| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

駄目親父としっかり娘の珍道中

作者:sibugaki
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第19話 マヨネーズとタルタルソース、どっちが好み?

 坂田銀時達が異世界へ転移したと言う報せは直ちに江戸中へと出回っていた。そして、その報せがいの一番に回ってきたのは勿論此処、江戸の平和を日夜守る武装警察真選組の屯所にであった。

「ほぉ、あの万事屋がなぁ――」

 屯所内において自分の刀の手入れをしながらも、土方は出回った情報を耳にしていた。にわかに信じられない情報ではあった。だが、あいつらならそんな事も有り得るだろうと思ってしまっている自分が居た事に気付き、ほのかに苦笑いを浮かべてしまう。

「あ~らら。土方さんったら刀を磨きながらにやけるなんざ人として終わった証でさぁ。このまま殺人鬼に陥る前にその首を叩き落しときやしょうか?」
「てめぇは何時もそう言う事しか言えねぇのか?」

 そんな事を言いつつ、狭い部屋内で沖田と土方の双方が激しく切りあい始める始末。その切りあいは凄まじく、剣の一閃がきらめく度に部屋に置かれた掛け軸やら壷やらが見事に破壊されていく。

「おいおい、お前等いい加減にしろ! 屯所を壊す気かぁ?」

 そんな二人を止められる唯一の存在。それは真選組内に置いて彼以外にはあり得ない。
 その声と共に二人と同じ部屋に入ってきた近藤を見るなり先ほどまで激しく切りあっていた双方が素直に刀を鞘に納める。暴れ者の二人でもこの人に逆らう事はあり得ないのだ。

「万事屋の事なら俺も聞いた。しかしまさか異世界とはな。にわかには信じられん話だ」
「大方、町民が騒ぎ立てたデマだろうよ。気にするだけ時間の無駄だ」
「だが、聞いた話によると例の万事屋が養っているなのはちゃんが突然倒れたって話だぞぉ?」
「あの栗毛がかぁ?」

 銀時が養っているなのはの事は江戸では有名な話であった。あのちゃらんぽらんで金銭感覚に絶望的な銀時の娘があんなしっかり物だと言う事が江戸ではちょっとした都市伝説にもなっていた。
 その上、なのは自身しっかりした一面を持ってる傍らで何処か子供っぽい一面を持っている為か大人子供問わず人気があり、何時しかなのはは江戸の顔の様になってしまっていたのである。
 そして、そのなのはが自分達が出した依頼の為に倒れてしまったとの報せが江戸中に響いている。

「土方さん、この話を放って置いたら流石に不味いんじゃないんですかぃ?」
「まぁそうかもなぁ。俺達が出した懸賞金の為にあの栗毛の身にもしもの事があったなんて事が公になったら、それこそ俺達真選組は格好の叩き的になる事になっちまうな」

 正しくは懸賞金を出したのは真選組ではなく江戸幕府である。だが、世間の目から見れば懸賞金を出したのは真選組と言う形となっている。
 そして、その為に江戸の顔とも言われているなのはが倒れてしまった。
 その事実が公になってしまえばそれこそ真選組の顔に泥を塗る事になってしまう。そうなる前に事を打たねばならない。

「トシ、何とかできないだろうか? このままじゃなのはちゃんが余りにも不憫でならん」
「ならんっつったってどうしろってんだ? 今あいつ等は揃って江戸にゃ居ねぇんだ。まさかそいつらを追って俺達も江戸を離れろってんじゃねぇだろうなぁ?」
「そ、それは……」

 鋭い土方の指摘に近藤は黙り込んでしまった。どうやら図星だったようだ。

「冗談じゃねぇ。俺達の仕事は江戸を守ることだ! たった一人の小娘の命守る為に江戸全市民を危険に晒す訳にゃいかねぇだろうが!」
「それも、そうだな」

 半ば釈然としないながらも、近藤は理解した。真選組の役目は江戸の平和を守ることである。その彼等が一人の少女の為に使命を投げ出す訳にはいかないのだ。辛い選択だがこれも真選組が故の事と言える。

「ま、その栗毛は運が悪かったと思って諦めて貰うっきゃねぇだろうが」
「それもそうだな。よし、後で万事屋に菊の花でも添えに行ってやろう。明日にでもな」
「い~やぁ、添えるなら今日だろうが~」

 突然間延びした声が響いた。かと思うと近藤の即頭部に何か冷たい物が押し当てられた。ひんやりとしていて、その上長時間触れたくない物騒な代物。そんな感じの奴が押し当てられていた。
 恐る恐る振り向こうとする前に、それは牙を剥いた。
 突然部屋内に響く轟音。そして倒れる近藤。その近藤の隣に立っていたのは茶色のサングラスを掛けた白髪のおっさんであった。

「ま、松平のとっつぁん!」
「あ、危なかった! あと少しで直撃だった!」

 土方は名を叫び、眉間すれすれに命中した弾丸に肝を冷やした近藤は未だに立ち上がれないままその冷たい拳銃を持つおっさんを見ていた。
 その男こそ、真選組を含む警察組織、警察庁の長官である松平片栗粉その人である。
 見た目の通りかなり危ない人の様で、常に拳銃を携帯しており何かと発砲する癖があるらしい。
 しかし、そんな外見と中身とは裏腹に家族には優しいらしく特に娘のことになるとしつこい位になるようだ。

「き、急に何の用だよとっつぁん!」
「あぁん? てめぇらこそ何してんだぁゴラァ! 江戸の顔とも言われた万事屋の娘が倒れた。だのに肝心のてめぇらが屯所で胡坐(あぐら)かいてるたぁどう言う了見だぁ?」

 明らかに松平は不機嫌マックスの領域であった。そして、その銃口は明らかに近藤、土方、沖田ら三名に向けられている。
 恐らく、このまま引き金を引けば確実に三人の眉間に鉛球が命中するのは明白であった。

「ま、待ってくれとっつぁん! なのはちゃんと俺達には何の関係もないだろ? 只俺達が出した懸賞金のせいで事故に巻き込まれたって事になったってそれだけじゃねぇかぁ!」
「バッキャロウ! 叔父さんにはなぁ、分かるんだよぉ。娘に何かあった時のパパの気持ちがよぉ。あの万事屋も今じゃ立派な娘のパパさんだぁ。その娘が今大変な時だってんだぜぇ。同じパパとしちゃぁこの胸の内は痛くて溜まらねぇんだぁよぉ~」

 どうやら同じ娘を持つ身として銀時に同情したようだ。しかしその同情の相手が銀時なのかなのはなのかは定かではないのだが。

「そうは言うがとっつぁん。俺達にどうしろってんだよ? まさかあいつ等追って俺達も異世界に行けってかぁ?」
「当たり前だろうが! 異世界だろうが地獄の果てだろうが行け! そしてそいつらの手助けして来い! これは長官命令だぁゴラァ!」
「そうは言うけどよぉ。俺達には江戸全市民の平和を守る使命ってのが――」
「バッキャロウ! 一人の娘の命と江戸に住む有象無象の命。どっちが大事か簡単に分かる事だろうが!」
「言っちゃったよ! 警察庁長官が有り得ない事言っちゃったよ!」

 鬼の副長と言われた土方自身滅茶苦茶驚きっぱなしでもある。それほどまでに今松平の言っている事は滅茶苦茶だったりするのだ。江戸の治安よりもたった一人の全く関係のない娘の命を守れと言うのだから。

「ま、そう言う訳だから近藤。てめぇは今から其処に居る馬鹿二人を引き連れて今すぐ異世界に行け! そして万事屋の手伝いして来い! 3秒以内に支度しろ! でねぇと殺す! あ~、1――」

 突如、銃口から激鉄が迸った。それと同時に三人に向かい数発の鉛球が飛び込んできたのだ。
 その飛び込んできた鉛球を三人はとても無様な格好で逃げ回る。

「に、2と3はあああぁぁぁぁぁ!」
「知らねぇ。男はなぁ、1だけ数えられればそれで良いんだよ。だからさっさと支度しろ! でねぇとマジでぶっ殺すぞてめぇらあぁぁぁぁ!」

 怒号と共に更に激しい激鉄と鉛球が飛び出してきた。その鉛球や激鉄、そして松平の怒号から逃げる為に三人は急ぎ屯所から逃げ出した。その後の事は残念ながら尺の都合上書き記す事は出来ない。まぁその内記載すると思うので気長に待って頂きたい。




     ***




「ま、そんな訳だ」

 事の経緯を近藤から告げられる銀時達。要するに松平のとっつぁんに急かされて命かながらこの世界に逃げてきたと言うのだろう。

「つまりあれだろ? お前等本来なら俺達の事助けに来る気なんてこれっぽっちも無かったって事だろ? んで、それをあのとっつぁんに急かされて仕方なく来たって事だろ? 何、俺達の事ついでのつもりで来たって奴? それで真選組かぁ? てめぇでてめぇのケツも拭けねぇクズの集まりですかぁコノヤロー!」
「あんだぁゴラァ! 言うに事欠いて俺等の事侮辱するたぁどう言う了見だぁ? 警官侮辱罪で即刻叩っ斬ったろうかぁゴラァ?」

 相変わらず銀時と土方の睨みあいは続いていた。睨みあいながら罵りあったりしている。このままだと一触即発な事になりそうだ。

「はいはい、銀さんも土方さんも落ち着いて下さいよぉ。今此処で喧嘩してる場合じゃないでしょ? それより近藤さん、貴方達は一体どうやって此処に来たんですか? そしてその物騒な代物は何ですか?」
「おぉ、まぁ積もる話もあるだろうが、まだ連れが戻って来てないんだ。俺達より先に此処に来た筈なんだが……」

 辺りを見回しながら近藤は呟く。先ほどの話だと此処に来たのは今目の前に居る三人だけだと言う。だが、その近藤の口から連れと言葉が出た。
 一体誰の事なのだろうか?

「連れだぁ? まさかおめぇ、あのゴリラ女連れてきたってんじゃねぇだろうなぁ?」
「馬鹿野郎! 俺のお妙さんをゴリラ女なんて言うんじゃねぇ! お妙さんこそ俺の心のマイハニーなんだ! それをゴリラ女などと抜かすなんぞ、このお妙さんの選ばれし伴侶である近藤勲が許さん!」
「何時からお前がお妙の選ばれし伴侶になったんだよ。勝手な事抜かしてんじゃねぇよ。今度こそ殺されるぞ。もしくはタマ抜かれて川に浮かばされるぞてめぇ」

 ストーカーな上に妄想家でもあったようだ。危ない局長である。だが、言ってしまえば銀時達の居る世界の住人は揃いも揃って変態の集まりなのでこの程度は言ってしまえば普通と言えるだろう。

「旦那ぁ、そんな事より例の栗毛はどうしたんですかぃ? 一緒じゃねぇんですかぃ?」
「そいつを聞く為に此処で伸びてる変態女を起こす必要があんだよ」

 今まで会話に参加出来なかったアルフを親指で指差す。そしてそのまま近づき微動だにせず沈黙したままのフェイトを見下ろしていた。

「おい、さっさと起きろこの金髪変態女! さっさと起きねぇと額に【変態】って書くぞオラァ!」
「ちょっ、あんたそれでも人間かぃ? こんな可愛らしい女の子捕まえて変態呼ばわりするなんて! ってか、何回頭叩いてるんだい! 止めろ、フェイトの頭が馬鹿になっちまったらどうするつもりだい?」
「大丈夫だろう。元から頭のネジ2,3本位ぶっ飛んでんだ。今更馬鹿になるっつってもこれ以上馬鹿にはなんねぇよ。だからさっさと起きろこの変態女!」
「いい加減にしろこの天然パーマ! 私のフェイトをこれ以上変態とか馬鹿呼ばわりするな! 確かにフェイトはちょっとドジな面もあるし、ちょっとだけ百合っ気もあるけど、それでも根は優しい子なんだよ!」

 必死にフェイトを庇い立てするアルフ。が、そう言う彼女も結構失礼な事を言ったような言わなかったような気がするのだが。

「おい犬娘。それ遠回しに自分のご主人様が馬鹿で百合っ娘って言ってるようなもんじゃねぇのか?」
「はっ! ち、違う! そう言う訳じゃないんだよ。只ちょっと口が滑っちゃっただけなんだよ! ってか、あんたまで私の事犬娘って言うんじゃないよ!」

 どうやら江戸の者達の中でアルフの名前(イコール)犬、と言う図式が出来上がったようだ。そして、同時にフェイトが馬鹿で百合っ娘の変態、と言う図式までもが出来上がってしまったようだ。

「土方さん、そんな風に言ったって駄目でさぁ。此処は俺に任して下せぃ。ちょちょいと弄くりゃ忽ちその変態女も目を覚ましまさぁ」

 腕をボキボキと鳴らしながら沖田が動かないフェイトに迫る。明らかに何かをする腹積もりだと言うのが見え見えだった。それも、ドSじみた何かを。

「ちょっとちょっと沖田さん! あんたがやったら何か確実に何処かの偉い人に怒られそうだから止めて下さい! ってか本当にマジでお願い!」
「何言うんでさぁ。どうせこの女は敵なんだろうが! 手加減する必要なんざないでしょうが!」

 明らかに何かやばそうな事をしようとしている沖田を必死に新八が止めに入る。このまま沖田の好きにさせた場合、確実に何処かの偉い人かもしくは何処かの熱烈なファンに大層お怒りを食らう事が明白でもあった。
 例え、それが敵だとしても、外見からすれば結構な美女を沖田のドSの毒牙に掛ける訳にはいかない。新八の理性がそう告げているのだ。

「新八ぃ、そんな変態女に情けなんて掛ける事ないネ! いっそひと思いにやっちまうヨロシ」
「神楽の言う通りだぞぱっつぁん。情けなんざそんな奴に掛けないでご飯に掛けるべきなんだよ」
「てめぇらは少し黙ってろ! あんたらが会話に参加したら確実に何か大事な物がぶっ壊れる危険性が……」

 言葉の途中で新八は黙り込んでしまった。只黙ってしまっただけならば皆気にも留めない。だが、その言葉を止めた新八の顔が突如として青ざめてしまっていた。
 流石の銀時達でもその顔をする新八に不信感を覚える。そのせいか先ほどまで激しく言い争っていた空気が一瞬の内に静まり返り、皆の目線が新八にへと向けられる。

「一体どうしたんだ新八君? 顔色が悪いぞ」
「み、皆さん……あれ、あれ――」

 青ざめ、声も震えたまま新八は必死に人差し指を突き出して真っ直ぐある方向を指差した。まるで恐ろしい何かを見つけた子供の様な仕草である。そんな新八の言う通りの方向に一同は視線を向ける。 
 其処に居たのは先ほど土方達が葬った木の化け物である。残骸を押しのけてまた新たにそれが現れていたのだ。

「ちっ、懲りねぇ野郎だ! もう一辺黒こげになりたいみたいだな!」

 土方の啖呵を聞くや、近藤と沖田も揃ってバズーカ砲を掲げる。また出て来たのならまた黒こげにしてやれば済むだけの事。
 そう思っていた時、突如沖田が二人に声を掛ける。

「そう言えば土方さん。一つ言い忘れていた事があるんでさぁ」
「何だよ総梧?」
「実は、さっきの砲撃でナパーム弾を使い切っちまったんでさぁ。つまり、今俺等のバズーカ砲にゃ一発も弾が入ってやせんぜぃ」
「んなんだとぉぉぉぉぉぉぉ!」

 正に今更な話であった。言われて見れば確かにバズーカ砲が妙に軽いのに違和感を感じていた。しかしその違和感がまさか弾切れとは。

「トシ、俺のも空だ、予備弾とかないか?」
「残念だが俺のも空だ。これじゃ俺達のバズーカなんざ只のでかい筒だぜ」

 バズーカ砲を放り捨てる三人。幾ら強力な銃器があったとて弾が無ければ只の足かせにしかならない。となれば残る戦法と言えば接近戦しかない。
 だが、弱体化の影響は銀時達だけではなく、この真選組にも影響を及ぼしているのであった。

「土方さん、もしかして貴方達も弱体化の影響を?」
「あぁ、悔しいが今の俺達の刀じゃあんな木の化け物一体切る事も出来やしねぇ。とんだなまくらな腕になっちまったぜ」

 悔しそうに自分の愛刀を見る土方。侍にとって腕が鈍ってしまったのは恥以外の何者でもない。それがこんな異世界に来てしまった影響だと言うのだから泣くに泣けない。
 そんな土方達を見るや否や木の化け物が大層けたたましい雄叫びを張り上げる。すると、その雄叫びを張り上げた木の化け物を中心に更に続々と木の化け物が地面から姿を現しだす。最初に倒した数の五体があっと言う間に揃い、それから更に続々と数を増やしだして行く。その総数は実に先ほどの二倍にも昇る十体にもなった。
 巨大な木の化け物が先ほど以上の数に昇り、それらが全て交戦能力のない銀時達を包囲し始める。
 こうなれば以前と何ら変わらない状況でもある。

「おい、てめぇら折角助けに来たのに結局こういうオチかよ! 何とかしろよ! てめぇら俺達みたいな善良な市民を守る警察だろうが!」
「うっせぇ! そもそもてめぇらの何処が善良な市民だ! 死んでもてめぇなんざ守らねぇからな!」

 こんな時でも言い争いを欠かさない銀時と土方。その双方には最早呆れすら見えた。

「嫌だああぁぁぁぁ! まだお妙さんとあ~んな事やこ~んな事やそ~んな事もしてないのに死ぬなんて嫌だああぁぁぁ!」
「おいぃぃぃぃ! 何時から姉上とそんな関係になったんだこの糞ゴリラ! 勝手な事抜かしてないで何とかしろよゴラァ!」
「ヘルス、ヘルスミー!」

 結局元の木阿弥となってしまった。もうバズーカのナパーム弾がなく、奴等を焼き払えない。そして、接近戦も行えない状況下に置いて、今の銀時達、そして真選組達にあの木の化け物を屠る手段などない。もう後彼等に残された道と言えば木の化け物のお腹を満たす位しかない。
 その証拠に木の化け物達全員が銀時達に向かい涎を垂らしながら接近し始めている。明らかにこいつら、食べる気満々である。

「おい止めろ! 俺なんか食っても美味くねぇぞ! 返って血糖値が上がっちまって体に悪いぞコンチクショー! 食うならこのマヨラーにしろ!」
「ふざけんな! 俺が食われるのはマヨネーズだけって決まってんだよ! 食うならこの天パーを食え!」
「いやぁ、此処は是非土方さんに生贄としていの一番に食われて貰いましょうや」

 こんな時でもこいつらは互いを敬う行為を一切やらない辺り凄いと言える。

「ちょっとあんたら! こんな時まで何やってんのさぁ!? 少しは協力するって事が出来ないのかいぃ?」
「うっせぇよ犬娘が! だったら責任もってテメェラが食われて来い! 勿論助けには行かないけどぉ」
「言うに事欠いてあんたら何言ってんだい。恥ずかしくないのかい?」
「恥ずかしくありましぇぇん! 何故ならこれが俺達の素なんですからぁ~」

 最早完全にパニック状態に陥ってしまったらしく互いを陥れようとし始める。しかし、そんな彼等の心情など木の化け物には全く無関係ならしく、寧ろ好都合とばかりに襲い掛かり出して来た。

「次回から真選組月風張スタート! 皆、絶対見てくれよな」
「緊急事態に何次回予告してんですか沖田さん!」
「え? だってこのまま主人公全員食われて銀魂お仕舞いでしょう? だったら次回から俺等が主役の小説が始まるんでさぁなぁ」
「そのあんたらも食われる寸前なの分からないんですかぁ?」
「……」

 新八の言葉に何かを気付いたのか、沖田の顔が徐々に青ざめていく。そして……

「うおおぉぉぉぉぉ! 死にたくねぇぇぇぇ! 助けろ土方コノヤローーーーー!」
「いでででっ! 俺の頭引っ張るんじゃねぇ! っつぅかお前ドSの癖に打たれ弱過ぎだろうが!」
「Sだからこそ弱いのぉ! ガラスのハートなのぉぉぉ!」
「そんなの知るかああぁぁぁぁ!」

 最後の最後までこの調子であった。もう助かる道などないに等しい。後は皆揃って木の化け物の胃袋にダイビングするだけであった。
 だが、正にそんな瞬間、今度は高速で上空から何かが飛んできた。
 今度のは先ほどのバズーカ砲などではない。それは光り輝く剣であった。
 それも何本も上空から降り注ぎ周囲に居た木の化け物を次々に串刺しにしていく。
 根を切断し、木々を焼き切り、無情にも木の化け物の命を刈り取っていく。
 周囲に居た木の化け物達が地面に倒れ付すのにそれほど時間は掛からなかった。

「おいおい、今度はなんだ?」
「ふっ、ようやく来てくれたか」

 驚く銀時達を他所に土方は安堵したのか煙草を吸い始めている。沖田や近藤もさして驚く様子が見られていない所を見るに、この剣を放ってきたのは彼等の知り合いだと思われる。
 もしや、先ほど言った連れの子がやった事なのだろうか?

「無事でしたか? 皆さん」

 上空から声がした。その声の主は銀時達を無視してそのまま土方達の前へと降り立った。
 現れたのは少年だった。紺色のショートへアーに黒い無骨な衣服を身に纏い、手足には甲冑にも似た感じの装備が取り付けられている。そしてその手には、あのフェイトと同じように杖が持たれていた。外観は違うがこれは明らかに杖の類だ。その風貌の少年が土方達の前に降り立ったのだ。

「あぁ、助かったぜクロノ。危うくこの化け物達に食われる所だったぜ」
「すみません、少々此処の化け物相手にてこずってしまった物で」
「なぁに、結果オーライだ。俺等にゃ外傷はないんだし問題ねぇよ」
「そう言って貰えると助かります」
「あのぉ……」

 いい加減自分達が会話に参加出来ないのに腹立たしさを感じ出した銀時が主室の声を掛ける。その声を聞いた少年が銀時達の方を振り向いた。

「はい? 何でしょうか」
「話の腰折るみたいなんだけどさぁ。お宅誰?」

 いきなりな発言であった。その発言に少年は少々戸惑いを見せる。まぁ、いきなりそんな風に尋ねられたら誰でも驚くのは明白だろうが。

「えっと、貴方達は土方さん達のお知り合いか何かですか?」
「あぁん? 誰があんなマヨラーの知り合いになんかなるかよ! 俺ぁなぁ、天下の万事屋銀ちゃんのオーナーの坂田銀時。そしてその片腕の神楽とその他大勢だコノヤロー!」

 明らかに新八、ユーノ、定春は省いた発言であった。その発言を聞き、後ろで暴れ回る一人と二匹が居たが此処は遭えてスルーして貰いたい。
 とにかく、銀時のそれを聞き、少年は納得したかの様に手を叩く。

「なる程、貴方方があの万事屋さん達でしたか。申し訳ありませんでした。僕は時空管理局執務官を勤めておりますクロノ・ハラオウンと言います」
「へ? 時空管理局、執務官? 何それ?」

 聞き覚えのない類の言葉に首を傾げる銀時。少なくとも時空管理局と言うのなら聞いた事がある。だが、執務官と言うのは聞いた事がない。初めて聞く言葉だ。

「え、えぇっと……クロノ君だったっけ? その執務官ってさぁ、どれ位偉いのぉ?」
「え? えぇっと……どれ位って聞かれると、僕も困るんですけど……」

 銀時の問いにクロノは腕を組んで必死に考え出し始める。どうやら本人自身あんまり自覚してなかったようだ。だが、そんなご大層な肩書きなのだからきっと相当偉い役職なのだろう。

「旦那ぁ、それはつまり真選組で言やぁ近藤さん位の位置だと思いまさぁね」
「え? マジ! あのゴリラとほぼ同じ位に居るのこの子!?」

 沖田のその言葉に銀時は目を見開く。近藤の位置は局長。つまり真選組を纏め上げるいわば一番偉い位置に当る。それとほぼ同じ位にこの少年は居ると言う事になる。それも、この若さででだ。
 見ての通り近藤はおっさんだが、このクロノと言う少年は見るからに明らかに十代前半に見える。それだけでもかなりの出世頭とも言えるだろう。
 それを悟った時、銀時の顔が歪に歪み出したのを新八は見逃さなかったのである。

「それにしてもクロノ、お前一体さっきまで何処行ってたんだ? たしかお前等俺達よりも先に降りてた筈だよなぁ」
「はい、実は結界内で迷い込んでた子を保護してて、それで遅くなってしまったんです」
「迷い込んだ子? それって、もしかして茶色の髪で両端がちょんって伸びてる9歳位の女の子の事かな?」
「はい、そんな感じの子ですよ」

 正にドンピシャだった。どうやらなのはは一足先に彼の手引きで時空管理局に保護されたようだ。となればもう彼女が危険に晒される心配はないだろう。ほっと安堵する新八を他所に、突如銀時がクロノに近づき彼の肩に手を回し始める。

「ところでクロノくぅん?」
「は、はい、何でしょうか?」

 いきなり変な口調になった銀時に一抹の不快さを感じたクロノは苦笑いを浮かべながら銀時を見る。その銀時の顔と言えば酷くニヤニヤした面持ちになっていたのは言うまでもない。

「お宅、彼女とか居るのぉ?」
「いぃ! いきなり何聞き出すんですかぁ?」
「いやさぁ、実は今家でお宅と釣り合いそうな良い子が居る訳よぉ。そんでさぁ、その子について色々とお父さんとお話しないかなぁって思ってさぁ」
「は、はぁ……」

 下手に断ると何されるか分かったもんじゃない。クロノはそのまま銀時の話を聞かされる羽目になる。かと思われたその刹那だった。

「そうはさせるかこの駄目人間があああぁぁぁぁ!」

 雄叫びと共に急遽不死鳥の如く蘇ったフェイトがバルディッシュの閃光をそのまま銀時の眉間に深く突き刺した。深く突き刺さるその刃を中心に傷みが広がりだす。

「いだだだだああああああああああ! 何すんだよこの変態女ぁぁぁ!」
「うっさい! 勝手に私のなのはを嫁に出すな!」
「何時家の屋台骨がてめぇの物になった! あいつはてめぇの所有物じゃねぇんだよゴラァ!」
「所有物じゃない! 私の嫁だぁぁ!」
「言っちゃったよ! この子ったらとんでもない百合発言しちゃったよ! 女が嫁貰える訳ねぇだろうが! そう言うのはなぁ、股間に穢れたバベルの塔を建築してから言えってんだよボケがぁ!」

 突き刺さっている刃を強引に引き抜きながらも銀時は叫ぶ。まぁ、昨今において女性同士の結婚や男性同士の結婚が出来ない訳ではない。まぁ多少無理はあるが不可能な話ではないのだろう。
 が、それを堂々と言われると流石に引いてしまうのだが。

「大体、てめぇみたいな変態女に家の娘はやらねぇよ! 家の娘はたったいまから此処に居るクロノ君の下に嫁ぐ事が決まったんだからなぁ!」
「ええええええええええええ! い、いきなり何言いだすんですか! そんな話聞いてませんよ!」

 いきなりな発言に驚くクロノ。無理もないだろう。何せいきなり見ず知らずな子を嫁に寄越されるのだから。するとフェイトの怒りの矛先が銀時からクロノへとスイッチしだす。そして、閃光の刃を迷う事なくクロノへと放ってきたのだ。

「渡さない! 何人足りともなのはは渡さない! なのはを狙うと言うのなら、お前も倒す!」
「ちょっ、ちょっと落ち着いて! 僕は何も知らないんだ! そもそも彼女の事も良く知らないのにいきなり嫁に出すなんて言われても僕だって困ってるんだからさぁ!」
「五月蝿い! ライバルは芽の出る前に潰す! なのはを狙う害虫は私が全部駆除するぅぅぅ!」

 クロノの静止を全く聞かず、トドメを刺そうとバルディッシュを思い切り振り上げるフェイト。それに対しクロノは職業がら反撃する訳にもいかずされるがままの状態でもあった。
 だが、その瞬間、フェイトの背後に立った銀時がフェイトの後頭部を掴みそのまま遥か後方へと投げ飛ばす。

「ぐふぅっ!」
「馬鹿野郎! てめぇ家の大事な婿さんを傷物にするつもりかコノヤロー! てめぇのせいで家の大事な玉の輿が使い物にならなくなったらどうするつもりだぁコノヤロー!」

 どうやらそれが銀時の狙いだったようだ。銀時の目からしてその若さで近藤級の出世をしたクロノは充分な玉の輿だったようである。そんなクロノとのパイプを手に入れる為だけに娘のなのはを嫁に寄越そうとしたのだろう。そして、それを本能的に察知したフェイトが突如不死鳥の如く蘇り阻止しようと動き出したのだと思われる。
 全くはた迷惑な話であった。

「あ、あの……二人共喧嘩はその位にして――」
「なのはは渡さないわ! あの子は私がずっと守り抜くって決めたんだから!」
「お前みたいな変態に誰が大事な娘を渡すか! チンもタマもねぇ中途半端な変態の癖にでしゃばってんじゃねぇぞゴラァ!」
「嫌、彼女どう見ても女の子だからチンとかタマとかはないと思いますよ其処は」

 銀時とフェイトの激しい罵りあいをクロノが必死にフォローして止めようとする不毛な光景が其処に映し出されていた。側から見ている者達にとっては激しくどうでも良い光景だったりもする。

「ちょっと銀さん。何勝手な事言ってるんですか? そんな事勝手に決めたらなのはちゃん怒りますよきっと」
「馬鹿野郎! 嫁の将来は親が決めてやるのが筋道なんだよ! 幾らあいつがしっかりしてたってなぁ。危ない橋に一人で渡らせられるかってんだよコノヤロー!」
「あんた娘が可愛いのかただ単に政略結婚の道具にしたいのかどっちなんだよ!」

 半分欲丸出しで半分娘思いな感じで微妙な感じの銀さんなのであったそうな。
 そして、そんな銀時の野望からなのはを掠め取ろうとばかりにフェイトもまた戦いを挑んでいる次第なのであり。
 最早お互い当初の目的など完全に忘れ去っているようでもあり。

「あのぉ、アルフさん、あのまま放っておいて良いんですか?」
「良い訳ないっしょ。ったくもぅ」

 頭を掻き毟りながらも呆れたアルフは喧嘩を続けるフェイトをそのまま抱えて始める。幼い体のせいか余裕で持てるようだ。

「離してアルフ! 此処であの男と決着つけないとなのはが嫁に出されちゃうよぉ!」
「嫌、気持ちは分かるけど此処は一旦ずらかろうよフェイト。今のあんた結構疲れてるみたいだからさぁ」
「駄目ぇ! 此処であの天然パーマとあの少年を亡き者にしなきゃ、私となのはの関係があぁぁぁぁ!」

 必死に暴れ回るフェイトを小脇に挟みながら、アルフは飛び去ってしまった。その間もフェイトは暴れ回り、その口から形容しがたい言語を吐きまくっていたのだが、此処では遭えて記載しないで置く事にする。
 彼女のイメージを壊さない為でもあるが、既に壊れていると言うツッコミはなしにして貰いたい。
 とにもかくにも、これで命を狙われる心配がなくなったクロノは安堵しながら話を戻す事にする。

「と、とにかく……貴方達の言うその子は今僕達が保護してますんでご安心して下さい」
「おう、それじゃとっととお宅らの家に案内してくれや。お見合いの支度もしなきゃならねぇしよ」
「その話、何時まで続くんですか?」

 未だに銀時の野望は続いているようでもあり、クロノの苦労はまだまだ続くようでもあったそうな。




     つづく 
 

 
後書き
次回【親も子も結局心知らず】お楽しみに 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧