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真・恋姫無双 矛盾の真実 最強の矛と無敵の盾

作者:遊佐
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崑崙の章
  第5話 「黄忠さん、お願いがあります」

 
前書き
これを入稿……もとい、投稿してるの、締め切り3時間前です。
今回はマジでやばかった…… 

 




  ―― other side  ――




 太陽が沈み、夜の帳が周囲を包む頃。
 白帝城から長江の流れに逆らうこと、およそ八十里(四十km)。
 そこには、長江へと流れる支流との三角州の上に建てられた邑があった。

 その場所は、長江と支流川の双方の恩恵を受ける土地の肥えた場所。
 本来ならば自然とそこに邑から街へ、そして都へと発展してもおかしくはない場所。

 だが、その邑はひっそりとそこにあった。
 発展しない理由は……唯一つ。

 この邑は、江賊――錦帆賊(きんばんぞく)、その残党の住処だったのである。

「……それで?」

 男の冷ややかな声。
 上座に座り、酒を飲むその男の声に、平伏していた男が更に身を縮こませる。

「へ、へい……こ、黄巾のやつが言うには、げ、厳顔らしき死体はなかったと……」
「……つまり、厳顔を取り逃がしたか。それともそこにいなかった……そういうことだな?」
「へ、へい!」

 必死に頭を下げる男。
 上座に座る頭目らしき男は、酒をぐいっとあおった。

「……では、やはり昨日邪魔をしてきた奴が厳顔本人だったというわけだ。ク、ククク……」
「し、沈弥(しんび)様……」

 喉の奥で低く笑う男――沈弥の笑いにゾッとした顔で周囲が声をかける。
 沈弥の周囲には四人の側近が直立不動で立っていた。

「ど、どうしましょう。厳顔を嵌める作戦はしっぱ……」
「なに?」

 ギロッと睨む沈弥。
 ヒッと怯えた男が、腰を抜かしたようにひっくり返る。

「失敗? 馬鹿を言うな……予定が変わっただけだ。奴をやり損ねたなら、再度誘き寄せれば良いだけだ」
「誘き寄せる……ですか?」
「フン……」

 沈弥の言葉に、平伏した男が恐る恐る尋ねる。
 その様子を冷ややかな目で視つつ、沈弥は杯に酒を注いだ。

「奴がまだ白帝城にいるなら、必ず太守を取り戻そうとするだろう。自分が出て助けられなかった……厚顔無恥なやつのことだ。その権限がないにも関わらず兵を貸せと言い出すか……もしくは巴郡に増援を求めるかだが、な。フッ……そうはいくか」

 沈弥は一人ごちると、杯をあおった。

「連れて来た三千の兵は、雇った黄巾どもが始末した。この上増援など、急使をすぐ出していたとしても後十日はかかるだろう……そんな間を与えず、すぐに応対しなければ太守を殺すと言えばいい」
「そ、それで……どんな要求を出すんで?」
「そうだな……おい、太守の奴を連れて来い」
「へ、へい!」

 沈弥の言葉に平伏していた男が、すぐさま部屋を出て行く。
 そう時間がかからず、酔った太守を連れて戻ってくる。

「連れてきやした……」
「なんだまったく! こっちはいい気分で酒を飲んでおったというのに……」

 太守は囚われているにも拘らず、酒に酔った顔で文句を言う。
 沈弥はその姿に侮蔑を込めた目で冷ややかに見ると、酒を一気にあおった。

「ご機嫌のようだな、太守どの。主君を裏切って賄賂で狂言誘拐……後ろめたさはないのかね?」
「フン! 私を安い俸給でこき使う劉表など、どうでもいいわい。これで身代金の一部を懐に納めたら、こっちからあんな太守など辞めてやるわ。だからこそお主等の甘言にも乗ったんじゃしのう」
「ククク……もっとも、もっとも。あんたは劉表が憎い。俺は厳顔が憎い。お互いの利害は一致したわけだ……それで、身代金を奪ったらあんたを引き渡して、罪は俺達。あんたは攫われてしまったことを理由に、暇をいただくわけだ……身代金の一部をその懐に入れてな」
「所詮、私は劉表が戻れば一文官に逆戻りよ……太守などと言われてはいるが、態のいい()り役にすぎんわ。劉表は、白帝城の金も動かす権利すら私に与えてはくれなかった……やつが戻れば、黄巾で功を上げた他のやつが正式な太守になる。私はそれが我慢ならん!」

 酒に酔った顔を更に高潮させ、太守が叫ぶ。
 その様子を冷めた目で見つつも、沈弥は口元に笑みを浮かべた。

「なるほど、なるほど。その恨み、金を奪い取ることで存分に晴らすが良いさ……ところで、白帝城が出せそうな身代金の額はわかるかい?」
「む……そうじゃのう。白帝城の蔵にあるのは、三千万弱……糧食は六千石といったところじゃろうか?」

 太守の男が、酔った頭で必死に思い出そうとする。
 兵士の給与が月千銭、太守といえども三千銭程度と考えれば、街の財源の中身としては貧乏といえるだろう。

「フン……大してねえな。黄巾討伐にかき集められて残っていねぇってことか」
「兵も警備兵が四千程度じゃからな。ほとんど吸い上げられたわい」
「となると……身代金はニ千万というところか。約束どおり、身代金の半分はあんたのもんだ」
「おお! そうかそうか! では楽しみにしておるぞ!」
「ああ……ゆっくり酒を飲んで楽しんでいてくれ」

 沈弥がそう言って、後ろの配下の男に出て行かせるように目配せをする。
 男は太守を案内して、部屋を出て行った。

「……ククク。おめでたい奴だぜ。本当に自分に分け前があると思っていやがる」
「ではやはり……?」

 配下の男が尋ねると、沈弥は酒をあおった。

「当然、奴には取引現場で死んでもらうさ……ふむ。なら取引相手は厳顔を指名するか」
「厳顔を……ですか? 少し危険では……」
「こちらの兵力は三百前後。向こうが水軍を出してきたら壊滅しかねませんが……」

 沈弥の言葉に異議を唱える周囲。
 だが、沈弥は口元に笑みを浮かべたまま周囲を見回す。

「ろくな将もいないのに水軍を出せるわけがないだろう……厳顔がいたとて、奴は劉表の配下でもない。そして奴が自軍の援軍を呼べないうちに取引を強行してしまえば……奴のことだ。自分ひとりで俺達を倒そうと単身乗り込んでくるだろう。ならばそこで……」
「厳顔を太守もろともに……そういうわけですな」
「ああ。そして俺達は長江からはおさらばよ……劉表は他の太守を巻き込んで殺したということで、名声も周辺諸侯の信頼も失うだろう。厳顔も殺せて一挙両得……いや、身代金もせしめれば一石三鳥というところか?」

 沈弥の薄い笑いに、周囲の四人は同意するように頷く。

「ククク……やっと殺せるぜ、厳顔。てめえだけは……」

 暗く濁った眼で虚空を睨みつけながら、沈弥が酒をあおる。
 夜はなお暗く、闇を深めていた。




  ―― 盾二 side 白帝城 城内 ――




「身代金は二千万銭、受け渡しは三日後の夜、場所は長江の上にて引渡し。なお、船には厳顔一人で持ってこられたし。本人以外のものが船に同乗した場合、太守の命は亡きものとする……以上が今朝届けられた相手の要求です」
「………………」

 白帝城の王座の間。
 本来ならば太守が中央に座る場である。
 だが、その太守は現在江賊に連れ去られており、無人の状態で鎮座していた。

 厳顔さん、そして黄忠さんが白帝城内のこの場所に招かれ、会合の席に着いている。
 内容は、当然の如く太守の件についてだ。
 俺は厳顔さんの部下という形で入場した。
 ここにいない華佗には、宿で璃々ちゃんを任せている。

「……お主の予想は外れたようじゃな」

 厳顔さんがこちらを睨んでくるが……まあ、そのとおりだった。
 思っていたより向こうは性急だったらしい。

「可能性は薄いと思ったんですが……まさか厳顔さん狙いだとは」

 俺は言い訳めいたことで頭を掻く。

 こうなると、ただの営利目的の誘拐じゃなさそうだ。
 取引相手を厳顔さんに絞る辺り、どう見ても厳顔さん目的なのが透けて見える。
 ただの身代金目的なら、武将としてこの周辺で良く知られる厳顔さんを名指ししてくることなんてないだろう。

 怨恨の線……かな、まず間違いなさそうだ。
 そうすると全部仕組まれていたことになるけど……ほんとにこれ、誘拐か?

「わしが身代金をもってこいと言うなら、わしが持っていこう。当然、金など渡さぬ。その場で太守を助け出し、江賊どもを討ち果たしてご覧に入れよう!」

 厳顔さんは鼻息荒くそう言う。
 うん、まあ……予想はしていたよ。

「いや、しかし……私の一存ではなんとも」

 文官が困った顔で汗を拭う。
 そうだよね……決められないよなぁ。
 責任問題だしね……まあ、この後の予想も大体つくけど。

「だが、三日後の夜では劉表殿との連絡はつくまい。わしの一存でやったと報告せい。全ての責任はわしがとる!」

 厳顔さんが自信満々にそう言う。
 思ったとおりの展開だった。
 あまりに思った通りなので溜息を吐きつつ、ちらっと黄忠さんを見る。
 黄忠さんは苦笑しながら目で謝っている。

「そ、そうはもうしましても……」
「ええい! いいから身代金を用意せんか! 見せ金とはいえ、本物でなければ太守が危険じゃろうが!」
「は、はいぃっ!」

 厳顔さんの鬼の一喝に、ばたばたと駆け出す文官。
 あーあ……この人、思った以上にめちゃくちゃだったわ。

「ふん……所詮は小役人よ!」
「そんなことを言ってはダメよ、桔梗。彼にだって立場があるんだから」
「だが情けないことには変わりない。わしならば……」
「はあ……」

 思わず大きく出る溜息。
 厳顔さんがムッとした顔で、こちらを見てくる。

「何じゃ小僧、何か言いたいことでもあるのか?」
「言いたいこと……言いたいことですか?」

 俺は呆れ顔で厳顔さんを見て、黄忠さんにも目線を合わせる。
 黄忠さんは、苦笑しながら頷いている。

 言っていいのね? 言っちゃうよ?

「では言いますけど……身代金もって一人で取引場所に向かう。策はありますか?」
「策じゃと? 江賊なんぞ蹴散らせばよかろう」

 おいおい……脳筋にもほどがあるだろ。

「それでまた全身傷だらけになるんですか……? 今度は死ぬかもしれませんよ?」
「ぐっ……あ、あれは油断していたからじゃ! 今度は油断などせん!」
「相手はどれだけいるかわからない江賊ですよ? たとえば三千の江賊に周囲を囲まれたらどうするんです?」
「そ、そんな人数が乗る船などありはせん! せいぜい一隻百ぐらいとして、十隻で千人……」
「で、一人で倒すと?」
「………………」

 おい、黙るなよ。
 ちょっと考えなしが過ぎるから、こっちは少々いらついてるんだから。

「し、紫苑。何か策はあるかのう?」
「桔梗……貴方、最近猪突猛進が過ぎるわよ? 仮にも太守なのだから、もう少し命は大事にしてちょうだい」
「……すまぬ」

 黄忠さんにまで窘められて、意気消沈した様子で座る厳顔さん。
 やれやれ……

「少し整理しましょうか……まずは、江賊はここの太守を人質にとり、二千万もの大金を要求している。その運び手として、本来関わりのない厳顔さんが何故か指名されている。おまけに取引の時間は三日後の夜と時間もない……ここまではいいですか?」
「……うむ」
「わからないのは、なぜ厳顔さんがその運び役に選ばれているのか。江賊は厳顔さんが劉表……様の臣ではないことも知っているはず。巴郡の太守ですしね。それなのに運び役に指名した……」
「確かに……おかしいですわね」
「おかしいというか……ぶっちゃけてしまえば、罠です」
「罠……わしを殺す為、ということか」

 厳顔さんが今頃そんなことを言う。
 ……マジで気付いてなかったんかい。

「となると恨みによる犯行、とわかるのですが……何故、巴郡に直接攻撃せず、白帝城でこんな騒ぎを起こしたのか、という疑問がでてきます」
「うむ……」
「考えられるのは、白帝城の太守に厳顔さん以上の恨みがあった。しかし、これだと厳顔さんを運び役に選ぶのはおかしいし、そもそも身代金なんて言わずに殺しているでしょう。なら、太守はどうして攫われたのか?」
「身代金目的じゃろう?」
「……俺は、身代金自体が目的じゃないような気がします」
「目的じゃない……? ええと、わたくしもわからないのですが、身代金が目的じゃないなら……なぜ太守を?」
「俺が犯人なら……身代金は手段じゃないかと。その手段を使う目的は二つ……一つは、身代金を取られることによる劉表様の名声を貶めること。もう一つが……厳顔さんの殺害」

 俺の言葉に、黄忠さんが悩ましげな表情をする。
 うーん……これだけじゃないような気もするんだけどな。

「俺が昨日、市場に行った時に聞いた厳顔さんの部下三千人が黄巾に襲われたこと……あれは江賊に雇われたんじゃないかと思うんです」
「なんじゃと!?」
「タイミング……時期が合いすぎなんですよ。撤退し始めて一番警戒が薄いときに襲われている。そしてその夜に太守も攫われた。一連のことが連動していたとしたら、第一目的が厳顔さんの命。第二目的が身代金を利用した劉表様の醜聞じゃないか……そう思えてしまうんです」
「江賊が、桔梗と劉表様の両方に復讐しようとしている、と?」
「ええ。そう考えると……もしかしたらこの誘拐、それ自体がブラフなのかも……」
「ぶらふ?」

 本当にこれは誘拐なのか……?
 俺がそう思ったとき、文官が冷や汗をたらしながら玉座の間へ入室してきた。

「い、今急いで身代金を集めるように指示しております。ただ、量が量ですし……今日中には」
「すいません。それはいいので、ちょっと質問しても宜しいでしょうか?」

 俺が文官の言葉を遮るように手を挙げる。

「は? はあ……貴方は厳顔様の部下の方でしたか?」

 あ、そういえばそういう名目でここにきたんだった。

「すまんの……言い忘れておったが、こやつは天の御遣いじゃ。故あって同行しておる」
「て、天の御遣い!? あの龍神という噂の!?」
「噂を真に受けないでください!」

 ……頭痛いわ。

「ちょっとした縁で同行しているんです。それで質問なんですが……」
「は、はい! なんでもお聞きください!」

 あからさまに態度が変わったな。
 天の御遣いのネームバリュー、すげー。

「そもそもなんで太守は夜になるかどうかという時間に、川沿い付近にいたんです? 仕事か何かですか?」
「い、いえ……なんでも用事があるからと言って、太守様がお出かけになられたのです。本来なら護衛をつけるのですが、何故かいらないとおっしゃって……」
「なるほど……厳顔さん、太守が攫われるときに、周囲に警護の兵やお供はいましたか?」
「……そういえば、太守一人じゃったな。供がいない……じゃと?」

 厳顔は今気付いたように訝しげに眉を寄せる。
 ふむ……

「ちなみにこちらの太守は、どんな方ですか? 性格とか、仕事振りとか」
「そうですね……性格はあんまり褒められたものじゃありませんが、仕事はそれなりにできる方でした。ただ……少々自分の力を過大評価している節がありまして。俸給が安いことに何度か愚痴を聞かされたことがあります」
「わしは先日会っただけじゃが……度胸のない親父じゃったな。わしが詰め寄ったときは、腰を抜かしそうな勢いじゃった」

 ふーん……

「ちなみに江賊に上納金を払うことで、襲撃をしないように交渉されていたと聞きましたが……それはどういった経緯(いきさつ)でそういう話に?」
「ええと……太守様の元に江賊からの要求の竹簡が届けられたとのことで、劉表様が帰るまではそれで問題を先送りにしようということになりまして」
「ですが、すでに厳顔さんに援軍を頼んでいたのですよね? なのに何故そんな話に?」
「その……太守様が兵の損失は避けるべきだ、と厳顔様がお付きになる前日に言いはじめまして」
「なんじゃと!?」

 厳顔さんが立ち上がろうとするが、隣の黄忠さんがどうどう、と座らせる。

「警備兵も黄巾討伐で引き抜かれておりましたので、今は四千程度の兵しかおりません。これで江賊退治している間に黄巾が攻めて来たらどうするか、と仰られるので……」
「厳顔さんに援軍を求める時は、どういう話で?」
「はあ……黄巾の敗残部隊がこの周辺に集まりつつあると、ある日太守様が仰られて……江賊の問題もあり、最初は専守防衛にしようという話だったのですが、ならば劉表様から万が一の場合は厳顔様を頼れとのお言葉もあったので、残った警備兵で江賊を討伐しつつ、白帝城は厳顔様にお守りしてもらおうと……」
「その意見はどなたが?」
「……よく覚えていませんが、確か厳顔様のお名前を出したのは太守様だったと思います」

 うん、わかった。
 限りなく黒に近いね。

「それで厳顔さんは、水軍でなく歩兵を率いてここに来た……そういうことですね?」
「うむ……援軍の書状にも、白帝城の防衛をお願いしたい、そう書かれておった」
「……結構、大掛かりな計画だな、これ。賊如きがこんな策を考えたのか」

 俺が椅子にもたれつつ呟く。

「それで、厳顔さんが到着したら余計な火種は困るから帰れと伝えた、そういうことですか?」
「は、はい……」
「そりゃ怒って帰るわな……実際、黄忠さんがここにいなければ、帰るその日は怒りで酒を浴びるように飲んで油断しまくりだったでしょうし」
「ぐ……まあ、そうじゃろうな。わし自身、そう思うわい」
「そこに黄巾が襲撃……厳顔さんと言えど、殺されていた可能性は高い。そして同日に誘拐された太守……厳顔さんが殺されたときは誘拐されていてどうしようもなかった、そう劉表様には言い訳できる、か……」
「お主……何を考えておる?」

 厳顔さんが訝しげな顔で俺を見る。
 黄忠さんと文官は、俺と同じ事を考えているようで、顔面が蒼白だ。

「その上で身代金……か。黄忠さんは、劉表様の元臣ですよね? 劉表様はどういう方ですか?」
「……身の丈八尺余り、威厳のある風貌ですが、お優しくて寛大な方です。内政を尊び、部下にも慕われていて、兵の命も大事になさいます。少々猜疑心が強いところがありますが……」
「となると……厳顔さんを殺した原因となる太守は、よくて放逐。悪ければ死罪もある、か?」
「……この場合でしたら、先に身を処することをどうするか本人に聞くと思います。死を選ぼうとするなら恐らく恩給を与えて放逐するかと……」
「それを見越していたとしたら……かなあ。うん、辻褄はあう、かな?」
「……ではやはり?」

 黄忠さんの言葉に、俺は頷く。
 厳顔さんもようやく思い至ったようだ。
 文官は蒼白な顔で、がくがくと足が震えている。

「さて……そうなると、こっちがとるべき道は二つ……いや、一つですね」
「どうなさるので?」
「ん……文官さん、書状を二つ……いや、三つ書いて欲しいのですが」
「は、はっ……ど、どのようなものでしょう、か?」

 文官が、ようやく絞り出すような声で尋ねる。
 俺はちょいちょい、と文官を呼んで耳打ちする。

「可能ですか?」
「……最初の二つは大丈夫でしょう。ですが……」

 文官はちらっと黄忠さんを見る。
 黄忠さんは、俺と文官の視線に少し驚いた。

「え? え……っと?」
「黄忠さん、お願いがあります」
「は、はい」

 俺の笑顔に、ちょっと訝しげに身体を引く黄忠さん。
 まるで詐欺にあったような顔だ。

「白帝城の太守に返り咲きませんか?」
 
 

 
後書き
仕事を優先していますので、どうしてもしょうがないときは、こっちの更新が抜けるかもしれません。
自分で決めておいてなんですが……その場合はごめんなさい。 
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