八条学園怪異譚
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第三十四話 眼鏡とヘッドホンその十三
「それでも、身体もって」
「どういうことですか」
「大人は世の中を知り欲を知りそれで色々なものにまみれていくのう」
「うっ、何か昔のロックの歌詞みたいですね」
茉莉也がその話を聞いて言った。
「尾崎豊みたいですね」
「随分古いのう」
「うちのお父さんの頃ですからね」
今は亡き日本のロックのカリスマだ、無頼な人生を送ったと言うべきか。
「あの人は」
「わしはこれといって聞かんかったのう、わしは男女共アイドルが好きじゃ」
「随分若いですね」
「ほっほっほ、長寿の秘訣の一つじゃよ」
気が若いこともだというのだ。
「これもな」
「そうですか」
「それで歳を取るとそういった欲が抜けていくのじゃ、達観したり死を意識したりしてな」
そうした考えを備えていってだというのだ。
「それでじゃよ」
「欲が消えていくんですか」
「心のそういったものがな」
「それはわかりました、童心ってそうした意味もあるんですね」
茉莉也は腕を組みそうだったのかと納得する顔で頷いた、だがそれと共にこのことも問うたのであった。
「けれど身体もっていうのは」
「そのことじゃな」
「それがわからないですけれど」
「うむ、男の子も女の子もお赤飯を食べることになる」
具体的にはどういったものかは全く言わない。
「しかしじゃ」
「しかし?」
「身体はずっとそのままではないのじゃ」
「あっ、じゃあ」
「備わったものが終わってしまうわ」
「それですか」
「百歳を超えて子供をこさえられる者はおらんじゃろう」
流石にだというのだ、男女共。
「わしも聞いたことがない」
「百歳を超えて子供を作ったらそれだけでギネスですよ」
茉莉也はこのことは冷静に突っ込みを入れた。
「有り得ないですから」
「そうじゃな」
「じゃあそれは」
「身体も子供に戻るということじゃ」
それになるというのだ。
「つまりはな」
「そういうことですか」
「仙人にはそうした欲もないがな」
ここでもどういった欲かはあえて話されない、だが三人共それでもよくわかった。周りにいる妖怪達もである。
「とうの昔になくなるわ」
「それで童心ですか」
「枯れるんじゃなくて」
「そういうことじゃ、人間は歳を取ると童心に帰るのじゃ」
また言う博士だった。
「もっともこれは常に持つことが出来る」
「常にですか」
「そうじゃ、常にじゃ」
聖花の今の問いにはこう返す。
「陽明左派の考えじゃな」
「陽明学ですか」
「うむ、実はわしは儒学も学んでおるがな」
博士が学んでいる分野は実に多い、その方面にも及んでいるのだ。
「四書五経も暗誦出来るぞ」
「それってかなり凄いですよ」
聖花は博士のこの特技に思わず突っ込みを入れた。
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