ハイスクールD×D ~銀白の剣士~
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第12話
Side 渚
「フリード!」
「はいな、ボス」
コカビエルの呼びかけに応えるように、フリードが歩いてくる。
「陣のエクスカリバーを使え。最後の余興だ。 四本の力を得たエクスカリバーで戦ってみろ」
「ヘイヘイ。まーったく、俺のボスは人使いが荒いなぁ。でもでも! チョー素敵仕様のエクスカリバーちゃんを使えるなんて光栄の極み、みたいな? ウヘヘ!」
気味の悪い笑みをうかべて口走るフリード。そんな中、ゼノヴィアさんが祐斗に話しかけた。
「リアス・グレモリーの『騎士』、共同戦線が生きているのなら、あのエクスカリバーの破壊を共にしようじゃないか」
「いいのかい?」
祐斗の問いかけにゼノヴィアさんは不敵に言った。
「最悪、私はあの聖剣の核さえ回収できれば問題ない。もはやあれは聖剣であって聖剣でない。聖剣とて武器だ、使う者によって場合も変わる。あれは異形の剣だ」
「くくくく・・・・・」
そんな二人を笑うものが一人。バルパーだ。
「僕は『聖剣計画』の生き残りだ。悪魔に転生したことで生きながらえてる」
冷静そうに言っているが声は震えているし、瞳には憎悪がこもっていた。
「ほう、あの計画の生き残りか。数奇なものだな、こんな極東の島国で会うことになろうとは。ふふふ」
嫌な笑い方するバルパー。そして、バルパーは自身の過去を語りだした。
「私はな、聖剣が好きだ。エクスカリバーの物語に心を躍らせたこともある。だが、だからこそ自分に聖剣が使えない時は絶望した。それゆえに、私は聖剣使いに憧れ、その思いは高まり、聖剣の使えるものを人工的に創りだす研究に没頭して、そして研究は成功した。キミたちのおかげだ」
「成功? 僕たちを失敗作だとして処分したじゃないか」
怪訝な表情の祐斗。僕らが聞いた話では祐斗は失敗作だから用済みで処分されたんじゃないのか?
「聖剣を使うのには必要な因子がいる。しかし、被験者の少年少女たちには因子はあるものの必要な数値に満たなかったのだ。ならば、『因子を抽出して集めることができないか』と考えたのだよ。私は」
「なるほど。聖剣使いが祝福の際に体内に入れられるのは・・・・・・」
ゼノヴィアは事の真相に気づいたようだ。唇をかみしめて悔しそうにしている。バルパーはさらに続けた。
「その通りだ。聖剣使いの少女よ。持っている者たちから因子を抜き取り、このように結晶化させたのだ」
懐から光り輝く球体を取り出してこちらに見せてきた。
「これにより、聖剣使いの研究は飛躍した。それなのに教会は研究資料を奪って私を異端認定した。貴殿を見るに私を異端認定したくせに研究は引き継がれているらしい。あの天使のことだ、因子を抜き出しても被験者を殺すまではしていないようだな。まあ、私よりは人道的だろう。クハハハハハハ」
愉快そうに笑うが、こちらにとっては不愉快でしかない。聖剣使いを生み出すためには犠牲が必要になる。祐斗はその犠牲になったわけか。
「同志たちを殺して、因子を抜き出したのか?」
祐斗が殺気のこもった声でバルパーに問いかける。
「そうだ。この球体はその時のものだ。三つほどフリードに使用してしまったがね。これは最後の一つだ」
「ヒャハハハハハ! 俺以外の奴は因子についていけなくて死んじまったけどな! 俺様はスペシャルだねぇ!」
「・・・・・・バルパー・ガリレイ。自分の研究のためにどれだけの命を弄ぶつもりだ」
祐斗の手が怒りで震えている。そして怒りから生み出される魔力が祐斗の体を覆った。
「ふん。それだけ言うのならば、この因子をきさまにくれてやる。環境が整えばあとで量産できる段階までは研究できている。まずはこの町を破壊しよう。そして、世界各地の聖剣をかき集めて、聖剣使いを量産し、統合されたエクスカリバーでミカエルと教会に戦争を仕掛けてやる」
バルパーとコカビエルが手を組んだ理由がそれか・・・・・・・。どちらも傍迷惑で気にいらない。
話し終えたバルパーは、聖剣の因子を祐斗に向かって放り投げた。コロコロと転がり祐斗の足もとに行きつく。
「みんな・・・・・・・」
祐斗はしゃがんでそれを拾う。その瞳からは涙が流れていた。表情には悲哀の感情と怒りの感情がうかんでいる。
そんな時だった。祐斗が拾った因子が淡い光を発して、その光で校庭を包むまで拡大していく。そして、ぽつぽつと光が人の形をとっていった。
祐斗を囲むように現れた光でできた少年少女たち。
「この場に漂う様々な力が因子に宿っていた魂を解き放ったようですね」
朱乃先輩がそう言った。ということは、あの少年少女たちは祐斗の同志と言うことだろう。
祐斗はそんな彼らを見つめ、悲しそうでもあり懐かしそうな表情になる。
「ずっと・・・・・・・ずっと、思ってたんだ。僕だけが生きていていいのかって・・・・・・・。僕よりも夢を持っていた子がいた。僕よりも生きたかった子がいた。僕だけが平和な暮らしをしていいのかって・・・・・・・」
祐斗の同志である一人が、なにかを口パクで訴える。読唇術ができないので何を言っているかわからない。でも、様々な力がこの現象を引き起こしたなら・・・・・・・・。
僕は彼らの力になるように念じながら魔力を放出した。銀色の魔力の輝きが少年少女たちの魂に届くように。
『自分たちのことはもういい。キミだけでも生きてくれ』
声変わりのしていない幼い声が、僕らの耳に届いた。僕の魔力は彼らの助けになったらしい。祐斗は僕の方を見てきた。その眼からは涙があふれている。
そして、他の子供たちも同調するように口を開く。聞こえてきたのは、詳しくない僕にはわからないが、おそらく聖歌。
「――聖歌・・・・・・・」
アーシアさんがぽつりとつぶやく。どうやらあっていたらしい。祐斗も彼らにつられるように聖歌を口ずさむ。歌う彼らは無垢な笑顔を浮かべていた。
歌う彼らの魂が輝き始める。その光は祐斗を中心に強くなっていた。
『僕らは、一人ではダメだった―――』
もう僕の魔力の手助けを必要としないだろう力強い声に、魔力の放出をやめる。
『私たちは聖剣を扱える因子が足りなかった。けど―――』
『みんなが集まれば、きっと大丈夫―――』
悪魔は聖歌を聞くとダメージを受けるはずなのに、この場にいる誰一人として苦しんでいる者はいなかった。自然に涙がこぼれていく。
『聖剣を受け入れるんだ―――』
『怖くなんてない―――』
『たとえ、神がいなくても―――』
『僕たちの心はいつだって―――』
「―――ひとつだ」
魂が天へと昇り、祐斗のもとへ降り注ぐ。その光は優しく祐斗を包み込んだ。
そして、祐斗から感じられる力が増大していく。
(ああ、そうか・・・・・・これが)
薄れた原作知識の中でも忘れられなかったワード。
神器は所有者の想いを糧に成長しながら強くなっていく。しかし、それとは別の領域が神器には存在する。所有者の想いが、願いが、この世に漂う『流れ』に逆らうほどの劇的な転じ方をした時に、神器は至る。
それを表す言葉。それが『禁手』
夜の空を切り裂いていく光は祐斗を祝福しているようだった。
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