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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epic14-Cそれはもうジュエルシードの回収は大変で~StrangE~

†††Sideルシリオン†††

はやてとの朝食や家事を終え、私は集合場所であるフェイトのマンションへ飛んだ。屋上にはすでにフェイトとアルフが待っていたため、「待たせたねフェイト、アルフ。ごめん、そしておはよう」と2人の元に降り立つ。

「ホントだよ! なにやってたんだよ全く!」

「そんなことは良いから、早く行こう。管理局やあの子たちもきっともう動き出してるはず」

アルフには怒鳴られ、フェイトには急かされた。挨拶が欲しかったな、と少しヘコむ。

「判った。じゃあ早速行こうか」

今回回収するジュエルシードの眠る現場、海鳴市の郊外に在る疎林区へ向かう。空から現場入りして結界を展開。確かこの場で覚醒するジュエルシードの暴走体は、鳥のような魔力体だったはず。かつての記憶を呼び覚ましていると、「しっかし、もう変装しないんだねあんた」アルフが私の髪に触れてきた。

「管理局に見られた以上はもう隠す必要ないでしょ。それにこの方が動き易いし」

騎士甲冑は“界律の守護神テスタメント”の聖衣型のままだが、外套と仮面は外している。外套と仮面を創り出すにも魔力が必要だ。しかも部分的な変身魔法より消費が激しいため、この機に捨てた。

「ま、あんたがそれで良いんなら良いんだけどさ」

「アルフ。テスタメント。・・・来るよ、気を付けて」

フェイトが“バルディッシュ”を構え、私たちに注意を呼びかけた。アルフはそれに応じるように私との会話を切り上げて身構え、私は「間に合わなかったかぁ」と嘆息。ま、それも「あんたが遅刻したから、覚醒前に封印出来なかったじゃないか!」アルフの言う通り私が遅刻した所為。それには「ごめん」としか出てこないが、今は「とにかく戦うしかない!」気を取り直して、ケルト十字架型の漆黒の錫杖――第四聖典を構える。

「アイツがジュエルシードの暴走体だね」

「うん。行くよ・・・!」

「あいよ!」

疎林の中から飛び上がって来たのは、ギャアギャアと鳴く巨大な魔力の鳥。フェイトとアルフが飛び出して行き、迎撃行動に入ったのを見送る。

「はあああああ!」

――アークセイバー――

“バルディッシュ”の魔力刃を飛ばすフェイト。しかし魔力鳥は巨体さの割に素早く、魔力刃を回避。だが「セイバーブラスト!」とフェイトが告げると、魔力刃が爆発。煽られた魔力鳥がよろける。そこにアルフが魔力弾――フォトンランサーを撃ち込むが、魔力鳥は器用に翼で容易く叩き落とした。アルフはそれで諦めず、フォトンランサーの連射――フルオートファイアを撃ち込み続け、フェイトもまた避けては叩き落とす魔力鳥に向けてフォトンランサーで追撃。

「ってか、あんたも手伝えテスタメント!」

「アルフ。集中して」

怒鳴るアルフを窘めるフェイトに、「手伝った方が良い?」と訊いてみる。するとフェイトは「今はいい」と答え、そして魔力刃による斬撃――サイズスラッシュで魔力鳥の右翼を斬り払った。すかさずアルフが「おらぁぁぁぁ!」魔力を乗せた拳打を魔力鳥の脳天に打ち込んだ。大きく体勢を崩す魔力鳥。
その隙にアルフがチェーンバインドで拘束をし、距離を開けたフェイトがトドメの、

「サンダー・・・スマッシャァァーーーーッッ!」

雷撃砲を放った。砲撃は魔力鳥を呑み込み、そして完全に消し飛ばした。お見事、と称賛を送ろう。フェイトとアルフの間に浮かぶ、シリアル8のジュエルシードは、「封印!」フェイトの手によって封印された。私の元へ戻って来た2人に、「よし。少し休憩を挟んでから、次のジュエルシードを回収しに行くよ」と告げる。

「ううん。今すぐ行こう。私なら大丈夫だから」

やっぱりすぐには聴いてくれないか。一度体験させた方が良いな。休憩なしでの連続封印など無茶もいいところだと、どれほど大変なことなのか、と。1つ嘆息を洩らし、「後悔しないように」と忠告。フェイトは強く頷き、アルフはもう諦めているのか耳を垂れさせて無言。
ならば、と次の現場を選択するんだが・・・。「管理局が動き出したね」海鳴市に転送されてきた魔力反応は4つ。なのは、アリサ、すずか、そしてイリスの魔力反応。ユーノ達はアースラで待機か。

(というか、今さらすずかの家のジュエルシードを回収しに来たのか。おっそ~)

彼女たちの転送先は、月村邸だった。だったら感知されないように月村邸から一番離れたジュエルシードを回収しよう。

「どうするんだい?」

「決まってる。向こうとは正反対の場所に眠るジュエルシードを回収する。場所はゴミ処分場。覚悟はいい?」

「ゴミ・・・」

「処分場・・・」

嫌な響きだしな。私は大して思うことはないが、やはり女の子であるフェイトには辛いか? いや、真に同情すべきはアルフだ。狼である彼女の嗅覚からして、まさに地獄となるだろう。フェイトは「問題ない」とキッパリ断言。そして問題のアルフは「うぅ、しょうがないねぇ」渋々だが了承。
そういうわけで場所を市外のゴミ処分場へと移し、眼下に広がるゴミの山に私たちは「はあ」溜め息を吐く。とりあえずは結界を展開。3人揃ってゴミの原へと降り立つ。

「ところでアルフ。あなた、大丈夫?」

「あ、ああ。大して臭わないから平気だよ。ほら、さっさと見つけて帰ろう」

「うん。でも・・・どこをどうやって探せばいいんだろう・・・?」

確かに。魔力反応は感じるが、微弱なものだから正確な場所は判らない。一応結界内なため、第三者の手によって移動するという心配はないんだが・・・。それを抜きにしてかなりの広さを有するここから探すと言うのは、実に骨が折れそうだ。何せいま私たちの居る区画とは別に4つのゴミの原が存在している。

「だったら魔力流を撃ち込んで、強制発動させる?」

かつてのフェイト達が真っ先に提示していた方法を挙げてみる。

「う~ん。それも選択肢の1つだけど、この中で強制発動させるのはちょっと。下手に暴走体を生み出させて、ここのゴミを利用でもされたら面倒なことになりそうだし」

「はいはい。あんたの野蛮な提案は却下ってことだよ。これだから炎熱変換持ちは」

野蛮って。しかも偏見過ぎる。あと、もとはと言えば君らの発案だったんだぞコレ。私の案に否定的な2人に「じゃあどうする? 何か良い手がある?」と訊いてみた。すると2人は押し黙った。サーチャーの魔術、イシュリエルを使えればいいんだが、フェイト達が居るため使えない。仕方なく「足を使って探すよ」と告げ、私はゴミ山に入ってジュエルシードの探索を開始。そんな中でも魔力探査を怠らない。フェイトとアルフも散開して、探索を始めた。

(・・・・で、30分も探して発見できないとか・・・)

冷蔵庫やらテレビやら色々とゴミを漁ってみたが、なかなか出てこない。そしてついに「無理! もう無理だよフェイト!」アルフがうがあああ、と吠えた。フェイトもまた「そうだね。魔力・体力が切れるより精神が擦り切れそう」リタイア宣言。私の魔力探査にも引っかからないし。と、いうわけで「強制発動に賛成な人~」と手を挙げると、フェイト達もスッとすぐに手を挙げた。

「決まり。じゃあ早速・・・!」

フェイト達を連れて空へと上がり、足元にわざわざミッド魔法陣を展開させる。手にする第四聖典に魔力を乗せて「せいっ!」地上に向けて投擲した。

――ニーベルン・ヴァレスティ・ver 4th Testament――

本来のこの技は邪を浄化するものだが、今回は魔力流を発生させるための起爆剤として使用。地面に突き刺さった第四聖典を中心として魔力爆発が起き、魔力の渦が処分場に吹き荒れる。その様子を見下ろしていると、「来た!」隣の区画のゴミの原から立ち上がる青い光の柱。どうりで見つからないわけだ。見当違いの場所を探していたんだからな。

「行くよアルフ。テスタメント」

「あいよ!」「ええ」

ジュエルシードの放つ光を目指す。と、ゴミの原から冷蔵庫がミサイルのように飛んできた。先頭を飛んでいたフェイトが「はっ!」“バルディッシュ”で斬り裂いて一刀両断。何事だと冷蔵庫が飛んできた場所を見れば、「ゴミの兵隊・・・?」処分される前のゴミに手足が生えて起立していた。
なんて言うんだろう。そう、まるで不思議の国のアリスに出て来るトランプの兵隊のよう。それらがゴミを抱え上げ、『もっと物を大事にしろぉーっ!』そんな思念を私たちに送りなが放り投げて来ていた。

「ちょっとちょっと。あたし達が何をしたって言うんだい!?」

ひょいひょい避けるアルフが牙を剥く。確かにこの世界の住人じゃないアルフやフェイトにとっては完全にとばっちりだ。ゴミミサイルを避け続けていると、埒が明かないと判断したらしいゴミの兵隊が集まり、巨大な前腕へと姿を変えた。ジュエルシードは腕の中だ。それが判っているからこそフェイトが真っ先に動きを見せる。

「バルディッシュ!」

私たちに向かって伸ばされ来るゴミの手に向け、フォトンランサーのフルオートファイアを放つフェイト。しかし「通用しないか」弾かれたランサー。だがフェイトは落胆の色を見せず、自らを叩き落とそうとする手から距離を取って回避。アルフもまたランサーで攻撃するが、全然通用していないように見える。まずは状況を確認だな。「全員、上昇!」と指示を出して全員で高度を上げて、ゴミの手の届かない地点へ。

「フェイト。コイツ、かなり堅いよ!」

「うん。ランサーはもう通用しないと見ていいかもね」

「パッと見、魔力障壁が腕を構築する力場になってるから、アレを崩すには障壁を突破できるだけの攻撃力が無いと」

五指の先端から粗大ゴミを発射してくる手を観察しつつ、第四聖典の先端を向け、魔法陣を展開。用意するのは単純な純粋魔力砲撃。

――煌き示せ(コード)汝の閃輝(アダメル)――

魔法陣の放射面から「ブレイク!」と号令(ジャッジメントは封印だ)を下すと同時に砲撃を発射。ゴミの手は握り拳を作り、真正面から私の砲撃を殴り消し飛ばした。

「砲撃もダメか。(使用魔力が不足していたようだな)」

ソイツのターンはそれだけではなかった。あろうことか「ロケットパンチ!?」地面から切り離され射出された拳が、私たちへと突っ込んで来た。さすがにあの質量を防ぐことは出来ない。土石系の巨腕創造術式、イロウエルでなら容易いだろうが。

「とりあえず散開」

「うん」「ああ」

三方に散開して、私たちの居た場所を通過して行ったゴミの前腕。地上に目をやれば、新たな前腕――今度は左腕がゴミによって構築され始めていた。

「ん? あれ・・・?」

「どうしたの?」

「ジュエルシードがいつの間にか移動している・・・」

「え?・・・本当だ」

空へと昇って行ったゴミの腕へと視線を戻し、確かにジュエルシードが下へ移動していることを確認。それと同時。地上に目を向けていたフェイトとアルフの腕を取って、「離れるよ!」その場から高速離脱。訳が解らないという顔をしている2人に「上!」を見るように言うと、「あ!」私の行動を理解してくれたようだ。

「ジュエルシードの魔力で支えられていたゴミの腕だ。その供給源が失われれば――」

「あのように崩壊して空から降って来るってわけかい・・・!」

そう。私たちのような子供の身長を超す粗大ゴミが雨のように降って来た。直撃する範囲の外へと離脱し終え、改めて地上の左前腕へ意識を向ける。その左前腕は落下してくる粗大ゴミを掴み取り、もう一度私たちの居る空へと放り投げて来た。

「大事にしろって言う割に、やってることは酷いもんだねぇ!」

フェイトを庇うようにアルフが飛来してきた電子レンジを蹴り潰した。アルフが壁となることでフェイトは落ち着いて、ある魔法の準備を行える。周囲に満ちる雷光。フェイトの無詠唱魔法の中では最高の威力を誇る、ロックオン系の範囲攻撃魔法。

「テスタメント。手伝って・・・」

「何をすればいい?」

「私の魔法でアレを押さえ込むから、トドメをお願い」

「判った。任せて」

第四聖典の先端に魔法陣を展開。封印効果の持つ魔力、そして周囲の魔力を集束させていく。フェイトからは驚きの視線、アルフからは「集束砲!?」驚愕の声を頂いた。ある程度集束させ終えたところで、「いつでもいいよ」と準備万端を告げる。フェイトは強く頷き、「いくよ、バルディッシュ」意識を眼下へと集中させた。

「サンダー・・・」

フェイトの足元に展開される黄金の魔法陣からバインド効果を有する雷光が落ち、飛来してくるゴミや、ソレらを放り投げる地上の左前腕をも拘束する。シーリングフォームの“バルディッシュ”の先端を魔法陣へ向け、

「レイジィィーーーーッッ!!」

振り落した。稲光によって視界が白に染まる。そして放射面から放たれる雷光。粗大ゴミを一瞬のうちに黒炭に変え、左前腕を直撃。外周のゴミが炭化して崩れ落ち、徐々に左前腕を削っていく。

「今!!」

「空より流れ落ちるは天焦がし地焼く、始まりと終わりを告げし陽光の閃き。・・・奔れ、紅蓮の流星!」

放射面の前方に浮かぶ魔力の球体に炎を燈す。

「いっっっけぇぇぇーーーーッ!!」

――サンライズブレイカー・カルテットバースト――

第四聖典で魔法陣を打ち、火炎の集束砲撃を発射。サンライズブレイカーは途中で4つに分かれ、1発2発と着弾、続けて3発4発と着弾し、4度の爆発を引き起こした。その光景に「ちょっとやり過ぎじゃないかい?」とアルフはここへ届く熱波に呻き、フェイトは「熱つつ」火の粉が体に触れたのか手で右脚を叩いている。

「テスタメント! あんた、あたしのフェイトを傷物に・・・!」

「ごめんごめん。フィジカルヒール」

ミッド式の治癒魔法を、軽微の火傷を負ってしまったフェイトの右脚にかける。火傷はすぐに癒え、傷は残らずに消え失せた。「ありがとう」と礼を言うフェイトに、「どういたしまして」と応じ、目線を彼女から地上付近で輝くジュエルシードへと向ける。私たちは地上へと降下し、フェイト1人がジュエルシードへと歩み寄り、“バルディッシュ”を掲げて見せた。

「ジュエルシード、シリアル2・・・封印!」

ジュエルシードが“バルディッシュ”のコアへと封印され、その姿を消した。短時間で2つも封印したフェイトは「ふぅ」と大きく息を吐き、フラッとその場に座り込んだ。

「フェイト!」

アルフがフェイトに駆け寄り、肩を腕を回して抱き寄せた。額に汗を張りつかせたフェイトはアルフに助けてもらいながら立ち上り、「だ、大丈夫。テスタメント。次の現場へ移動しよう」とか言い出した。さすがに「死ぬ気?」と呆れ果てる。アルフとて「無理だよフェイト!」力づくでフェイトを座らせた。

「もう午前中は休むように。でないと次のジュエルシードの場所へは案内しない」

「っ!・・・そんな・・・!」

アルフに渡したジュエルシードの在処を記したメモは既に無い。私がアルフの誘いに乗ってフェイト達と同盟を結ぶと決めた際に、フェイトが目を覚ます前に破り捨てた。こういう風にフェイトが暴走した時の為の保険だ。私しか知りえない情報を盾に、彼女の暴走を抑えるために。

「フェイト。今は休もう。2つ連続でそんな状態なのに、休み無しでもう1つなんて無謀だよ」

「・・・判った。でもちょっと休んだら必ず・・・」

「念を押さなくても大丈夫。午後に1つ回収して、今日はそれで終わり。明日の午前と午後で2つ。残り3つは少し面倒な場所に在るから、明後日だ」

「そんな悠長なこと言ってたら、あの子たちや管理局に取られる・・・」

「あなたの心配はごもっとも。だから昨夜、私がすでに行動で示していたでしょ。高町なのは達とジュエルシードを賭けて戦い、勝てばいい。まぁ、負けたらこっちが失うことになるけど」

「大丈夫。絶対に勝つ」

「そうだね。フェイトとあたし、ついでにあんたが居りゃ、よほどのことが無い限り負けないさ」

この賭け勝負においてメリット・デメリットがあるのはなのは達とフェイト達だけ。しかし私にとって、勝とうが負けようがどちらにしてもデメリットは無い。

(すまないな。フェイト、アルフ)

アルフに膝枕してもらったフェイトはそのまま静かに寝息を立て始めた。姉妹のような2人を眺めながら、すずかの家のジュエルシードが封印されたのを確かめた。

†††Sideルシリオン⇒なのは†††

「灯台下暗しとはこのことよね・・・」

「えっと・・・ごめんねアリサちゃん、なのはちゃん。まさか自分家の庭に在ったなんて思わなくて・・・」

「ううん。でも、あの子猫には悪いことしちゃったね」

朝早くにシャルちゃんにしごかれ、その最中にエイミィさんからすずかちゃんの家にジュエルシードが在るって言われて驚いて、ティファさんっていうお医者さんに消費した体力と魔力を回復してもらって、すずかちゃんの家に訪れた。そこで私たちは、ジュエルシードを発動させちゃった子猫と遭遇。その願いと言うのが、大人に成長したい、ってことだったんだろうけど、ジュエルシードが叶えたのは単なる巨大化。

「まあ、元に戻すためとは言えなのはの砲撃を受けたしね。でもすずかの治癒魔法でちゃんと治したし」

ジュエルシードから解放するために、私は子猫に向けてディバインバスターを撃った。その後はすずかちゃんが子猫を回復して、私はシリアル14のジュエルシードを封印した。それから私たちは次のジュエルシードが見つかるまで待機して、そして今、その次のジュエルシードを封印するためにその現場に足を踏み入れた。

『みんな。その河川敷にジュエルシードの反応がある。発動臨界だから、もしかすると発動しちゃうかも。気を付けて』

「「「了解です!」」」

エイミィさんからの通信に応える。確かにさっきから周囲から魔力を感じる。すずかちゃんが詳細な場所を特定するために魔力探査を行い始めた時、

『悪い知らせが入った。フェイト組が2つのジュエルシードを封印したようだ。残りはそこの物と、どことも知れない5つだ』

クロノ君からそんなお知らせが入った。あまりにも早い発見と封印。アリサちゃんが「負けてられないわ」って“フレイムアイズ”を強く握り直した。私も「頑張ろうね、レイジングハート」柄を握り直した。と、その次の瞬間。

「ダメ!」『発動する!』

すずかちゃんとクロノ君が叫んだ。ビリビリ肌に感じるジュエルシードの魔力。300mほど先の草むらから青い光が立ち上った。そして青い光が私たちの所まで広がって来て、「ぅく」視界を潰してきた。眩しさに目を閉じて、光が治まるのを待つ。10秒くらいかな。ようやく光が治まって、目を開ける。

「?????」

目の前に広がる光景に首を傾げる。私の側に居たアリサちゃんが「何よこれぇぇぇ!」って絶叫。すずかちゃんやシャルちゃんも今自分たちが置かれてる状況に呆けてるって感じ。ぐるりと辺りを見回してみる。私たちはさっきまで草むらに居たはずなのに。だけど今、私たちが居るのはジャングル?のような場所。身長をグッと超える草、草、草。

『君たち、大丈夫か!? いまどこに居る!?』

クロノ君から通信が入って、「どこも何も移動してないはずなんだけど」シャルちゃんが答えた。私たちは光に呑まれてから一歩も動いてない。転送されるときの浮遊感も無かった。でも見渡す限り別の場所に連れて来られたって思えてもしょうがない光景だし。

『魔力反応に変化なし。でもみんなの姿だけが消えちゃったんだよ!』

「位置変わらずで消えた、なんてそんな馬鹿な。でも強制転移じゃないとすると・・・って、ちょっとちょっと」

シャルちゃんが腕を組んで空を見上げると、いきなり様子が変わった。私たちも上を見上げると、「っっ!!??」信じられないものを見て言葉を失っちゃった。ある草のてっぺん。そこに、それはそれは大きなクモさんが居たのです。真っ先に頭に浮かんだのは「世界が巨大化しちゃった!?」というもの。

「違う! わたし達が小さくなったんだ!」

シャルちゃんの右手に“キルシュブリューテ”が現れて、「ジュエルシードを封印するよ!」って急に走り出した。私たちもシャルちゃんを追うように走りだす。後ろとチラっと振り向いて見れば、「アリの大行進!?」さっきまで居た場所を横切る巨大なアリさん御一行。しかも蝶の死骸を運んでる最中。ボロボロになってる蝶を見て、「ぅぷ」ちょっと気持ち悪くなっちゃった。

「アースラ。ナビゲートよろしく!」

『了解だよ♪ そのまま北上で~す』

「チクショー! わたし達はそんな陽気な状況じゃないって言うのに!」

エイミィさんに従って私たちはひたすら走る。そんな中でも・・・

「カマキリの幼虫、襲来ぃぃーーーーッ!!」

「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!」」」

羽化したカマキリの赤ちゃんがわんさか目の前に登場。叫んだ、叫んだよすっごく。恐怖で涙がポロポロ溢れ出てくる。お化けもダメだけど、虫もダメ。巨大だと余計にアウト。

「ひょぉぉぉぉ! カエルが跳んできたぁぁぁぁっ!」

「「「いやぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」

私たちを餌と見てるようなカエルがピョンピョン跳ねて来て、その長い舌を伸ばしてくる。必死にシールドやバリアを張って対処。攻撃? 無理! どういう結果になるか判らないもん!

「ああもう! 猿にピエロに鬼にお化けに蛇に猫、そんで次は虫ってか!」

アリサちゃんが怒声を上げた。あと私はその前にモコモコお化け、暴走車(は違うかな)、変態水お化けと戦ってます。回想してると、すずかちゃんが「みんなストップ! 隠れて!」そう言って、草の陰に身を隠した。
私たちも倣って草の陰に隠れる。と、数羽のスズメが飛んできて、地面から顔を出していたミミズを啄んだ。見たくないからサッと視線を逸らす。スズメが飛び立って行ったのを確認した私たちは、再びジュエルシードを目指す。

「飛べないあたしが言うのもなんだけどさ。空飛んで行った方が早くない?」

「鳥に虫と勘違いされて喰われる覚悟があれば、ね」

「やっぱやめとくわ」

危険度はどっちも変わらないと思うけど、さすがに鳥を相手に空で勝てるとは思わないから、何とかなりそうな陸路を選ぶ。でも徒歩や走るんじゃ時間が掛かりすぎるのも確か。と、いうわけで・・・「地面スレスレを飛べばいいじゃない」そういうことに。アリサちゃんは後ろからすずかちゃんに抱っこされて空を飛び、私がシャルちゃんを後ろから抱っこして飛ぶ。

「シャルちゃんってとても良い香りがするね~♪」

甘くて優しい、そしてどこか懐かしい香り。すごく落ち着く。入浴剤や石鹸、シャンプー・リンスとか、そういうのじゃなくて、シャルちゃん自身から香りがする。

「そう? ありがとう、なのは。わたしね。なのはに抱きしめられてると、すっごく安心できるの。なのはは良いお母さんになれそうだよ♪」

「え? そうかなぁ・・・? 未来のことはよく判らないけど、でも、そうだと嬉しいな♪」

「あはは」「にゃはは」

2人でニコニコ笑ってると、すぐ側を飛んでるアリサちゃんから「イチャついてる暇はないわよそこ!」ってお叱りの言葉をもらった。シャルちゃんと2人して「ごめ~ん」と謝りながら、ジュエルシードの在る場所へと飛ぶ。

「前方、蜘蛛の巣ありです!」

「りょ~か~い!」

すずかちゃんの指示に従って僅かに上昇して蜘蛛の巣を素通り。と、その直後「バッタぁぁぁぁ!」目の前の草からこっちに向かってバッタが跳んできた。今の私たちと同じサイズだから恐ろしいのなんのって。回避行動に移ろうとした時、

「ふぉぉぉぉ! さっきのカエルかぁぁぁぁ!」

横から跳んできたカエルの舌が空中でバッタを捕獲。そのまま私たちの目の前を通り過ぎて行って、草むらの中に消えて行った。今の内って言うことで私たちは少しスピードを上げる。ようやく草むらを抜けて、川沿いへと到着。

『近いよ! 気を付けて!』

「「「はいっ!」」」

「ありがとう、なのは。降ろして」

「あ、うん」

地上に降り立ってシャルちゃんと離れる。アリサちゃん達も降り立って分離。それと同時。私たちを囲う輪っかのような魔力の流れが生まれてくるのが判って、次第に目で見ることが出来るほどになった。

「とりあえずなのは達だけで封印してみて。危なくなったら、わたしも加勢するから」

「心配ないわよ。短い時間だったけど、あんたとの訓練であたし、結構強くなったと思うし」

アリサちゃんが“フレイムアイズ”のトリガーを引くと、銃身から薬莢――カートリッジが排出されて、アリサちゃんの魔力が跳ね上がる。それを合図にしたかのように周りの魔力の流れに変化が生まれた。輪っかだったようなものがいくつにも途切れて、私たちの身長を超すほどの魔力の球体が12と生まれた。
そしてその魔力の球体がグニャグニャ形を変えて、最終的に「ぬいぐるみ・・・?」になっちゃった。ウサギのぬいぐるみはピョンピョン跳ねて、犬のぬいぐるみは後ろ足で首を掻いてたり、デフォルメされた虎はガオーガオーって吠えてる。

「ねえ。あたし達の小人化と関係あると思う? あのぬいぐるみ軍団」

「「「さあ?」」」

ジリジリとにじり寄ってくるぬいぐるみ軍団。私たちはそれぞれデバイスを向け、警戒。そしてぬいぐるみは一斉にピョンって跳ねて、私たちの頭上へ。それは正しくボディプレス。急いでその場から散開。遅れて地面に腹這いで落下したぬいぐるみは、そのままポヨンポヨンと跳ねる。あれなら受けてもそんなに酷いことにはならないかも。跳ね終えたぬいぐるみが起き上がって、

『ぼくたちおもちゃ♪』

『子供の相手♪』

『大人の相手♪』

『楽しんでもらえるように♪』

『いっしょにあそぼう♪』

『でもいつも遊ばれるのはわたしたち♪』

『小さい小さい僕たち♪』

『少し疲れたから、今度はぼくたちが人間で遊ぼう♪』

『でも大きい人間たちにはかなわない♪』

『だから小さくしちゃおう♪』

『私たちより小さくしちゃおう♪』

『これで遊べるねそれで遊べるねずっと遊べるね♪』

ぬいぐるみ達が歌い始めた。それは、私たちが小さくなった理由そのものの歌詞。歌が終わると、私に向かってイノシシと馬と虎のぬいぐるみが突進してきた。アリサちゃんには猿と牛とニワトリ、すずかちゃんにはネズミとウサギとヘビ。シャルちゃんには羊と犬と龍が向かって行った。

「みんな! 向かって来る敵は撃滅!」

“キルシュブリューテ”の刀身に真紅に光り輝く魔力が迸って、シャルちゃんは柄を両手で握りしめて横一線に振り払った。

――光牙烈閃刃――

刀身から放たれるのは、剣先の形をした斬撃――ううん、それはもう砲撃だった。その一撃で、シャルちゃんに向かっていた3体のぬいぐるみは消し飛んじゃった。

≪マスター。今は敵に意識を≫

「あ、うん! レイジングハート!」

≪Divine Shooter≫

「シューット!」

魔力弾ディバインシューターを6発、ぬいぐるみ1体につき2つずつ撃ち込む。どれも額に直撃だった。だけど少しふら付くだけで、突進は止まらなかった。だったら・・・「フライアーフィン!」足首に魔力の翼を展開。体を浮かせる。

「新魔法第一弾! フラッシュムーブ!」

≪Flash Move≫

高速移動魔法――フラッシュムーブを発動して、迫り来るぬいぐるみ3体へ向かって前進。今の私じゃまだ練習が足りないから複雑な軌道での移動は出来ないけど、前進・後退くらいなら問題ない。そして「新魔法第二弾!」フラッシュムーブからの連続技・・・

「せぇぇぇーーーいッッ!!」

≪Flash Impact≫

圧縮魔力を“レイジングハート”に乗せた打撃魔法――フラッシュインパクトで、先頭だった馬のぬいぐるみの首を殴打。命中した時に魔力が光を伴って炸裂して、馬に追加ダメージを与える。そのまま“レイジングハート”を振り抜いて大きく殴り飛ばす。
大きさの割に軽いから、面白いほど飛ぶ。次の虎とイノシシの突進は空へ上がって回避。弧を描くように宙を舞う馬に照準を合わせる。落下を始めた馬の辿る軌道の先に向けて、

「ディバイィィン・・・バスタァァァーーーーーッッ!!」

砲撃を発射。予測したとおりのタイミングで砲撃の射線に落下した馬に直撃。消滅したのを視認して、次は飛び上がって来た虎のぬいぐるみの爪をバリア――プロテクションで防御。バリアに弾かれた虎は下に居たイノシシの上に落ちて、2体ともゴロゴロ転がった。
動きが小さくなった今のうちに「シュート!」ディバインシューターを6発、虎とイノシシに向けて発射。
着弾している最中にもう一度砲撃の準備。ヨロヨロ起き上がろうとしてた2体に向けて、

≪Divine――≫

「バスタァァーーーーッ!」

砲撃を発射。直上からの直撃で、虎とイノシシのぬいぐるみも倒すことが出来た。それを確認してすぐ「アリサちゃん! すずかちゃん!」2人の様子を見る。まず最初にアリサちゃんが視界に入った。シャルちゃんから剣の手ほどきを受けたことで、攻撃の魔法はフレイムウィップだけじゃなくなった。

「バーニングスラッシュ!」

シャルちゃんの魔法のように刀身に炎を纏わせての直接攻撃で、アリサちゃんは最後のぬいぐるみ、牛を一刀両断。一気に燃え上がった牛はそのまま消えて行った。最後にすずかちゃん。すずかちゃんの相手はネズミとウサギとヘビ。すずかちゃんがユーノ君たちから教えてもらった攻撃の魔法は3つ。その内の1つ、着弾時に相手をバインドで拘束するバインドバレットで、3体のぬいぐるみを拘束。

「スノーホワイト!」

≪参りますわ!≫

すずかちゃんの足元と前方に藤紫色の魔法陣が展開されて、「バスターラッシュ!」セレネちゃんの砲撃を放った。セレネちゃんの砲撃と違うのは、砲撃と一緒に吹雪も発生させて進化していること。それもこれもセレネちゃんとエオスちゃんのデバイス、中遠距離のペルセースの機能を“スノーホワイト”に譲ったから。セレネちゃん達はもう戦えなくなったけど、2人は後悔してないって笑ってた。

「すごい・・・!」

バインドから逃れようともがいてた3体のぬいぐるみが砲撃を受けて凍りつくと、3つの氷像になった。そしてピキパキとヒビが入っていって、大きな音を立てて崩れて地面に落ちる前に消えていった。それをみんなで見届けた後、すずかちゃんが「やった♪」私たちにピースサインを向けた。私やアリサちゃん、シャルちゃんもピースサインで応えてると、すぅっとジュエルシードが音もなく現れた。そしてジュエルシードから発せられた光に視界が閉ざされて、治まったところで目を開ける。

「「「あれ・・・?」」」

「ふぅ。元に戻ったみたいだね」

気が付けば体の大きさが元に戻ってた。ホッと一息。これでもう虫に襲われても大丈夫。安堵しているところに「なのは。封印、お願いね」ってシャルちゃんに頼まれた私は「うん」って応えて、“レイジングハート”をシーリングモードへ。

「ジュエルシード、シリアル12・・・封印!」

本日2つ目のジュエルシードを封印。みんなとハイタッチしてそれを喜び合う。それから私たちは次のジュエルシードの在処が特定されるまで、アースラで待機することになった。


 
 

 
後書き
カリメーラ。ヘレテ。カリスペラ。
今話は、駆け足で両陣営に4つのジュエルシードを回収させ、残り5つとなりました。
それにしてもINNOCENTの魔法ですが、プレイしていない事であまり判らないんですよね。
スキル名や効果はネットで確認できるんですが、いかんせん絵面だけからでは詳細な情報が得られない。
漫画版の方に期待するしかないですね。まぁ、登場する頃にはエピソードⅠは終わってるでしょうが(泣)
 
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