ヘンゼルとグレーテル
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第二幕その四
第二幕その四
「砂糖とアーモンドがたっぷりついた。ジンジャーケーキにはやっぱりアーモンドだね」
「らしいな」
「好き勝手言ってるわね」
「それを食べて満腹したところでワルプルギスのパーティーへ。飲めや歌えやの大騒ぎ。よいよいっと」
「あらっ」
グレーテルはこの時家の壁に鍵がかけられているのを見つけました。あのチョコレートの鍵です。
「兄さん、あれ」
「うん」
ヘンゼルもそれに気付きました。そしてグレーテルにそっと囁きます。
「いいかい、グレーテル」
「ええ」
グレーテルはヘンゼルに耳をそばだてます。そしてお兄さんの話を聞きます。
「あの鍵で僕を檻から出して」
「そして」
「あの魔女を。竈の中に放り込んでやるんだ」
「二人でね」
「そう、二人で。いいね」
「わかったわ」
グレーテルはそれに頷きました。そして魔女が踊っている間に鍵を取ってそれで檻の鍵を開けてしまいました。後はその鍵をペロリ、です。チョコレートのほろ苦い味がしました。
「これでいいわよね」
「後はあの魔女を」
「そうね」
隙を伺います。魔女は鍵が開けられてついでに食べられたことも気付かず相変わらず奇妙な踊りをしています。そしてそれが終わってからまたグレーテルに声をかけてきました。
「ちょっとグレーテル」
「はい」
応えながらヘンゼルに目をやります。
「いよいよね」
「ああ」
二人には魔女が何を考えているかはっきりわかっています。わかっていないのは有頂天になって踊っていたこの魔女だけだったりします。
「上手くやるわ」
「頼むぞ」
「お願いがあるんだけれどね」
「何でしょうか」
「あっちの竈だけれどね」
「竈」
見ればそこにはパイの竈があります。魔女がグレーテルをケーキにしてやると言っていたあの竈です。
「火を見て欲しいんだよ」
「火を」
「そうだよ、ちょっとね」
そこで後ろから突いてグレーテルを中に放り込む気なのです。そして彼女をジンジャーブレッドの美味しいケーキに変えて食べてしまうつもりなのです。もう二人にはわかっています。
「見てくれないかな」
「ちょっと待って」
けれどグレーテルはそれには乗りませんでした。
「火を。どうやって見るの?」
「どうやってって!?」
「私パン屋でもないしケーキ屋でもないからわからないわ。どうやって火を見ればいいのか」
「わからないのかい」
「ええ。悪いけれど」
「困ったねえ。それじゃあそっちの坊やは」
「僕も全然」
ヘンゼルもわざととぼけます。
「そんなのわからないよ」
「何て馬鹿な子供達だい」
魔女はそれを聞いて思わず溜息を吐き出しました。
「竈の見方もわからないのかい?」
「うん」
「ところでね」
ヘンゼルへ近寄ります。けれど鍵のことは全然気付いていません。二人は一瞬ヒヤリとしましたがそれを見てほっと心の中で胸を撫で下ろしました。
「太ったかい?指をお見せ」
「うん」
鍵のことを見て魔女の目が悪いのに気付きました。そして細長いクッキーの棒を出します。
「何だい、全然太ってないじゃないか」
魔女はそのクッキーを触って言います。
「しかも硬くて。これじゃあどうしようもないね。まあいいさ」
またグレーテルの方を振り向きました。
「竈はわからないんだね」
「ええ」
芝居はまだ続けています。
「わかったよ。じゃあ私が」
「兄さん」
魔女が二人に背を向けて竈の方に歩いていくのを見てすぐに彼に声をかけます。
「うん」
ヘンゼルにもそれはわかっていました。こっそりと檻から出ます。
「こんなの小さな子供でもわかることだけどね」
魔女はブツブツと言っています。
「それがわからないなんて。最近の子供は」
竈を開けます。そしてその中の火を見ます。
その間にヘンゼルは檻から出ていました。そしてそっとグレーテルと一緒に魔女に近寄ります。二人でこっそりと歩み寄っていました。
「いいね、グレーテル」
「ええ」
二人は囁き合います。それでも魔女は気付いていません。
「こんな簡単なことが。どうして。おや」
魔女は火を見てニンマリとしました。
「いい火加減だね」
「そうなの?」
魔女にグレーテルが尋ねます。
「ああ、これだといいケーキが焼きあがるよ」
「それじゃあ」
グレーテルは両手を構えます。
「魔女が」
そしてヘンゼルも。二人は動きを合せます。
「ケーキになっちゃえ!」
魔女の背中をドン、と押しました。魔女はそのまま竈の中へ放り込まれました。
二人はすぐに竈を閉めてしまいました。これで悪いお菓子の魔女は自分が竈の中に入ってしまったのです。
「やった、やったぞグレーテル!」
「ええ、兄さん」
助かった二人は笑顔で抱き合います。
「悪い魔女は竈の中!」
「もうこれで食べられないで済むのね」
「ああ、悪い魔女がいなくなったからね」
二人は抱き合いながら竈を見ます。そこにはさっきまで魔女がいました。
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