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Magical Girl Lyrical NANOHA- 復元する者 -

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第5話 NIGHT-WALK









巨大な高層ビルが立ち並び、夜だと云うのに昼間と勘違いをしそうな程、光輝く街中。

ーースーツを着たサラリマーン。

ーー私服姿の大学生。

ーー遊びたい盛りの高校生。

多種多様な人々がビル街を世話しなく行き交っていく。
そんな高層ビルが立ち並ぶ繁華街の上空。
人々が視認出来ない中空に一人の女性が立っていた。
葛葉が公園で会った金髪の少女の身内とおぼしきオレンジ髪に犬耳と尻尾を出している女性。
目の前に立体映像のモニターを展開し、何かを調べている。
独り言を呟きながら、モニターのパネルをタッチすると、ウィンドウが閉じ、新たなモニターが展開される。
モニターを眺めながら、女性が作業に没頭し、手を動かしていると、新たなモニターが彼女の横に現れた。
そこに映っているのは、葛葉が出会った金髪の少女。


「アルフ、お疲様」

「フェイト♪」


モニターの向こう側にいる少女を見て、嬉しそうにする女性。


「遅くまでゴメンね。そっちはどう?」

「発動前のを一個見つけたよ。今夜中にはこの辺一帯をサーチ出来ると思うけど?」


感謝しながら軽く謝る少女。
女性はそれに対して、探索の成果として少女に手に持つジュエルシードを見せる。
それを見て、モニターの少女も顔をほこらばせる。


「そっか……私は夕方に“彼”に渡してもらった一つだけ……」

「そう……それにしてもーーー」


芳しくない回収結果に互いに落胆を示し、微妙な空気が流れる。
悪い雰囲気を変えるために女性が話題を変えようとする為、新しくモニターを表示する。
そこに映るのは、なのはとユーノ……そしてーーーー葛葉。


「コイツら……まさか、管理局じゃないだろうね」


怪しむように画像に映るなのは達と葛葉を睨む。
それに少女……フェイトは頭を振り、否定する。


「違うと思うよ。白い子の方は魔法を上手く使えてなかったし……“彼”の方はジュエルシードに興味も無さそうだった。それにもし管理局なら、私はもう捕まってる」

「ーーーー」


フェイトの感想に女性……アルフが沈黙で肯定する。
そう……彼が管理局に関わる人物なら既に追われる身になっている。
現状、そうなっていない。


「……じゃあ、アイツは一体何者だい?この白い子は魔法陣からしてフェイトと同じミッド式の魔導師だろうけど、アイツの魔法陣は見たことないものだったよ?」


自分達の知る魔法術式ではない。
全く未知の魔法と魔法陣。

小規模とはいえ、彼女達が張った結界を完膚なきまでに破壊した葛葉。
警戒される理由には十分に足りる。


「分からない……けど注意しないと。あの白い子は“彼”と兄妹らしいから、集めるつもりは無くても、あの子を助けにくるかもしれない」


実際、今日の夕方……彼は助けにきた。
兄として妹をーーーー。
その光景を見て、フェイトは少し胸がチクリと痛んだ。
そして今もそれを思いだし、胸を痛める。
痛みをまぎらわせる為に、両手で包み込むようにジュエルシードを祈る様に握る。

彼はジュエルシードを2つも譲ってくれた人。
これが何なのか、知っている筈なのに。
何の見返りも求めずに、私に渡してくれた。
そんな少年の大切な家族に、知らなかったとはいえ、怪我を負わせてしまった事が悔やまれる。
結局、お礼らしいお礼を何も返せていない。


(今度会ったら、話を聞かせてほしい……かーーー)


別れ際にそう言ってきた少年。
私がジュエルシードを集める理由を知りたいと。
その理由が彼の妹を傷つけるに足るものなのか知りたいと言っていた。
答えようかどうか迷った。
私の理由が彼の大切な物を傷つけてまでの理由になるかは解らなかった。
例え、彼が下らないと切り捨てても怒りはしない。
私がジュエルシードを集める理由は単純なようで複雑だ。
だからーーーー。


(きっと……話しても……言葉にしても分からない)


彼には悪いが話せない。
それは白い子に対しても同様。
きっと理解されない。

結局の話、彼らとは敵対以外の選択肢はない。
だけどーーー。


「まぁ……何かあったら、私がぶっ飛ばしてやるから、フェイトは心配しなくて良いからね?」

「……ありがとう。アルフ」




好戦的な笑みを浮かべて、フェイトを心配しないように言うアルフ。
頼もしい自分の大切な使い魔の言葉に彼女も微笑む。
一瞬、頭に過った弱音を振り払いながら。


「それじゃあ、アルフ。引き続き宜しく。私ももう少しこの辺りを探してみるから」

「わかったよ。気を付けて」

「うん……分かってる」


会話を終えて、通信モニターを切る。
アルフとの話し合いを終え、一息を付く。
一度、頭の中の雑念を振り払い、此れからの行動について考える。

回収出来たジュエルシードは21個の内、まだ3つ。
白い子が幾つか持っている可能性があるから、いつか彼女から奪わなければならない。
そうなるとーーー。


「貴方は必ず護りに来るよね?」


月明かりが照らす夜。
誰もいない公園で一人呟く。
頭に再び、黒髪の不思議な力を持つ少年が浮かぶ。
彼と出会ったのも此処だ。

彼女の双子の兄。
彼女と戦う事になれば、きっと現れる。

その時、自分は……彼と戦えるだろうか?
ジュエルシードを譲ってくれた恩人に刃を向けられる?


「っーーー」


頭を振り、先程と同じ弱気な考えを消し去る。
こんな事ではいけない。
こんな調子ではーーーー。

そう思い立つと、気持ちを新たに自分を奮い立たせ、ジュエルシード探しを再開しようと立ち上がろうとした時ーーー。


「こんな夜遅く……一人で公園でボーッとしてるのは危ないと思わないのか。お嬢さん?」

「え?」


聞き覚えのある声が自分の後ろの方から聞こえてきた。
声を聞いた瞬間……胸が高鳴り動悸する。
ゆっくり後ろを振り返るとそこにはーーー。


「やぁ、こんばんは。また会ったな、魔導師さん?」

「!?」


そこに立っていたのは、夕方に着ていた白い制服から青いTシャツにジーンズとラフな格好をした少年。
唐突な再会に動揺を隠せず、目を見開き、身体が硬直する。
その様子を見て、少年は面白げに笑みを浮かべる。
夕方に見た冷静で凛とした雰囲気が成りを潜め、自然体の少女に親近感が沸く。
フェイトは驚きを浮かべたまま、少年に問いかけた。


「どう……して此処に……?」

「特に理由はないけど?ちょっとした散歩だよ」


喉の底から声を出す。
肩をすくめながら、フェイトの問いに答える。
逆に今度は少年の方がフェイトに尋ねた。


「さっきも言ったが、女の子の夜の一人歩きは危険だぞ?さっさと家に帰れ」

「ーーーー」


呆然と少年を見詰めるフェイト。
先程まで頭の中で考察していた少年が現れたにしては、流石に動揺する時間が長過ぎる。
少年も「驚かせすぎたかな?」と反省する。
このまま、にらめっこをしている訳にもいかない。
それに、女の子の一人歩きが危ないと考えていた言ったのは本心からだ。
魔法を使えると云っても、まだか弱い少女。
ちょっとした悪戯のつもりで、偶然見掛けた彼女に話し掛けたのだが、面倒な事になった。

少年はばつの悪い顔をし、頭を掻いて、溜め息を吐く。
その後、真っ直ぐフェイトに近付いていく。
近付いてくる少年に我に返り、身構える。
少年はフェイトの正面までくるとーーー。


「へ?」

「ーーーー」


無言のまま、フェイトの手を引いて歩き始めた。
少年の突然の行動に混乱する。


「え、え?」

「家まで送ってやる。さっさと歩け」

「ま、待って!私はまだーーーー」

「まだ、“あれ”を探してるなら無駄だぞ?この近辺にはもう無い」


少年が自分の考えている事を言い当てる。
何故、わかったのだろうか?
そして、無いと何故断言出来るのだろうか?
やっぱり集めている?
それとも、あの子の……妹のため?

訳が分からず、頭の中がぐるぐるする。
そんな自分の様子を知ってか、知らずか。

少年は自分の手を引いて正面を見たまま、歩き続ける。
私も抵抗を止め、手を引かれるまま歩く。
月の光が降り注ぐ公園の中を、出口に向かって歩いて行く。



ーーこれが二度目。

ーー彼と……高町 葛葉と。

ーー私、フェイト・テスタロッサが。

ーー戦場以外で言葉を交わした出来事。

ーー初めて、彼に手を引かれて歩いた。



ーーーー夜の散歩の幕開けだったーーーー。










第5話[NIGHT-WALK]










誰も歩いていない歩道。
街灯の僅かな光が闇夜に包まれた道を微かに照らす。
草木も眠る丑三つ時。
周囲の闇に同化する黒髪の少年……高町 葛葉と。
闇の中においても映える綺麗な金髪に紅い瞳の少女……フェイト・テスタロッサは。
互いにの手を繋いだまま、歩いていた。


「遠いな~…」

「……ゴメンね」

「謝るなよ。僕が勝手に送ると言い出したんだから自己責任さ」

「うん……」


葛葉の自嘲しながら話すと、フェイトが小さく頷いた。
俯いている為、表情から感情が読み取れない。
今、二人は海鳴市の隣の街まで歩いて来ていた。
公園から出て、住んでいる場所を聞くと隣街のマンションだと返ってきた時は焦った。
時刻は既に深夜。
終電もなく、電車もバスも走っていない。
タクシーで向かおうにも手持ちがなく、やむを得ず徒歩による前進となった。
流石に子供の歩幅では、隣街まで入るのに時間が掛かった。
子供二人で夜中の街中を歩くのは補導される危険が高く、内心はドキドキものだ。

何はともあれ……
二人共に、時間は掛かったがどうにか隣街に入れた。
道なり歩き、目的地を目指す。


「道は……こっちで良いのか?」

「うん……このまま、真っ直ぐに行けば拠点にしてるマンションがある」


場所までの道を聞くと、フェイトが頷きながら答えを返す。
彼女のナビゲートに従い、マンションへの道を進んでいく。
此処までの道のり、二人は余り会話という会話をしていない。
必要最小限の言葉を交わすのみ。
それ以外は終始無言を貫いている。

互いにに聞きたい事、知りたい事は数多ある。
然れど、場の空気と言おうか……どちらも話を切り出さない。
気まずい雰囲気が二人の間に流れていた。
葛葉としては、話してくれないだろうなという諦感。
フェイトは未だに、何故彼に送ってもらっているのか半ば頭が混乱していた。

二人共、どうしたものかと心の中で思案する。
沈黙するのも限界が来たのか。
先に口を開いたのはフェイト。


「あの……」

「ん?」

「あ、うん……何でもない」

「途中で言うのを止めるな。気になるだろ?」


恐る恐る話し出すが、聞き返すと止めてしまう。
気になったので問い掛ける。


「何が聞きたいんだ?」

「……貴方って……魔導師?」

「そう見えるか?」


フェイトから質問に肩を竦めて返す。
そういえば彼女とは会うのは此れで二回目だが、互いに名乗っていないなとボンヤリとしながら思う。


「僕は『魔導師』じゃない、『召喚せし者(マホウツカイ)』だ」

「『召喚せし者(マホウツカイ)』?魔導師とは違うの?」


葛葉がフェイトの疑問に首を横に振る。
そして、苦笑いを浮かべながら答えた。


「色々な説明を省くと、端的に云えば……人の形をした“化け物”さ」

「!?」

「君らの使う“魔法”なんて、僕には何の脅威でもない。この世の如何なる物であろうと僕を傷付ける事も出来ない……人のあらゆる常識を超えた存在……それが『召喚せし者(マホウツカイ)』だ」


前を向いたまま、自分の事を簡単に説明する。
繋いだ手から彼女の驚きの感情が伝播してくる。


「怖い?」

「え?」

「得体の知れないモノ、理解出来ないモノに人間は驚きや恐怖を持つ。怖がっても別に構わないよ?僕は気にしないしね」


葛葉は振り返り、フェイトに向かって言い放つ。
フェイトは、自分に顔を向けて語りかけてきた葛葉の表情を見て、心を痛めた。
笑っている様で……だけど悲しげな顔付き。


(何で……そんな顔をするの?)


微笑みながら自分の事を蔑んだ言い方をする葛葉に、フェイトは胸を締め付けられる。
あの日、公園で最後に見た後ろ姿と重なる。
酷く悲哀を帯びたその背中と、今、彼の浮かべている表情。
どちらもとても悲しく見えた。

手を引いてくれている少年は、既に正面に向き直り、自分の説明した道順を通っている。
直ぐに彼の言葉に反論出来なかった自分自身が不甲斐ない。

化け物なんかじゃない。

化け物は親切にしてくれない。

化け物はそんな顔をしない。

フェイトは繋いだ手に思わず力が籠る。
彼女の口から言葉が紡がれた。


「怖くない」

「え?」

「怖くないよ」


はっきりと口にする。
恐怖を微塵も感じない声色。
確りとした意思を持った口調。

「私に貴方を恐がる理由はない。化け物は家まで送り届けてなんてくれないよ?昔読んだ絵本に書いてあった」

「……っぷ……絵本で読んだ内容を未だに信じてるのか?純粋だな」

「馬鹿にしてる?」

「いえいえ……滅相もない」


正面を向いたままの少年をジト目で睨む。
此方に顔を向けてこないので表情は分からないが絶対に笑っている。
だって肩が小刻みに震えて、笑いを必死に堪えてるもの。
全く……真面目に言ったのに失礼だ。


「ーーーーありがとう……」

「え?」

「何でもない。さぁ、目的地まであと少しだ。キビキビ歩こう!」


小声で呟くように礼を言う。
フェイトは上手く聞き取れず、不思議そうに小首を傾げる。
葛葉は照れ隠しに彼女の手を引いて早足になりながら道を急ぎ出す。
急に早くなった歩調に彼女が慌てだす。


「ど、どうしたの?急にーーーー」

「何でもないさ」


尋ねるフェイトに素っ気なく返す。
小首を傾げたまま、言われるままに付いていく。
彼女の手を引いて歩く葛葉。
その表情は先程の笑みよりも晴れやかで。


ーー楽しそうな笑みを浮かべていた。










★★★★★




暫く歩いてから数分後。
二人は目的地のマンションに立っていた。
想像していたより立派な建造物を葛葉が見上げている。


「でか……良い所に住んでるな」

「そうなの?」

「知らないのか?此処ってここら辺じゃ、結構有名な高級マンションだぞ?君ん家って金持ちか?」


マンションを見上げながら少し驚いた調子で話す。
こんな所に住めるとなると、結構な金持ちの家なのか?
まさか、すずかやアリサ並みのお嬢様だったりする?


「う~ん……実家は大きい庭とかあるけど……そうなるのかな?」

「ーーーー」


フェイトが小首を傾げながら答える。
彼女の言葉を聞き、葛葉は無言になりながら頭の中で考えを巡らせる。
大きい庭……。
成る程……敷地面積はすずかの実家と同レベルと仮定しよう。

すずかやアリサより危機意識に乏しいが、それは魔法で自衛出来るためだと思おう。
この少女は確実に庶民の生活を知らないお嬢様だ。

何やら、僕の人生は金持ちと縁があるらしい。
僕には一円の得もないが……。
気を持ち直して、葛葉はフェイトの手を引いてマンションの中へと入る。


「部屋は何階だ?」

「6階の奥」


部屋の場所を聞き、エレベーターのボタンを押す。
エレベーターのアナウンス音が鳴り、扉が開く。
エレベーターに乗り込み、階のボタンを押し、扉が閉まる。

微かな浮遊感を感じるとエレベーターが上がっていく。
6階に着き、エレベーターから降りて奥の部屋へと向かう。
廊下を歩いていて、奥の部屋に辿り着く。
表札がないが、横の彼女の様子を見るに此処で合っているようだ。
ずっと繋いでいた手を此処で漸く外す。
手が離れたの気付き、フェイトが隣に立つ葛葉に顔を向ける。


「エスコートは此処までだ。じゃあな」

「うん……ありがとう」

「いやいや……君みたいな可愛い子を送れて光栄だったよ」

「ふぇ!?」

葛葉の言葉に顔を赤くする。
今まで異性に言われた事もない歯の浮いたようなセリフに過剰に反応しています。
頬に手を当て、顔を見られないよう俯かせる。
頭の中で彼の言葉が反芻する。
葛葉はフェイトのそれに気付いた様子もなく、エレベーターへと向かって歩きだす。
彼が遠ざかるのに気付き、背中を向けている彼に声を掛ける。


「あ、あの!」

「ん?なんだ?」


呼ばれて此方を振り返る。
恥ずかしさがまだ残っていて、“あぅ……あぅ”と言葉に成らない声が漏れる。
彼がそんな私の様子に首を傾げ出す。
あぅ~……絶対変な子だと思われている。
何とか取り繕い、言葉を繋げる。


「あの……あのね!」

「?ああ……」

「その……えっと……私、フェイト・テスタロッサって言います。貴方は? 」

「ーーーー」


う~……なんで自己紹介なんて初めてしまったんだろう。
彼は何も言わず、此方を見詰めたままだ。
恥ずかしさに顔を再び俯かせる。
そんな様子の私を見ながら、おもむろに彼は口を開き出す。


「・・・・葛葉」

「え?」

「僕の名前は、高町 葛葉だ」

「!?」


彼がしっかりと返してくれた。
優しく微笑みながら語りかけてくれる。


「機会があれば、また会うことになる。またな、フェイト(・・・・)

「!・・・・うん、またね、クズハ」


互いに手を振りながら別れを交わす。
また、何処かで会えることを信じて。
彼が踵を返して歩いていく背中を見詰める。



ーーこうして、私と彼の夜の散歩は終わりを向かえた。

ーー彼とまた会える機会はないと思うけど・・・・。

ーーもし・・・・また会えるなら・・・・。





ーーもう一度、今日の様に二人で話したい。


ーーそう思えた夜だった・・・・。










 
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