『もしも門が1941年の大日本帝国に開いたら……』
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第三十話
「シュワルツの森を突き抜ければ良かったんだが……」
「悔やんでも仕方ないぞヒルダ。あんなに大木があるなら車では到底入られない」
九四式六輪自動貨車に乗るヒルダに同じく乗っている樹はそう言った。
シュワルツの森は樹海と呼んでも良いような広大な地域である。深さや険しさは伊丹達が予想していた範囲を遥かに越えていた。
森は徒歩で踏み入るのが精一杯であり、車両で通過するのは不可能であった。
当然の事ながらシュワルツの森を迂回して途中で一泊して漸くロルドム渓谷へ辿り着いたのだ。
ヤオによればこの渓谷の洞窟等にダークエルフが隠れ住んでいるという。
そしてヤオは第三偵察隊を崖の上で待たせて谷底へと下って行った。
伊丹は一応ながら周囲を警戒する事にした。既に炎龍の勢力圏内に入っているのだ。
第三偵察隊の兵士達は九九式短小銃に七.七ミリの弾丸を装填させていたり、九九式軽機関銃の弾丸を装填していた。(無論着剣済み)
「住みにくそぉねぇ」
樹が乗る九四式六輪自動貨車の荷台にいるロゥリィは切り立った崖下を覗いている。
「落ちるなよロゥリィ」
「あらぁ、私を誰だと思っているわけぇ?」
樹の言葉にロゥリィはフフフと笑う。一時の休憩であったがそれは直ぐに終わった。
「中尉、人影が……」
「お前達は何者だ? 何しに此処へ来た?」
第三偵察隊は弓を構えたダークエルフの男女十人程に取り囲まれていたのだ。気付けないのも無理はなかった。
彼等は草むらに同化するようにコッソリと第三偵察隊に近づいて来ていたのだ。対する第三偵察隊は此処に来るまでの疲労と炎龍への対空警戒をしており、周囲の事などあまり気に止めなかったのだ。
「ぁ~俺達は……」
伊丹がそう言ってダークエルフ達に事情を説明しようとした時、上空警戒をしていた戸津軍曹が叫んだ。
「え、炎龍が降りて来ますッ!!」
『走れェッ!!』
『ッ!?』
第三偵察隊の九四式六輪自動貨車は何時でも走れるようにエンジンは掛けており、運転手は思いっきりアクセルを踏んでその場を離れた。
離れた時、踏ん張っていなかったロゥリィやテュカは頭をぶつけたりしたが伊丹や樹はそれを咎める場合ではない。
ダークエルフ達はいきなり走った九四式六輪自動貨車に驚いて唖然としていたが、伊丹に近づこうとしていた男のダークエルフは舞い降りて来た炎龍に拐われてしまう。
炎龍の牙の隙間にばたつく手足が見えていたが炎龍はバリボリと咀嚼して飲み干した。
「砲弾装填ッ!! 援護射撃せよッ!! 目を狙えッ!!」
樹の命令に兵士達は九九式短小銃と九九式軽機関銃の引き金を引いた。
七.七ミリ弾が炎龍の身体に命中するが、固い鱗で弾き返される。それでも目を狙って射撃をする。
炎龍は射撃に攻撃が出来ず、砲兵隊の射撃準備の時間を与えてしまった。一番早くに準備が出来たのは九二式歩兵砲であった。
「撃ェッ!!」
九二式歩兵砲の砲撃音が響く。九二式榴弾は炎龍の右翼に命中した。
「やったかッ!?」
しかし、煙が晴れると健在な炎龍がそこにいた。
「四一式山砲はまだ撃てないのかッ!?」
「まだ掛かりますッ!!」
樹の言葉に砲兵はそう答えた。砲兵の返事に樹は舌打ちをしつつベ式機関短銃を構えて粘ろうとした。伊丹もベ式機関短銃を構えつつテュカに何か言っている。
しかし、そこへロゥリィが炎龍に駆け寄ってハルバートの一撃を放った。
だがロゥリィの斬撃は炎龍の顔をひしゃげる事しか出来なかった。それでも炎龍には効いたようで翼と手足をじたばたさせながら大地を転がる。
そこへレレイが魔法を発動させて炎龍に魔法を叩きつけようとしたが微妙に避けられて炎龍はバランスを取り戻した。
「撃ちまくれェッ!!」
第三偵察隊がロゥリィに対して援護射撃をし、ロゥリィがハルバートでかまそうとするが炎龍はロゥリィに右腕で対抗した。
「きゃんッ!?」
「ロゥリィッ!!」
炎龍の右腕に弾き飛ばされたロゥリィが地面を転がりながら勢いを殺して立ち上がる。
ロゥリィが切れた唇の血を舐めた。
「やってくれるじゃなぁい?」
「撃ェッ!!」
ロゥリィがハルバートを構えた時、漸く四一式山砲が砲撃をした。
四一式山砲が狙ったのは右腕であった。九五式破甲榴弾は狙い通りに炎龍の右腕に命中した。
「やったかッ!?」
伊丹はテュカを抱き締めながら炎龍を見ていた。煙が晴れると炎龍は右腕の根本の半分近くを抉られていた。
「この前は腕を吹き飛ばしたはずなのに……」
「違う。恐らく砲弾の角度が悪かったんだ。次弾装填ッ!!」
ヒルダの言葉に樹が補足して次弾装填を急がせる。
しかし、炎龍は吠えながら翼を大きく羽ばたかせた。
『伏せろォッ!!』
その風速で四一式山砲の九四式六輪自動貨車を薙ぎ倒した。しかし炎龍は吠え、伊丹達を睨みつつ翼を羽ばたかせて飛び去ったのであった。
後書き
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