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戦国異伝

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第百三十一話 二人の律儀者その七

「この度の戦ですが」
「うむ、先陣か」
「宜しければそれをさせて頂きたいのですが」
「それがしもそう思います」
「それがしもです」
 続いて榊原と本多も名乗り出た。
「先陣こそは武門の誉です」
「ですからその誉を我等に」
「右大臣殿、是非お願いします」
 四天王の最後の一人である井伊も同じ意見だった、そして他の徳川の家臣達もだ。
 誰もが先陣を願い出る、しかし信長は苦笑いになってこう答えた。
「いや、気持ちは有り難いが」
「なりませんか、それは」
「我等の先陣は」
「先陣は既に決まっておる」
 後ろにいる家臣の一人柴田に顔を向ける。
「この権六にな」
「むっ、柴田殿が先陣ですか」
「そうじゃ、悪いが都を出た時にもう決めておった」
 それは既にだというのだ。
「権六がおればな」
「わかりました、柴田殿ならばです」
「我等も異存はありませぬ」
 織田家でも随一の攻め手であり平手に次ぐ重臣と言ってもいい、その彼ならばというのである。
「では我等は末席にお加え下さい」
「そうさせて下さい」
「二陣は牛助、三陣は久助が率いておる」
 そして四陣は信長が自ら率いている、左右もだった。
「右は又左、左は内蔵助がな」
「では我等は何処になるでしょうか」
「それは」
「そうじゃな、後詰は猿じゃが」
「では我等もですか」
「その後詰でしょうか」
「そうなるな、悪いが」
 謝りはするがやはりそこ以外ないというのだ。
「そこにな」
「ではそこでお願いします」
 家康が徳川家を代表して応える、こうしてだった。
 徳川の軍勢一万は織田家の後詰に加わる、その彼等を率いる家康にまずは蜂須賀が声をかけてきた。
「徳川殿、では行きましょうぞ」
「お頼み申す、それでは」
「はい、ところで徳川殿のお好きなものですが」
「食べもののことでしょうか」
「はい、何がお好きでしょうか」
 家康にこのことを問うたのだ、共に馬上にあり並んで進みながらのやり取りだ。 
「わしは結構何でも食べますが」
「それがしは揚げものですな」
 家康は考える顔で答えた、
「それですな」
「揚げものですか」
「はい、それです」
「近頃南蛮から魚や鳥を揚げた料理が伝わっていますが」
 油で揚げるものである、それが急に流行っているのだ。
「それですな」
「一度上洛した時に食べたのですが」
「その時にですか」
「いや、これはよいと思いまして」
 それでだというのだ。
「近頃は胡麻や菜種の油で揚げた魚を口にしております」
「左様でありますか」
「他には海老や蛸、烏賊もです」
 そうした海のものをだというのだ。
「楽しんでおります」
「海のものを揚げると確かに美味いですな」
「信長殿もそうしたものを楽しんでおられるでしょうか」
「はい、殿もです」
 信長もまただというのだ、そうしたものを楽しんでいるというのだ。 
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