少年は魔人になるようです
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第40話 少年達は尾行するようです
Side カモミール
「……実家に帰らせていただきやす!!」
「ええっ!?ちょ、ちょっとまってよーーーー!!」
「放して下せぇ!いくらアニキの頼みとは言え、こればっかりは聞けねぇッス!!」
俺ッチが実家からアニキを追いかけ、日本まで来たその日。
アニキがシケた面をしてたから理由を聞いたところ・・・・・・。
「なんで『アーカード』と敵対してんスかーーー!!」
容姿は絶世の美女、『大魔導士』三人とやりあった最強の魔法使い。
しかしその実態は残酷卑劣、極悪非道、冷酷無比、見敵必殺。
魔法界の子供には常に、『早く寝ないとアーカードが町を滅ぼしに来る』
と親に真剣に言われるほどの悪魔。なんで生きてんのかとか色々問題はつきねぇが・・・・。
「わかりやした、とりあえず話は聞きますんで、放して下せぇ。」
「うん!ありがとうカモ君!」
再びテーブルに陣取り、アニキの話を聞くことにする。
じゃねぇとあのまま握りつぶされて、中身飛び出そうだったしな・・・。
「…………つまり、アニキの村を襲った悪魔の頭……弱ぇ?魔王さんが生徒で。
その魔王さんをアーカード…愁磨が守ってる、と。そういう事ですね?」
「うん、そうなんだ……。前に愁磨さんが話してくれたんだけど、なんでか忘れてて……。
たぶん、忘却呪文だと思う。」
アニキの魔法抵抗は贔屓無しに高けぇ。
単純に魔力が多いってのもあるが、他にもあるみてぇ・・・要するに、愁磨とやらの実力は、
そこいらのエリートよりも数段・・・いや、魔王を従えてるってんだから、数十段上って事だ。
「更に周りには元魔王兼元大天使長、天使、真祖の吸血鬼、元王女、神鳴流剣士、半悪魔、半鳥族……
とまぁ、ひでぇ有様ですねこりゃ。
なんで麻帆良が無事なのか、大丈夫な要素を探すだけで精一杯ですぜ?」
「うう~~ん、学園長先生が絡んでるのは間違いないと思うんだ。
脅されてるのかどうかは、分かんないけど……。
でも良い先生だし父さんと同じ英雄の一人だって言うし。うぅ~~ん……。」
なるほど・・・。他の魔法先生とやらにしちゃ、ちょいと面倒な相手だがそれだけ。
だが、アニキにとっては"村を滅ぼした仇"と"父の友"が付いてるからややこしいのか。
英雄の父持ってるってのはめんどくせえッスねぇ。
「で、結局どうするのよ?」
「そうでヤスねぇ。とりあえず近辺調査してから、…………?」
「でも、あの人達を尾行なんてできるのか……な………?」
アニキと顔を見合わせ、横を見ると・・・・・。
「あ、明日菜さんんんんんんんんん!?」
オレンジ髪の女生徒・・・一般人っぽい女生徒が、そこにいた。
―――Day1
Side 愁磨
「す、すいません愁磨さん。態々手伝っていただいて……。」
「いやいや、刀子の方から誘ってくれるなんて珍しいしな。
刀子の頼みなら聞かない訳にはいかないだろう?」
休日、刀子に買い物の誘いを受け、街に出てきた。
あ、刀子は既に全員の血を飲んで、完全に陽の下でも動けるようになった。・・・のはいいんだが。
「(気付いてるか?なんか無粋な輩がいるんだが……。)」
「(ええ、家を出てからずっとついてきてますね。困惑、好奇、あと……いやな感じがします。)」
「(ウチのクラスの奴等か?ま、いいか。)」
この前の騒ぎの事もあるし、ネギとカモ・・・カモネギの可能性が高いな。
とにかく今は買い物・・・これもデートに入るんだろうか?刀子にそんな気があるのかが問題だが。
嫌われてはいないよな?こんな風に誘ってくれるわけだし、一応師弟ではあるし・・・。
うぅーん、刀子は分かりにくいんだよなぁ。
Side out
Side ネギ
「……で、あれどうなのよ?ぶっちゃけデートにしか見えないんだけど。」
「ですよねぇ?姐さん。怪しいところなんて欠片も見えませんぜ。」
あの後、結局明日菜さんに強引に話を聞かれて、こうして愁磨さんの尾行をすることになった。
でも、明日菜さんはなぜか忘却魔法の効きが弱かったみたいで、
愁磨さんが僕と同じ側の人間だって事と、図書館の事も覚えてたから・・・・・・。
「だから、仕方なかったんですぅ~…。」
「ん?なんか言った?」
「いえ、何でもないです……。」
結論、尾行して怪しかったら行動開始。そうでない場合は、学園を一応、かなり守ってくれているから
何もしないで次の行動を見るって事になったんだ。
幸い、カモ君の魔法(妖精魔法とか言うんだって)のお陰で、僕たちが誰か――
もっと良かったら、尾行してる事に愁磨さんたちは気付いていない。それは無いだろうけど。
「しっかしアニキ。ここからじゃ何も聞こえませんぜ?」
「そうね……。会話が聞こえないんじゃ、怪しいかどうかも分からないわよね。」
「あ、大丈夫です。風の初期魔法と基礎魔法を使えば、遠くの声も聞けます。」
「最初っからやりなさいよ!!」
うぅ、愁磨さん相手に慎重になり過ぎるって事はないから、様子を見てからやろうとしてたのに。
「風よ、精霊よ 彼方より此方へ導け『風陽光』これでどうですか?」
「あ、ホントだ。聞こえる。」
『―――子刀子、これなんかいいんじゃないか?』
『え、そんな!?そのような可愛いもの、私には似合いませんよ!』
『そうか、刀子は綺麗系だからなー。花よりはこっちの三日月の方が似合うかな?』
『で、ですから髪飾りなんて―――』
「……………デートよね、ただの。」
「……………デートでヤスね、ただの。」
結局、なんの情報も無いまま愁磨さんたちは買い物をして帰って行った。
・・・・・次の日、刀子先生が髪飾りをちゃんと付けてたのは余談。
―――Day2
「愁磨ーー!へぶっ!」
翌日、屋上。
愁磨さんともみじさんが連れだって教室から出るのを見て、
僕と明日菜さん、カモ君の三人(二人と一匹?)は昨日のように影から見ることにした。
愁磨さんがもみじさんを助けて、それでもみじさんは愁磨さんを好きになったらしくって、
毎日アタック(体当たり的な意味も含めて)してるのをよく見かける。
飛びつく度に避けられて壁にぶつかり、地面にスライディング、一昨日なんて池に落ちてた。
「ねぇネギ。朱里さんがって本当に…えっと、魔王?なの?私には、どう見ても、その………。」
「あっしにも、恋してる女子中学生にしか見えませんぜ。」
僕だって、毎日学校でもみじさんの事を見てるから同感だ。
魔王どころか悪魔だとも思えない。でも―――
「確かにあの夜、魔王の人と愁磨さんが言ってました。
人を見た目で判断すると、痛い目にあいます。……多分。」
「まぁ、愁磨先生がそばにいるんだから、油断なんてしないわよ。」
「ふえぇぇぇぇええぇぇえぇえーーー!!」
「え、ちょ、泣いた!?ほ、ほれ、よーしよし……。」
もみじさんの頭を、困惑した表情で愁磨さんが撫でてた。
・・・・ごめんなさい、人を見た目で判断しないにも、限界があるんです。
Side out
―――Day3
Side 刹那
ああ、どうしよう、どうしよう!?
まさかこんなことになるんだったら洋服の三つや四つや百も持っておくべきだった!
ってそんなに持っていたらどれを着るか迷って待ち合わせに遅れてしまう!?
「せっちゃーーん!そろそろ出ぇんと、時間に遅れてまうよーー。」
「ちょっと待ってってーーー!
(せめて一昨日言ってくれればよかったのに!このちゃんのバカーーー!!
ってええい、迷っている時間はもうない!)」
持っている服の中で一番見れる服に3秒で着替えると、"夕凪"を背負い寮の自室を飛び出した。
Side out
Side 愁磨
「あっちから誘ったくせに、おっそいなあいつら。」
飛び石連休(連休と言っていいものなのか)一日目に行った刀子とのデート(木乃香談)
を見られたらしく、木乃香が昨日、
『ずるいーー!私らも愁磨はんとデートしたいーー!』
と言って来て、休日返上で買い物に付き合う事となった。
『私ら』と言っているように、刹那も来るらしく。こうして寮前で待機しているんだが―――
「愁磨せんせー、おはようございまーーす!ってかこんにちは?」
「あ、ああ。おはよう。どっちでもいいと思うぞ。」
「こんにちは~。寮前にいるなんて珍しいですね。何しているんですか?」
「ちょっと、学園長からの頼まれ事だ。気にする事じゃない」
部活や買い物に行くため、寮から出てくる生徒皆に声を掛けられるので困る。
まさか生徒とデート(三人で行くのはデートなのかは置いといて。)に行くとは言えないし、
「いや、別に」だとなんか怪しい(女子寮にいても違和感皆無なのも置いといて。)
「しゅーまはーーん!ごめんなぁ、待ったぁ?」
「す、すいません!服を選ぶのに時間がかかってしまいました!」
と、玄関から二人が走ってきた。
謝りながらもいつもの笑顔の木乃香は、白のワンピースにピンクのふわふわした上着。
あわあわと謝っている刹那は、袖のないYシャツに黒のネクタイと同色のパンツ。
これだけを見れば、かわいい子に振り回される生真面目中学生だろう。
一方の持ち物がポーチで一方が真剣でなければ。
「刹那、時間かかったと言ってもいつも通りじゃないか。」
「うぅ、申し訳ありません……。」
苦笑しながら言うと、ショボーンと落ち込むサイドテール娘。
ジョークと取れないんだな、相変わらず。
「気にすることないよ。刹那の魅力を隠してしまう服よりはずっと良い。
むしろ魅力的だ、俺が保証する。」
「は……?……!?え、いえ、私などが魅力的である筈がありません!
いえ、愁磨さんが嘘つきとかそういう意味ではなくてですね?!」
顔を真っ赤にし、千手観音の如く手をバタバタする刹那。
なに、この子。思った通りの反応見せてくれるとか、すっごいかわいいんですけど。
抱きしめてもいいよねって寮の前だからまずいか。ってかわき腹がすごく痛いんですが。
「あの、何でしょうか、木乃香さん?」
「…………………………………………………。」
いつの間にか俺の斜め後ろに来て、わき腹を抓っている木乃香。
むくれているのか、頬がプクッとなっている。
原因が刹那だけ褒めたからであろうか、先に褒めたからかは定かではない。
「……フフッ、木乃香も似合ってるよ。かわいいかわいい。」
「ブフッ!もー、しゅーまはん!なにすんの?」
膨れた頬を指で突いてやると、空気が出て笑ったような音がする。
やられた木乃香は怒っているような、嬉しいような顔をしている。機嫌が治ったようでなによりだ。
「じゃ、行くか―――って、どこ行くんだ?」
「えーっとな?せっちゃんの服見て、靴見て、なんかかわええもん買うんや。」
「なるほど、刹那改造って訳か。じゃあ電車かな。」
言いながら歩いていく木乃香と俺。
刹那は少々事態を把握できていないようだったが、気付くと走ってくる。
「ちょ、このちゃん!そんなの聞いてないわ!」
「今言ったんやもーーん♪ええやん、しゅーまはんに選んでもらえば間違いないし?」
キャーキャー言いながら、今度は二人が走って行く。
見ていると、本当に、全く―――
「若いって、いいねぇ。」
・・・いかんいかん、年寄りじゃあるまいし。と言っても800歳だけどさ。
Side out
side 明日菜
「………愁磨先生ったら、こんな毎日デートしてんのかしら?」
「グググ、アーカード!イケメンはやっぱり敵ッスね!!」
十人に聞いたら十人が女って言う人でも、イケメンって言うのかしら?
カッコイイ女の人も言うのかな?刀子先生とか、ノワール先生とか、アリカ先生とか・・・
って、皆愁磨さんの仲間(って言うか奥さんよね)じゃない。そういう女の人が好きなのかしら?
「やっぱり家の中も見ないと、怪しい所はありませんね。」
「そりゃそうよねー。学園じゃ超有名人だし、事を起こせば嫌でも人目につくだろうし。
ってあんた。流石に家の中とかは無理だからね!?」
前回の事もあって、愁磨先生の家には行きたくない。体も拒否してるし。
って事は、こーやって尾行してる意味あるのかしら?無いわよね?
「桜咲さんって、あんな顔するんですね……。」
「え!?あ、ああ、そうね……。」
教室、って言うか学校での桜咲さんは凛としてて、落ち着いててかっこいいイメージしか
なかったんだけど、木乃香と愁磨先生と歩いてる彼女は、怒ってたり困ってたり照れてたり・・・
普通の中学生に見えた。・・・持ってる刀を除いてだけど。
「愁磨さんって、すごいですね……。僕なんて、桜咲さんと数回しか話した事無いのに……。」
「そ、それはホラ!愁磨先生はアンタより10歳以上長生きしてるし!
あの二人とは、子供の頃からの付き合いだって言うし!」
まぁ、私だってちょっと嫉妬してるわよ。
・・・・木乃香のあんな楽しそうな顔、久しぶりに見るし。
「……アニキ、姐さん。これ以上は無駄じゃねぇッスか?」
「そう、だね。何かあったら、その時に本当の事聞こっか。」
ネギは諦めたような、なんて言うか・・・不思議な顔をしてた。
頭ゴチャゴチャなってバカな事しそうにもないし、考えるって事も大事よね・・・?
私もちょっと考え事あるし。黙って行くような事があったら、見張るくらいでいいでしょ。
Side out
―――その夜、警備中
Side ネギ
夜。僕は警備のお仕事が休みなのに、学園を歩いていた。ある目的地に向かって。
「ほい、終わりっ!」
僕の視線の先にいる銀にも白にも見える髪をした女性――のように見える男性は、
伯爵級と数体の男爵悪魔を一撃で、軽い調子で葬る。
その姿は、形や調子こそ違えど。僕を、燃え盛る村から救ってくれた父さんと同じだった。
「愁磨さん。」
「およ、ネギ。お前今日は休みじゃなかったか?」
警備中は、愁磨さんって呼んでも(仕事中なのに)何故か怒らないし、
僕の事を"ネギ"って呼んでくれる。そこには、村にいた頃の愁磨さんが垣間見えて。
余計、僕は分からなくなる。
「ちょっと、愁磨さんに用って言うか……お願いがあるんです。」
「言うだけ言ってみろ。大抵の事はできるぞ。
そうだな。とあるよしみで、お前は割引で仕事してやるぞ?」
なんだか、僕のしたい事が分かっているような口ぶりだ。
いつもは父さんを連想させるようなことは絶対に言わないから。
「『魔法の射手・連弾 光の53矢』!!『雷の暴風』!!」
詠唱遅延していた『魔法の射手』を先に放ち、同じく遅延していた『雷の暴風』も放つ。
貫通力の高い光属性で障壁を突破、『雷の暴風』をフルに当てる為だ。
普通なら、削り切れなくても暴風で突破できる。そう、普通なら。
「来い、"ランベントライト"。『マザーズ・ロザリオ』!!」
白いレイピアが煌めき、『魔法の射手』を正確に11発撃ち抜き――
「"エリュシデータ"、"ダークリパルサー"。『スターバースト・ストリーム』!」
目に映らない速さで黒と白の直剣に持ち替え、同じく16発を切り裂き――
「『ジ・イクリプス』!!」
残りの26発も切り裂き、『雷の暴風』までも一撃で切り裂く。
「で?何のつもりかだけ聞いて殺してやる。」
「……僕は、あなたが分からないんです。
生徒と笑ってたり、買い物に行ってたり、アリアさんにデレデレしてたりするあなたは、
とても普通の、幸福な人に見えるんです。
でも、戦っている時のあなたは、父さんと同じ領域にいる人で、悪い人で………。」
皆は『悪だ』と言うけれど、あの人達は『大好き』と言う。
僕もどちらかだったら、良かったんだと思う。けれど・・・。
「僕には、答えが分からないんです。」
愁磨さんは目を瞑って、黙って聞いている。
怖いけれど、堂々としてて。後ろには、やっぱり父さんの背中が見える。
「よく、分からないんですけれど。父さんだったら、こうする気がするんです。
だから――――」
杖を構え、周りから集めていた魔力を一気に纏う。
学園長先生が教えてくれた、自分の中の魔力を使えない僕が擬似的にそれを使う方法。
悪魔と戦う―――愁磨さんと、戦う方法。
「僕と戦っていただきます!!愁磨・P・S・織原!!」
Side out
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