ラ=トスカ
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第二幕その三
第二幕その三
「さて侯爵」
カヴァラドゥッシ伯を見送るとオルロニア公爵夫人はアッタヴァンティ候に向き直った。
「お聞きしたい事があるのですが」
「な、何です!?」
優雅に微笑む夫人に対し侯爵は狼狽している事が一目で解かる。それが夫人にとっては楽しいようだ。
「奥方は今どちらにおられます?」
悠然とした笑みの中で青い瞳がキラリと光った。その光に気付いた侯爵は更に慌てた。
「フ、フラスカティですが、そ、それが!?」
「いえ、唯お聞きしただけです」
目を閉じて言った。疑われている、冷や汗が背筋を伝う。
「ひ、一言言わせて頂きますがアンジェロッティ候の逃亡については家内も私も全く関係ありませんぞ」
声が震える。演技ではない。それも手に取るように分かる。
「あらあら、そんな事お聞きしておりませんわよ」
「で、ですが・・・・・・」
「まあまあ気を落ち着けになられて。もう一度確かめたいのですが。奥方は今どちら?」
「フラスカティです」
「分かりました。お時間を取らせて頂き有り難うございました。それでは宴をお楽しみ下さい」
「・・・はい」
アッタヴァンティ候は逃げる様に大広間へ戻って行った。その時階下で何やら話し声がした。
「あら」
見ればスカルピアである。不機嫌そのものの顔で部下達と何やら話している。
「子爵の消息は掴めないか」
「はい。お留守でした。捜査令状を盾に家の隅から隅まで捜しましたが使用人達がいるだけで。昼も夜も家を空けられる事が多いらしく何処かに隠れ家があるそうです」
スキャルオーネが報告する。
「使用人は何と言っている」
「誰一人として知りません。どうやら相当用心深いようです」
「そうか。で、トスカは?」
「パイジェッロ先生の邸宅で打ち合わせと軽いリハーサルの後自宅で食事と身支度を済ませ先程この宮殿へ来られました。カヴァラドゥッシ子爵の気配は何処にもありません」
コロメッティが報告する。
「糞っ、つくづく隠れるのが上手い奴だ。このローマは歴史と共に街が造られた。迷路の様に入りくんでいる。奴はローマの人間だ。この古臭い街の何処かに消えて今頃我々を嘲笑っているぞ」
「はい」
「そしてそのままローマを去り頃合いを見て舞い戻って来るつもりだ。我々が陛下の御不興を蒙り首が飛ぶのを見届けてからな」
「はっ・・・・・・」
部下達の顔が暗くなる。宮中における自分達の評判を最も良く知っているからだ。
「だがそうはさせん。スポレッタ警部、アッタヴァンティ侯爵夫人は今何処だ?」
「はい」
薄い茶髪の小男が答えた。
「フラスカティに行かれお留守でした」
「それは知っている。だがな、我々が近寄って来ないのでそれが気になっている筈だ。おそらく夫人の方からローマへ戻って来て嫌疑を打ち消す為ここへも顔を出すだろう。その時に白状させる。どんな手を使ってもな。場合によっては捕まえるぞ」
「えっ、宮中にも強い影響力をお持ちの侯爵夫人をですか?」
懐から扇を取り出した。
「これが何よりの証拠だ。それにトスカも関与しているかも知れぬ」
「それはまさか」
「否定出来るか」
「えっ、いえ・・・・・・」
スポレッタはスカルピアに睨まれ萎縮した。
「ナポリでもこのローマでも解かった筈だ。誰が何をしているか、全く知れたものではない。知らぬうちに利用されていたりするからな。だが・・・・・・・・・」
「だが・・・?」
スカルピアは続けた。
「子爵は賢い。女を危険に巻き込む様な事はしないだろう。足跡は消してある筈だ」
「はい」
「今から陛下にお目通りして来る。情報も集めて来る。私が合図するまで待っていろ」
「はっ」
部下達は敬礼し門から出て行った。スカルピアは階段を昇り大広間へ向かった。
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