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戦国異伝

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第百二十九話 一月その三

「織田家は十万、それに徳川殿の軍も出られるな」
「あの海道一の弓取りと言われるですか」
 家康は既にこう言われている、その落ち着いた政と勇敢な戦いぶりからこう評されてきているのだ。
「あの徳川殿も出られますか」
「朝倉殿との戦に」
「大きいぞ」
 まさにそうだと言う長政だった。
「徳川殿のことは御主達も知っておろう」
「はい、上洛の時に見ました」
「あれが三河武士ですな」
「勇猛でありしかも忠義に篤い」
「家康公も見事です」
「徳川家は五十万石じゃ」 
 浅井家よりは大きいが織田家とは比べるまでもない。
「そして一万二千程の兵を用意出来る」
「では出陣出来るのは一万ですな」
「それ位ですな」
 家臣達もこのことはおおよそ察しがついた。
「国を二千で守りますか」
「武田家はまずは落ち着いていますし」
「武田への備えは織田家が大きい」
 その織田家がだというのだ。
「義兄上はおそらく尾張と美濃にそれなりの兵を置く」
「ではそれが武田家への備えになりますか」
「徳川家にとっても」
「うむ、織田家は他に毛利や国全体の備えとしても兵を置く」
 このこともあった。
「都にもな」
「やはりそこにもですか」
「兵を置きますか」
「あそこには置かざるを得ない」
 どうしてもだというのだ、都は。
「都で何かあっては話にもならぬからな」
「だからこそ右大臣殿も弟君を置かれているのですな」
「信行殿を」
 信長が一族の中で最も信頼する者である。
「そして都を任せておられますか」
「そうなのですな」
「その都にも兵が置かれる」
 やはり備えとしてである。
「全て合わせて九万が守りに回されるな」
「では残り十万で越前を攻めますか」
「朝倉殿を」
 二万の朝倉家をだというのだ。
「五倍、しかも具足も武具もいい軍ですな」
「将帥も揃っていますし」
「宗滴殿だけでは如何ともし難いですな」
「それでは」
「おそらく戦はすぐに決まる」
 長政ははっきりと言い切った。
「金ヶ崎が陥ちればな」
「あの城から一乗谷はすぐですからな」
「あの城が織田家の手に落ちれば」
 それで決まる、そうなることだった。
「間違いなく、ですな」
「そうなりますか」
「金ヶ崎は堅城じゃがな」
 この城は南北朝の頃から堅固なことで有名だ、新田義貞が立て篭りそのうえで激しい攻防が行われている。
 しかしそれでもだというのだ。
「陥ちぬ城はない」
「決して、ですな」
「どういった城であっても」
「しかもあの城はもう古くなっておる」
 このことが問題だった。
「石垣も城壁も傷み堀も浅くなっておる」
「それでは幾ら堅固であっても」
「それでもですな」
「陥ちる」
 間違いなく、というのだ。
「まして十万の大軍に囲まれては」
「とても、ですな」
「持ち堪えられませぬな」
「うむ」
 その通りだというのだ。 
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