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Fate/Fantasy lord [Knight of wrought iron]

作者:花極四季
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知らず立ちこめる暗雲

 
前書き
Fate、東方に共通して見所である戦闘パートなんてないんや………。 

 
「う~ん、なんかネタでもないかしら」

手元で筆を遊ばせながら机に向かうのは、姫海棠はたてという鴉天狗。
茶髪のツインテールが特徴で、射命丸文と同様に彼女もまた新聞記者として活動している一人である。
何かと射命丸を目の敵にしライバル視している傾向があるが、被害者である射命丸本人はその気はなかったりする。
決して蔑ろにしているのではなく、何かと手の掛かる妹を相手にするようなあしらい方をしているのであって、寧ろ気に掛けている方ではある。
射命丸にとってもっと手の掛かる後輩である犬走椛の存在があるせいで、はたての突っかかりなどまさに児戯に等しいと思える心の余裕が育まれているのだが、その余裕が見下されているからだと思いこんでいるせいで、現状に発展しているのである。

「そうだ、アイツの同行でも盗撮して失敗談でも見つけてやろう。そしてそれを記事にすればいいのよ」

悪戯な笑みを浮かべ、携帯電話を手にする。
姫海棠はたての能力は、『念写をする程度の能力』というもので、文字通り念写を行う能力である。
お気に入りの折りたたみ携帯を媒介とし、任意のキーワードを指定した先の光景を映すことができる能力である。
その性質から、直接その場に赴かずともキーワード次第ではどの光景すら写真にすることができる利便性の強い能力だが、同時に安定性に欠けるという欠点も持つ。
キーワードで限りなく絞り込まないと、目的のものは念写できない。
取材役と念写兼作業役に分かれて連絡を取り合い、取材役が見た光景をヒントにキーワードを入力、念写しそれを基に直ぐさま作業を行うというやり方もあるにはあるが、その能力の関係で交友関係の薄いはたてにとってそのような協力者は存在しない。
そもそも妖怪はそういった協力関係を築くこと自体が稀であり、どうにもこうにも彼女にとっては使い勝手の悪い能力という域を抜け出せないというのが現状である。
しかし、えげつない話ではあるが、やりようによっては重要機密さえ盗撮できる能力であることも事実。
時には他人の記事を盗み見てそれをあたかも自分の記事にする、という愚行を犯しもしたが、大抵は古い記事で価値のないものに成り下がっているので、まるで意味がなかったりする。

「ふふふ………文の奴、目にもの見せてくれるわよ」

念写を使うはたてに対し、ライバルである射命丸は天狗の特性を活かした俊敏な行動で、その目と一眼レフでよりタイムリーな記事を仕上げるので、評価は必然と彼女の方に軍配が上がる。
真面目な話、もう少し見聞やボキャブラリーを充実させれば他の追随を許さぬ記事を作れるのだが、生粋の引きこもり体質である彼女には酷なことであった。

「おやおや、これは誰かに取材しているのかしら」

キーワードにしたのは、最近の射命丸の同行について。
一日の流れに沿えばポカをやらかした部分を見つけやすいと踏んだのである。

「―――――え?」

その結果―――彼女の人生は変わる。

念写によって映し出されたのは、見たこともない筆記道具を手に喜んでいる射命丸の姿と、取材対象であろう男性の姿だった。
普段の整然とした様子からはかけ離れたはしゃぎ様は、確かに格好のネタになったであろう。
だが、はたてにはそんな光景は視界に入っていなかった。
彼女の琥珀色の瞳には、褐色の男性―――エミヤシロウしか映っていなかった。

「………素敵」

思わず溜息が溢れる。
白髪のオールバック、健康的な褐色肌、ワイルドに決めた服装、鷹を思わせるような鋭い眼光。
どれを取っても、はたての好みと合致していた。
元々内向的で交友関係が薄いと語ったが、それを差し引いても天狗社会の男性ははたての好みとは正反対だった。
妖怪は概念が強さに直結する部分が強い為、外見に強さが表れないことが殆どである。
鬼のような如何にも腕っ節が求められる種族ならばともかく、天狗は狡猾さが目立つ種族として認知されている傾向が強い為、必然的に細腕のスマートな形か大天狗のような極端な大柄になるかのどちらかに分類されるようになっていた。
当然、どちらもはたての好みのタイプではないので見向きもしなかったし、期待もしていなかった。
自分の内向的な性格も自覚していたこともあり、一生そういうのとは縁のない人生を過ごすものなんだと無意識の内に納得していた。
にも関わらず、その妄想は容易く崩れ去ることとなる。

気が付けば、彼女は外へと飛び出していた。
向かうはエミヤシロウの下―――ではなく、取材者である射命丸の所。
念写を使えば辿ることも不可能ではないが、キーワード不足であるため信用性に欠けてしまうこともあるが、直接彼の下に赴く勇気がなかったからというのが大半を占めていたからである。

「文、いるんでしょう!?開けなさい!」

射命丸の部屋に辿り着くが否や、乱暴に扉を叩き呼びかける。
数秒の間を置き、気怠そうな様子の射命丸が姿を見せる。
徹夜明けなのか、眠そうにしている。
しかし、そんな事情は今の彼女が止まる理由にはならなかった。

「なんですかいきなり。五月蠅いですねぇ」

「入るわよ」

抗議の声を無視し、部屋に侵入する。
射命丸はそんな傍若無人な姿に呆れながらも、慣れたものだと何も言わずに部屋に入れる。

「ねぇ、この男性は誰なの?」

おもむろに携帯を取り出し、先程念写した映像を見せる。
普段の強引さのなかに、どこか鬼気迫る様子を抱えたはたてに、射命丸は何事かと内心狼狽える。

「あぁ、それですか。とある事情で知り合ったエミヤシロウという方です」

「エミヤシロウ―――ああ、なんて力強い響きなの」

「何言ってるんでしょうねこの子は」

「で、その事情って何よ。その口ぶりだとただの取材協力者って訳じゃないんでしょ?」

「ああ、そのことですか。貴方も知っているでしょう?椛のこと」

「あの仕事馬鹿ね」

「彼女に運悪く遭遇した彼が、訳あって外套を貸し与えたらしいのですが、それを良しとしなかった彼女に代わって私が外套を返したのです」

「ふん、いい気味よ。それにしても、椛を倒すだなんて実力もあるのね、ますますいいわぁ………」

「やだ、何この子こわい」

「それで、それ以外には?」

「特にありませんよ。せいぜい彼が外から来たことと、物を瞬時に造り上げる能力を持っていることぐらいですかね」

「外来人なのね。椛を退けるほどの実力者の名が広まっていないのも、理由がわかれば頷けるわね。それに、創造の能力って?」

「うーん、私も詳しいことは分かりませんが、少なくともちょっとした着物や小道具は瞬時に何もないところから生み出していましたね。一応、これが証拠品ですが」

そういって手渡されたのは、見たことのないような筆記道具の数々。
これが筆記道具だとわかったのは、単に筆と構造が似ていたというのもあるが、射命丸が書くものと紙以外に何かを持っているイメージが沸かなかったからなのが大きい。

「………文、なんでこんなものをもらってるのよ」

「いやー、だって外来人で外の道具を作れる能力があると言われれば、貴方だってそうするでしょう?」

「う………いや、そんな情けない真似はしないわよ!」

「あーそうですね。それはともかく、どうしたんですか?彼の事を聞き出そうとするなんて」

「そ、それは………」

押せ押せな気概が、射命丸の一言で霧散する。
当然だ。文は知らぬとはいえ、はたてがここまで鬼気迫る様子を見せたのは、エミヤシロウに一目惚れしたという理由なのだから。
ただでさえ一定の相手ぐらいしか交友関係のないはたてが、おくびにも出さず色恋沙汰の会話など―――ましてや自分がネタの対象ともなれば、無茶無謀を通り越して愚行ですらある。
しかし、そこは何かと勘の鋭い文。
思い立つが否や、ニヤニヤとした表情をはたてに向け出す。

「ははん、なーるほどね。そういうこと」

「何よ、気持ち悪い」

「いえいえ。まさかそんな、身近の相手がコテコテに使い古された流れに沿うだなんて思いもしませんでしたもので。あー、そっかー。とうとうはたてにも春が来たかー」

「―――――なっ!」

射命丸の言葉を噛み砕き、喉元を通り過ぎた途端に恥ずかしさがこみ上げる。
そんなにもわかりやすい態度を取っていたのかと、頭を抱えてしまう。

「まさかはたての趣味が、こういう野性的な風貌だとは知りませんでしたよ。あ、因みに言葉の端々から知性が滲み出ていましたよ。理性的な性格のようですし、今のところ彼に欠点は見当たらないですね」

「当然よ、私が惚れるぐらいなんだから」

「何で威張っているんですか………。で、はたてはどうしたいの?」

「どう、って」

「恋人になりたいんでしょ?」

「そ、そうよ」

取り繕う意味は無いと悟り、どもりながらも素直に本音を口にする。

「自分がコミュ症だって自覚はあるわよね?そんなで会いに行ったとして、話なんか出来るの?せいぜい不審がられるのが関の山ね」

「………うぅ」

普段なら反抗的な態度を取る場面にも関わらず、落ち込むだけに終わる様子を見て文は本気だと悟る。

「―――ハァ、ごめん言い過ぎたわ。だけど、事実であることに代わりはないわよ。………だから、私がフォローしてあげる」

「へ?」

「別に貴方の色恋を茶化すつもりはないわ。むしろ応援したいぐらい。異性に興味を持つことで貴方がもっと外向的になってくれると私としても嬉しいことだし」

「………何か企んでないかしら。アンタがフォローだなんて」

「企んでいるだなんて。そんなの、貴方の恋の成就の計画を立てているに決まっているじゃないですか」

「それが胡散臭いったらありゃしないのよ」

「好意は素直に受けるものですよー?」

このままでは話が進まないと思い、取り敢えず話を聞くことにする。

「具体的に、何するのよ」

「そうですねー。兎にも角にも接点を作る必要があります。幸いにも私は彼には悪くない印象を持たれている筈ですので、友達感覚で会いに行くこと自体は不自然にならないでしょう」

「で、でも、いきなり会ったところで何を言えば………」

「それこそ、素直な言葉を吐き出せばいいのでは?取り繕った言葉よりも、真摯な本音を告げた方が好感触だと思いますが」

「そんな、それってつまり―――」

「無理なら友達付き合いから始めてもいいのでは?そもそもいきなり告白しても成功するとは思えないですし」

「それは、確かにそうだけど」

「兎に角、会わなければ始まりません。貴方のコミュ症の改善なんてものをしてたら時間が足りませんので、実戦で鍛えて下さい」

「えっ、ちょっ、離しなさい!」

射命丸に腕を取られ、引きずられる形で連れ去られていく。
何故か異常な力を発揮して振りほどけずに、そのまま外へと旅立つ羽目になったのであった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


守矢神社の縁側で、瞑想をするように座して思考を巡らせる。
あの一件以来、私は早苗達と共に居ることに安心感を感じるようになった。
自分はここに居て良いのだと、ここを居場所にして良いのだと思えるようになったことが、精神的な余裕に繋がったのだろう。
今までは無意識の内に一線を引き、拒絶していた節があった。
守矢家に限らず、幻想郷そのものに自分の居場所があるのかと疑惑の念を抱いていた。
魔術師でさえも知らないであろう、隔絶された土地。それは最早、別世界といっても過言ではない。
そんな場所に自分の居場所を見出せる訳はない。………そうやって逃げていた。
居場所など、自分で造るもの。座して待ったところで得られはしない。
最初はそれでもよかった。
はっきり言って私はいつ消えるかもわからない不確定な存在だ。
サーヴァントとして召喚された筈の私が、マスターもなしに現界できている理由も不明。
更にはエミヤシロウの性質上、いつ無茶無謀を繰り返し命を落とすかもわかったものではないとくれば、必要以上に他者と接点を持とうと思わなくなるのは、別段不思議なことではない筈。
孤独がエミヤシロウの死の理由の一端を担っていると理解はした。
だが、自身の目的の為だけに関係を結び迷惑を掛けるなんてことを、エミヤシロウが由としないのは当然のこと。
縁がゼロとなったこの世界で、孤独に目的の為に生きていくのも悪くないと、そう思っていたこともあった。

だが、知ってしまった。
家族の温かみを、置き去りにしてきた還るべき場所と同じ暖かみを持つ場所を。
甘い毒は毒と知りつつも受け入れてしまう魅惑の味となる。
その毒はエミヤシロウという個を崩壊させてしまう可能性を秘めている。
それが遠坂凛が望んでいる結末だということも、理解している。私にとっての幸福の終着点は、平凡な人生なのだと彼女は信じて疑っていないのだろう。
―――だが、それでは駄目なのだ。
エミヤシロウが幸せになる為に、エミヤシロウが死んでしまっては意味がない。
平凡な毎日というぬるま湯に浸かるエミヤシロウなど、最早別人だ。
だからこそ、その選択だけはしてはいけない。

………だったら果たして、エミヤシロウとして在り続けながら理想を追い続けることができるのか。
一を切り捨て九を救うなどと妥協し続けてきた男が、今になって欲張りになったところでそれを為すことができるのか?
不確かな不安ばかりが押し寄せ、地に足がつかない感覚が支配する。
この苦悩を情けないの一言で一蹴してくれる、そんな頼りがいのあるパートナーは、ここにはいない。

「いかんな、最近気落ちしてばかりだ」

悩んで解決するなら当にしている。
うだうだ悩むのは性ではないのだが………精神的に弱くなっているのだろうか。

「ん………?」

気のせいか、空気の流れが変わった気がする。
穏やかな波を保っていた筈が、今や不規則に波を荒立てるばかり。
しかも徐々に近づいてきているような―――
音源を探ろうと空を見上げると、二つの影が重なる。
ひとつの影は、見覚えがあった。射命丸文という鴉天狗だった筈である。
隣の影は見覚えがないが、背中から生えた羽が射命丸と同族だということを示してくれている。

「お久しぶりです。シロウさん」

「ああ。―――それにしても、よくここが分かったな。その様子からして、偶然出会ったという風には感じられないが」

「探していたのは事実ですが、場所までは半ば当てずっぽうでしたよ。とはいえ、こちとら新聞記者を名乗っていますから、目ざとさには自信がありますよ」

目ざといとはどちらかといえばマイナスな表現なのだが、わざとなのか素なのか………。
いや、記者なのだから語彙に造詣が深くない訳がないだろうし、わざとか。

「ところで、そちらの彼女は?」

「ああ、彼女は―――いや、その辺りはお二人でどうぞ。貴方を捜していた理由が彼女に関係しているのであって、私は直接関係はありませんので」

そう言って隣の少女の背中を押し、自身は一歩下がる。
対して前に押し出された女性は、勢い余って私の目と鼻の先まで飛び出してくる。
そして目があったかと思うと、そのまま硬直してしまう。
何か言いたそうにするも、口をぱくぱくさせるだけで空気の漏れる音さえ聞こえない。
仕方ないので、此方から切り口を開いてやろう。

「初めまして、でいいのかな?私はエミヤシロウと言う」

「は、はは初めまして。姫海棠はたてと言います!」

ツインテールを揺らしながら、勢いよく名乗る。
髪型は凛そのものだが、雰囲気は全然違うな。
まぁ、猫かぶりという前例を知る身としては、油断はできないが。

「よろしく。―――それで、一体何のようだね?私の記憶違いでなければ、君と私は初対面の筈だが」

射命丸の友人だということは何となく予想できるが、互いにさっきまで顔すら知らなかった間柄であるにも関わらず、私に用事があるとは一体。
まさか、投影のことを聞いてたかりに来たのだろうか。
少なくとも、人伝に情報を得られたとしてここまで必死になって行動を起こそうとするなんて、余程特別な理由がなければありえない。
そうなると必然的に、私の能力関係ではないかという予想が先行してしまう。
私としてはそうでないことを願いたいが、果たしてどう来るのか。

「あの、えと………その」

もじもじと身体を動かすだけで、肝心の言葉が出てこない。
とはいえ、これ以上私がどうこうできるとは思えないので、無言で彼女の言葉を待つ。
何とも言い難い雰囲気を醸し出している中、射命丸がじれったいと言わんばかりの表情で待機している。

「あっ、あの!私―――」

突如面を上げ、意を決したと言わんばかりに口を開こうとした瞬間、背後から気配が現れる。

「シロウさん、今日の献立なんですが―――」

「私と、結婚を前提に付き合って下さい!」

―――――世界が停止した、気がした。
そんな中、陶器が割れる音がとても印象的に響いた。
 
 

 
後書き
この小説での文はいい子です。そのせいで苦労人です。
というか、周りが濃すぎるせいでなまじ常識のある彼女が犠牲になっているというね。

今回はたてが初登場ですが、前回含め実はまったく同じポジションに置こうと考えていました。
詳しいことは次回に回しますが、まぁロクな展開にはならないよね!この終わり方だと。
奇跡(物理)とか有り得なくないよね。

それよりも、このSSで戦闘を期待している人はいるのかな。
ぶっちゃけた話、戦闘に移行するパターンとしては襲われるか事件に巻き込まれるかぐらいしか思いつかない。
前者は使いまくれるけどワンパターン化しそうだし、後者は………切っ掛けが思いつかん。

説明していたか忘れましたが、◇で区切っている場面は、視点はそのままにキングクリムゾンした場面で、◆で区切った場合は、別キャラのまったく違う場所で展開されている状況からスタートする感じです。
 
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