万華鏡
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第三十二話 呉の街その七
「宇野先輩もそうなのね」
「そうじゃないかしら」
「成程ね、それじゃあ」
「それじゃあ?」
「もう一枚ずつ頼まない?」
一枚食べ終えた、そのうえでの言葉だった。
「このお好み焼きね」
「いや、広島焼きだろ」
美優はまだこの呼び名にこだわる。
「これはな」
「お好み焼きじゃないっていうのね」
「お好み焼きは大阪のあれだろ」
あくまでそれこそがだというのだ。
「あれしかないだろ」
「何か美優ちゃんやけにそっちにこだわるわね」
「沖縄で大阪の人がいてさ」
「その人がなのね」
「ああ、お好み焼き屋開いたんだよ」
それでだというのだ。
「子供の頃はじめてそれ食ってやたら美味しくてさ」
「それからなのね」
「お好み焼きっていったら大阪なんだよ」
そちらになったというのだ。
「それでお好み焼きっていったら大阪になったんだよ」
「広島のはなのね」
「美味いよ、確かに」
美優も実際美味そうに食べている、それでとても嫌いには見えない。
「広島焼きもさ、けれどお好み焼きは大阪なんだよあたしの中ではな」
「そうなのね」
「大阪だろ、お好み焼きは」
美優はここで店の中を見回す、壁には白い札にメニューが貼られている。そこには大阪焼きという品もあった。
それを見てだ、美優はまた言った。
「こっちじゃそうなるんだな」
「逆ね」
「完全にね」
他の四人もそれを見て言う。
「こっちじゃお好み焼きはこっちなのね」
「広島なのね」
「大阪焼きってそのまんまじゃない」
「お好み焼きじゃないってはっきり言い切ってるわね」
「見事なまでにな」
美勇も見てある意味感心していた。
「やっぱりここ広島なんだな」
「そのものよね」
琴乃も美優のその言葉に頷く、そしてだった。
周りの広島の客達の中にはその大阪焼きを注文して食べている人もいた、彼等はこんなことを言っていた。
「さあ、大阪焼きも食うけえ」
「ああ、阪神食っやるけえ」
「見てろ、今度は勝つわ」
「マエケン完封したるからな」
「その時楽しみにしとるんじゃ」
「今年はこのままカープが優勝じゃ」
「虎を食ったるけえのう」
こんなことを話していた、彼等にとって大阪のお好み焼きとは即ちだった。
「阪神なのね、大阪のお好み焼きってこっちじゃ」
「大阪焼きって呼び名自体が」
「何かお約束だけれど」
「わかりやすいわね」
「じゃあこっちはあれか?」
美優がここでまた言う。
「広島焼きはカープか」
「そうなる?」
「そうなるの?」
「そうみたいね」
彩夏が美優のその言葉に頷いた。
「お好み焼きも」
「虎と鯉はお互いのお好み焼きか」
美優は次注文するものをメニューを開いてそのうえでどれにするか選びながら考えていく。
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