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科挙

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第五章

「王殿も劉殿もおかしいな」
「うむ、そうだな」
「進士にまでなられているが」
「どうもな」
「生きている気配が感じられない」
「人形の様だ」
 呉と同じことを言うのだった。
「感情がなく反応もない」
「ただ仕事をされているだけだ」
「他には何もされない」
「ものを書かれるだけだ」
「今でも書を読まれているそうだがな」
「何もされない」
「趣味もない」
 そうしたこともしないというのだ。
「馬にも乗られず酒を飲まれてもな」
「美味しそうでもない」
「芸妓と遊ぶこともされない」
「あれでは本当にな」
「人形だな」
「全くだ」
 彼等は首を傾げさせながら二人のことを言うのだった、そして実際に。
 王も劉もただ仕事をするだけで人間的なものは一切なかった、賄賂を出されても貰うものは貰うがやはりそこには感情を見せずそれを使うこともしない。
 その彼等の話を聞いてだ、呉は旅先今度は上海で蟹と酒を楽しみながらこう言うのだった。
「科挙に及第してもな」
「それでもですか?」
「進士になっても」
「うん、こういう話が多いな」
 共に飲む者達、若い書生達に言うのだった。
「心がなくなったっていうかな」
「心がですか」
「それが」
「うん、そうなっているな」
 袖の中で腕を組み首を傾げさせて言う。
「他にも色々な話があるがな」
「科挙にはそういう話が多いのでしょうか」
「ああ、多いな」
 書生の一人の言葉にも答える。
「これまで色々聞いてきたし見てきたがね」
「では何故そうなるのでしょうか」
「それは」
「書を読んでばかりいるからだよ」
 まずはそれが理由だというのだ、科挙で色々とあることは。
「そればかりになるからな」
「書を読むことはいいことでは」
「学問があることは」
「それにそこから道が開けますし」
「貴族がのさばるよりは」
「確かに学問があるに越したことはない」 
 呉もそれはいいという、学問はあるに越したことはない。無学で善も何も知らなければそれだけで人としてどうかとなる。
「それに学問で道が開ければな」
「それもまたいいことですね」
「門閥だけで何かがあるよりは」
「元々門閥を抑える為のものだったしな」
 科挙は隋の頃にはじまる、隋を興した文帝が貴族達を抑え真の意味で優れた人材を集める為に設けたのである。 
 科挙は貴族を抑えた、これも確かだ。
「いいことだ」
「では何故でしょうか」
「よくない話が多いのは」
「それだけになってるからな」
 科挙、それだけだというのだ。
「官吏として身を立てるのは」
「特に万歳爺の傍に行くには」
「それしかですね」
「そうだ、武官はたかが知れている」
 こちらの登用にも試験がある、こちらは武挙という。
「文官の方が上だ」
「はい、科挙に受かった進士こそが一番尊いです」
「皇帝のお傍では」
「宦官になってもいいがね」
 この道もあるにはあった、清でもそれは同じだ。 
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