駄目親父としっかり娘の珍道中
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第20話 親も子も結局心知らず
激闘を繰り広げていた森林地帯から一変し、視界一面に映りだすのは機械で作られた人工物の類で埋め尽くされていた。見渡す限り一面の機械、機械、機械、奇々怪々……一文字誤字があった気がするが其処はスルーしていただきたい。
とにかく、先ほどの自然物から一変して人工物の場所へと銀時達は移動してきたのである。
「おいおい、インディージョーンズの次はスターウォーズですかぁ? 俺等はさしずめジェダイの騎士ですかぁこのヤロー!」
移動するなりいきなりな発言であったりする。しかも、その内容が確実に昨今の二十代には分かり辛そうな内容だったりするのでツッコミし辛いと言う難点もあるようで。
「銀さん、どうやら此処はあの時空管理局って組織の所有する施設みたいですよ。やりましたね! 遂に僕達の長い旅の目的地に到着したみたいじゃないですか!」
「やったネ! これで私達元の世界に帰れるネ! 元の激強神楽ちゃんに戻れるネ!」
隣に居る新八と神楽は揃ってはしゃぎたてている。確かに今回の異世界騒動の目的は時空管理局との接触にあった。しかし、ただ接触するだけでは意味がない。もう一つ別の目的があるのだ。
その事を銀時は忘れてはいない。
「バカヤロー、何浮かれてんだテメーらはよぉ!」
相変わらずテンションが低いのだが、それでも芯の入った声で銀時は浮かれる二人を戒める。
それを聞き、新八は浮かれていた自分に恥を感じた。そうだ、僕達が此処に来たのには目的があったのだ。それを果たす前に浮かれるなんてどうかしている。
そう思いながらも、新八はそんな自分達を戒めてくれた銀時を何処か凄い人だと再認識していた。
「良いかテメーら! 何としても時空管理局からたんまり謝礼もしくは賠償金をせしめるんだ! もしくはあの執務官を何としてもゲットするぞ! あのガキぁ確実に出世するタマだ。間違いなく玉の輿になるなぁ確実だからよぉ」
前言撤回! やっぱりこの男は駄目人間であった。結局金の事と自分の事しか眼中にない自己中心的な男なのであった。
「銀ちゃん、そんな事よりなのはは大丈夫アルかぁ?」
「さぁなぁ、その結果を聞く為にもこうして俺達ぁ此処で待たされてるんだろうが」
言い忘れていたが、今銀時達が居るのはこの人工物で彩られた場所に位置する通路内に設置された長椅子に腰掛けていた。
そして、その三人の目の前には解読不能の文字で何かが刻まれていた。まるでミミズが合わさったような不可思議な文字であった。江戸ではまずお目に掛からない文字である。
後に聞いた話だが、この部屋はどうやら医務室と読むようだ。そして、クロノにより保護されたなのはは体内に異変を察知され、そのままこの部屋で精密検査を受けている真っ最中のようだ。
その間、此処で一同は待ち惚けを食っていると言う訳でもある。
「とにかく、此処ならなのはちゃんの身に起きている事態も解決出来る筈ですよね」
「そうでなけりゃ苦労して此処まで来た意味がねぇだろ?」
実際言うとかなり不安な要素が多い。管理局ならばどうにか出来ると聞いたは良いが、確証はない。
わらにもすがる思いでこうしてやってきたまでの事なのだ。その為此処でどうしようもない場合打つ手がなくなってしまう。
それが銀時の悩みでもあった。
そんな時、部屋の看板の点灯が消える。どうやら検査が終わったようだ。扉の鍵が開く音が聞こえてきた。噂をすれば何とやら、だ。
早速椅子から腰を上げて扉を開き中に入る。
部屋に入るなりに鼻を突くアンモニア臭が漂ってきた。それに周囲にある棚には明らかに匂いの元とも思われる薬瓶の収められた透明なガラス張りのタンスが置かれていたりしている辺り、見るからに此処が医務室だと言うのが一目瞭然であった。
「うぇぇ、銀ちゃん。私この薬品臭とか苦手アルよぉ」
「俺もだ。つぅ訳で新八。後の事は頼むわ」
後の事を新八に一任、と言うより丸投げしてそそくさと退散しようとしだす。が、そんな二人の襟首を新八がしっかりと掴み挙げる。
「おい、てめぇら! 折角のシーンを台無しにしてんじゃねぇ! さっさと行くぞゴラァ!」
「わぁったよぉ。ったくよぉ」
頭を掻き毟りながらも医務室の中へと戻っていく二人。しかし、そんな事言ったって医務室内に漂うアンモニア臭はどうにも耐えられないので鼻を摘みながら入室をする羽目になってしまった。
「それで先生。検査結果はどうでしたか?」
「うむ、精密検査をした結果なんですがねぇ」
椅子に座り、検査結果を机の上に置き、新八達の方を見る。その面持ちはとても重たい顔であった。
その顔を見た新八は、思わず固唾を飲み込んだ。きっと最悪の結果を言われるのだろう。
「かなり血糖値が高めですねぇ。この調子だと股間が爆発しかねませんよ」
「マジですか? でも俺は好きな物を食べて太く短く生きようって決めてますから、だからその辺は割り切ってますんでお構いなく――」
……あれ?
一瞬、新八は己が耳を疑った。検査結果を聞きたかったのだが、その検査結果と言うのは、何故か銀時の血糖値結果であったそうだ。しかも、本人は以前となんら変わらずな発言をしている始末。
おかしい、何かおかしい気がする。
「まぁ、本人が良いと言うのなら止めはしませんがねぇ。糖尿病になったら結構大変ですから、その辺は覚悟しておいて下さいね」
「もう良いですから。その辺は割り切ってるつもりですんで大丈夫ですって」
「はい、それじゃ後で処方箋渡しますんで呑んでくださいね。えっと、それじゃ続いてお子さんの検査結果なんですけどね」
ついでであった。
肝心な検査結果内容が何とついでで知らされる羽目になっていた。いいのか? これで良いのか?
シリアスな場面で通す筈の場所でボケをしてしまって本当に良いのか?
等と、結構メタな発言を脳内で連呼しまくる新八だったりした。
「それで、家の子の……なのはの血糖値は大丈夫なんですか?」
「血糖値の問題じゃねぇ! いい加減其処から離れろ!」
このままだと肝心の話題からイスカンダルの彼方まで吹っ飛んでしまわりかねない。此処はツッコミ担当である自分がしっかりしなければならない。
「えっと、血糖値はどうでも良いので、なのはちゃんの体の方は大丈夫なんですか?」
「え? 血糖値じゃないと言うと……最近無理させ過ぎだな。ストレス溜まりまくる傾向にありますねぇ。このままだと将来剥げますよぉ。しっかりして―――」
言い終わる前に医者の顔を新八は思い切り掴んだ。その時の新八の顔には無数の青筋が浮かび上がり眼光は鋭くなり瞳孔が開き気味になっていたのは言うまでもない。
「おい、いい加減にしろよごらぁ! 血糖値だったりストレスだったり、話題摩り替えてるんじゃねぇよ! こちとらそれよりもっと重大な話を聞きに来たんだよ! さっさと話せやボケェ!」
「わ、わかりました。分かりましたから離して下さい。顎、顎が砕けますウガッ!」
ようやく本来の話に戻る事になったらしく三人揃って医者の話を聞く事となった。
そして、今更ながらその話をする際に医者の面持ちがとても真剣な表情へと変貌したのは言うまでもない。
「はっきり言える事ですが、今の彼女に起こっている現象はかなり稀な現象と言えます。本来、あのロストロギアは宿主に寄生し、寄生した宿主の願いを歪に叶え、暴走させる性質を持っているのです」
「それは知ってるよ。何回も闘ってたから学習済みだしな」
此処に来る前に銀時達も何度か暴走したジュエルシードが作り出したロストロギアと闘ったことがある。最初に闘った毛むくじゃらは大した事はなかった。だが、二度目に闘ったあの木の化け物は規格外の強さを持っていた。
何かに寄生しただけであれだけの強さを発揮するとなるとそれは恐ろしい代物でもある。
「ただ、彼女に寄生した筈のジュエルシードは一向に起動、暴走する兆候が全く見られないのです」
「見られないって、単に潜伏しているんじゃないんですか?」
「もしそうならば宿主の魔力を吸収して自身の力に変えている筈なのです。しかし、その素振りも全く見せていない。まるで、只宿主の体内に住み着いているかの様に―――」
本来、寄生したジュエルシードは潜伏期間に多少ムラがある。しかし、その間は魔力を吸収し、そのまま力に変える兆候がある。故に潜伏期間が長くなればなる程その暴走した状態は強さを増すと言われている。
だが、なのはに寄生した筈のジュエルシードはその手の兆候が全く見られないといわれているのだ。
「この状態はもう寄生とは言いませんね。言い換えればそう、【共生】ですよ」
「共生? 共生ってあれか。男が金玉切り取るあれみたいな奴?」
「嫌、それは去勢ね。ってかその手のネタは止めた方が良いよ。これ読んでる人等の中にはそう言った類のこと全く知らない無垢な子も居そうなんだし」
無論、そんなネタを言う人間は銀時しかいない。そんな銀時を戒めながら医者は話しを続ける。
「つまり、今の状態ならなのはちゃんは比較的安全なんですか?」
「いや、安全……とは言い難いが、少なくとも現状では起動、暴走する兆候は見られない。が、外を歩くのはどの道危険な事だな」
「それって、どう言う事ですか?」
「詳しいことは俺じゃなくて、艦長に聞きな」
医者が告げてくれたのはそれだけだった。話を一通り終えると医者はすっと座っていた椅子から立ち上がり銀時達の視線の奥にある扉を数回ノックする。
すると扉が一人でに立ち上がり、その中から白衣を着た状態のなのはが姿を現す。
「あのぉ、もう出ても良いですかぁ? そろそろお腹空いたんですけどぉ……あ!」
「「「あ!」」」
病室から出て来たなのはとたまたま医務室に居た銀時達が視線を合わせる。
「あれ、お父さんだ! どうしたの、こんな所で?」
「よ、よぉ……以外と元気じゃねぇか。安心したぜぇ、お父さんさぁ」
久しぶりの再会だと言うのに何処かぎこちない感じになってしまっていた。まぁ、その前で感動の再会をしてしまったので今更な感じなのでこんな感じで締められてしまったのであろう。そう思う事にする新八なのであった。
***
「検査は終わったみたいですね」
医務室を出て、道なりに通路を歩くと、その先で彼等を待っていたのはクロノと真選組の面々であった。どうやら、家族水入らずの再会を邪魔したら悪いと思い席を外してくれていたのだろう。
「あ、さっき私を助けてくれた子とふにゃちんゴリラ達だ!」
そんな面々をなのはが指差しながら名を呼んだ。恐らく助けてくれた子、と言うのはクロノの事だろう。そして、ふにゃちんゴリラと言うのは言わずもかな近藤の事なのは間違いなさそうである。
「いや、何そのふにゃちんゴリラって! ふにゃちんは良いけどゴリラは訂正して!」
「訂正するとこ其処かよ近藤さん」
さりげなく土方がツッコミを入れる。どうやら近藤曰くふにゃちんよりもゴリラの方がダメージが大きいようだ。まぁ、どちらもダメージ的には大きいようなのだが。
「それよりなのはぁ、さっき助けてくれたってどう言う意味アルかぁ? あの童顔に何されたアルかぁ?」
「此処にくる前に木のお化けに襲われそうになった時にね、この子が助けてくれたんだ。それで、此処に居たら危険だって言うんで、此処に連れてきてくれたの」
どうやら一足先に保護してくれたと言うのは本当のようだ。何から何までクロノには世話になりっぱなしなようだ。
「いやぁ、やっぱ流石は執務官さんだわ。俺等の一手先の行動をとってくれるたぁ感服したぜぇ」
「そんな、僕は執務官として当然の事をしたまでですよ」
本人は毅然と言ってるつもりだがそれに反して頬が妙に赤らめている。改めて褒められると照れくさいのだろう。が、そんなクロノの両肩を掴み、銀時は不気味な笑みを浮かべる。
「どうだい? これを起に家の子と縁組しない?」
「まだそのネタ言うかぁ!」
いい加減しつこいと思ったのか後方から新八が蹴りを叩き込む。これ以上話をほうっておくととんでもない方向に脱線しそうなので恐ろしいと思い、ツッコミを入れた次第である。
「何すんだよぱっつぁんよぉ。俺ぁあれだよ。娘の将来の為に共に歩める伴侶を厳選してだなぁ―――」
「あんたは只玉の輿欲しさに無理やりな事言ってるだけだろうが! 何処まで意地汚いんですかあんたはぁ!」
忽ち銀時と新八の激しい口論が勃発しだす。その内容と言えば相変わらずな物も多く、最早聞きなれたとしか言いようのない物と成り果てていた。
「おいおい、こんな所に来てまで喧嘩すんなよ、みっともねぇだろうが」
「全くでさぁ。ま、俺としちゃぁ土方さんのその瞳孔開きっぱなしの情けねぇ面の方が余程恥だと思いますけどねぃ」
「ほぉ~、俺の顔が情けないと抜かすかぁ。上等だぁゴラァ。てめぇ一辺死ぬかぁオラァ!」
今度は土方と沖田までもが喧嘩し始めてしまう。銀魂御馴染みとは言えこの世界でやられるとはた迷惑になりかねない。
「皆さん、此処で喧嘩してる場合じゃないでしょ? 此処は皆で力を合わせて、現状を打破する事だけを考えましょうよ!」
そんな時、とても最もな事を言ってくれる輩が居た。その場に居た誰もがその声の主を見る。
其処に居たのは、雄雄しくその場にそり立つ我等が、フェレットであった。
「あんれぇ、ユーノ君。君居たんだぁ? 御免ねぇ、すっかり忘れてたよ」
「ずぅっと銀さんの肩に乗ってましたよ。忘れないで下さいよ」
どうやら四六時中ずっと銀時の肩に乗り、色々と戦闘のアドバイスをしていたようだ。しかし、その悉くを銀時は聞き流していた為に次第に影が薄くなり、何時しか登場すらしなくなっていたようでもある。
「どうでも良いが、君もそろそろ元の姿に戻るべきじゃないのかい? 何時までもその格好じゃ窮屈だろ?」
「それもそうだね。そろそろ魔力も回復してきたし、戻れそうだしね」
そう言うとユーノ自身の体を閃光が包み込み、やがてその閃光は人のサイズ位にまで巨大になる。
光が止むと、其処には元の人間の姿になったユーノが居た。銀時達にとっては江戸以来の久しぶりの姿となる。
「銀さん達には久しぶりですね。それに、なのはも僕と会うのは久しぶりでしょ?」
そう言って、ユーノはなのはの方を見る。だが、なのはと言えばそんなユーノに対し首を傾げながら、
「君、誰?」
であった。
「え? 僕だよ。ユーノだよ! 覚えてないの?」
「覚えてないも何も、君の事なんて知らないよ」
あまりにも無情で無慈悲な発言であった。確かにユーノの言う通りなのはとは以前出会ってはいる。しかしその出会いと言うのはお互い自己紹介をする前であったので面識などある筈がない。
しかも、なのは自身初めての出会い事態すっかり忘れてしまっている為勿論ユーノの事など覚えてもいないし知る筈もない。
「ねぇ、お父さん。この子誰なの?」
「あぁ、そいつはあれだ。只の淫獣だよ淫獣」
「淫獣?」
首を傾げるなのは。どうやらその淫獣と言う名の類の意味が分かっていないようだ。そして、その意味を聞こうとした時、銀時の背後で真っ青な顔になったユーノがいきなり銀時に飛びかかってきた。
「だあああああ! それ以上は言わないで! 言わないで下さいぃぃぃぃ!」
かなりの慌てようだ。どうやら相当嫌な意味なのだろう。流石の銀時も其処まで言われてはと思い口を紡んだ。
「あぁ、淫獣ってのはあれでさぁ。変態の一種でさぁよ」
が、答えは意外な事に沖田から返って来た。それもその場に居るほぼ全員に聞こえる位の音量で。
そして、それを聞いた途端、銀時を押さえ込んでいたユーノの顔は真っ青から蒼白色へと変貌していった。
「お、沖田……さん」
「どうせその内ばれるんでさぁ。だったら早いうちにばらしちまった方が良いでしょうがぁ」
「あ、あうあうあう……」
開いた口が塞がらないとはこの事だった。一瞬の内にこの場に居るほぼ全員に自分は淫獣と言う名の変態という烙印が押されてしまった事になる。それが彼にとっては心底絶望だったのだろう。だが、
「ふぅん、そうなんだ」
以外にもなのははあんまり気にしてなかったようだ。しかし一体何故?
「えと、なのはさん? どうしてそんなに平然としていられるの?」
「だって、私の居た江戸の町の人達って皆変態の集まりだもん。今更変態さんが一人増えたって別に気にならないからね」
その発言は正直言って喜んで良いのか悲しんで良いのか微妙な部分にあった。つまり、自分も江戸特産の変態の仲間に加わった事になるのだからあまり嬉しい事とは言い難い。
「と、とりあえず……改めて自己紹介するね。僕はユーノ・スクライア。スクライアは部族名だから、ユーノが名前だよ」
「なのはだよ。宜しくね」
お互い改めて自己紹介を済ませ、互いに握手を交わそうとする。が、二人の手が触れた瞬間、激しい電流がユーノの体を迸った。そして、その電流が彼の体から現れるまでに5秒と掛からなかったのである。
「あばばばばばばばばああああああああああ!」
素っ頓狂な声をあげながら金髪少年は髪を逆立てて直立したまま動かなくなってしまった。その光景に誰もが驚きを隠せなかったりする。
「うわぁ、ユーノ君が固まっちゃった」
「おいおい、幾ら家の娘がプリチーだからってそれは過剰反応過ぎるだろうが。空気を読めよこのKY坊やが」
重症を負ってしまったにも関わらず、無慈悲で無情な言葉でそれを片付ける銀時。と、言うか……今回は貴方がKYなのですね。
激しく合掌致します。
「あのぉ、念の為にその子医務室に連れて行きましょうか?」
「あぁ、気にすんな。どうせこいつ多分ゴキブリ並の生命力がありそうだからこれ位ならすぐに回復してくるだろうしよ」
とことん容赦ない銀さんなのであった。
***
様々な珍道中がありながらも、とりあえず一同は銀時の婿養……基、執務官であるクロノに連れられてある部屋へと辿り付いた。部屋に入るなりに一同の目に映ったのは、咲き誇る桜から舞い散る花びらに和傘、獅子舞に盆栽などと、和の文化が見られるのだが、ぶっちゃけ分かる範囲の物を適当に持って来た感が漂う感じがしないでもない部屋であった。
そして、床一面に敷かれた赤い敷物の上で優雅に茶を立てる一人の女性が居た。
ライトグリーンの長い髪を後ろに束ね上げ、紺色のジャケットと白いタイトズボンで身を固めた綺麗な顔立ちの女性だった。
「よくぞいらっしゃいました。みすぼらしい部屋ですけどどうぞくつろいで下さい」
「嫌、これって明らかに僕達江戸の文化を取り入れてるらしいですけど、明らかに誤解してますよね?」
即座にツッコミを入れる新八。流石は万事屋のフォロー人である。つっこまずには居られない心境に立たされたのだろう。それを聞き、女性は多少苦笑いを浮かべるに至る。
「御免なさい。急ぎ支度をしたんですけど、生憎貴方達の世界の文化が分からなくて、気に障ったんだったら貴方達なりに部屋を飾っても構いませんよ」
「マジですか? そんじゃこっちの壁に俺の女神でもある結野アナの等身大ポスターを貼ってぇ……」
図々しく横壁に何処から持って来たのかお天気キャスターの結野アナの等身大ポスターを貼ろうとする銀時。だが、其処に待ったを掛ける奴が居た。
「ちょっとちょっと、それは不味いでしょうが銀さん!」
それは新八だった。銀時の肩を掴み思いきり講義する。
「あんだよぉ新八。其処のお嬢さんが言ってただろうが! 好きな様に飾って良いって言っただろう? だからその通りにしたまでだろうが」
「だからってそこでそれを出しても誰も共感出来ませんよ。此処は僕の持って来た寺門通等身大ポスターを貼るべきです」
そう言って銀時を押しのけて新八もまた何処から持って来たのか江戸で人気のアイドル寺門通の等身大ポスターを貼り始める。
「駄目だよ新八君! そんなの貼ったって誰も分からないってばぁ!」
何と、今度はなのはが待ったを掛けた。
「え? だってお通ちゃんは江戸で大人気のアイドルだよ。その人気っぷりはもう全世界どころか次元世界も超えるほどのはずだよきっと」
「それは新八君の妄想でしょ? そんなんじゃ意味ないよ。此処は人気アニメ不思議魔女っ娘とと子ちゃんの主人公であるとと子ちゃん等身大ポスターにすべきだよ」
そう言って新八を押しのけてこれまたなのはも何処から持って来たのか江戸で大人気中のアニメ不思議魔女っ娘とと子ちゃんの等身大ポスターを貼り出す。
「おい、ふざけんなよテメー等! 江戸の顔って言ったら結野アナで決まりだろうが! 何ふざけたポスター貼ろうとしてんだこのオタク共が!」
「あんた達は何も分かってない。江戸の顔って言ったら寺門通ちゃんを置いて他に居ないんです! 他のを貼るなんて江戸を馬鹿にしているような物ですよ!」
「二人共全然分かってないよ。江戸って言ったら不思議魔女っ娘とと子ちゃんを置いて他にはないの! これくらい常識だよ」
何時しか銀時、新八、なのはの三人が激しい言い争いを始める始末であった。どうやら、この三人には仲良く三枚を貼ろう、と言う思考は皆無のようだ。
「仕方ねぇ、こうなったら三人でじゃんけんで決めるってんでどうだ?」
「分かりました。それなら後腐れなくて良いですしね」
「望む所だよ!」
三人共やる気満々であった。そして、次元世界の命運を賭けた(嘘)世紀のジャンケン対決が幕を切ったのであった。
「最初は~~」
お決まりのフレーズの後、三人が最初に出した物。読者の皆様なら既にお気づきかも知れないが、じゃんけんの言うなれば儀式の様な物である。
普通なら此処でグーを出す筈だ。
だが、此処で三人が出した物。それは大きく手を開いた手であった。要するに三人共パーを出したのだ。
「銀さん、それになのはちゃん。これは一体なんですか?」
「そう言うぱっつぁんだってパー出してるじゃねぇか。何ですか? 俺達が最初はグーってのにかこつけてパー出して勝ち逃げしようと思った口ですか?」
「大人は皆汚い人ばっかりだよ。純情な子供の心を弄んで、恥ずかしくないの?」
「おめぇの何処が純情だ」
三人共すっかり薄汚れている次第であった。そんな訳で最初は……の類は喧嘩になり兼ねなかったのでスルーして置く事にする。そして、今度はしょっぱなからジャンケンに入る事となった。
「じゃんけん!」
新八が自分の考えていた形を手元に出す。だが、本来其処にあるべき二人の手がない。疑問を感じた新八は二人の方を見た。
すると、其処には本来手を出して勝負に臨んでいる筈の二人が全く別のことをしているのであった。
銀時は出す筈の手で耳を穿っているし、なのはに居たっては自分の両髪の束ねた部分を手に持ってブラブラさせてる始末である。
「何してるんですか二人共?」
「あれだよぉ。ちょっと耳が痒くなったんで掃除してたんだよぉ」
「私もそうだよ。ちょっと髪にノミが溜まったから掃除してただけだよぉ」
「いい加減にしろよてめぇらあああああああああああ!」
狭い部屋内にて新八の怒号が響き渡る。このままだと延々と下らない茶番が続きそうに思われた。
かと思ったのだが、別にそんな事などはなく、その後に極普通にジャンケンが行われた。そして、その結果―――
「ふふん~」
「「けっ!」」
その部屋内には大層ご満悦な新八と、滅茶苦茶不機嫌な銀時となのはの姿があった。
そして、壁の方にはデカデカと寺門通等身大ポスターが貼られているのであり。
「下らない茶番だったな」
呆れながら土方がそう付け加えるのであり。ともあれこれでようやく話に入れる次第なのであった。
「それじゃ、そろそろ話しに入っても良いかしら?」
「えぇ、どうぞどうぞ」
ご機嫌な新八が勝手に話を進めだす。しかしまぁ、このまま茶番でお茶を濁すのもあれなので進めて貰うとしよう。
「そんでよぉ、艦長さん。俺等があんたらの所に来た理由ってのはもう承知の筈だろ?」
「えぇ、ロストロギア、ジュエルシードの事でしょう? その事については私よりもまず彼からご説明して貰う必要がありそうね」
そう言い、女性は一同の中に混じっているユーノに視線を向ける。されど、其処に居たのは髪が逆立ち服がところどころ焦げている痛々しい姿のユーノであったりした。
「何かあったの?」
「いえ、ちょっと携帯電話が漏電しまして……」
「あらそう、それは大変ねぇ」
あっさり切り捨てられてしまった。多少寂しさもありながら気にしない辺り大人になったねぇユーノ君。
「実は、あのジュエルシードを発掘したのは、僕なんです」
「おぉっ! 凄い発見をしたんだねぇワトソン君!」
「あの、僕ユーノなんですけど……ってか、ワトソンって誰?」
話の腰を折るなのはのボケに心底心が折れそうになりだすユーノ。そんなボケるなのはの頭に銀時の手が乗せられる。
「やめとけなのは。あのガキの説明を黙って聞いとけ」
「はぁい」
父である銀時の言葉を聞いたのかその場で黙り込んでしまった。もう良いかなと思い話を再会させる。
「僕がとある遺跡を発掘した際に、二十一個のジュエルシードが収められていた箱を見つけたんです」
当時発掘をしていたユーノは、それが大層やばい代物だと悟り、早速管理局に管理を頼もうと護送していたのだが、その際に謎の事故が発生し二十一個のジュエルシードが全て地球にばら撒かれてしまったと言うのだ。
「なるほど、それじゃそのジュエルシードが収められてた箱はどうなったの?」
「嫌、普通は中身の心配とかしない? まぁ、多分粉々になったんじゃないかなぁ」
再びなのはのボケであった。
「ちょっと待ってよ。全部のジュエルシードがこっちの地球に落ちたとして、何でその内の一個が僕達の江戸に来たの?」
「大方あれだろ? 責任を感じて回収しようとしたら返って暴走してそのまま転移とかしちまってなんやかんやで俺達のところに来ちまったって奴だろうが」
「え~、そんなベタな展開とかないんじゃないかなぁお父さん」
銀時の言い分になのはは否定的ではあったが、その傍らでユーノは真っ青になっていた。どうやら図星だったようなのだろう。
「自分で事態の収集をしようだなんて、貴方は立派なのね」
ユーノの行いに女性は賞賛してくれた。それにユーノは頬を赤らめだす。
「ま、結果としちゃぁ全然駄目だったんだけどな。しかもそのせいで俺等まで巻き込む始末だし」
「す、すみません」
「おまけに今回に至るまで目立った活躍もないしやる事と言ったら新八の劣化版ツッコミ程度でしかねぇし、結論からすると全然役に立ってないってオチだな」
「御免なさい、もう無茶しませんし邪魔もしませんしちゃんとツッコミしますからこれ以上はもう言わないで下さいお願いします割とマジでお願いします!」
皆の前で激しく頭を下げて大粒の涙を流しながらユーノが必死に謝っていた。そんなユーノを見て流石の銀時もまぁしょうがないなとばかりに言うのを止めようとしていた。
「じゃ、許す変わりにこれを鼻から食ってくだせぇ」
しかし、今度は沖田が大盛りのスパゲッティをユーノの目の前に置き出す。しかも超激辛仕様だったりする。
「あ、あの……沖田さん」
「拒否権はありやせんんぜぃ」
ユーノの目の前にはとてもドS感が漂う顔をした沖田がニヤリと微笑んでいるのが浮かんでいた。銀時は許しても今度は沖田が居たのだ。
しかも、沖田のそれは銀時の倍以上に酷い。
「わ、分かりました……それで許してくれると言うのなら……」
「おいおい、それはちときついだろう。ついでにこれをかけておけ」
其処へ土方が皿に盛られたスパゲッティの上にドバドバと黄色い液体を乗せ始める。黄色がかっておりドロドロしている。一体これは何なのだろうか?
「あの、土方さん……この液体は一体?」
「マヨネーズだ。これがありゃ多少は食い易いだろう? ちょっとした優しさだよ」
(これの何処が優しさあああああああああ! 明らかに更に食べ辛くなってる事山の如しなんだけどおおおおおおおお!)
気がつけばスパゲッティの面影など微塵おなく、只の黄色い何かに成り果てていた。
「しょうがないアルなぁ。それじゃ私の酢昆布もおまけでつけといてあげるアルよぉ」
「おぉ、それなら俺もついでにこの練乳も加えてやるよ」
「いや、あの、その……」
何時しか、スパゲッティの面影などとうに無く、今ユーノの目の前にあるのは皆の優しさと言う名の狂気で彩られた凶器が置かれていた。
そして、ユーノの目の前にはドSメンバーの不気味な笑みが浮かんでいた。その顔は声なくしても何を言いたいのか分かる。
ユーノに言っているのだ。【食え!】と。
「くっ……うおおぉぉぉぉ!」
凶器と化したそれを手に持ち早速平らげようとするユーノ。
しかし、そんなのは激しくどうでも良いので先に進める事に至るのであり。
「そんでよぉ、その内の一個がこいつの中に入っちまってるってのはあんたらも知ってるだろう?」
「えぇ、先に検査をしましたからその事については承知しております」
銀時の言葉に女性は頷きそっと手元にあった湯のみを掴む。そして、主室に自分の湯呑みの中に角砂糖とミルクを叩き込んだ。その光景に一同が驚く……事はなかった。何故なら、そんな事をしでかす人間が此処に居るからだ。
「うわぁ、銀さんみたいな飲み方するんだなぁあの人」
「ほぉ、お宅良い趣味してんじゃねぇか。俺もちと貰うとするわ」
そう言って銀時もまた同じように角砂糖を入れて主室に啜りだす。
その時、女性と銀時の精神だけが突如別世界へと誘われてしまったのだった。
(こ、この感覚は一体?)
(何だ? 俺達は以前何処かで会ったようなこの懐かしさは?)
一面星達が煌く眩い世界で女性と銀時は互いを見詰め合っていた。まるで、二人の新人類が戦場で感応しあったかの様に。
(何故、何故今になって、貴方は私の前に現れたの?)
(君こそ、何故今になって俺の前に現れたんだ……)
双方すっかりキャラが崩壊していますがまぁ、構わずにごらん下さい。本人達はすっかりやる気満々なので。
(私には分かる。今の貴方には、誰かを守る為に闘っている。かつて失った物をまた失いたくないと足掻いているかのように)
(俺にも分かる。君は大切なものを失った。その悲しみを未だに引きずっている。かつての俺の様に……)
(もし、もし私達が同じ世界に生まれていたら……もし、早い内にこうしてめぐり合っていたら)
(きっと、俺達は分かり合えただろうな。運命だとしたら、心底残酷な運命だ)
まるで何処かで見たことのあるようなシーンをそのまま転用していると思われガチだがご安心を。半分近く脳内変換なので。
(だが、こうして俺達は巡り合えた。これもまた運命と呼べるのだろう?)
(そう、そうなのね。これも運命の巡り合わせなのね)
(そうだとも、人ってのはいずれ、時間は勿論、次元さえも支配出来るようになるさ)
(あぁ、時が見え―――)
「いい加減に戻って来いや電波野郎共があああああああああああ!」
良い所で新八の怒号が遮ったのであった。
「んだよぉ新八ぃ、折角良い所だったのにさぁ」
「そうよ新八君。大人同士の会話を邪魔するなんて無粋よ」
「黙れよ中二患者共が!」
結局、話の大半がグダグダになってしまったりしていた。このままでは話が一向に進まないと感じたのか、新八が話しの台頭を行う事にした。
「それでリンディさん。なのはちゃんの体内に入り込んでるジュエルシードは、どうやれば取り出せますか?」
「残念ですが、今の私達の技術ではあれを取り出す事が出来ないんです。皆様も知っての通り、なのはちゃんの身に起こっているあれは極めて稀なケースなんです」
そう言い、リンディは映像を映し出す。それは、先ほどなのはの精密検査で得た断面図である。
幼いなのはの体が図面上に書かれており、その中央には青く輝くジュエルシードが描かれている。そして、それを中心に体全体に根を張っている絵が描かれている。
「なのはちゃんの体内に入り込んだジュエルシードは、そのまま彼女の体内全てに行き渡るように根を張り、そのまま彼女の体の一部になってしまったんです」
「それってつまり、今のジュエルシードはこいつの体の一部になっちまってるってのか?」
「そうなります」
厄介な話であった。寄生したジュエルシードは暴走する事もなく、そのままなのはの体内に居座り体の一部となりだしていたと言うのだ。
「そ、それじゃあれですか? 今無理やりこの子の中にあるジュエルシードを取り出そうとしたら、どうなるんですか?」
「恐らく、体内のジュエルシードがそれに対して拒否反応を示すと思われます。最悪の場合、彼女の身体に多大なダメージを与えるだけでなく、強制的に起動させ、彼女の体を媒介とした暴走体になってしまう危険性すら有り得ます」
益々嫌な話であった。現状であれを摘出する方法はなく、しかも無理やり取り出そうとすればなのはの体に多大な影響を与えるだけでなく、最悪の場合拒否反応を起こしたジュエルシードがなのはの体を媒介にして起動し、暴走体になってしまう可能性があったのだ。
木や動物を媒介にしただけであれだけの強さを持つジュエルシードが人間を媒介にした場合、その強さは計り知れない物となる。
そうなれば現状の銀時達では手に負える代物ではなくなってしまう事になってしまうのだ。
しかも、悪い話はそれだけではなかった。
「更に悪い事に、ジュエルシードは近くに居れば居るだけ互いに共鳴し合うと言う性質を持っているんです。ですが、このジュエルシードだけはその波長に反発し、拒絶しているんです」
「波長に反発する。そりゃどう言う意味になるんだぁ?」
「その場合、殆どのジュエルシードが波長に反発する物を異分子と認定し、全力で排除しようと動き出します」
早い話がなのはの体内にあるジュエルシードを強制的に排除しようと全てのジュエルシードが血眼になって動き出す事となる。そして、運悪くその付近に居た場合。最悪起動したロストロギアに殺されてしまうと言う危険性すらあるのだ。
「そっか、だからあの時木の化け物が襲い掛かってきたり犬のお化けとかが話しかけて来たりしたんですね」
「話し掛ける?」
「はい、私聞いたんです。何故、お前は起動しないんだ? って」
「そんな、ロストロギアの言葉を聞けるなんて、あり得ないわ」
なのはの言い分に女性は心底驚きを見せる。しかし、その手の技術に疎い連中はさっぱり分からない事でもあった。
「どう言う事だ? あの化け物達の言葉が聞けるのは変なのか?」
「本来、ロストロギアとの対話は愚か、言葉を聞く事事態出来ないんです。でも、彼女はそれが出来る。これも、彼女の体内にジュエルシードが入り込んだ際に身についた能力なのかも知れませんね」
「だとしても、このまま地上に居たんじゃ危険極まりないって話だな」
まだ地上にはジュエルシードが幾つか残っている。その状態でなのはを地上に降ろすのは極めて危険に近い行為だ。
それならば、いっそこの中で保護して貰った方が格段に安全と言える。
「ま、何はともあれだ。俺達としちゃあの厄介な代物をどうにかして取り除きたいんだが、現状じゃ方法がないってんだな」
「残念ですが、今の私達にはあれを取り除く方法がないんです。ですが、必ず何とかしてみせます。そして、貴方達の身の安全も保障します」
こんな事態になってしまったのも言ってしまえば管理局の管理不手際から来た事態に他ならない。それに、このまま放っておけば銀時達は地上へと降りてしまう。無論、現状の銀時達ではロストロギアと戦う術などなく、返って危険な目にあってしまうのは明白だ。
「以降のジュエルシード回収はこちらに居るクロノ・ハラオウン執務官が中心に行います。貴方方は暫くの間はこの艦内で待機して貰いますが、構いませんか?」
「その事なんだけどよぉ。俺等がこの世界に来てから妙に体がダルいんだが、それに関しては何か分かってるのか?」
銀時達にとってそれが一番の疑念だった。江戸に居た頃とは違い此処に来てからと言うもの著しい身体能力の弱体化が見られるのだ。本来なら楽勝で勝てる相手にも苦戦を強いられている始末。それに一同は疑念を抱いていたのだ。
「そうですね、ご説明します。まず、この世界が貴方方の居た世界とは全く別世界だと言うのはご承知ですね?」
「まぁ、その位はな」
「世界とは、本来世界と世界を分断する見えない壁により互いの干渉を妨げています」
世界はそれこそ幾多にも枝分かれした似た様な世界で構築されている。多次元世界と言うのがそれに分類されている。
だが、この世界は互いに近いようで物凄く遠い存在とも言える。それは、世界同士が本来、干渉し得ない存在であるからだ。
例えば、ある世界では以上に身体能力の発達した人類の居る世界であったり、またある世界では巨大化した人類が支配する世界であったりする。
皆似ているようで全く違う世界が存在しているのだ。
その世界がもし、他の世界に干渉してしまったら、それは互いの世界の消滅を意味している。
故に、他世界から来た者達はその世界に居る間、一種の圧力を受けてしまう事になる。
世界とは、どの世界も他世界の住人、または物体を極度に嫌う性質を持っているのだ。その為、他世界から来た住人は本来の世界で使えた能力の大半を封印されるか、発達した身体能力の大半を封じ込まれてしまうと言う大変大きなペナルティーを受けてしまうのだ。
そして、そのメカニズムに関する謎は、未だ解明出来ていない。世界は大きな謎に包まれているのである。
「私達時空管理局が全ての世界を管理できない理由もそれに当たります」
「つまり、世界によっちゃオタクらが闘えなくなっちまうって世界もあるんだな」
「その通りです。恐らく、貴方方の言う素のロストロギアを苦もなく倒せたのも、その異世界へ転移した際の干渉が原因かと思われるのです」
「なる程な。異世界からやってきてチート性能抜群で物語に干渉しまくりって設定にならない為の配慮って奴か」
意味不明な事を言う銀さんの発言は置いておいてであり、とにかくこの世界に居る間、銀時達と真選組達は本来の力が使えず弱体化したままと言う事になってしまったようだ。
「ただ、この干渉にも個人差がありまして、大半の能力を封じられる者が居れば、その逆もまた居ると言うのです」
「なる程、道理で新八にはその影響が出てない訳だな」
確かに、新八には弱体化の兆候は見られなかった。されど、それ程強い訳でもないので大した活躍がないのが残念極まりない話なのだが。
「しかし、このまま黙って見ているってのも俺達の性に会わねぇ。どうにかして俺達も戦えるようにならねぇか?」
「方法は簡単です。貴方達の武器に僕達の力を付加させれば、一時的にですがあの世界で戦闘が行えるようになります」
「ほぉう、そいつぁ良いぜ。こんな異世界くんだりまで来てあんな化け物に舐められっぱなしじゃぁ真選組の名が泣くってもんだしな」
スラリと刀を抜き放ち、土方はとても嬉しそうに言っていた。多少気に食わないがこの世界の者達の力を借りれば自分達も戦う事が出来る。それが彼等には嬉しかったのだろう。
「ですが、ジュエルシードの回収は私達の仕事です。貴方達には関係ない事ですよ」
「そう言う訳にもいかねぇんだよ。俺達はあの化け物達に喧嘩を売られたんだ。江戸っことしちゃぁ売られた喧嘩を払い除けちゃ名が廃るってもんだぜ。それに、俺達は万事屋だ。例え異世界だろうと何だろうと、依頼があれば万事解決する。それが俺達のやり方だ」
「……」
女性は銀時の言葉を聞き、暫し黙り込んだ。確かに、クロノに一任するとは言ったが、実際に言うとかなり危険な事なのには変わりない。あの星、地球は未だ未知の部分が多いのだ。
突然の事態に遭遇した場合救助が間に合わないケースも考えられる。そうなるとクロノ一人で行かせるのは些か危険とも思われた。
「分かりました。では、改めて貴方方に依頼します。クロノ執務官と協力し、地球に散らばったジュエルシードの全てを回収、並びに例のもう一人の魔導師の確保を依頼します」
「おう、任されてだ! 報酬はたんまり頂くからしっかり頼むぜ。リンディ艦長」
「こちらこそ、宜しくお願いしますね。坂田銀時さん」
互いに名前を言い合う二人。だが、其処で誰もが気付いた。
あれ? 何時自己紹介したっけ?
「って、銀さん。何であの人の名前判ったんですか?」
「あれだよ。さっき精神世界へダイブした時にお互いの名前を言い合ったから分かってるんだよ」
「何処まで精神腐ってるんですかあんたらは」
結局、何処の世界にも変態は居るのだなぁ。
そう思いつつも溜息をつく新八なのであった。
つづく
後書き
次回【馬鹿な上司ほど部下が集まりやすい】お楽しみに
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