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ソードアート・オンライン 〜槍剣使いの能力共有〜

作者:カエサル
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GGO編ーファントム・バレット編ー
  53.死の銃弾

 
前書き
第53話投稿!!

謎のボロマントと接触したキリトとシノン。
《死銃》の正体をキリトに知らせるためにフィールドを駆けるシュウの目の前に現れるマントのプレイヤーの正体とは? 

 


ボロマントは、ペイルライダーのすぐ目の前まで移動し、L115を肩にかけ、右手をマントの中に差し込んだ。サイドアームで止めを刺すつもりなのだろう。

「.......え.......」

思わず驚きの声が漏れた。

ボロマントが取り出したのは、どう見てもただのハンドガン。ハンドガンは、弾一発あたりのダメージは少なく、フルオートができるわけでもない。麻痺している時間を考えるとハンドガンで止めを刺すよりもL115で止めを刺した方が確実だ。

なのに、ボロマントは一切の焦りもなく、銃を持った右手を地面のペイルライダーに向けたまま、今度は左手の指先を、フードの額に当て、次いで胸に動かし、さらに左肩へ。そして最後に、右肩へ。

いわゆる、十字を切るーーという奴だ。

(死にゆくものはなむけのつもりなのか?)

あまりにも多くの違和感が襲い、強く唇を噛んだシノンの左耳に、不意に小さな囁きが飛び込む。

「......シノン、撃て」

キリトの声だ。
思わず問い返す。

「え?どっちを?」

「あのボロマントだ。頼む、撃ってくれ、早く!あいつが撃つ前に!!」

その声にただならぬことを感じとり、右手人差し指をヘカートのトリガーに移動させる。

息を整え、ボロマントの背中めがけて標準の誤差を修正し、トリガーに力を込めると、緑色の着弾予測円(バレットサークル)が対象を覆う。

轟音が鳴り響き、三〇〇メートル先のボロマントの背中に大穴が空いたアバターが見える........はずだった。

しかし、実際には、ボロマントは上体を大きく後ろに傾け、弾丸を避けた。

「な.........」

絶句した。
ボロマントの顔がこちらを向き、スコープ越しに自分の眼を見られている。そしてフードで隠れた口元がニヤリと笑みを浮かべる。

「あ......あいつ、最初から気付いてた......私たちが隠れてることに.......」

「まさか......!奴は一度もこっちを見なかったはずだ!」

同じように深い同様を見せるキリトの声に、小刻みに首を振る。

「あの避け方は、弾道予測線(バレットライン)が見えてなければ絶対に不可能。それはつまり、どこかの時点で私の姿を目視して、それがシステムに認識されたってこと.....」

そういう間に、右手ではへカートに次弾を装填し、改めて狙撃体勢に入りつつも考える。あれほどの反応速度の相手に、予測線ありの攻撃が当たるわけもない。
ならば、マガジンで残る四発を続けて撃てば。だが、外せば、逆に距離を詰められ、反撃の危険がある。

(どうする......どうすれば)

私の迷いを見透かしたように、ボロマントは体を戻し、再度右手の自動拳銃をペイルライダーに向けると、何の気負いもなくトリガーを引いた。

小さな閃光。
わずかに遅れて、かぁんと乾いた銃声が耳に届く。

「あ.......!」

隣で、キリトが何かに怯えたように呻いた。

銃弾は、外れるわけでもなくペイルライダーの胸の中央に命中した。だが、即死級のダメージではないはずなのにボロマントはそれ以上引き金を引かない。
拳銃を構えたまま、悠然と立っている。狙われていると知りながらも。

一秒、二秒、三秒ーー。

ここでついに、ペイルライダーを拘束していた電磁スタン弾の効果が切れる。

ペイルライダーは反撃のAR17ショットガンをボロマントの胸に突きつける。文字通りの0距離、当たればさすがに一撃で死んでもおかしくない。

反撃の銃声が........響かない。

代わりに、どさりという音とともにペイルライダーが、まるで関節壊れた人形のように両膝から地面に崩れ落ちる。ペイルライダーは、そのまま動かなくなった。

青白い迷彩服に包まれた全身が、ノイズを思わせる不規則な光に包み込まれ、突如生滅した。

最後に残った光が、【DISCONNECTION】という小さな文字列を作り、それもまは夕日に消えた。

「...........なに、今の」

さっきの行動に理解が全くできない。

ボロマントがハンドガンで一回撃っただけでペイルライダーを倒したってことになる。

(いや、違うわ!ただ、反撃しようとした寸前に運悪く回線トラブルが起き、ゲームから切断されてしまっただけよ!)

「あいつ......他のプレイヤーを、サーバーから落とせるの.......?」

掠れた声で呟くと、隣のキリトがまるでうわごとのような声で返す。

「......違う。そうじゃない。そんな生温い力じゃない........」

「ぬるい?どこがよ、大問題でしょ。チートもいいところだわ、運営は何してるん......」

「違う!」

突然、キリトがぎゅっと左腕を掴む。反射的に振りほどこうとするが、続いた声が、全身を凍らせた。

「あいつは、サーバーからおとしたんじゃない。殺したんだ。たった今、ペイルライダーは......ペイルライダーを操っていた生身のプレイヤーは、現実世界で死んだんだ!」

「..........な........」

(......何を言ってるの?)

そう応じようとした口は、再びキリトの言葉に押しとどめられた。

「間違いない。あいつが......、あいつが《死銃》ーー《デス・ガン》だ」

どこかで聞き覚えのある名前だ。

「......デス......ガン。それって、あの、変な噂の......?街の酒場や広場で、確か、前の大会で優勝した《ゼクシード》と上位入賞の《薄塩たらこ》を撃って、撃たれた二人がそれっきりログインしていないっていう.......」

「そうだ.......」

頷いたキリトは、そこでまっすぐ顔を見た。

「俺も......最初は有り得ないと
思っていた。昨日、待機ドームであいつと遭遇してからも、まさかと否定し続けていたんだ。でも、もう疑いようはない......あいつは、何らかの方法で、プレイヤーを本当に殺せる。実際に、《ゼクシード》と《薄塩たらこ》の二人は、少し前に死体で発見されている......」

(何でそんなこと知っているの?あなたは誰なの?そして、あなたとあのボロマントは、どういう関係なの.....?)

ボロマントは、拳銃をホルスターに戻し、肩のL115を背負い直し、【Dead】のタグを乗せたダインの方に歩き出す。ダインのすぐ横を通り過ぎて鉄橋へと向かい、橋を渡るでもなく、最初に姿を現した時のように、姿を消した。

ボロマントは、その後、十秒経っても姿を現さない。

その時、左手首にアラームの振動がかすかに伝わり、時計を見ると、八時四十四分五十秒。あと十秒で、三回目の《サテライト・スキャン》が行われる。ポーチから端末を取り出し、画面を見る。

「キリト、あんたは橋を監視してて。私はこれであいつの名前を確認する」

「わかった」

即座に戻る返事を聞きつつ、マップの更新を待つ。あと三秒.......二、一、スキャンを開始。

ぱぱっ、と画面に幾つかの光点が浮かび上がる。幾つかの光点をプッシュして名を探すがーー

「えっ.......な、無い!?」

鉄橋の下にあのボロマントの光点が存在しない。

(何でよ.......)




いつ《死銃》の野郎が動き出すかわからねぇ以上、とりあえずキリトとシノンと合流してやつの正体を知らせねぇと。

辺りにいるかもしれないプレイヤーなど気にせず、シノンとキリトの元へとフィールドを駆け抜ける。

「..........?」

俺は駆ける足を止める。
砂煙が舞う中に陽炎のようにボヤけ、ゆらゆらと揺れる黒い影が浮かび上がる。

(まずい!!)

自分の直感がそう告げ、反射的に横へと飛び退く。

目の前を覆っていた砂煙が一筋の弾丸により空間が切り裂かれる。

「不意打ちかよ.......っ!!」

(嘘だろ!何で......)

砂煙が晴れた先に現れたのは、黒いマントに身を包み、さらにフードを被りフードから少しだけ覗く銀色の仮面、その手には黒いハンドガンを持っている。

「お前は........《死銃》!!」

暗剣を右手にファイブセブンを左手に握りしめ、《死銃》と向かい合う。

「やっと見つけたぞ.......洗いざらい話してもらうぞ《死銃》!!」

地面を蹴っ飛ばし、一気に《死銃》へと近づく。暗剣が《死銃》をとらえた......と思ったが、手に持っていたハンドガンで暗剣の刃を防ぐ。

「テメェの目的は何だ!何が目的でプレイヤーを殺してやがる!答えろ!!」

黒マントは口を開かない。

次の瞬間、奴が持っていたハンドガンを暗剣を押しのけてこちらに銃口を向ける。

「チッ.....!!」

後ろへと飛び退き、暗剣を槍へ変化させ、両手に持ち替えて高速で回す。

槍防御技《オーディフェンド》
弾道予測線が現れた次の瞬間に数発の銃弾が飛んでくる。それを全て叩き落とし、槍から片手剣へと変更し、再び《死銃》と距離を詰める。

「うりゃぁぁ!!」

上から暗剣を振り下ろす。
《死銃》が俺の暗剣を後ろに飛び退き避ける。

「ちょこまかと動きやがって」

「お前では、俺は、止められない」

こもった機会音が俺の耳に届く。

「何だと?」

「お前は、何もできず、ただ俺の銃弾が、死へと誘う光景を、指を咥えて、見ているんだな.......」

機会音が止んだ途端に目の前に強烈な閃光と爆発音が響き渡る。

「くっ!......スタングレネードか」

かすむ視界の中で人影が向こうに去って行くのが見えたが、視界が消え、耳も聞こえなっていった。 
 

 
後書き
次回、《死銃》と接触したキリト、シノン。
そして、シュウも《死銃》と接触する。

違う場所に現れた2人の《死銃》の正体とは?
 
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