ラ=トスカ
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第一幕その七
第一幕その七
「どうやら典獄が君を逃がした事がばれたらしいな。スカルピアの刺客達が街に放たれるぞ」
「どうしよう」
「僕に任せてくれ。いいか、よく聞いてくれ」
カヴァラドゥッシは話を始めた。
「この教会出ると囲いの少ない菜園がある。その向こうに藤の茂みがあるがそこは野原を通って僕の家まで続いている。僕の家には馬車がある。それで別邸に行こう」
「別邸に!?」
「そうだ。あそこなら大丈夫だ」
「じゃあすぐに」
「待ってくれ、用心にこした事はない。僕も一緒に行こう」
「それじゃあ・・・・・・」
二人が出ようとしたその時扉の向こうからカヴァラドゥッシを呼ぶ声がした。
「スカルピアの!?」
アンジェロッティの顔が凍りつく。
「いや、違う」
カヴァラドゥッシがその恐怖を打ち消した。
「ここの堂守と僕の侍従だ。それにもうすぐ枢機卿と聖歌隊が来る。それに紛れて教会を出てくれ。すぐに僕も行く」
「解かった。じゃあ暫く隠れているよ」
「ああ」
急いで礼拝堂へ消えた。その時扇を落とした。だが二人はそれに気が付かなかった。礼拝堂の扉が閉められると同時に堂守とゼッネリーノが駆け込んで来た。
「騒々しいな、何事だい?」
あえて落ち着き払ってみせる。
「何って、聞こえなかったんですかあの大砲の音が!!」
「ああ、さっきのあれだね」
外から子供達の声がしてきた。そちらの方へ気をやるふりをしてアンジェロッティ家の礼拝堂へ目をやる。
(もう少しだ)
堂守がまくし立てる。
「サン=タンジェロ城から政治犯が一人逃げ出しました。引き渡した者には褒賞として銀貨千枚、匿った者は縛り首だそうです。共犯の典獄は拷問で白状させられた後絞首台へ送られたそうです」
(やはりな)
四方八方から子供達と市民達が入って来た。礼拝堂がそっと開かれる。誰もそれに気付かない。
(よし)
アンジェロッティが出て来た。人の中へ上手く紛れ込んだ。
「物騒な話だな。ひょっとするとここに警官が来るかも知れないな」
「ええ、閣下もお気を付けた方が良いですよ。スカルピア男爵は閣下を快く思われてませんし」
「そうだな。そろそろ枢機卿殿が来られるし今日はこれでお終いにするか」
そう言ってアンジェロッティの方を見た。
「そう言われると思って馬車を用意しておきました」
ゼッナリーノが得意な顔で言った。
(しめた)
カヴァラドゥッシとアンジェロッティの顔が明るくなった。
「気が利くね。じゃあ正門に回しておいてくれ。それから後片付けも頼むよ。急いでね」
「はい」
チップを渡されゼッナリーノは出て行った。
教会の中の燭台に火が灯され暗くなりかけた教会を照らし出す。あちこちの出入口から入って来る市民達の中にアンジェロッティは潜み正門へ向かっている。
「あ、子爵面白いお話が」
「何だい!?」
堂守が子供がとっておきの話を告白する様な得意そうな顔をしているのを見て彼が何を言わんとしているのかカヴァラドゥッシは察したがあえてとぼけてみせた。
「フランスの小男がマレンゴでまけちゃいましたよ。折角アルプスを越えてはるばるイタリアまで来たってのに可哀想な事ですね!」
やはりそれか、と思ったが知らないふりをした。
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