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科挙

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第六章

「しかしね、男でなくなるからな」
「そうなることは怖いですね」
「抵抗がありますね」
「明のこともあるからな」
 先の王朝である明は宦官の専横が甚だしく国が衰え滅んだ、特に万暦帝の周りの宦官達とその後に出て来た魏忠賢という宦官はおぞましいまでに国を貪った。
「清も重く用いない」
「だからこそ科挙ですね」
「特に我等漢人は」
「そう、進士になるしかない」
 満州人の国なので満州人の方がどうしても重く用いられる、その中で漢人が官として身を立てるにはというのだ。
「だからだよ」
「及第するしかない」
「科挙にですね」
「それだけだからだよ」
 またこう話す呉だった。
「かえってよくないんだよ」
「それで、ですか」
「科挙には」
「書ばかり読み文を作ってもそれだけになってはね」
 日々それだけをしていてはというのだ。
「心もなくなっていって」
「お二人の様になられる」
「そうなのですね」
「そうだろうな、まして及第の為の学問なんてね」
 完全に身を立てるだけのもの、それではというのだ。
「学問の本質から外れてるからね」
「では科挙の学問は」
「それは」
「よくないだろうな、七十を過ぎても学んでそれでも及第しない人も多い」
 人生を全て費やしてもだというのだ、何千人に一人の割合でしか及第しないのならこれも当然としてあることだ。
「考えてみれば残酷な話だよ」
「そうしたものを勝ち抜いても」
「心がなくなる」
「それだけじゃないけれどね、いやこうしてみると」
 王は蟹を食べるその手を止めて言った。
「科挙というものは酷いものだね」
「そうですね、及第しても心がなくなり楽しむことも忘れるのでは」
「それでは」
「このことは書き残しておこうか」
 呉は再び首を傾げさせながら言った。
「後世の為にも」
 こう考えてだった、彼は後に儒林外史という書を書き残したのだった。 
 科挙にまつわる話は多い、及第すればいいが最後までそれがならずその途中での悲劇も多くあった、やがてその無意味さと優秀な人材を得るという本来の目的を適えていないことが問題となり廃止された。しかし似た様な話は今もあるのかも知れない、科挙は人が作ったものであり人は今もこの世にあるのだから。


科挙   完


                              2013・4・21 
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