Fate/Fantasy lord [Knight of wrought iron]
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懺悔と願望と安楽と
前書き
久しぶりに書くと筆が軽い。こんな気持ち、初めて!もう何も(ry
ほんの僅かではあるが、早苗との距離が縮まったあの日から数日が経過した。
未だに私は諏訪子達にあの時感じた疑問を投げかけられずにいる。
私が諏訪子達に対してどう思われるのは構わないが、此方の身勝手な好奇心で早苗と諏訪子達の関係がぎくしゃくするのは好ましい結果ではない。
私の言葉ひとつで瓦解する関係ではないのは考えるまでもないが、羽虫の音程度の揺らぎぐらいは起こるだろう。
バタフライ効果とは少し意味合いが変わってくるが、ほんの僅かな変化がいずれ大きな差異をもたらすかもしれない、という意味では同じだろう。
………おせっかいここに極まれり、だな。
だが、それでこそエミヤシロウなのかもしれない。
いずれは聞きたいことではある、が―――それは今ではない。
ならばいつか?と問われれば答えようがないのだが。
結局の所、私は守矢神社に長居しすぎたのだ。
人間と神などという高次の存在が家族同然の営みをしているあの穏やかな空間が、まるで置き去りにした過去を彷彿とさせるようで―――
すべてを捨て、取り戻せなくなった過去がここにある気がしたから。
「―――飢えていたのだな、私は」
闇雲に愚直に、本当に大切なものを投げ打って手に入れたのは、果たして失ったものより尊いものだったのか。
ただただ見知らぬ他人の為に命を張り続けた結果皆の人生を狂わせた愚か者は、今もこうしてその罪を償うことなくのうのうと自分の為に生きている。
借り物の理想もそれに対する怨嗟も失せた今の私は、幸福なのだろう。
だが、それを本当に素直に享受すべきなのか。
凜に言われたままに従ってはいるが、それを心の底から納得できていない自分がいる。
幸せになる資格がないなどという青臭い理由ではなく、自分にとっての幸せの定義が狂っていたからこその疑問。
誰がために在れという信念を地で貫き通してきた身としては、その在り方から離れつつある今、他の幸福の定義を掴めずにいる。
「どうした、浮かない顔をして」
物思いに耽っていると、背後から神奈子が話しかけてきた。
「いや、なんでもない」
「なんでもなければ気にしないが、そうでないから声を掛けたんだ」
「………やれやれ、目ざといな」
「これでも神だからな。顔色ひとつで情緒を測るなど造作もない」
ふふん、と得意げに鼻を鳴らす。
外見とは裏腹な子供っぽい仕草に、思わず吹き出してしまう。
「おい、笑ったか私のこと」
「ああ、すまない。不快だったのなら謝ろう」
「いや、いいさ。それより、少しは気が晴れたか?」
その問いで、自分が先程まで纏っていた陰鬱な感情はなくなっていた。
これを狙って一連の動作を行っていたのであれば、まんまとしてやられたことになる。
「少しは、な」
「………なぁ、その悩み、私には言えないことか?」
ジッと目を合わせ、そんなことを聞いてくる。
「自分でもわからん。私の悩みなど、当に解決していることなのかもしれない。不必要に悩み、無為に時間を費やすだけの行為かもしれない。そんな下らない悩みでも、話す価値があるのだろうか」
「価値なんてものは主観と客観で無限に存在する。それを決めるのはお前じゃないよ」
「………なるほど、尤もなことだ。流石は聞き上手な神様といったところか」
「茶化すなよ。―――で、どうなんだ?」
数秒考えた結果―――話すことにした。
とはいえ、大まかな部分は端折っていくつもりだが。
「………私は、異常者というレッテルを貼られていた。奉仕精神が常軌を逸している、と言えばなんとなく予想はできるだろうが、とにかく他人の為に在ろうとし続けたのだ。その果てに命を失うといった不幸が待ちかまえていようとも、止めることはしなかった。今の私は、その成れの果てだ」
静かに独白する様子を、神奈子は無言のまま聞き入れる。
口を挟まないその姿勢に、好ましさを覚える。
「今でこそきちんと自覚し、こうして恥の上塗りが如く振り返ることができるが、あの頃の私にはそんな余裕がなかった。いや、振り返る価値などないと認識していたんだ。自分のやっていることに一切の間違いはないと、愚直に信じていたんだ」
言葉だけ聞けば否定しているだけの羅列だが、決して衛宮士郎の信念を貶めているつもりはない。
奴の信念そのものに、間違いはないことは重々理解しているつもりだ。とはいえ、全肯定出来るのであればそもそも悩む必要もないのだが。
「信念そのものは間違いではなかったと今でこそ理解しているが、その時は理解ではなく盲目に信じていただけだった。自己犠牲の行き着く先などたかが知れている。止めてくれる仲間の想いすら投げ打って、その果てには自己満足しか残らなかった。人間であることさえ捨て、それでも理想には届かなくて。ご都合主義のハッピーエンドとまではいかなくとも、せめてましな終焉を望んでいたのだが、世界はどこまでも優しくない。―――いや、世界のせいにするのはお門違いだな。そのハッピーエンドへの選択肢を間違えていたのは、他ならぬ自分のせいなのだから」
「………お前は、人間ではないのか?」
「気付いていなかったのか?というか、前にサーヴァントであると説明したであろう」
「かなりの力を秘めていることは感じていたが、幻想郷ともなれば人間でも妖怪や神に追従する能力を持つ者も少なからずいるからな。強さの幅では人間か人外かなどとは測れないんだ。外見で判別するなら、尻尾や羽が生えているといった風に出来るが、そうでもない妖怪もいるから一概に信頼は出来ないけどな。それと、お前は自分をサーヴァントだと、死後の英霊だと評価しているが、だからといって人外と一括りにするのは早計だろう。幻想郷からすれば、お前はただの能力値の高い人間でしかない。人外とは、人間の定義で測る物差しでしかない。その人間が妖怪にすら匹敵する力を持つここでは、お前もただの人間のようなものだ」
「自惚れるつもりはないが、そうあっさりと言われると流石に傷つくぞ」
「嘘を吐け、歯牙にも掛けていない癖に」
「これでもナイーブなのかもしれんぞ?」
「ナイーブな英雄とか、そもそも素質すら感じられないよ」
神奈子の言葉に、内心驚きを隠せないでいた。
契約をしていない自分の現在のステータスがどんなものなのかは定かではないが、曲がりなりにも英霊である自分の能力値で人間との区別が出来ないというのは不気味だ。
幻想郷には人の身で英霊に匹敵する異分子が存在するに等しいと彼女が豪語したのだ。
私が単に弱体化しているからそう比較されたのだろうか。
少なくともそういう実感はないが、それを証明する手立てもない。
「それに、お前は未来の英雄なのだろう?お前が何十年、何百年後の英雄かは知らんが、過去の事象に関しては観測出来ても、未来を視ることは神であれど容易なことではない。未来では人間がお前ほどの実力を平気で備えているかもしれないと考えれば、そこまで不思議ではない。英雄とは、称えられるに値する功績を残した者に贈られる称号であり、腕っ節が絶対標準とされるわけではないしな」
「それは私が弱いと言いたいのかね」
「そうじゃない。現代と未来では人間の基礎性能に違いがあるかもしれないから、未来ならばただの人間でも英雄となれる素質があるかもしれないという話だ。その時代にとっての化け物としてではなく、一人の人間としてな。とはいえ、お前の実力が未知数なのも確かだが」
………私は、化け物ではなかったかもしれないが、普通ではなかったと自負している。
人間性が破綻していたとかではなく、魔術師としての属性が特殊だったということもあり、元より平穏とは程遠い身分にあったということである。
魔術師の家系の介護がなければ、その希少性からホルマリン漬けになるのは必至。
仮にそれがあったとしても、絶対安全な保証はない。
そういった意味では、悲惨な末路は早いか遅いかの違いだったのかもしれない。
むしろ自分のやりたいことをやれただけでも、まだ幸せだったのだろうか。
………いや、不幸の背比べをしたところで虚しいだけだな。
「………話を戻そうか。それから私は自己を見つめ直す機会が与えられた。その結果、エミヤシロウは存在するべきではなかったのだと、そういう結論に達した。」
「お前、それは―――」
「まぁ、聞け。君が想像しているような過ちは、とある男女によって止められた。その内の少女の方は、私が切り捨てた筈だった仲間のひとりだった」
私は二度、彼女を裏切った。
英霊エミヤになる以前に切り捨てたことと、自分殺しの為に契約から意図的に逃げ出し敵として立ちはだかったこと。
そのどちらも許されざる悪徳だ。救いようがない。
だが―――それでも彼女は私を赦した。
彼女の本質は、どこまでも優しく甘い。
そうでなければ、無知な衛宮士郎に聖杯戦争の何たるかを教えることもしなければ、裏切り者を許すなどということは絶対にしない。
「彼女に言われたよ。今からでも自分を赦して許してやれと。幸せになれと」
言葉にせずとも、彼女の意図は伝わっていた。
「だが、自分が歪だと理解しているからこそ、他人の為に在ろうとすること以外への幸せを見出せていないのだ」
「その少女の傍にいれば、答えは見出せたんじゃないのか?」
「それが無理だったから、今ここにいる」
「その離別を切っ掛けに、お前はここに来たのか」
「そうだな。本来消えゆく運命だった私は、ある意味では救われたのだろう。―――だが、その救われた命の扱い方を掴めずにいるのなら、無駄もいいところだな」
一瞬、一陣の風が吹く。
それと共に訪れる静寂。
考えるような仕草をする神奈子の横顔を見つめながら、答えを待つ。
心地よいとも思える静寂は、互いの関係性を象徴しているようで、自分は受け入れられているのだと実感することが出来る。
「―――別に、お前が望むように生きればいいんじゃないか?」
「望むようにすれば、私は悲惨な末路を遂げるかもしれないとしてもか?」
「そうはならないさ。お前は二度過ちを犯したが、罪を受け入れ前に進み続けている。ならば、何も心配することはないさ。理解し、受容した上で尚二度同じ過ちを繰り返すような愚者だというのであれば、私の目が腐っていただけの話だ」
「厳しい意見だな」
「それに―――後悔した、ということは、やり直したかったということだろう?ならば、おのずと答えは出るんじゃないか?」
そう答えた神奈子の表情は、どこまでも優しい。
「悩みというのは、誰かに打ち明けた時点で得てして答えを自らで出しているものなんだよ。それを後押しするために、願掛けや神頼みというものを行うのが人間の持つ特性だ。宗教というのも、個人の持つ思想を大衆の同一のそれとひとまとめにすることで、あたかも高次の思想だと正当化する為にあるようなものだからな。まぁ、それはあくまで神が存在することを証明できない一般人側の理屈に過ぎないが」
一般人からすればそもそも、その宗教の名前となった人物が果たして存在していたかなど証明することは不可能。
宗教に限らず、歴史の偉人なんてものは例外なくその枠内にある。
だからこそ英雄次第では、複数の説を持つ者もいる。
アーサー王なんて、どの説にも書かれていなかったまさかの女性だったというオチだからな。
とはいえ、男としてのアーサーの名の方が広まっている以上、男のアーサーも存在していても不思議ではないが。
脱線したが、証明できないということは、如何様にも手を加えることができるということでもある。
それが正しいかはともかく、自分にとって都合の良い思想や理念を持っていた宗教を信仰するのが当たり前だ。
その地域によっては刷り込みのように宗教の教えを信じ込むように仕込まれる場所もあるが、それはマイナーケースだ。
極端なほど信心深い者を除けば、その名前の元となった神を信じるのではなく思想や理念に対して関心や共感を得ているのが大半だと予想する。
人間という利己的な生き物が、偶像に対しそこまで執心するとはとても思えないからだ。
とはいえ、この考えもあくまで時代によるもので、遙か昔ではその限りではないのは当然である。
「名も知らぬ外の一般人は、まさか神がこんな美人だとは思いもしないだろうさ」
「おだてても何も出ないぞ。それに、神なんてものは得てして不細工であると表現されること自体稀だからな。一般人からしても、そこまで極端に驚く奴はいないんじゃないかな?」
さて、どうだろうか。
私が知る英霊やそれに準ずる実力者は、総じて一般的な女性と比較しても美しい部類に入る者ばかり。
意図的なものを感じずにはいられないが、それは別段問題ではない。
その例に漏れず、神奈子もまた美人である。
多少奇抜な格好をしてはいるものの、それらが総じて違和感なく調和している。
少なくとも、この服装をする為に生まれたのではないかと言うぐらいには、八坂神奈子たらしめる要素となってはいるだろう。
「それで―――どうだ?思い当たる節は浮かんだか?」
神奈子の問いに、ただ静かに目を閉じて自分を見つめる。
人間としての幸福を捨て、人外になり果ててまで救った命ははっきり言えばちっぽけなもの。
そしてその代償に、救いたいと思った命をこの手に掛けるという矛盾を刻まれてしまった。
数えるなんてことはしなかったが、恐らくは釣り合いは取れていないだろう。それも悪い意味でだ。
結果論として、どうすることが正解だったのか。
その問いに解を与えてくれる者はこの世に誰一人としていないだろう。
―――だが、それでも。
今はこうして、悩みを打ち明けられる相手がいる。
解を与えてくれずとも、悩みを吐き出せる相手がいる。
それはとても幸福なことだということは理解る。
同時に、それを切り捨ててきた自分が如何に愚かだということも。
私が嫌われるのは構わないなどと言ったが、あれもごまかしだ。
私は間違いなく、守矢家に居ることに充足感を覚えている。
早苗達の関係を隠れ蓑に、自分に嘘を吐いたのは、エミヤシロウの本質を全否定することへの無意識の抵抗から来るものなのか。
何にせよ、最早取り繕う必要はない。
「………自分のやりたいことはわからないが、今こうして君と話が出来たことに、とても幸福を感じていることだけはわかる」
「そうか。なら、いつでも話し相手になってやる。お前の過去に何があったかはまだまだ知らないことだらけだが、苦労したことだけは理解しているつもりだ。だからこう言おう、ここに居る間はそんなものは忘れて自分の望むように生きろ。過去に縛られることなく、エミヤシロウの本質の赴くままに、な」
「―――ああ、そうさせてもらうよ」
神奈子の言葉が胸にストンと落ちる。
幾年と人々と向き合ってきた彼女の言葉だからこそなのか、彼女の言う通り私は既に答えを持っていて、後押しをしてくれる存在を待っていただけだったのか。
どちらにせよ、彼女無くては終止符を打つことは叶わなかっただろう。
そして、話は終わったと言わんばかりにおもむろに立ち上がる神奈子の姿を眺める。
視線に気が付いたのか、こちらに顔を向け薄く笑いかける。
「さ、行くぞ。早苗がそろそろ昼食を作ってくれるからな」
「ならば、私は手伝うことにしよう」
「お前が来てからうちの食卓が豪華になったけど、早苗はお前の料理の腕が凄いから立場がないって嘆いてたぞ」
「料理の道に近道はない。なに、私とて料理は好きこそ物の上手なれの精神で続けていたのであって、決して才能があった訳ではないからな。早苗の腕ならば私に近づくことは無理なことではないさ。とはいえ、大人しく追いつかれるのを待つつもりもないが」
他愛のない会話をしながら、居間へと足を向ける。
そんな何気ない当たり前の時間が、とても輝いて感じた。
神奈子には感謝してもし足りないな、まったく。
後書き
あれ、神奈子ヒロインじゃね?これ。
そう思った貴方、正しいです。色んな意味で。
ギャルゲでいう所の幼馴染みポジションが神奈子で、早苗はいきなり現れたぽっと出のメインヒロイン的ポジです。
あくまで物語の主軸としては早苗にスポットが当たるけど、別ルートなどで頼りになったりするのが神奈子みたいな感じ。
じゃあ諏訪子はって?うーん、ヤンデレかな?(ぇ
私の神奈子様のイメージは、頼りになる腕っ節が強い姉御(実は可愛い好き)みたいな感じ。意外と乙女みたいな。
諏訪子は腹黒ロリ。早苗は完全に間桐桜のイメージ。全部ひっくるめての意味でね。
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