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ソードアート・オンライン 〜槍剣使いの能力共有〜

作者:カエサル
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GGO編ーファントム・バレット編ー
  54.外の世界

 
前書き
第54話投稿!!

キリトとシュウが《死銃》と接触する中、外の世界の皆が異変に気づく。 

 


「お兄ちゃんとシュウくん、なかなか映らないね!」

私が呟くように言うと、隣に腰掛けるシリカが、ライトブラウンの髪から突き出した猫耳を動かす。

「ほんとに.....意外ですねぇ。キリトさんとシュウさんのことだから、てっきり最初から飛ばしまくると思ったのに」

「いやいや、アイツらはああ見えて計算高ぇからな。参加者がテキトーに減るまで、どっかに隠れてる気かもよ?」

部屋の隅のバーカウンターを陣取っていたクラインが口を開く。中央のソファにかけていたアスナさんが苦笑した。

「幾らキリトくんでもそこまではしないわよ。.......しないと思う、なあ」

「でも、シュウなら速攻かけそうだけどね」

アスナさんの隣に座るレイナさんが口に飲み物をすすりながらつぶやく。

やや小声の付け足しに、アスナさんの左肩に小さな妖精のユイちゃんが羽をぱたぱたさせながら言う。

「そーですよ、パパとシュウさんならきっと、カメラに映る暇もないほど一瞬で敵の後ろからフイウチしまくりです!」

「あっはは、それはありそうだね。しかも、銃ゲーなのに銃じゃなくて剣でね」

リズさんが現実的な推論に笑う。

たちまち朗らかな笑い声が部屋に満ち、シリカちゃんの膝の上のピナがピクピク耳を動かす。

久しぶりに集まった七人と一匹だが、場所は現実世界ではなく、VRMMO-RPG《アルヴヘイム・オンライン》の中の巨大な《世界樹》上の空中都市《イグドラシル・シティ》のアスナさんとお兄ちゃんが借りている部屋だ。

いつもならイグドラシルシティの綺麗な景色が一望できる南向きの一面ガラスの壁を見るが、今回は、大型スクリーンを兼ねているガラスに映される、他の世界の光景。ネット放送局《MMOストリーム》が生中継している、《ガンゲイル・オンライン》の最強者決定バトルロイヤル大会《第三回バレット・オブ・バレッツ》のライブ映像。

中継は基本的に一人のプレイヤーを背後から追いかける形だ。仮想カメラが追っている間はフレームの下部にそのプレイヤーの名前が表示されるのだが、現在十六分割で表示されている画面のどこにも【Kirito】と【Siu】の名がない。

フレームがグイッと回り込み、今度は倒れた青服が視点キャラになり、【ペイルライダー】の名が下部に表示される。
倒れはしたが、一撃で殺られたわけではない。右肩を中心にスパークが這い回り、アバターの動きを封じる。

「まるで、風魔法の《封雷網(サンダーウェブ)》みたい.....」

クラインさんが、呟く。

「オリャ、あれは苦手なんだよなぁ。ホーミング性能良すぎだろどう考えても」

「あんたは弱体化魔法全部苦手でしょ!ちっとは魔法抵抗スキルをあげなさいよ」

「へん、やなこった。侍たるもの、魔の一文字がついたスキルはとれねえ、取っちゃなんねぇ!」

「決意はいいけど、最悪でもクラインは魔法を避けるくらいはしようよ」

「うるせぇ!レイナは、BFO上がりだからよっ!」

クライン、リズさん、レイナさんの掛け合いに苦笑しつつ、アスナさんが右手を伸ばし、横たわるペイルライダーの画面を拡大する。

麻痺して転倒してからすでに十秒以上経つのに、フレームの中に他の誰も入ってこない。

ばさっ。

突然の音に六人が同時にぴくりと体を動かす。画面の左から、いきなり黒い布地がフレームインしてき、徐々に引き、姿を現す。

「......ゴースト......?」

誰が言ってかわからないがその姿は、ゴーストそのもののような姿をしている。ボロボロぼほつれたダークグレーのマント。顔まで隠れるフードからは、赤い二つの眼。

ボロマントはやけに大きな黒い銃を右肩にかけ、右手をボロマントの中に差し込むと、黒いピストルを一丁取り出した。

「......ショボくねぇ?」

クラインが、部屋の端で声を上げながら無精ひげをこする。

「どう見ても、肩のでけぇライフルのほうがATK上っぺぇよな。あっちで撃ちゃいいのに」

「弾代が高い、とかかなぁ?ALOでも、大魔法は高い触媒いっぱい使うし」

ボロマントは、黒いピストルの引き金を引かず、左手を持ち上げると、人差し指と中指の先で、額、胸、左肩、右肩の順に素早く触れる。

そのゼスチャーは、《十字を切る》仕草だ。

ボロマントは十字を切り終えた左手をピストルに握り添え、右足を引き、半身の姿勢で引き金を.......

「あっ......!?」

突然、全員の口から驚きの声がでる。

ボロマントが、いきなり体を大きく後ろに仰け反らせたのだ。すると、フレーム外から巨大なオレンジの光弾がさっきまでアバターがいた心臓を貫いて画面外へと消える。

多分、ずっと遠くから、何者かがボロマントを狙い撃ったのだろう。あの角度、あの速度で飛んできた遠距離攻撃を避けるとは相当な技術だ。

ボロマントは、ピストルを再び持ち上げ、今度こそ、地面で麻痺するプレイヤーに向け引き金を引いた。
発射された銃弾がペイルライダーの胸の中央に命中するが、HPをそれほど削ったようには見えない。

予想通り、ペイルライダーは、ようやく麻痺から回復したアバターが右手の大きな銃をボロマントの胸に突き付けた。

「うわ、大逆転......」

リズさんがそう口走る。

だが。

轟音も、閃光も、引き金が落ちる音さえも、耳に届くことなく、ペイルライダーの手から銃が滑り落ち、足元に転がる。続けて、持ち主も地面に倒れる。

「な........何.......?」

左手に口を当てて掠れた声が漏れる。

さらにペイルライダーの全身がぴたりと凍り、直後にホワイトノイズ的なエフェクトに包まれて消失する。

エフェクトの光は、アバター本体が消えた後もしばし空中に留まり、回線切断(ディスコネクション)と読める立体フォトンを、艶のない黒のブーツが踏み荒らす。ボロマントが、左手をマントの内側に戻し、一歩前へ進む。
どうやら向こうにも生中継のカメラ視点の場所がわかるらしく、まっすぐ右手の拳銃をこちら側に向ける。

「......俺と、この銃の、真の名は、《死銃》......《デス・ガン》」

モニターの向こうに映るボロマントの声にアスナさんの顔が少しこわばっている。

「俺は、いつか、貴様らの前にも、現れる。そして、この銃で、本物の死をもたらす。俺には、その、力がある」

さらにアスナさんの顔がこわばっていき、その表情は恐怖に震えるような表情だ。

「忘れるな。まだ、終わっていない。何も、終わって、いない。ーーイッツ・ショウ・タイム」

呆然と、するアスナさんに自然とみんなも沈黙してしまうが、突然右後ろで響く甲高いサウンドが響く。
振り向くと、クラインの右手から滑り落ちたプレイヤーメイドのアイテムが破壊された音だ。

「ちょっと、何やってんの......」

リズさんの文句を、クラインの低くしゃがれた声が遮る。

「う......嘘だろ......あいつ.....まさか.....」

それを聞いた途端、アスナさんが立ち上がり、振り向き、叫ぶ。

「クライン、知っているの!?あいつが誰なのか!?」

「い、いや......昔の名前までは.....。でも.....間違いねぇ、これだけは断言できる.....」

クラインは、深い恐怖に彩られた表情で言った。

「野郎は......《ラフコフ》のメンバーだ」

「.........!!」

私とレイナさんを除く、みんなが激しく息を吸い込んだ。

アスナさんは恐怖のあまりか、リズさんとシリカちゃんの肩に手を置き、おそるおそるクラインに問う。

「ま......まさか.....あいつらのリーダーだった、あの包丁使い......?」

「いや......《PoH》の奴じゃねぇ。野郎の喋りや態度とはぜんぜんちがう。でも......さっきの、『イッツ・ショウ・タイム』ってのは、PoHの決め台詞だったんだ。たぶん、野郎に近い、かなり上の幹部プレイヤーだ....」

呻くようにそう言うと、クラインはもう一度スクリーンを見た。アスナや、他の四人も、つられるように眼を戻す。
正面の拡大画面の中では、ボロマントが拳銃をしまい、遠ざかりつつあるところだった。ボロマントは、フレーム奥の鉄橋に近づき、それを渡るのではなく、橋桁の外側を通って川岸へと降りていくようだ。赤い夕日がダークグレーのマントは、消えてしまう。

「......って.....アスナ」

レイナさんが重い沈黙の中、指をモニターの端を刺しながら口を開く。

「どうしたの.....」

「この端のモニター拡大してくれますか?」

アスナさんは、言われるがまま、レイナさんが指をさした画面を拡大する。するとその画面に映る光景にまたしてもその場にいたみんなが驚きを隠せない。

「なんでだ......!?」

「嘘でしょ.....!?」

その画面に映るのは、ボロボロの黒いマントにフードを深くかぶり、その暗闇からは、銀色の仮面のようなものが覗き、その右手には黒いハンドガンを持っているプレイヤーがそこに......

「なんで!?こいつ、さっき違う画面に映ってたはずじゃ!?」

「俺にだってわかんねぇよ!?」

クラインとリズさんが驚きのあまり声をあげる。他のみんなは声をあげることもできないくらいに驚いている。

すると、モニターがボロマントの視界から対戦相手を二人映すようなカメラアングルになり、私は、思わず声をあげてしまう。

「待って!このボロマントと戦ってるのって!?」

そのモニターに映っているのは、漆黒の刃を持つ片手剣を右手に、左手に黒いハンドガンを持つ、黒髪の少年がボロマントと向かい合っている。

「このプレイヤーって、シュウくんじゃない?」

次の瞬間、モニターの片手剣を持つプレイヤーが一瞬でボロマントの前まで移動し、片手剣を振り下ろすが、ボロマントは、手に持っていたハンドガンで受け止める。

「テメェの目的は何だ!何が目的でプレイヤーを殺してやがる!答えろ!!」

画面から聞こえる声とその喋り方からその正体がシュウくんだということが確定される。

すると、シュウくんは後ろへ飛び退き、持っていた片手剣が一気に伸び、槍へと姿を変えて両手で持ち、高速回転させ、銃弾を弾く。

「さすがシュウくんだね」

銃弾をすべて弾いた後に再び片手剣へと変え、距離を詰める。

「お前は、何もできず、ただ俺の銃弾が、死へと誘う光景を、指を咥えて、見ているんだな.......」

すると、モニターに強力な閃光が出現し、眼を背ける。

「どうなったの?」

モニターを見るとボロマントの姿はなく、その場で倒れるシュウ君の姿が。

「シュウくん!!」

モニターを確認して、HPは0になってないないがその場に倒れて動く気配がない。

すると、急にアスナさんが大きく息を吸うと、リズさんの手に触れ返し、言った。

「わたし、一度落ちて、キリトくんとシュウくんの依頼主と連絡取ってみる」

「えっ!?アスナ、知ってるの!?」

「うん。本当は、みんなも知っている人なの。.....ここに呼び出して問い詰めるわ。絶対、何か知ってるはず。それとユイちゃん、私がログアウトしている間に、GGO関係の情報をサーチして、さっきのボロマントのプレイヤーに関係するデータがないか調べてくれる?」

「了解です、ママ!」

ユイちゃんが情報を拾い出す作業を開始する。

「.....じゃあ、みんな、ちょっとだけ待ってて!」

そう叫ぶや、アスナさんが体を光が包み、消える。

(頼みます、アスナさん。お兄ちゃんと集也くんを) 
 

 
後書き
次回、《死銃》を追うキリト、シノン。
《死銃》の襲撃により動けなくなるシュウ。

3人は、《死銃》へとたどり着くことができるかの?
 
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