オテロ
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第一幕その五
第一幕その五
「彼は毎晩この有様なのです」
「何っ、毎日だと」
「そうなのです」
申し訳なさそうに述べる。
「これがまた。言いにくいのですが」
「総督はそれを御存知なのだろうか」
実はモンターノはオテロの部下だったことがある。互いに知った仲なのだ。
「では巡回に」
「これはいい」
千鳥足のカッシオを見てロデリーゴが笑っている。
「面白いことだ」
「?今笑ったのは誰だ」
カッシオはロデリーゴの笑みに気付いて彼に顔を向けて問うた。
「決まっている。私だ」
「どういうつもりだ」
「どういうつもりもこういうつもりもあるか」
あえてカッシオを挑発するように言ってみせた。
「酔っ払いを笑っている。それだけだ」
「何っ、貴様」
酒癖の悪さが出た。かっとなって彼に挑みかかる。
「やるつもりか」
「何っ、この酔っ払い」
ロデリーゴもそれに乗ろうとする。だがその二人の間にモンターノが入って止めるのだった。
「馬鹿なことは止めろ。特にカッシオ」
カッシオに顔を向けて言う。
「頭を冷やせ。いいな」
「頭を冷やせだと?」
だがその言葉は逆効果だった。かえってカッシオを怒らせてしまった。彼は今度は止めに入ったモンターノに対してつっかかるのだった。
「邪魔立てするのか!?それなら」
「酔いどれの言い草だ」
モンターノはそれを冷静に述べただけだった。
「とにかく水でも飲んでだ」
「誰が酔いどれだ!」
今度は剣を抜いてきた。
「これ以上言えば貴様も」
「何処まで馬鹿なんだ」
モンターノは剣を抜いたカッシオに呆れながらも止むを得なく対する。彼もまた剣を抜いたのだ。そしてカッシオの剣を受けはじめた。
「おい、大変だ!」
「刃傷沙汰だぞ!」
「さて、これでまた次の段階になりました」
イヤーゴは騒動が本格化したのを見届けてからまたロデリーゴに顔を向けた。
「港に行かれて暴動だ、と繰り返し叫ばれるといいでしょう」
「それだけでいいのか」
「そう、それだけです」
それだけだと告げる。
「それで充分なのですよ」
「ううむ。それだけでか」
「混乱と恐怖がこれで起こります」
イヤーゴの弁ではこうであった。
「そういうことです」
「わかった。それでは」
ロデリーゴは彼の言葉に頷いてこの場を後にする。イヤーゴはまた顔を変えて喧嘩を止めに入った。
「御二人共、もうその位にして」
「何て騒ぎ!」
「剣よ!」
女達も騒ぎだした。
「逃げましょう!」
「巻き込まれたら大変よ!」
「おい、血が!」
「前の総督が!」
モンターノは腕に怪我をした。それを見て男達も血相を変える。
「御二人共止めて下さい!」
「落ち着かれて下さい」
イヤーゴもその中で演技を続ける。
「これ以上の騒ぎは」
「警鐘が鳴ったぞ!」
「衛兵達が来ている!」
「よし」
イヤーゴは警鐘が鳴った方に顔を向けて呟いた。
「これでまた話が動くぞ」
衛兵達がドヤドヤとやって来る。そしてその先頭にはオテロがいた。
「一体何の騒ぎだ!サラセン人が来たのかそれともトルコ人にでもなってしまったのか」
この騒ぎに怒っての言葉だった。
「イヤーゴ」
「はい」
オテロの前では実直な軍人になってみせる。
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