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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epic15狂い出す歯車~The DeviL~

 
前書き
The Devil/悪魔の正位置/苦しい事はやめよ。どこかで怯えているのではないか? 本当にこれで良いのか、と。本当に自分が望むことは何なのか。目を覚まし、何度でも確認してみるといい。 

 
†††Sideルシリオン†††

最後の3つのジュエルシードにあと僅かで触れる、というところでプレシアの干渉が入った。次元跳躍のサンダーレイジ。プレシアの雷撃は私、なのは達、イリスとクロノ、そしてフェイトとアルフをも襲った。それぞれに猛威を奮う前、「させない!!」第四聖典をブーメランのように頭上に投擲することで人数分の雷撃を迎撃。第四聖典に妨害された複数の雷撃は威力をある程度殺され、周囲に拡散、海面に落ちた。

「フェイト・テスタロッサ、アルフ! 撤退! ジュエルシードは手に入れた!」

プレシアによって転送されそうになっていたジュエルシード3つを掴み取り、“神々の宝庫ブレイザブリク”へ即取り込む。で、戻って来た第四聖典を掴み取ろうとしたところにクロノとイリスが「逃がさない!」と追撃を仕掛けてきたが、

「「フォトンランサー・マルチショット・・・ファイア!!」」

「しま・・・っ!」

「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」

後方からのフェイトとアルフのランサーの弾幕の直撃を受け、2人は海に落ちた。私に必死過ぎたのが失敗だったな。なのは達は今もなお私のケージによって捕獲中。先の次元世界と同じようにアースラもプレシアの雷撃によって何かしらの被害を受けているはず。邪魔する者は居なくなった。逃げるなら今。フェイトとアルフを引き連れ、その場より撤退。念のためにジャミング結界を展開。

「・・・にしても、あのクソババア! 一体何を考えてんだい! 管理局の連中ならいざ知らず、実の娘のフェイトにまで攻撃するって馬鹿じゃないのかい!」

「・・・アルフ。母さんの悪口は――」

「いいや! 今回ばかりは譲れないよフェイト! テスタメントが居なけりゃ、あたし達はどうなっていたことか・・・!」

アルフはプレシアの行為に怒り心頭のようで、フェイトの言葉を遮って怒鳴りまくる。アルフの剣幕にフェイトは「母さん・・・」そうポツリと漏らし、黙ってしまった。あまり良くない空気だな。とりあえず「一度アジトに戻ろう」と2人の肩をポンと叩く。そしてアジトであるマンションへと着いてからもアルフの怒りは収まらず室内をウロウロ、ソファに座るフェイトもやはり母親のプレシアからの攻撃にショックなようで項垂れている。

「フェイト・テスタロッサ、アルフ。今後のことについて話をしよう」

マナーが悪いだろうが私はテーブルに腰を下ろし、そう呼びかける。フェイトは「うん」と居住まいを正し、アルフは「あいよ」とフェイトの隣に座った。プレシアへの不満・不安を横道――今後のことへと逸らしてやれば、少しは気が晴れるだろう。

「じゃあ始めよう。まず私たちのジュエルシードの回収数について。私が13。あなた達が11。高町なのは達が7。計31個。ジュエルシード全部で間違いない」

「そうだね。母さんから聴いてた通りの数だ。・・・ねえ、テスタメント。同盟の約束事なんだけど・・・」

「ええ。全部を集めたら、私とあなた達とで半々に分ける。私が15個で、あなた達が16個。それでいいんだよね?」

「うん。母さんは最低でも14個って言っていたから、それでいいよ」

それが私たちの間で取り決めた分配数だ。最低数14。かつての次元世界ではその最低数でアルハザードへの道を切り開けるという話だったらしい。そこにプラス2つの16個。私たちはそれで納得しているが、この同盟の約束事にはある問題がある。
それは「あなたの母親にはまだ話を通していないけどね」ということだ。私とのジュエルシード同盟はフェイトとアルフの独断だ。プレシアが拒否すればすぐさま私たちの間で争奪戦勃発だろう。

「ちゃんと話せば判ってくれると思うんだけど・・・」

「だからさ。一度会って挨拶をしたいんだよね。あなたの母親、プレシアって人に」

という名目のもと、グランフェリアの情報をプレシア本人に問い質す。そのためにはまず顔を合わせないとな。まともに話し合いが出来るとは期待していないが、ジュエルシードを餌にすれば多少は話せるだろう。

「危なくないかい? あんたもプレシアの魔法の標的にされてたじゃないか」

「そう、だよね・・・。でもどうして母さんがあんなことしたのか判らない・・・」

私は判っているんだよフェイト。プレシア・テスタロッサの狙いが何なのか。ま、もし襲われたとしても私が勝つけどな。私とプレシアについて悩んでいる2人に「で? 会わせてくれるの?」と改めて訊いてみると、フェイトが少し黙考したあと「判った」と頷いた。

「集めたジュエルシードを渡さないといけないし。そのついでにテスタメントを紹介するよ。あ、それと・・もし母さんがテスタメントを傷つけようとしたり、私に攻撃するように言ったら私は・・・」

そこまで言ってフェイトは口を噤んだ。信じ合う仲間という関係ではないが、それでも共に戦った仲としては見てくれているようだ。

「その時は母親の言葉に従えばいい。アルフも。その代わり私も全力で抵抗するから。だからあなた達も全力で掛かっておいで」

そう笑ってやると、フェイトとアルフはポカンと口を開け呆けた。が、すぐに「負けないよ」フェイトは凛とした表情になり、アルフもまた「後悔すんじゃないよ」と犬歯を見せる笑みを浮かべた。ああ、それでいい。私のことを信じないでくれ。好きにならないでくれ。その方が君たちの為だ。

「ありがとう。じゃあ早速行こう、すぐ行こう」

というわけで、私たちはプレシアの待つ時の庭園へと向かうことに。マンションの屋上でフェイトが転移の儀式を行い、私たちは世界を越えて時の庭園へ。転移の浮遊感をこの身に受け、気が付けばそこは懐かしき時の庭園だ。らしくない緊張に両拳を握りしめ、フェイトを先頭に城内の廊下を歩く。

「――あの扉の奥、玉座の間に、私の母さん――プレシア・テスタロッサが居る」

「テスタメント。あんま無茶しないでおくれよ。ケンカを売ったり買ったりとか、さ。正直アイツは娘のフェイトにも容赦しない鬼だから。あんたを敵と見なしたらどんな目に遭うか判ったもんじゃないよ」

「アルフ・・・もう」

アルフの暴言をフェイトが窘める。だが私はアルフの味方だ。プレシアは実の娘であるアリシアだけしか見ていないし考えていない。フェイトを人形と蔑み、果てには大っ嫌いとまで言い放った。私は今でもあれを許していない。あの時のことを回想していると「じゃあ開けるね」フェイトに言われ、「お願い」と頷く。扉を開け、私たちは玉座の間へと足を踏み入れる。と、「フェイト」プレシアの声が。

「か、母さん。ただいま帰りました」

「・・・フェイト。部外者を連れて来るなんて。何を考えているの?」

明らかに敵意を向けてくるプレシア。フェイトは「ごめんなさい」と頭を下げて謝ったあと、私のことをプレシアに紹介した。ジュエルシード同盟のこと。回収に協力したこと。グランフェリアの情報を欲しがっていることを。そして説明し終えたフェイトは切り出した。何故私たちに魔法を仕掛けたのか。

「あれは仕方のないことよ。管理局の魔導師に奪われるわけにはいかなかった。正確に範囲を絞り込めなかったことについては母さんに非があるかもしれないわ。でもねフェイト」

プレシアの目に怒りが宿り、フェイトがビクッと怯えた。

「あなたとアルフが管理局員のバインドに引っかからなければ、巻き込まれることはなかった。母さんの言っていること、間違っているかしら」

「それは・・・」

確かにそれもある。だが、お前の性格からして仕置きの意が大きかったんだろ。怯えるフェイトを庇うかのようにプレシアとの間に立ったアルフ。私はそのさらに前に立つ。

「その件に関してはもうどうでもいいです。あなたがそう言うのならそうなんでしょう」

敵味方関係なしに魔法を撃ったことは本当にどうでもいい。もう済んだことだ。

「今の私とフェイト、アルフに必要なのはジュエルシード同盟においての内容です。受け入れてくれるか否か、それだけを教えて下さい」

問題はこの全てだ。プレシアの視線がフェイト達から私へと移る。フェイトへ対する怒りや憎しみといった負の感情は薄らいでおり、その代わり見下し感が生まれていた。

「そう。同盟、ね。・・・テスタメント、だったかしら。我が娘フェイトと、その使い魔アルフへの協力、感謝するわ。それでなのだけど、同盟における分配数についてちょっと話がしたいわ。時間、いただけるかしら?」

やはり来たか。そうだよな、半々ではなく全てのジュエルシードが欲しいよな、お前は。私は「判りました」と首肯すると、プレシアはフェイトとアルフにここで待つよう言い、私には「ではこっちへ」と玉座の間の中央へと招いた。
フェイト達と軽く視線を交わし、私は招かれるままプレシアの立つ広間の中央へ。プレシアと向き合うと足元に魔法陣が浮かび上がり、「落ち着いて話せる場所へ向かうわ」プレシアが言うと同時、転移が始まった。

「・・・ここは・・・!」

転移した先。そこはかつての決戦の場――時の庭園の最下層に位置する広間。目の前に立つプレシアは踵を返し、私からある程度距離を開けた後、こちらへ振り返った。それと同時。プレシアの手に杖が出現し、「ヴォルテックチェーン!」前方の足元に展開した魔法陣より雷撃の鎖を10本と発生させ、私へ襲い掛からせた。

「落ち着いて話せる場所、ねぇ。これが話し合いだと?」

左手に第四聖典を携え、ソニックムーブでその場から離脱する。3本がその場へ突き刺さり、残り7本が私を追尾してきた。

「あなたのジュエルシードを全て渡しなさい。そうすればグランフェリアの情報をあげるわ」

「そうはいかない。ジュエルシードはこちらにとっても重要な物だからね」

フェイト達や管理局の目はない。なら少しは本気を出せるな。

――舞い降るは(コード)汝の雷光(パシエル)――

私の本来の魔力光、サファイアブルーに輝く雷撃の魔力槍を40基と展開。指を鳴らし「蹂躙粛清(ジャッジメント)!」号令を下す。と、パシエルは一斉に降り注ぎ、プレシアの雷の鎖を撃ち落した。驚愕に目を見開いたプレシアへ向け第四聖典を投擲。プレシアはハッとして杖を前方に掲げた。

――エクスディフェンダー――

プレシアは六角形がいくつも組み合わさったバリアを展開。遅れて第四聖典が着弾。干渉能力は無くとも第四聖典単体で十分な破壊力を有している。着弾点よりバリア全体に広がるヒビ。ジュエルシードの魔力を利用していない今、プレシアなど私の敵じゃない。ついにバリアを粉砕し、プレシアへと襲い掛かる第四聖典。が、プレシアに当たる前に第四聖典を手元に戻す。

「え・・・?」

「私の目的はあくまでグランフェリア。そしてグランフェリアを打ち倒せるほどの魔力を得るためのジュエルシード、最低10個。そういうわけで、全部は渡せない」

私の目的を聴き、プレシアは「グランフェリアを、倒す・・・?」と信じられないと言った風に呻いた。

「そう。だからさ・・・グランフェリアの居場所、知っていたら教えてよ」

「フフ。そうなの。グランフェリアを倒す・・・。フフフ」

プレシアは心底可笑しいと言う風に笑い声を上げ始めた。その様子に何かあると思い、この空間一帯に魔力探査を行うと、今まで感じ取れなかったある魔力が引っ掛かった。心臓を鷲掴みされたかのような息苦しさ。バッと背後へ振り向いた瞬間、目の前いっぱいに広がる琥珀色の魔力。その色は正しくグランフェリアの魔力光だった。この小さな体を押し潰すかのようなプレッシャーに襲われる中、

「やってみるといいわ。私の(・・)グランフェリアを倒せるものなら倒して見せない」

プレシアの優越感に満ちた声が耳に届いた。

†††Sideルシリオン⇒フェイト†††

母さんとテスタメントがどこかへ転移してからしばらく。玉座の間の中央に母さんの魔力光である紫色の魔法陣が展開されて、母さんが転移してきた。でもテスタメントの姿は無い。アルフが『アイツ。まさかやられちまったんじゃ・・・』なんて信じたくないことを念話で言ってきた。

「『そんなの嘘!』か、母さん。テスタメントは?」

私に背を向けてる母さんに尋ねてみる。けれど母さんは無言で佇んだまま。聞こえてないのかな?って思って「あの、母さん・・?」と呼びかけてみる。それでも反応してくれない。そんな中、アルフが「フェイト。ちょっと下がって」って私を庇うように立った

「ねえ。フェイト」

ようやく母さんは喋ってくれた。慌てて「はい!」応じる。母さんはゆっくり私の方に振り返ってくれた。けど「っ!?」母さんの表情は怒り一色だった。体が震える。私、母さんを怒らせるようなことをしちゃったんだ。お仕置きされないと。

「あなた。同盟なんて勝手なことをして。ジュエルシード回収を手伝わせたことはまだいいとして、それを半々に分ける?」

母さんの持つ杖が鞭になる。鞭で打たれる痛みを思い出して、全身が強張る。鞭を振るって床を叩く母さんは「仲良くなんてしないで奪いなさい。何の為の魔法なの?」って、今度は私に向かって鞭を振るってきた。でも私の前にアルフが立っているからその鞭は「させないよ!」アルフに受け止められた。

「もうあたしのご主人様――フェイトは傷つけさせないよ!」

「邪魔だわ」

――サンダーウィップ――

母さんの足元に魔法陣が展開されてすぐ。鞭に電撃が走って、鞭を掴んでいたアルフが「うあああああああああッ!!?」感電した。全身からバチバチ放電してるアルフが鞭から手を放して、ゆっくりと仰向けに倒れた。すぐに「アルフ!!」駆け寄る。アルフは白目を剥いていて、完全に意識が飛んでる。

「フェイト。母さんは悲しいわ。私の願いの為に全てのジュエルシードを集めてくれると思っていたのに」

「あ、あの! でも・・・母さんは最低14個って・・・」

「そうね。でもそれで満足するわけないでしょ。私の娘なら全てを取って来るのが当然でしょう!!」

母さんがまた鞭を振るう。今度は私を護ってくれるアルフが居ないから「ぅぐっ!」右腕に当たる。そこから何度も体中を鞭で打たれる。痛みで何度も叫びそうになるけど、私が母さんの期待を裏切った所為だからと耐える。床に伏せて叩かれ続けて、どれくらい経ったのか判らなくなったとき、「お前ぇぇぇぇぇッ!!」目を覚ましたアルフが私に届きそうだった鞭を背中で受けて、私を護ってくれた。

「アルフ・・?」

「フェイト! 酷い傷じゃないか!・・・こんの・・・プレシアぁぁぁぁぁぁぁッッ!」

アルフが母さんに殴りかかりに行った。止めようにも痛みで声も出ないし動くことも出来ない。アルフはかなり殺気立ってる。下手すれば母さんかアルフのどっちかが大怪我をするかもしれない。アルフと母さんの距離が狭まったその時、

――雷槍迅穿衝――

2人の間の床下から天井へと琥珀色の砲撃が通過して行った。グランフェリアの魔力光だ。砲撃が着弾した天井から「テスタメント・・・!?」が落ちて来て、「あんた、どうして・・!?」アルフがジャンプして宙で抱き止めた。遅れて床下から黄金の槍を携えたグランフェリアが飛び上がって来て、宙に居るアルフをテスタメントごと槍で薙ぎ払った。

「え・・っ!?」

「「うああああああ!!」」

「ア・・・ルフ・・・!」

痛む体を押して立ち上って、床に叩き付けられたアルフとテスタメントに元へ向かう。その途中、床に降り立ったグランフェリアと目が合う。最初に口から出て来たのは「なんで・・・!?」だ。グランフェリアはそれには答えてくれず、私より先にアルフ達の元へ歩いて行く。
そしてアルフが胸に抱えているテスタメントの前髪を引っ掴んで、アルフから引き離した。前髪を引っ張られて、目線の高さまで持ち上げられたテスタメントは「ぅぐ」って苦悶の声を漏らして、グランフェリアに向かって「離せ・・・」って呻く。

「はぁ。無様を通り越して哀れね。あまりに哀れすぎて同情するわ・・・!」

――雷纏鎧(らいてんがい)――

「があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!」

グランフェリアは全身から放電して雷を身に纏う。当然テスタメントにも雷が流れて、感電して絶叫した。放電を止めたグランフェリアは「ジュエルシードを渡しなさい」って呻き声を上げてるテスタメントに言い放った。

「ふざ・・ける・・・な・・・」

息も絶え絶えに拒否したテスタメント。するとグランフェリアはあの子を床に叩き付けて、槍であの子の右肩を突き刺した。痛みで悲鳴を上げるテスタメントだったけど、すぐに歯を食いしばって、ニッと笑みを浮かべた。やせ我慢だって言うのが判る。グランフェリアは「そう」と言って、槍を抜いたと思ったら今度は左肩を突き刺した。

「ぅぐぅぅぅあああああッ!」

「やめ・・て・・グランフェリア・・・」

あまりの光景に思考が止まっていたけど、ようやく気を取り直すことが出来た。私の知るグランフェリアじゃない。あんな酷いことを顔色1つ変えないで出来るわけない。なのに私の声が聞こえていないとでも言うようにグランフェリアは、「ほら。穴だらけになってしまうわ」って、今度は左の太腿に槍を突き刺した。

「あっが・・・あああああッ!」

「母さん! やめさ・・せて! このままじゃ・・・死んで・・しまいます・・・!」

玉座に腰掛けた母さんにやめさせるようにお願いするけど、「グランフェリア。早くその子からジュエルシードを回収なさい」ってやめさせるどころか推奨するようなことを言った。グランフェリアは「判ったわ」って槍を抜いて、またテスタメントを突き刺そうとした。
あれ以上は出血で本当に死んでしまう。そう思ったら私は「うわあああああ!」グランフェリアに突進していた。槍を持つ右腕に飛びつく。「フェイト。離れなさい」グランフェリアがそう言うけど、私は首を横に振って拒否。

「これ以上は・・・本当に、死んじゃう・・・から」

「・・・ふぅ。かつては戦略級の戦力を有し、人類最強の一角とまで謳われたあなたが、こんな子供に庇ってもらうなんて・・・本当に哀れだわ」

グランフェリアから耳を疑うような言葉が出て来た。グランフェリアからテスタメントへ目を移す。戦略級の戦力。人類最強の一角。テスタメントは歯軋りしながら「黙れ・・・!」ってグランフェリアを鋭い眼光で睨み付けた。それが事実だと言うかのように。当然だけど私ってテスタメントのこと、何にも知らない。

「では、こうしようかしら」

グランフェリアが私を見下ろす。そしてテスタメントの血に濡れた槍の穂先を私の首筋に向けた。穂先が首に当たる感触。本当なら冷たいんだろうけど、テスタメントの血の所為で温かい。あの子の血が首から胸へ伝うのが判って、吐き気を催す。歯がカチカチ鳴る。初めて触れた、人間の血。

「フェイトの命を守りたければ、ジュエルシードを渡しなさい」

「なに・・!?」「え・・?」

グランフェリアの眼差しが今まで見たことのないような冷たいものになっているのが判って、もしテスタメントが断ったら殺される、って解ってしまった。テスタメントを見る。ジュエルシードの方を選んで、私を見捨てることだって考えられる。あの子の選択によっては私はここまで。でも「母さん!」実の娘である私の危機なら、母さんだってさすがに助けてくれるはず。

「・・・・」

「母さん・・・?」

母さんは無言のまま、肘掛けに頬杖をついてこっちを見守っている。まさか・・・母さんにまで見捨てられる? うそだ、そんなの。だって親子なんだし。ショックを受けていると「痛っ?」首筋に痛みが。刺されたんだってすぐに判った。全身がまた強張る。すると「判った!」テスタメントが大声を上げた。

「ジュエルシードを渡す。・・・だからその子を放して」

テスタメントがそう言った後、何かボソボソと呟いたかと思えば、あの子の胸から光が溢れて、その光の中からジュエルシード数個が現れた。すると母さんがようやく「フェイト。こちらへ持って来なさい」喋ってくれた。グランフェリアも離れてくれたし、今なら手に入れることが出来る。けど「どう・・して・・?」母さんに応じるよりも先にテスタメントに知らずそう訊いていた。

「・・・・グランフェリアの手によって殺される人を、もう見たくない」

それが、テスタメントが私を庇ってくれた理由だった。悲痛な表情なテスタメント。私に迷いが生まれる。母さんの為に私はジュエルシードを集めるって決めた。なのにこんな酷い形でジュエルシードを奪うことになるなんて。
両拳を力いっぱい握りしめる。本当にこれでいいの。グランフェリアを横目で見ると、テスタメントにばかり意識が向いてる。けど離れたとは言え穂先は今もなお私に向けられている。拒絶したら、たぶん、やっぱり・・・。

(グランフェリアはこれまでに人を殺したことがあるんだ・・・)

「フェイト・テスタロッサ・・・構わない。持って行って・・・でないと、殺される・・・」

テスタメントのその言葉に私は「ごめん」一言謝って、ジュエルシード12個を両手で掬うようにして取る。そのまま母さんの元へ。母さんの前で両手を開いて、ジュエルシードを掲げて見せる。すると「よくやったわねフェイト。母さん、嬉しいわ」って微笑んでくれた。
今までなら素直に喜べていたのに、どうしてか胸には妙な痛みが。どうしてか決まってる。きっと今度はあの子たちからこんな風にジュエルシードを奪わないといけないんだ、と思ったから。

(ともだち・・・)

あの子たちに言われたその言葉が何故か今脳裏に過ぎった。

「でもおかしいわね。テスタメントの回収したジュエルシードは確か13個。1つ、足りないわ」

「あ・・・!」

母さんの言葉を聴いたグランフェリアが「もう1つはどこ?」ってテスタメントに穂先を向けた。

「私は持ってない。・・・今もなお覚醒中で、封印できないから放置したままだ」

「あの時の懐中時計・・・!」

すぐに判った。時間を戻すことの出来るジュエルシード。一定範囲内で魔法を使えば、術者や魔法が強制的に時間干渉を受けてしまうっていう。まだ封印できていなかったんだ。母さんとグランフェリアが視線を交わした後、「どこに在る?」ってグランフェリアが訊いた。少しの間、テスタメントは黙って「・・・それは言えない」って断った。

「フェイトがどうなっても構わないと?」

2人の目が私に向く。グランフェリアは相変わらず冷たくて、テスタメントは迷いや悔しさの色を湛えてる。テスタメントと目がバッチリ合う。するとテスタメントが「ごめん」と目線を外した。

「ダメだ。これだけは・・・言えない!」

キッパリ断った。それと同時、テスタメントは勢いよく立ち上がって、グランフェリアのお腹にその勢いを乗せた頭突きを繰り出した。けどグランフェリアは咄嗟に槍を水平に構えて防御。テスタメントは頭突きの体勢のまま回し蹴りを放つ。
でも当たるより早くグランフェリアが槍を薙ぎ払ってテスタメントを大きく弾き飛ばす。危なげに着地したテスタメントは槍に貫かれて開いた傷口から血を撒き散らしながらも、「燃えろ!!」足元を力強く踏みつけた。

――煌天発破――

するとグランフェリアの足元が大爆発を起こした。爆炎に包まれるグランフェリア。テスタメントは気を失ったままのアルフを脇に抱えて、「あなたも来なさいフェイト・テスタロッサ!」って私に手を伸ばした。

「馬鹿を言わないで。フェイトがあなたについて行くわけがないじゃない。そうでしょ? フェイト」

母さんの鋭い目が私を射抜く。テスタメントについて行くか、母さんの元に残るか。母さんの為に私は居るのに。即答できなかった。胸の内がもやもやして、素直に母さんに頷くことが出来なかった。その返事の遅れが、最悪の結末を引き寄せてしまった。

――雷槍迅穿衝――

爆炎の中から琥珀色の砲撃が放たれてきた。爆炎は一瞬で消えて、砲撃は一直線にテスタメントとアルフへ。

「チッ。フェイト・テスタロッサ!! 早く!」

――ソニックムーブ――

テスタメントの姿が掻き消える。高速移動の魔法だ。だけど「遅いわ」グランフェリアの方がもっと速い。グランフェリアがテスタメントの背後について、「死なない程度に痛めつけるわね」槍を振りかぶった。

「だ、ダメぇぇぇぇぇぇぇッ!!」

“バルディッシュ”をサイズフォームで起動して、「ブリッツアクション!」高速移動魔法でグランフェリアに突っ込む。

≪Scythe Slash≫

魔力刃による直接斬撃サイズスラッシュで、グランフェリアの槍を狙う。だけど「何をしているのフェイト?」母さんはそんな冷たい声と一緒に、私の両手首と両足首をバインドを仕掛けてきた。いきなりだったから「痛っ!」その場で転ぶ。頭上の方から「ごめん」テスタメントの謝罪の声がしたと思えば、ピピッと顔に何か温かいモノが飛んできた。

「・・・血?・・っ! テスタメント!!」

それはグランフェリアの槍にお腹を貫かれたことで飛び散った血だった。

†††Sideフェイト⇒アルフ†††

「いたた・・・」

最悪だ。気を失ってたみたいだ。ちくしょう、グランフェリアの奴。まさかあたしに構わずテスタメントを攻撃して来るなんて。痛む体を何とか起こす。と、同時に「テスタメントは!? フェイト!?」抱えているはずのアイツが居ないことに気付いて辺りを見回す。

「な・・・っ!?」

目を疑った。まず視界に入ったのはフェイト。フェイトは床に倒れ伏していて、鞭で打たれたんだって1発で見て判る程に全身がミミズ腫れだ。プレシアのババアへの怒りが再燃。だけどとにかく今は這いながら「フェイト!」の元へ急ぐ。フェイトは完全に気を失っていて、グッタリしてる。それに顔に血が。あのクソババア、血が出るほど叩きやがった。

「酷い・・・今回のは今まで一番・・・!」

バリアジャケットの破けた場所の傷にも血が滲んでる。傷の数も過去最高の多さだ。怒りで頭がどうにかなりそうだ。怒りの叫びをあげるのをどうにか抑えて、フェイトを横抱きにする。まずはフェイトの部屋へ運ぼう。

「テスタメントは・・・居ないのかい・・・?」

アイツの姿はどこにも無い。その代わり今さら気付いたけど「血なのかいコレ・・・?」至る所に血溜まりがある。そしてここ玉座の間の出入り口に向かって点々と血の跡が続いてる。下手すりゃ死んでてもおかしくないくらいの血の量だ。
嫌な想像が脳裏に過ぎる。テスタメントの死。グランフェリアはアイツを目の仇にしているようだし。まさか互いに殺し合うような関係とは思ってもみなかったよ。

「血の跡は・・・地下に続いているのか・・・」

玉座の間へ続く廊下を出てのT字の突き当たり。フェイトの部屋へ続く廊下とは反対方向――地下に降りるための階段の方へと血の跡が続いてる。テスタメントが逃げた時に出来たものであるように願いながら、あたしはフェイトの部屋へ。部屋に着いてすぐフェイトの手当を開始。まず血の付いている個所を濡れタオルで拭き取る。

(顔に付いてる血。フェイトのじゃない・・・?)

顔には一切の傷が見当たらない。ということは、この血はテスタメントのものだって考えるのが妥当か・・・。

(頼むよテスタメント。死んでんじゃないよ・・・)

血を拭き取った後、傷口に薬を塗るたびにフェイトは小さく呻き声を上げる。そのたびにプレシアへの怒りが憎しみへ、最終的には殺意へ変わって行くのが判る。包帯を巻き終えたらフェイトに布団を被せて、頭を撫でながら「ごめんよフェイト。あたしゃ、もう我慢なんないよ・・・!」そう謝って、部屋を後にする。

「たとえフェイトに嫌われようが恨まれようが憎まれようが・・・!」

ホントは嫌だけど、フェイトを守るためだ。ズンズン廊下を歩き、血の跡を辿って行く。着いたのは使われていない洞窟。時の庭園の地下内部にはこんなんが結構ある。その内の1つがここだ。洞窟の奥の方にグランフェリアの存在を感じる。足音と気配を殺しながら洞窟を進んで行く。

「・・・っ!(テスタメント・・・!)」

一番奥。そこにはプレシアとグランフェリア、そして天井から伸びる魔力のロープで両手首を縛られて吊られているテスタメントが居た。フェイト以上に酷い有様だった。両肩に両太腿、腹からも出血。遠目でも判る。グランフェリアの槍で貫かれたんだ。綺麗な紅い髪も血で濡れてボサボサだ。

(アイツら・・・!)

あのままじゃ本当にテスタメントが死んじまうよ。グランフェリアがテスタメントに槍の穂先を向けた。穂先が向いてるのは心臓。完全に殺す気だ。奇襲しようかって思ってたけど、そんなこと言ってられないね。

「プレシア! グランフェリア!」

――フォトンランサー・マルチショット――

あたしに意識を向けさせて、すぐにフォトンランサー6発を一斉発射。それと一緒に狼形態に戻ってダッシュ。

――エクスディフェンダー――

プレシアはバリアを張って、グランフェリアは素手で握りつぶして対処。そんなに期待しちゃいなかったけどさ。もうちょっと苦労して防いでもらいたかったね。テスタメントの側に辿り着き、人型に戻ると同時、グランフェリアに蹴りを入れる。
槍で防御されたけど、「おらぁぁぁぁぁぁぁッ!!」その防御ごとグランフェリアを蹴り飛ばす。次はプレシアだ。本音を言えばここで潰してやりたいけど、テスタメントを逃がすのが先だ。

「バリア・・・ブレイクぅぅーーーーッ!!」

防御魔法を破壊する魔法、バリアブレイクを乗せた連続パンチ。時間を掛けりゃ破れるけど、今はテスタメントを助けないとね。最後の1発を叩き込んですぐ反転。今度はバインドブレイクを両手に乗せて、テスタメントを拘束してるバインドに手を掛ける。

「ごぼっ・・・アル・・フ・・」

「ちょっと待ってな! 今すぐ助けてやるから!」

血を吐き出しながらあたしの名を呼ぶテスタメント。意識はあるようだね。ダメージの度合いから言って無い方が良い気もするけどさ。とにかくバインドを引き千切る。倒れ込みそうになるテスタメントを「おっと」抱き止める。
さっきも思ったけどさ、コイツ、フェイトよりちょっと背が高いけど、やっぱ子供だね。軽いよ。いや、血を失いすぎて軽いのかもしんないね。急いで治療しないと失血死しちまうよ。

「アルフ。あなた・・・!」

「プレシア。言ってやりたいこととかメチャクチャ有るけど、今はテスタメントを――」

「アルフ!」

「へ・・・?」

どこにそんな元気があるのか判らないってくらいに力強くドンッと数mほど突き飛ばされた。せっかく助けたのにこの仕打ち。文句を言ってやろうかと思ったんだけど、「あんた・・・!」あたしを突き飛ばした理由を見た。テスタメントの左胸から突き出ている血に塗れた黄金の槍の穂先。もしあのままアイツを抱えたままで居たら、あたしも一緒に貫かれていた。

「このまま殺してあげるわ」

「・・・ごふっ」


「あたしを庇ったのかいアンタは・・!」

確実に致命傷。槍を抜かれたことで倒れ込みそうになってるテスタメントに駆け寄ろうとした。だけどそれより早く「私たちの勝ちよ」グランフェリアが穂先をテスタメントに向けて、

――雷槍迅穿衝――

雷の砲撃をほぼ零距離でぶっ放した。視界が琥珀色の雷光でいっぱいになる。目を両腕で庇って守る。光りが治まって目を開けるとそこには大きな穴が開いていて、テスタメントの姿は無かった。

「やり・・やがった・・・お前・・・!」

グランフェリアの奴、テスタメントを殺しやがった。

「おまえ――っ!?」

――フォトンバレット――

飛び掛かろうとした時、背中に大きな衝撃が。目線をグランフェリアから自分の腹へ向ける。

「う・・・あ・・・!」

あたしの腹に穴が開いてた。遅れてそこから血が噴き出て、あたしも「げほっ」吐血した。振り向いて見ると、やっぱりそこには「プレシア・・・!」が杖の先端をあたしに向けて佇んでた。

「フェイトもあなたもダメね。フェイトはまだ使えそうだけど、あなたはもう要らないわ。消えてしまいなさい」

「げほっごほっ。テスタメントと同じように・・・あたしを殺す気かい・・・!」

腹を押さえたところで背中にも穴が開いてんじゃ血は止まらないね。あたしゃ純粋な生命じゃない分、すぐには死なない。けどいつか限界は来る。その限界が来る前に決めないと。プレシアに殺意を向けたら、「グランフェリア。フェイトの所へ行きなさい」プレシアがそう言った。

「判ったわ」

「ちょっ、待ちな! げほっ。フェイトに何をしようってんだ!?」

グランフェリアには前科があるからね。絶対に良からぬことに決まってる。

「フェイトを洗脳するわ。テスタメントは死に、あなたも直に死ぬ。補助戦力が無くなるのだから、洗脳して強化するわ」

「ふ、ふざけんなッ! 何が洗脳する、だ! フェイトはあんたの実の娘だろ! なのに、なんでそんな酷いことが出来るんだよッ!」

プレシアはもう母親としての責任とか何とかを果たしてない。グランフェリアがここから出て行こうとしていたから「行かせないよ!」立ちはだかろうとした。なのに血を流し過ぎた所為で上手く足を動かせない。あたしの横を通り過ぎていくグランフェリアが「さようならアルフ」なんて言ってきた。

「お前!・・・ごほっごほっ」

痛みや吐血を無視してグランフェリアに飛び掛かろうとしたけど、「さっさと失せなさい」
プレシアの冷ややかな声が耳に届いた直後。

――スパークジャベリン――

防御なんて無意味だって思えるくらいの砲撃が放たれた。

(ごめんよフェイト。必ず迎えに来るから・・・!)

着弾するより早く転移魔法を発動。転移先を設定してないからどこに飛ぶか判らない。だけど必ず。絶対にフェイトを迎えに、そして助け出す。だから待ってておくれ。この場からの転移が終わる瞬間。プレシアの魔法の衝撃と失血の所為で、あたしの意識は途切れた。


 
 

 
後書き
ソブ・ベヘイル。サラーム・アレイコム。
ルシルとグランフェリアが数百年ぶりにようやく再会を果たしました。
その初戦は、細かな描写も無くルシルがボッコボコにされてしまいましたがね。
さて。エピソードⅠも残り・・・4話くらいですかね。次回は、VSフェイト最終戦を予定しております。
 
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