未来を見据える写輪の瞳
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十一話
「おい! 本当に大丈夫なのか!?」
「大丈夫大丈夫。……たぶんね」
中忍試験本選当日。カカシとサスケは木の葉の里にあるとある森の中を疾走していた。
何故こんなことになったかと言うと、カカシのうっかりが原因である。先日カカシの過去を明かして以来、サスケは修行に積極的に取り組んでおり、興がのったカカシはつい時間も忘れて指導に没頭してしまったのだ。
そして今朝、「あれ? 今日中忍試験本選じゃね?」と気付き全速力で会場へと向かっているのだ。
「てめぇ! 失格になってたらただじゃおかねぇぞ!」
「はいはい。そんなこと言ってる暇があるなら黙って走る」
憤怒の表情でまくしたててくるサスケを適当にあしらいながらカカシは目的地である試験会場へとその目を向ける。その瞳には、強い決意が宿っていた。
――――オビト……。お前は、俺が……
向かう先から歓声が聞こえてくる。会場はすぐそこまで、迫っていた。
結果だけを言うと、サスケは失格には成らなかった。砂隠れの里の長、風影の進言によりサスケの試合が最後に回されたためだ。内心では冷や汗をかきながらも、カカシはサスケに頑張れと一声かけて観客席へと移動する。
「よう、久しぶりだなサクラ」
空いている場所を求めてしばらく観客席をさまよっていると、運よく見慣れた桃色の髪を発見する。そばには自分の同期であるマイト・ガイとその教え子、ロック・リーもいるようだ。
「おお! 我が永遠のライバル、カカシではないか!」
「おはようございます! カカシ先生」
「カカシ先生! 心配させないで下さいよ。サスケ君が失格になるかと思ったじゃないですか」
いやー、すまんすまんと軽く謝罪を述べながらカカシは目線をフィールドへと向かわせる。試合は既に開始しており、サスケが体術を用いて我愛羅を激しく責め立てていた。
「あの体術は……」
「そう。リー君、君の体術だ」
サスケの動き、それは細部は違えど大元はリーの体術は全く同じだった。
「サスケから、君と一度やり合ったと聞いてね。体術の修行中、あいつには君の動きをイメージさせた」
幸いなことに、リーと戦った時のサスケは写輪眼を発動させていたため然程難しくなく事は運び、イメージに遅れないように体を鍛えるだけでほぼ事は済んだ。
「なるほど。だが、あの瓢箪の子には体術だけでは勝てんぞ」
ガイの言うとおりだ。幻術、忍術のスキルが殆どなく、常人がそれらに割く時間をも全て体術に割いてきたリーの腕前は間違いなく下忍の域を抜けている。しかも、我愛羅と戦った時のリーは八門遁甲を半数以上開けており、その当時の実力は中忍をも超えていたと言っても過言ではない。
そんなリーですら、我愛羅を倒すことはできなかった。ならば、リーのコピーでもあるサスケの体術では、我愛羅を倒すことが出来ないのは自明の理。
「ああ、分かってるさ。だから、あいつにはとっておきを教えておいた」
フィールドではサスケが我亜羅から大きく距離をとり、印を組んで術の発動に入っている。
「あの印……まさかあの術を!?」
「ああ。千鳥……またの名を、雷切」
サスケの左手に青き雷が宿り、辺りにチリチリという鳥のさえずりにも似た音が響き渡る。それを満足そうに一瞥したサスケは、我愛羅めがけて疾走を開始する。
「まさか、千鳥を教えているとは……」
「サスケは写輪眼ももっているし、うってつけの技だろう? それに、あいつは俺と似たタイプだ。だから……」
「興がのった……か?」
キラーン! と擬音がなりそうな白い歯を見せつける様なさわやかな笑みを受かべながらガイがカカシの先んじる。
その笑みにカカシは一つ深いため息をつき、当たりだ、と短く答えた。
「せんせぇ!」
「ナルト? 一体どうしてここに」
サスケの千鳥が我愛羅に見事に決まり、会場は一瞬の静寂に包まれていた。だが、その静寂を破るようにして大声を上げながらナルトとシカマルが姿を現した。
しかし、本選出場者の二人は専用の観戦場所が設けられており、わざわざ大衆用の観客席に来る必要はないはずなのだ。
「カカシ先生! すぐに試合を中止してくれってばよ!」
「ちょっとナルト! あんた何言ってんのよ!」
「嫌、こればっかりはナルトに同意するぜ。あの瓢箪、アイツは普通じゃねぇ」
「お前達、まずは落ち着け」
試合を止めるなど、早々出来るわけがない。それはこの二人にも分かっているはずだ。だが、それでも言ってくると言うことは、何かあったのだろう。
だが、二人はやや倒錯気味なのか二人の発言はいまいち要領を得ず、砂隠れの我愛羅と何かがあったということしか分からなかった。
「……!?」
「……!?」
だが、突如として膨れ上がった邪悪なチャクラに、カカシとガイを顔をはね上げフィールドへと顔を向ける。そこには、我愛羅が生み出した砂の球体から飛び出した異形の腕と、その腕に左手を気づ付けられたサスケ。
そして、中忍試験会場全域に降り注ぐ、純白の鳥の羽があった。
――――解!
会場に舞い散る羽が幻術によるものだと看破したカカシとガイはすぐさま印を組み、幻術返しを行うことで幻術を回避する。
「何なのよ、もう!」
ガイとカカシが行ったのが幻術返しだと理解したサクラも、事態は飲み込めていないもののすぐさま幻術返しを行う。そして、サクラが幻術返しを終えるころには、会場には数多の音と砂の里の忍びが戦闘態勢で現れていた。
「仕掛けてきたな……」
「ああ……(オビト、お前は一体どこに……)」
先に発動された幻術はどうやらかかったものを眠りに落とすタイプのものだったらしく、一般人および幻術返しを使うことが出来ないレベルの下忍達が無力化された。一応、一般人に無闇に被害を出そうというわけではないようだ。
「サクラ」
「先生! 一体なにが起こってるの!?」
周りでは突如として戦闘が始まった。幻術返しを行えるとはいえその実力は下忍の域を出ないサクラはただただ慌てるばかりだ。
「説明している暇は無い。頭を下げてジッとしていろ。俺は……」
カカシの左右、挟み込む様にして二人の音忍が攻撃を仕掛けてくる。カカシは目にも止まらぬ速さでクナイを抜き放ち、襲いかかる敵の側頭部に容赦なくクナイを突きたてる。
「少し数を減らしてくる」
あれから程なくしてカカシとガイは我愛羅を追いかけていったサスケを追う様にサクラに指示を出し、寝ていたナルトと寝たふりをしていたシカマル、そしてカカシが口寄せで呼び出した忍犬のパックンを臨時小隊として送り出した。
「さて、我々も本気でかかるとするか」
今まではサクラ達を気にかけらがらの参戦だったため、消極的に成らざるを得なかった。だが、そのサクラ達が居なくなった今、ガイとカカシは万全の状態で敵の撃退に当たることが出来る。
だが、カカシはそんなガイの言葉に返事を返さず、ある一点を凝視していた。
「カカシ? む、アレは……火影さまと風影!?」
そう、カカシが見ていたのはとある建物の屋上。そこでは、風影によって首にクナイを突き付けられ火影の姿があった。暗部が近くにいるようだが、火影が囚われていることと、風影の周囲に控える四人の忍びの存在のせいで、動くに動けないようだ。
「カカシ。火影様が心配になのは分かるが、今は信じよう。なあに、あの人は我々木の葉の里の長だ。そう簡単にやられるはずがない」
「…………」
カカシが火影達へと視線を向ける理由が心配からくるものからだと思い声をかけるも、反応は薄い。それどころか、ますますあちらを凝視しているようだ。
「……ガイ」
ようやく、カカシが声を発する。しかし、その声音はどこかしらおかしい。申し訳なさそうでいて、どこか決意に満ちているかのようだ。
「カカシ……?」
「俺は、行く。けじめをつけるために」
カカシはその場を駆けだし、一路風影目指して突き進む。途中、砂や音の忍びが攻撃を仕掛けてきたが、カカシはそれを文字通り瞬殺し、走り続ける。
そして、ようやくカカシが建物の屋上に辿り着く。突然現れたカカシを、火影を始めとしてその場にいるもの全員が驚いた。だが、風影……。カカシが決着をつけるべき男だけが、笑みを浮かべてカカシを迎えた。
「オビト! 俺とお前の決着を、つけにきた!」
それは天に響く咆哮。はたけカカシの、決意の叫びだった。
「カカシ、今度こそお前を殺してやる」
カカシが現れてからの展開は唐突だった。何故か風影……大蛇丸は拘束していた火影を投げ飛ばす様にして開放し、控えていた忍びに自分とカカシを囲う様にして結界忍術を発動させるよう指示を飛ばした。
音の里の忍びも急変した自分たちの主の様子。そして段取りとは打って変わったこの状況に驚きを隠せていなかった。だが、驚きより発せられる殺気による恐怖が優先されたのか、すばやく結界忍術を発動させ、今に至る。
「カカシよ……これは一体、どういうことじゃ!?」
そして、今場に居る中でも最も混乱しているのは火影こと猿飛ヒルゼンだろう。彼はかつての教え子と、合い討つ覚悟でこの中忍試験本選へと望んでいたのだ。だが、蓋を開けてみれば教え子の様子は急変し、自分はまるで蚊帳の外であるかのように成ってしまっている。
教授とまで称された彼でも、この時ばかりは冷静ではいられなかった。
「勝手な行動、申し訳ありません。ですが、これだけは言えます。今のあの男は大蛇丸では無く、うちはオビト。私の友であり、倒すべき、敵です!」
額当てを押し上げ、写輪眼を解放する。それと同時に、オビトもその姿を変える。忘れようはずもないその姿。カカシと同程度の年齢まで引き上げているようだが、それでも変わらない、その容姿。
「オビト……」
「カカシ……」
今、片目だけの写輪眼の視線が交差する。
「オビトォオオオオオオ!!」
「カカシィイイイイイイ!!」
最高の友との戦いが、火ぶたを切った。
拳と拳が交差する。
はたけカカシとうちはオビト。二人の戦いはまず、体術合戦となっていた。一時期は暗部にも所属し、ここ一ヶ月間で徹底的に自分の体を鍛え直したカカシと、未熟でありながらも三忍である大蛇丸が選んだ肉体を操るオビト。技術ではカカシが。性能ではオビトが勝る二人の戦いは互角の様相を呈していた。
「す、すごい」
「これが、写輪眼同士の戦い……!?」
外野で二人の戦いを見守る暗部は、驚愕を隠せなかった。確かに、二人は非常に高いレベルでの攻防を行っている。だが、暗部が驚いた理由はそれだけではない。
「……また!?」
二人の攻防。その中に組み込まれる相手の行動を先読みしての攻撃。そして、さらにそれを読んでの防御。
先読みに次ぐ先読み。既に暗部である彼らにも、戦いの行方は全く予想できないものとなっていた。
「埒が明かないな……それなら!」
「来るか!」
二人が同時に印を組み始める。組まれていく印は二人とも同じもの。うちはが得意とする火遁。その中でも基本となる忍術。
――――火遁・豪火球の術!
二人の丁度中心で、巨大な火球がぶつかり合う。火球は周囲を焼き、一気に温度を上げていく。だが、何時まで経っても火球のきっこうが崩れることは無い。これ以上豪火球をぶつけ続けても無駄だと悟ったのか、二人はまたしても同時に、術を解除した。
「カカシ!」
「オビト!」
そして始まるのは忍術合戦。カカシはこれまでに千以上の術をコピーしたと言われる忍び。これまでにコピーしてきたありとあらゆる術を用いてオビトを攻め立てる。
だが、オビトとて大蛇丸を通して多くの術を見て来たのだ。その中には禁術に指定される様な強力なものも多く、それらを用いて何とかカカシに追いすがる。
「くそっ!」
忍術合戦に移行してからは明らかにカカシが有利に立っていた。そう、有利にたっていたはず、だったのだ。だが、今の戦況を見てみればどうだ。互角。そうとしか言い表せない程に押し返されている。
(やはり、うちはか!)
この戦況の変異の理由を、カカシは何となく悟っていた。オビトの、うちはとしての才。たとえ体が違えども、オビトはうちはなのだ。ならば、彼こそが写輪眼を巧く扱える。
「それでもっ!」
自分は負けられない。負けるわけにはいかないのだと、カカシは己を奮起する。
――――雷切!
「いくぞっ! オビトォッ!!」
右手に蒼き雷を宿し、カカシはオビトへと疾走する。だが、オビトはそれを見ても焦ることは無く、むしろ不敵な笑みを浮かべ新たな印を組む。
「その術か。まぁ、俺達の決着をつけるには丁度いいかもな」
――――千鳥
オビトの右手にも、カカシ同様雷が宿る。だが、その色はカカシの様な澄んだ蒼ではなく、濁った黒。それはまるで、オビトの憎悪を表しているかのようだった。
「おおおお!」
「ああああ!」
蒼と黒、二つの雷が交錯する。どちらも当たれば一撃で相手に致命傷を負わせる威力がある。だが、二人ともそれに怖気づいて慎重になるなんてことはなく、むしろ今まで以上に激しく相手を攻め立てていく。
だが、それも長くは続かなかった。
「ぐうっ……!」
オビトの千鳥が、カカシの脇腹を抉ったのだ。咄嗟に身を捻ったもののかわしきることはできず、致命傷と言うほどでは無いにしろ、重症であることには変わりない。
「俺の、勝ちだな」
本来、この勝負はカカシが飼っていたはずだ。だが、そうはならなかった。下に恐ろしきはうちは。この短時間でカカシを越えるほどに写輪眼を使いこなして見せた、オビトの才だ。
「まだ、終わってない」
そう。自分はまだ生きている。ならば、まだ終わりではない。カカシの脳裏に、里の仲間たちの顔が次々と浮んでいく。リン、ヒルゼン、紅、アスマ、ガイ。師である四代目火影、ミナト。そして、自分の命に代えてでも守るべきナルト、サスケ、サクラ。
「まだ、俺は……!」
「なっ、何だその眼は!?」
オビトが驚愕するのも無理は無い。カカシの眼……三つの勾玉紋様を宿す写輪眼があるべき場所が、二重の三枚刃の手裏剣のような瞳へと変化していたのだ。
オビトは知らなかったが、この瞳こそ写輪眼を越えた写輪眼。その名を……
「万華鏡写輪眼!」
――――神威!
カカシの新たな力が、オビトを飲み込んだ。
後書き
これにてにじファン掲載分の移転は完了しました。
新話の更新は10月に入ってからになると思います。
それにしても原作の仮面の男の招待にはびっくりしましたね。
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