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戦国異伝

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第百二十九話 一月その四

「金ヶ崎を抜けばまさに一乗谷まですぐじゃ」
「如何に宗滴殿といえどそれでは」
「相手になりませぬか」
「朝倉家は宗滴殿が柱でしたが」
「その宗滴殿で駄目となると」
「一人に頼ってはならん」
 長政はこのことは厳しい面持ちで言った。
「どの様な場合でもな」
「若しその者に何かあれば」
「その時にですな」
「人は何があるかわかりませぬ故」
「それで、ですな」
「そういうことじゃ、当家も然りじゃ」
 この浅井家もだというのだ。
「一人に頼ってはならん」
「そういうことですな、若し宗滴殿が倒れられると朝倉家は終わりですな」
「支えるべき方がおられませぬな」
 只でさえそうだ、しかもである。
「しかし宗滴殿もご高齢」
「最早八十を超えておられます」
 人間五十どころではない、それを三十年以上超えている。古来稀というどころではなかったのである、宗滴の歳は。
「今にも、ですな」
「どうなられても」
「こうしたことは言うべきではないがな」
 しかしそれでも言う長政だった。
「わしもそう思う」
「ですな、やはり」
「宗滴殿も」
 今も矍鑠たるものだ、だがなのだ。
「人であるからにはですな」
「しかもご高齢でありますし」 
 まさにいつもだというのだ。
「それではどうなるか」
「そういうことですな」
「義景殿はご承知でしょうか」
 ここで家臣の一人が長政に問うた。
「そうしたことを」
「言うまでもないことだと思うが」
 この言葉に全てが語られていた。
「違うか」
「確かに、それは」
「義景殿は常に都の文化で遊ばれている」
 このことはあまりにも有名だ、浅井家においても彼が都の文化に耽溺しきっていることはよく知られているのだ。
「しかし政や戦のことはな」
「全て宗滴殿が行われていますな」
「それが朝倉家ですな」
「そして義景殿ですな」
「その通りじゃ」
 長政はまた言う。
「この一月のことをどうお考えなのかもな」
「やはり言うまでもありませんな」
「とても」
「何度も言うが我等は動かぬ」
 長政はこのことは強く言い切る。
「じゃが戦が終わった後はじゃ」
「その時ですな」
「政で動かれますか」
「政ならよい」
 それは、というのだ。
「どうでもよい」
「左様ですか、そのことは」
「それで済めば」
 つま朝倉家が織田家に降ればというのだ。
「よいですな」
「そうですな」
「我等は織田家の盟友じゃ」
 朝倉家との縁もあるがlこちらの方の比重が大きくなってきていた。 
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