真・恋姫無双 矛盾の真実 最強の矛と無敵の盾
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崑崙の章
第4話 「治るって……医師いらねぇじゃん、これ」
前書き
3話書いた後で、ゲームの漢モードやりまして。
華佗の描写に唖然。そこまでめちゃくちゃだったのか……
―― 盾二 side 白帝城 効外 ――
俺は市場で原料を探しつつ、情報を集めていた。
市場は、物流と情報の両方を扱う場所だ。
それによると、すでに太守誘拐の話は市場全体に広まっている。
おまけに桟橋が壊れ、川縁に江賊らしき死体があったとのこと。
やはり厳顔さんは、ここで暴れまわったらしい。
それとおかしな噂も聞いた。
西の谷間にある場所で、大量の死体が見つかったという。
朝方馬車で通りがかった商人が、その惨状にどこかの正規軍が黄巾の残党にやられたのではないかという噂だった。
(江賊だけでなく黄巾の残党も動いているのか……)
思った以上にこの街は、緊張状態のようだ。
だが、今はまず麻酔だ。
市場の中を探し回ったが、結局麻酔の原料は見つからなかった。
仕方なく、周囲の農家でそれを扱っていないか尋ねたところ、近くの農家で花を専門に扱う農家があるとのこと。
俺は急いで馬を取りに宿に戻り、その足で教えられた農家へと足を運んだ。
(ここでないとほぼ絶望的だな……あとは何とか我慢してもらうしかなくなるが、体力の損耗が気になる)
厳顔さんの出血が少なかった理由は、ほぼわかっている。
彼女の気だ。
恐らくこの世界の女性は、気で痛みや自己の出血すらも抑えることが出来るらしい。
人外万博みたいな世界だとは思ったが……とはいえ、気とて万能じゃない。
流れ出る出血の量が少ないとはいえ、かなりの量が体外に出たのは自明の理。
ぶっちゃけてしまえば、普通の人間なら既に失血死していただろう。
だからこそ、痛みで更なる体力低下を抑えるためにも……麻酔は必要だ。
彼女の体力がこれ以上下がれば、気で覆っていた出血も痛みも増すかもしれない。
(後は自身で山に入り、探してくるしか手はないが……)
群生場所がわからない限り、当たり目のない博打だ。
それよりは甘酒の点滴効果と、甘いものを取ることによる痛みの拡散に掛ける方がいい。
そう考えながら農家にたどり着く。
畑には数多くの花が咲いている。
できれば類する科の花があればいいが……
「ごめん! ここの主人はご在宅ですか!?」
俺が声を張り上げると……
「すまない、今この家の主人は……」
そういって出てきた男に驚愕する。
それは相手も同じだった。
「「な、なんでここにいるんだ!?」」
その男――華佗と俺の言葉がハモった。
―― 黄忠 side 白帝城 城下 ――
北郷さんが馬で飛び出してから一刻。
戻ってきたと思ったら、別の男の方と一緒でした。
赤い髪の青年の方で、北郷さんより少し上ぐらいかしら?
「喜んでください、黄忠さん、厳顔さん。名医が見つかりました」
そう言って紹介された赤い髪の青年。
彼は入ってくるなり、桔梗の全身をくまなく調べ始めました。
「……驚いた。本当に縫合手術をお前がやったのか? 多少拙いが……まったく問題ない。素人が出来ることじゃないぞ」
「拙くて悪かったな……本職にかなうわけがないだろ。それよりも痛みが酷そうだ、早く頼む」
「ああ、そうだったな。患者はすまないが……服を脱いでくれ」
赤い髪の青年が、そう言いつつ針の束の入った布を並べる。
わたくしは若干躊躇しながら、北郷さんを見る。
「えっと……」
「大丈夫。彼の名前は華佗。私が知る限り最上の仁の医師です。彼は針治療でとりあえずの痛みの緩和と、血行の改善、血流の増進などを行うとのことです」
「……よくわかりませんが、北郷さんがおっしゃるのでしたら」
そう言って、わたくしが桔梗の服を脱がしていく。
桔梗は文句を言いたそうだったが、痛みで蒼白になっており、言う気力がないようでした。
「よし……ではいくぞ! 我が身、我が鍼と一つなり! 一鍼同体、全力全快! 必察必治癒、病魔覆滅! げ・ん・き・に・なれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
ものすごい気迫。
殺気ではなく、闘気とも違う、気の圧力。
それが彼の指の先にある針に注がれていき……
「でりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
トトトトト、と本人の気合とはうって変わった軽快な音。
「ふう……どうだ?」
青年――華佗さんが、桔梗に声をかける。
と――
「……お? な、なんじゃ? 痛みがまったくなくなったような……」
そう言って桔梗が起き上がる。
え!? 起き上がった?
先程まで息も絶え絶えだったのに!
「小さい傷はこれで治るはずだ。背中の大きな傷まではそうもいかないだろうが……これを今晩もやればほぼ全快になるだろう」
「治るって……医師いらねぇじゃん、これ」
華佗さんの言葉に、北郷さんが冷や汗をたらしている。
……つまり、助かったのですか?
「き、桔梗? 本当に大丈夫なの?」
「あ、ああ……先程までの痛みが嘘のように消えとる。多少背中が吊る感じはするが……」
「俺でなければその痛みは、後一月は続いただろう。もっとも、北郷が麻沸散を作ろうとしていたから、痛みは抑えられたかもしれんが」
「まあ、麻酔を作ろうとしていたのは確かだけど……とりあえずどころじゃないな。ラムディ爺さんの心霊手術以上かよ……思っていた以上にでたらめだな、この世界」
北郷さんは、呆れたような安心したような、そんな表情で桔梗を見ている。
その口ぶりからすると……大丈夫のようだわ。
「よかった……桔梗」
「う、うむ。助かった……そっちの小僧も痛みで憎々しかったが、一応礼は言っといてやる」
「へいへい……」
桔梗がジト目で北郷さんを見る。
すると針を片付けていた華佗さんが、振り返った。
「勘違いをしないでくれ。北郷の処置は完全だった。五斗米道だからこその瞬時回復術だ。血が減ることでの失血死を防ぐ縫合術。体力の回復と痛みの緩和での甘酒の処置。食事においても血液の増進も考えられていた。普通の医師なら貴方は死んでいるぞ」
「なに……まことか?」
「ああ。俺だって彼が連れてきてくれなければここにはいなかった。彼がやった応急処置は、おそらくそこらの医師じゃ出来ない高度なものだ。十中八九、俺が来る前に死んでいただろう」
桔梗の言葉に、華佗が真剣な表情で頷く。
北郷さんはバツが悪そうに頬を掻いた。
その様子に……わたくしが、北郷さんの前で膝をつく。
「黄忠さん!?」
「北郷さん……先日は大変失礼しました。改めて御礼を申し上げます。我が友、桔梗の命を救っていただき、ありがとうございました……」
「い、いえ! 俺がやったことはあくまで通常の治療ですし……華佗が最初からいれば、俺なんかがでしゃばることはなかったことです」
「ですが、彼はいなかった。その間の治療、そして彼を連れて来てくれた事。感謝の念に堪えません。このお礼は必ず……」
わたくしは、彼に平伏する。
我が最大の友人である桔梗の命を救ってくれた。
この人は……生涯を以って報いる必要がある。
「いや、その……あ。じゃ、じゃあ先日の失礼を帳消しにするということで、相殺しましょうよ」
「は?」
思わず顔をあげる。
あまりの軽い報酬に、不覚にも声を上げてしまった。
「失礼って、お前なにをしたんだ?」
「い、いやあ。ちょっと出過ぎたことをしてナンパ野郎みたいにな」
「ナンパ?」
華佗さんの問いに、北郷さんがしどろもどろで答える。
人の命を救った代償を、そんなことで帳消しにするという。
……ぷっ
「ぷっ……くすくすくす……」
「おや?」
「フフッ……クク……ふふっ……あはっ……くふふふ……」
思わず笑ってしまった。
わたくしには珍しく、声にだして。
こんなに笑ったのは……いつ以来だろう。
あの人が亡くなってから……こんなに心から笑えたことがあっただろうか?
「……貴方様は、素晴らしい方ですわね」
「いや……普通、だよ、ね?」
「俺に聞くな」
北郷さんが戸惑いつつ、華佗さんに振る。
くすくす……テレている姿が、かわいい。
「ありがとうございます。でもいつか……このお礼は、させていただきますわ」
「えっと……じゃあ、その時を楽しみにしておきます」
北郷さんは、そう言って手を差し出します。
わたくしは、その手を取って立ち上がりました。
(まるであの人と初めて会ったときみたい)
姿も状況も違うのに、そんな風に感じた。
「まあ、本当に華佗に会えたのは僥倖でした。まさかあの農家が、五斗米道の者だとは……」
「違う! ゴットヴェェィドー、だ!」
「あ、ああ。ゴットヴェェェィドーね。まあ、どの道助かったよ。ありがとう、華佗」
「礼には及ばん。お前の兄貴はまだ目覚めないのだからな」
「だからそれはもういいんだって。話は聞いているから」
……お兄さんが目覚めない?
北郷さんも大変な事情を背負ってらっしゃるのかしら?
「まあ、ともあれ痛みがなくなったことは、わしにとって命拾いじゃわい。これで甘酒でなく酒が飲めるというもの」
「あ、しばらく酒はダメだぞ。俺の治療を受けたとはいえ、まだ完治してないのだからな」
「なにぃ!?」
桔梗……あなたってば、本当にお酒のことしか考えていないの?
「……それだけ元気ならば、感染症の心配もなさそうだ。華佗にかかれば死人も生き返るんじゃないか?」
「死んだ直後で五体満足なら可能だぞ?」
「マジかよ!?」
し、死人すら……ですか?
お、思っていた以上にすごい方だったのですね、華佗さん。
「死者蘇生って、どんだけメタな世界なんだ。一刀……お前は一体どういう世界創造を」
北郷さんが頭を抱えています。
よくわかりませんけど、なにかショックを受けているようです。
「ま、まあいい。とにかく助かった……そういえば厳顔さん」
「何じゃ?」
「確か太守がどうとか言ってませ……」
「そうじゃ!! 太守が攫われたのじゃった!」
あ……そういえば、最初ここに来たときに深刻そうな内容でしたけど。
桔梗の怪我のことですっかり忘れていましたわ。
「ばか者! あれから一日経ってしまったではないか! お前が儂を治療なんぞするからじゃ!」
「ひでえ!? そ、そりゃないでしょう!?」
桔梗が北郷さんの胸倉を掴んで騒いでいます。
……確かに理不尽な話ですわね。
思わず苦笑してしまいますけど。
「なんだか大変な話だな……とりあえずどういうことか話してみてくれるか?」
華佗さんが落ち着いた様子で椅子に座りました。
その様子に、桔梗も北郷さんを放して咳払いを一つ。
「そうじゃ……あれは昨日の夕方じゃった。儂は――」
彼女の話によると、巴郡へ引き上げる直前に私との約束を知らされた桔梗。
その約束のためにこの宿に向かう途中、江賊の集団に連れ去れる太守の姿を偶然目撃したとのこと。
部下はすでに陣払いをさせており、一人で江賊を追ったのだが、桟橋付近で待機していた江賊に邪魔され奪還できなかったこと。
その江賊を蹴散らしているときに、桟橋が壊れ、岸辺に上がる際に背中を斬りつけられたこと。
その岸辺で生き残った江賊と揉み合いながら戦闘し、傷を負いながらも何とか全滅させたこと。
だが、その頃には江賊の舟が既に消えてしまっていたこと。
「……というわけでな。黄忠に手助けを求めようとこの宿に来て……あとはごらんの通りの有様じゃった」
桔梗が話し終えると、部屋はシン……と静かになる。
どうやらずいぶん大変な状況のようです。
そう思ったのですが。
「んー……まあ、大体わかりましたけど。ならまだ大丈夫でしょうね」
北郷さんの一言に、桔梗が激昂する。
「なんじゃと!? 太守が攫われたのだぞ! 落ち着いておる場合か!」
「い、いえ……落ち着くべきでしょう? 攫ったということは、相手は何かの交渉をするためでしょうから、命に別状はないでしょうし。最悪、殺されるとしても取引に応じるとこちらが応答してからでしょうし」
「貴様!」
「桔梗! ちょっと落ち着いて!」
今にも飛び掛らんとする桔梗を、わたくしが抑える。
だが……桔梗を抑えながらも、北郷さんに振り向いた。
「確かにそうかもしれませんけど……ならば急いで城へ伝えたほうがいいのではないですか?」
「まあ、そうでしょうけどね。ただ、ここの太守が攫われたのです。部下の方でしたら太守の上……刺史か州牧あたりにまずお伺いを立てるのでは?」
北郷さんの言葉に、あっと声を漏らす。
そうでした……ここは劉表様の領地。
ここの太守は、一時的に劉表様から任されているに過ぎないのです。
と、いうことは……
「確かここ荊州の刺史、いや州牧は劉表様でしたよね? でもその後本人は、まだ黄巾討伐から戻っていないはず……ならば戻られるまで待ってもらいたい、そう部下ならば江賊に言うでしょうね」
「……そうですわね」
「劉表殿が黄巾の本拠地討伐の諸侯連合軍で出ておられるのでしたら……恐らくはまだ洛陽か、こちらに向かっている最中。当然、太守を攫うぐらいの江賊なら、今劉表様が領地にいないことも把握しての犯行でしょう。ならば身代金なり、要求があるとしても、それを決める劉表様が戻られるまでは、太守の命は保障する……と思いますけど」
……どうして、どうして今の状況をそこまで事細かく知っているのかしら?
しかも、つい先日公布されたばかりの州牧の事まで。
まさか……
「お主……まさか江賊の手の者か!?」
「桔梗、待って」
桔梗の目に剣呑な光が宿る。
思わず桔梗を押しとどめたけど……そのわたくしでも不審に感じる。
あまりに……あまりに状況を知りすぎている。
「……北郷さん。貴方はただの旅人ではありませんね?」
「え? あ、えーと……」
北郷さんは困った顔をしている。
まさか、本当に……?
そう思ったとき、華佗さんが不思議な顔をした。
「何だ、北郷。お前、この人たちに自分が天の御遣いだと言ってないのか?」
「あ、バカ」
「「は?」」
天の……御遣い?
もしかして……あの噂の?
―― 盾二 side ――
「お、お主! お主が『あの』天の御遣いじゃと!? あの、今度梁州という新しい州を立ち上げ、そこの刺史になった劉備の夫という!?」
「夫!? 何だその噂! 俺は桃香と結婚した覚えはないぞ!?」
俺は思わず反論する。
というか、俺が桃香の夫だって!?
どういう噂でそうなった!
「あの……本当に天の御遣いなのですか?」
「あー……まあ、一応そう呼ばれていますが。ちなみにどんな噂になっているのです?」
「ええと……黄巾討伐で幽州義勇軍を率いた劉備軍の夫で、陰の立役者。被害をまったく出さずに黄巾を平定し、向かうところ敵なし。たった一人で二万人を殺し、砦を崩壊させ、宛を救った大英雄。しかし、その功績は全て劉備のものとして、自分は姿を消したと……」
………………
な、なんか全般的に誇張が過ぎるんだが、微妙にそうとも見られるような事実と混ざっていて、すっげぇ気まずい。
「わしは、間違った教えの黄巾を調伏した後、妻である劉備に全てを託して天に帰った、炎と風を操る龍神じゃと聞いたぞ」
「どういう噂だ、そりゃ……」
尾ひれ付きまくりじゃねぇか!
「お前、あの劉備って子と結婚したのか? 知らなかったな」
「してねぇ! というかややこしくなるから、ちと黙っていてくれ!」
俺は余計な事を言う華佗に怒鳴りつつ、頭を抱える。
誰だ、こんな噂流したのは……
「はあ……本当の事を言います。俺は確かに義勇軍で劉備の軍師をしていました。ですが、俺一人で二万も倒すような荒唐無稽なことはしていません。宛を救ったのは董卓軍の張遼と、袁術軍客将の孫策です。義勇軍はその配下だっただけです」
「では、本当に天の御遣いなのだな?」
「……まあ、はい。そういうことです」
最初に義勇軍で俺の名前で兵募ったしなぁ……
もう一生ついて回るんだろうな、これ。
しかし……俺、梁州に帰って大丈夫かな?
官軍に攻められないといいけど……
「で、では、状況を細かに知っているのは……?」
「旅に出る前に、南の状況については一通り頭に入れましたから。あとは話を聞いた上での推察ですが」
「たったあれだけのことで、そこまで理解したと……?」
厳顔さんと黄忠さんが、信じられないような目で俺を見てくる。
いや、だってさあ。
誘拐なんて営利目的がほとんどだろ?
殺害するならさっさと殺すだろうし、上司への怨恨なら縁のない太守より、家族狙うだろ、普通。
それで営利誘拐なら何らかの要求があるのだし、殺したら目的達成できないじゃん。
連絡手段に電話なんてもんがあるわけじゃないし、連絡手段も時間かけるものならたった一日でどうこうなるわけでもないだろ。
つまり、一日ぐらいなんでもない、というだけの感想だったのだが。
「で、話は戻しますけど……一日程度ならまったく問題ないでしょう。早ければもう城に要求は来ているかも知れませんけど……太守が攫われたのなら一文官では判断できないでしょうし、まあ伝令出している頃ですかね?」
「……となると、洛陽……あるいは、都である江陵に急使を出している頃かもしれんな」
「要求が来ていれば、ですけどね。厳顔さんが取り戻そうとしたことは、相手にとってもイレギュラー……不測の事態でしょうし、改めて要求を伝えてくるかもしれません」
「むう……」
まあ、洛陽に直接ってのはなさそうだけどな。
面子を気にする中国じゃ、いくらトップが今そこにいるとはいえ、洛陽という国の中心に地方の不祥事を注進にいくバカはいないだろう。
まずは都である江陵に伝達、その上で判断を仰ごうとするだろうな。
「厳顔さんは、ここの太守とはお知り合いで?」
「……わしはここの西にある巴郡の太守じゃ。以前、荊州刺史である劉表殿に江賊のことで恩があっての。黄巾討伐で遠征中に、近辺で不穏なことあらば援軍に来ると約定しておったのだ」
「なるほど……それで軍を率いておられたのですね。つまり、以前から厳顔さんと江賊との間での怨恨の線もあるか……」
可能性は薄いけどな。
「わしが……狙われたのだと?」
「いえ、あくまで可能性です。もし、それが関わってくるとしたら……要求の方にでしょうけど」
「要求に?」
「ええ……もしかしたら厳顔さんの首を差し出せといってくるかもしれません」
「なっ!?」
厳顔さんが驚いている。
でも、ありえない話じゃないんだよな。
太守の誘拐は、ここと江賊の問題だろうけど、江賊にとって厳顔さんも不倶戴天の敵。
その上、太守誘拐で誘拐犯の何人かが、厳顔さんに殺されている。
ならば……身代金はもとより、厳顔さんの首、あるいは介入させないことを条件にしてくるかもしれない。
「当然、厳顔さんは劉表の……劉表様に仕えているわけじゃない。命まで対価にさせても応じられないでしょう。だから、介入させないことを条件にしてくる可能性はありますね」
「もしや、儂が追い返されようとしたのも、既にその要求が来ていたから……?」
「かもしれませんね……ああ、そうか。江賊は、厳顔さんたちの陣が陣払いする様子を見て誘拐を決行した。しかし、厳顔さんは黄忠さんとの約束の為、ここに残った。そして誘拐の現場を見られた……」
「……桔梗が怪我をしたのは、わたくしのせいでしたのね」
黄忠さんが落ち込むように顔を伏せる。
おっと、いかん。
「紫苑、それは……」
「黄忠さん、それは違います。貴方がいたから厳顔さんが助かったのかもしれません」
「「え?」」
二人が顔を上げる。
確証はないんだが、市場での話が脳裏に蘇る。
とすれば……
「厳顔さん……あなたの兵はおそらく、すでに全滅しています」
後書き
華佗さん、リアルでいないかな……いや、いたら国で保護されそうだけど。
解剖されなきゃいいけどねw
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