オテロ
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第一幕その四
第一幕その四
「さあ、どうぞ」
「有り難う」
まずはロデリーゴに一杯にこやかに勧める。それと共に自分も持っている。それだけではなくカッシオのところにも杯を置いてそっと勧めるのだった。
「貴方も」
「あっ、有り難う」
「さあ、喉を潤して一気にあおって飲み干して」
飲むように煽る。
「美酒は楽しむもの」
「それじゃあ。この葡萄の賜物を」
結局カッシオもそれに乗った。やはり酒には勝てなかった。
「美しい霧に心は曇る」
「バッカスの誘惑にかかった者は図々しくなり狂気じみる」
またイヤーゴを煽るようにしてきた。今度は歌だった。
「私と一緒に飲みましょう。いざ」
「誘惑にかかった者は共に飲もう」
「そして楽しもう」
「だからこそ」
客も乗ってきた。ここでイヤーゴはさらに煽る。
「皆で飲もう。君と一緒に」
「君と一緒に」
「よしっ」
カッシオはそれに応えて一杯飲んだ。あっという間に酒を飲み干す。それを見届けてからイヤーゴはまたしてもロデリーゴの耳元に囁くのだった。
「あともう一口です」
「もう一口か」
「そうです。さて」
また煽りに入るのだった。歌を再開する。
「私が酔った時には世界が鼓動を打つ。皮肉な神と共に進むのだ」
「おっ、面白い歌だな」
「そうだな」
彼等はそれを聞いてイヤーゴに注目した。
「皮肉な神か」
「バッカスは確かに」
だがそれをバッカスと思うだけだった。その間にまたカッシオの杯にワインが入れられ彼はそれに口をつける。それからまた述べるのだった。
「美しいリュートの調べの様に心が揺らめき喜びが行く手に躍る」
「さあさあ、だからまた一杯」
「また一杯」
止めの様にまた一杯勧めるのだった。
「どうぞ」
「済まないな」
こうして遂に出来上がった。イヤーゴは彼の顔を見てそれを確認してからまた述べたのだった。
「これでよし」
「いいんだな」
「あとは喧嘩をさせるだけです」
カッシオを喧嘩させるというのだ。
「そうすれば後はこちらのもの」
「たかだか喧嘩でか」
「何ごともまずは些細なことからはじまるのですぞ」
いぶかしむロデリーゴに対しての言葉だった。
「ですから何の問題もないのです」
「そうか」
「ああ、目が回る」
カッシオは酔い潰れる寸前の顔で呻いていた。
「周りが赤いな。火事でもないのに」
「飲め飲め」
周りが囃し立てる。イヤーゴに乗せられたままで。
「どんどん飲んで」
「おい、カッシオ君」
「はい」
「むっ、いいタイミングだ」
イヤーゴはモンターノの声を聞いて満足そうに笑った。
「これは尚よしだな」
「衛兵が君を待っているんだが」
「わかりました」
それに応えて立ち上がる。しかしその足はもう完全に千鳥足だった。
「おっとと・・・・・・」
「むっ、これは」
モンターノがやって来た。それで丁度千鳥足のカッシオを見たのであった。
「酔っているのか」
「実はですね」
イヤーゴは彼の前に進み出た。今度は片膝を垂れて恭しく述べる。
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