓子を食べます。ミルクは庭に池になっていました。喉が渇いたらその池からミルクをガブガブと飲みます。食べて踊って楽しくしているとそこに二人のお父さんとお母さんがやって来ました。
「よかった、無事だったんだな」
「お父さん」
 二人はまずお父さんの声に顔を上げました。口の周りがクリームやケーキでベタベタです。ヘンゼルはシュークリームを、グレーテルはタルトを食べていました。
「心配したのよ、本当に」
「お母さん」
 お母さんもいました。もう怖い顔はしていません。
「魔女の森のことを聞いて。心配になって」
「僕達を助けに来てくれたの?」
「ああそうさ」
 お父さんが答えます。
「お母さんと二人でな。一晩かけてここまで来たんだ」
「あんな暗くて怖い森の中を」
「たった二人で」
「そうさ、御前達が心配だったから」
 それで来たのです。やっとここまで。
「そんなの気にならなかったわ」
「狼や熊がいるのに?」
「魔物だっているのに」
「そんなの関係ないんだよ」
 こうお父さんとお母さんに応えます。
「子供達のことを考えたらね」
「お父さん・・・・・・」
「お母さん・・・・・・」
 怒ると怖いお母さんも普段は違うのです。とても優しい顔をしていました。
 
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