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ソードアートオンライン VIRUS

作者:暗黒少年
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決勝戦

 目を閉じて十分ほど経っただろうか、急に背筋が冷えたような感覚に襲われて目を開けた。

「……また、この感覚か……ウィルスが近くにいた……いや、なんかが違う……この感覚はあの時の、予選の時に聞こえた声の時の感覚だ……」

 ゲツガは扉の方を見ながら呟いた。ここにはウィルスがいないことはなんとなくわかる。だが、あの扉の奥に確実いるとわかってしまう。これもあいつらが中にいたおかげで得てしまったのか。正直、こんなものいらない。と思いながら再び目を閉じる。今は自分にはこの扉をどうすることも出来ない。システム的にロックされて、外からももちろん中からも開けることなんて出来るわけない。

 そして、今は何も出来ないため再び目を閉じた。

 さらに十分ほどしてようやく扉が開いた。そこから出てきたのは、ジュンではなくシュートだった。まさか、ジュンが負けるとは思っていなかったわけではないが、本当にこうなるとは。

「お前が勝ったのか……シュート、いやウィルスって言ったほうがいいのか?ジュンが負けるなんてどんな力を使ったんだ?」

 ゲツガはシュートにそう言った。しかし、シュートはきょとんした顔を浮かべ、首を傾げるだけで、何も言ってこない。しかし、今は感覚的に出てきていることはわかる。

「そんな下手な演技してたってわかるんだから出て来い」

 そう言うと、急にシュートの口元が歪んだ。そしてこの場の雰囲気が変わる。

「やっぱり、お前にはばれるんだな。ゲツガ」

「ああ。大体はな。その前に一つ聞くがお前は誰なんだ。俺の知ってる中にいる奴じゃない奴だな。後の三人のうちの誰かなんだろ?」

「いいや、俺はレストア様によって作られたシードだ」

「……シード……つまり、お前はレストアに作られたウィルスだって言うことか」

「そうだな、ここにいる理由はお前との接触。それと、レベルの高い適合者を探すことだ」

 適合者?何のことだ。自分との接触以外まったくわからない。だが、こいつはウィルス。それだけわかればもうぶっ飛ばすしかない。

「俺がお前をぶっ飛ばしてやるから覚悟しとけ」

「……出来たらな……」

 そしてその瞬間にブザーが鳴って外に行き姿を消した。その後に自分も扉に向かう。そして扉を出ると前と変わらない観客の歓声とフィールドがあった。そしてその中心にいるのが感染者であるシュートがいる。

 ゲツガもすぐにフィールドに上がる。だが、こいつはジュンに勝った奴だ。少しは警戒しておくのがベストだろう。

 すぐにバトルが開始してもいいように構えを取る。そしてようやくゲツガに目を向けた。

「これで、心置きなくできるぜ……」

 謎の言葉と同時に試合の合図であるホロウィンドウが現れる。その瞬間、ゲツガの目の前からシュートが消えた。

「なっ!?」

 いきなりのことで反応できない。しかし、こんな狭いフィールドで姿を隠すことなんて不可能だ。必ずどこかにいるはず。しかし、動く気配もなければ、いる気配もない。どうなっているんだ。

 あたりを見回して探してもいない。上にも下にも右にも左にも前にも後ろにもどこにもいない。本当に消えたように。ゲツガは更に警戒してあたりを見回す。だが自分以外、このフィールドに影も形もありはしない。

「どこに行きやがった!?」

 いくら見回っても視界には入らない。死角にも入っても気配は感じるはずなのにそれもない。しかし、いきなり、自分の足が払われる。素早く手を着いて受身を取るが足元には自分の影しかない。

「ちくしょう!なんだって言うんだ!」

 ゲツガは腰を低くしたままその場を転がって地面に手を着きながらあたりを見回す。しかし先ほどとまったく同じでなにもない。

 そしてまた同じように背中に蹴りを入れられたような衝撃が入り地面を転がる。素早く立ち上がり自分のいた元の場所を見るが何もない。背中に手を回して感覚を確かめるが背中にも何もいないのが分かる。

「おい、運営!これはあまりにもおかしいだろ!試合を止めろ!!」
 
 ゲツガは上を見て叫ぶ。これはあまりにもおかしすぎる。相手が見えないなんて反則過ぎるし、ゲームバランスが崩壊している。こんなの気付いたらすぐに運営側が何かするはずだ。しかし、数分も経っているのに運営は何の動きを見せない。

「おいおい。俺をぶっ飛ばすんじゃなかったのか?」

 いきなり背後で声が聞こえる。振り向くとそこにはシュートの姿をしたウィルス、シードがいた。しかし、そこは先ほどまで何もなかった場所。いったいどうやってそこに。そんな疑問が浮かぶが、こいつの今の状態はおかしすぎる。

「テメェ、いきなりこのフィールドから消えてどうなってるんだ。そんな、アイテムはなかったはずだ」

「ああ、これはアイテムなんかじゃない」

「じゃあなんなんだ?」

「パス様からの贈り物さ」

 シードはそう言った。パスからの贈り物と聞いた瞬間、理解した。

「通りでフィールドにいないはずだよな。そんな力があるなら」

 こいつがこの狭いフィールドで消えていた理由を理解する。それは、現在意識不明の玖珂を倒す時に自分が使った移動する能力。あれと同じだろう。しかし、それなら疑問が出てくる。外にいる観客たちがそれを見ておかしいと思うはずだ。この狭いフィールドで視界に完全に収まりきり、絶対に姿を見失うことはない。もし、見失ったらおかしいと思いGMに連絡したりするだろう。だが、それすらない。

「もしかして、お前。俺がこの狭いフィールドから消えたら観客がおかしいって思うとか考えているだろ?」

 どうせ、自分があたりをきょろきょろしているからそうわかったんだろう。

「それなら心配なく。俺たちのフィールドは映されていないぜ。観客には身を乗り出したり物を投げ込まれないように作成されている障壁にくっ付いた特性の映像を見てるはずだぜ」

 どんな映像かはわからないが、外の観客は自分たちの戦いではなく、障壁に張られた偽りの映像を見ているのか。

「で、その内容は?」

 つい、気になってしまったのでシードに聞くと

「ああ、安心しろ。普通に俺とお前が戦ってる映像だ。だが若干俺が押している映像だがな」

 こんな奴に負けている映像かよ。それはふざけている映像だな。しかしそうだと気になったことがある。

「まさか、お前の出た試合の全部、こんな感じじゃないんだろうな?」

「そんなわけないだろ。作るのが面倒なんだからな。お前と前の試合に戦ったジュンだけだ」

「ジュンにも使ったのか……」

 ジュンもこれを使われて負けた。しかし、それならジュンが何かしら運営にいちゃもんをつけているころあいだろう。それなのにまったくと言っていいほど運営も動かない。

「どうせ、今度は運営がなんで何もしないなんて思ってるんだろ?残念でした!そんな単純なものなら使うかよ!運営にもばれないんだよ!これは!!」

 どういう原理かわからないが、運営にもどうも出来ないなんてこれは勝てない。

「そんなもんがあるなんてどうやって勝つんだよ」

 そう呟く。しかしそんなの呟いても何も変わらない。ゲツガは立ち上がり、一瞬でシードに近づいて殴った。しかし、その拳は空振る。すでに、そこにはシードの姿はなく、また消えていた。

「どこ行きやがった!」

「ここだよ」

 耳の横から聞こえる。すぐにそちらを向こうとした瞬間、顔面にパンチが食い込む。そのまま後ろに仰け反った。

「クソッ!」

 仰け反った状態から蹴りを放つ。しかし、それも空振る。そして今度は上からノイズが走ると同時に足が出てきてそのまま地面に叩きつけられる。

「ガハッ!!」

 だがペインアブソーバの効いている状態の自分ならこれくらいどうってことない。ゲツガはその足を掴む。そしてそこから引きずり出すために思いっきり引っ張る。

「おわっ!!」

 そしてそのノイズが大きく開かれてシードの姿が出てきた。そして地面に足がつかず、着地失敗してこけた。

「よう、シードだけっな?」

「ああ」

 シードは落ち着いてそう答える。しかし、ゲツガはシードに向けて容赦なく拳を叩き落した。だが一撃では終わらない。完全に馬乗り状態になって何度も何度も顔面を殴り続ける。しかし、当たっている感触はあるのだがシードはまったく動こうとしない。

 あまりにもおかしいと思い一度攻撃を止めて、シードの顔を見る。そこには何事もないように自分を見上げるシードの顔があった。そしてHPも確認すると一ドットすら減っていない。

「……どういうことだよ……」

 あまりのおかしな出来事にゲツガは力が抜けてしまった。その瞬間、シードはゲツガの体を投げ飛ばし、立ち上がる。

「さてとどうだった?俺を殴った感想は。すっきりしたか?それとも、恐ろしいと思ったか?」

 シードはゲツガを見てそう言った。恐ろしいともスッキリしたとも思わない。ただ、自分の攻撃が何で通らないんだという疑問しか頭になかった。

「今のお前じゃ俺に勝てない。それが答えだ」

 完全に心を読まれたようにそう言われた。

「なんでって顔だな。どうせお前もあとで俺らのお仲間になるんだからあの方たちも許してくれるだろうし教えてやるよ。俺の入ってるこのプレイヤーを倒すには俺らと同じ奴でしか倒せない」

 それだけ聞けば普通に理解できる。つまり、こいつ、いやウィルスを倒すにはウィルスではなくてはならないことだ。

「……それならどうやって勝つって言うんだよ……」

 あまりにもふざけすぎた現実を聞いたゲツガはその場にへたり込みそうになる。自分は殴ることは出来ても倒すことが出来ないなんて、あの時と同じだ。ALOでのあの時と。

(ハ……シ…ケ………ロ…)

 また心のそこでそのような思いが生まれる。だが自分はそれだけはしたくない。途切れ途切れでわからないはずなのだがわかってしまう。再び頭を振って思ったことを振り払い、再びシードを見る。たとえ、食らわないといったて必ず穴があるはずなのだ。そのシステム的穴を見つけ出す。

「まだ勝てないって決まったわけじゃねえ。たとえ、無理だからって何もしないで俺は諦めねえ」

 自分の顔を両手で叩き、へたり込みそうな足にも喝を入れる。

「諦めるのはガラじゃないんでね。抗ってやるぜ。シードォ!!」

「諦めたほうが楽なのによぉ!!」

 そしてウィルス、シードとの戦いが始まる。 
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