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アイーダ

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第三幕その四


第三幕その四

「何でもありません。気にされないで下さい」
「そうか。そしてだ」
 ラダメスはまた自分の言葉を語りはじめた。じっとアイーダを見据えている。
「私は勝つ、その時にそなたを手に入れたい。永遠にだ」
「永遠に」
「そうだ、ファラオに誓う。そなたを永遠の伴侶とすることをだ。いいか」
「王女様の復讐を避けられるのですか?」
 また顔を向けてラダメスに問うてきた。
「雷のように全ての上に襲い掛かるその復讐を」
「大丈夫だ」
 ラダメスは毅然としてアイーダに述べてきた。
「私が護る。だから」
「無理ですわ」
 またしても顔を背ける。背ける度に痛む心に耐えながら。
「貴方でもそれは。出来る筈がありません」
「ではどうしろというんだ」
 アイーダに対して問う。
「私でそなたも皆も護れないとなると。どうすれば」
「いえ」
 これまでになく辛い顔でラダメスの方を振り向いた。今にも壊れそうな顔になっていた。その顔でじっとラダメスを見やる。そして言うのだった。
「私を愛して下さるのなら」
「そなたを愛せば」
「一つだけ救いの道が開けているのです」
「それは一体」
「逃れるのです」
 顔を背けそうになるのを必死に堪えて述べた。心が痛むがそれでもそれを堪えるのであった。今彼女は苦いもので心を満たしていた。
「このエジプトから」
「エジプトから」
「そうです」
 そうラダメスに告げる。
「木々と花々が香り緑溢れる場所へ」
「祖国と神々を捨ててか」
「そうです。私を愛して下さるのならば」
 じっとラダメスを見上げて言う。
「できる筈です、絶対に」
「栄光を讃える月桂樹の葉を生み出すその地をか」
「そうです」
 またラダメスに告げる。やはりその目は彼から離れない。悲しみも辛さも必死に隠しながら。彼女はラダメスに対して言うのであった。
「この青い空を離れろというのか」
「私の祖国へ」
「エチオピアへ」
 ラダメスはその言葉に俯く。
「行けというのか。エジプトの敵の場所へ」
「御願いです」
 ラダメスの目から己の目を離さずに述べる。
「神々はそれを認めて下さいます」
「だが私の神々は」
 エジプトとエチオピアでは当然ながら神々も違う。それもまた両者の戦いを生み出しているのである。全てが戦いを生み出していたのだ。
「エチオピアへ」
「私は全てをエジプトに捧げてきた」
 ラダメスの声が震えていた。震えながらも言う。
「これからも。だが」
「私を愛しては下さらないのですか?」
 言うだけでも身が引き裂かれそうになる。それでも言わなければならなかった。
「それでは」
「愛している」
 その気持ちに偽りはない。どうしてそれを否定できようか。ラダメスのその心は本物だった。アイーダもそれはわかっているのだ。しかし。
「嘘です」
 こう言うしかなかった。どうしてもだ。
「嘘だから貴方は今動こうとされないのです」
「帰って下さい」
 最も言いたくはなかった言葉を遂に出した。
「もう貴方に言う言葉はありません」
「どういうことだ」
「私を愛して下さらないからです」
 ラダメスに対して言う。言葉も表情も壊れそうになるがそれでもそれに必死に耐えながら言葉を続けるのであった。痛みに耐えながら。
「ですから」
「ならば・・・・・・いや」
 アイーダからは顔を背けはしない。しかし苦い言葉を述べた。
「私はそなたを」
「それでは」
「・・・・・・わかった」
 アイーダから目を離さず遂に苦い言葉を口にした。
 
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