駄目親父としっかり娘の珍道中
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第9話 罪を憎んで人を憎まずって言うけど、それじゃ罪人はどうなるの?
銀時達万事屋ご一行+αことフェレット状態のユーノは、ただいま此処海鳴市某所にある喫茶店『翠屋』内にある面接用の待合室に来ていた。
誤解しないで頂きたいのは、別に銀さん達はこの店に面接に来た訳ではない。実は前々回のお話にて銀さん達は余りの空腹の為にこの世界のお金がないにも関わらず料理を注文して、さらに完食までしてしまったのだ。
当然店側としてもそんな不届き者を野放しになど出来る筈もなく、こうして此処に集められた次第なのである。
「いや、本当にすんませんでした。まさか俺とした事が財布を忘れちまうなんてとんだウッカリさんでしたよ。全く、何処かの主婦みたいに買い物に行ったは良いけど財布を忘れて愉快な銀さんって感じですよ」
その場の空気をなごませようと思い咄嗟に放ったボケではあったが、尚の事場の空気が不味くなったのは言うまでもない。返って場の空気がより一層重くなってしまったのである。
(銀さぁぁぁん! この空気めちゃくちゃ重いんですけどぉぉぉ! どうにかして下さいよ。フォローしないとやっていけない僕としてはこの空気はいてもたってもいられませんよ!)
(るせぇ! 俺だってどうにかしようと渾身のボケかましたんだよ。なのにこいつらと来たらガン無視な上に更にご機嫌ななめになっちまったんだよ! もう俺じゃどうにも出来ねぇよ、お手上げ状態だよ! イッツ、ホールドアップだよ! 頼むぅぅぅ! もう何でもするからその空気だけは止めてくれぇぇ! 300円あげるからぁぁ!)
小言で語り合う新八と銀時。その二人共顔色がかなり悪い。それもそうだ。今の所銀時達はこの世界で言う無銭飲食を犯した言い方は悪いが罪人なのだ。
このままだと身元も分からないと言うので警察に引き取られてしまう。そうなったら暫くの間は薄暗い牢屋の中で冷や飯を食べる毎日が待っているだろう。そんなのは御免であった。
されど、今の銀時達に強行突破は無理難題と言える。
何せこの世界に来た影響のせいか銀時と神楽は揃って力が弱体化してしまっているのだ。今の二人にはこの一家から逃れる事さえ困難となっている。
正しく万事休すとはこの事でもあった。
因みに、全く触れられてなかったのだが、今の所目の前には先ほど料理を運んできた恭也ともう一人、別の青年が座っていた。
顔立ちは恭也とほぼ同じだがこちらの男性はそれなりに年齢を重ねている感じが見受けられた。
恭也は今にも殴り掛かろうかと言う形相でこちらを睨んでるのだが、もう一人の男性は銀時達をしげしげと見ているだけで特に怒りだろうと言うようなオーラは感じられなかった。
しかし、それはあえてその男性が隠していると言う可能性もある為油断は出来ない。
「すんまっせぇぇん! ミルクココアおかわりぃぃぃ!」
そんな銀時達の気持ちなど一切汲み取る事なく、神楽は用意されていたミルクココアを美味そうに飲み干し、更にはおかわりまで要求するあつかましい限りであった。
因みに、机に上では同様に青ざめたユーノが居り、その後ろでは退屈なのか定春が大きな欠伸をしていた。
明らかに神楽と定春は状況を分かっていない。このままだと銀さんは確実に牢屋行きになり。新八、神楽はこの世界では未成年の分類なので少年院に搬送される。まぁ、神楽は女の子なので少年院はどうかと言うツッコミはこの際無しにして貰いたい。行った事がないので。
そして、定春とユーノは当然保健所送りとなるだろう。ユーノは珍種なのでそのまま保護区へと移送されるだけだろうが問題は定春だ。こんな巨大な犬が現代世界に居る筈はないので確実に研究材料にされるのは間違いない。
正しく万事休す! と言った状況であった。
「もう一度聞く、本当にお前達は住所がないのか?」
恭也が再度問い掛けてきた。もう一度と言っている辺り恐らくこの話が始まる前に結構質問をされたのだろう。そして、それにどうにかこうにか答えようとしてかなり体力を使い、現在に至ると言うのが安易に予想される。
「えぇ、僕達も此処に来るのは初めてな物でして……そのぉ―――」
しどろもどろに新八が答える。頭の中でどう答えれば良いのか良い案が浮かばないが為に答えようにも答えられない状況なのだ。その証拠に新八の額からは冷や汗が次々に流れ出し瞳が右往左往しまくる始末。
落ち着きが無さ過ぎるとはこの事だ。明らかに動揺しているのが見て取れる。
「こっちの駄眼鏡君の言う通りなんです。実は俺等長い間放浪生活をしてて、此処1ヶ月位禄な食事にありつけなくて……本当はやっちゃいけないと分かっていたんですが本能に逆らえず……くっ、自分で自分が情けない! 俺一人を罰して済むんならお好きな様にして下さい。だけどこいつらにはどうか救いの手を差し伸べて下さい! お願いします!」
言い終わるなり突然机に頭をこすりつける勢いで頭を下げる銀時に一同は騒然となった。
突然の事故に恭也もその男性も驚きを隠せなかった。無論、それは新八も同じ事でもある。
が、無論の事だが神楽と定春は全く気にしてない。何処までもこいつらはフリーダムである。
「坂田銀時と言いましたね。貴方の熱意は理解致しました。どうぞ顔を上げて下さい」
頭を下げている銀時に対し、もう一人の男性がそっと優しい言葉を掛けて来た。その言葉を聞き、銀時は安心したかの様に顔を上げる。
顔を上げた銀時の目の前に居たのは優しい笑みを浮かべているその男性であった。年相応と言えるだろう中年男性の優しい笑顔が其処にあり、それを見た銀時はふと、何処となく安心出来る感じがした。
「それじゃ、全員が食べた分を貴方に体で払って貰いましょう」
「ゑ?」
「さっき言いましたよね。俺一人を罰して済むんならお好きな様にして下さい……って」
「い、いや……あれは、そのぉ……」
完全にあてが外れてしまった。銀時の脳内としては、お涙頂戴の話をしてこの場を有耶無耶にし、その隙に逃げ出そうと企んでいたようだ。
だが、それを真っ向からこの男は捉えてしまったらしく、結果として返って銀時自身が自分の首を絞める結果となってしまったのである。
***
「いらっしゃませアルよ~」
と、言う訳で万事屋ご一行は此処喫茶翠屋にて住み込みで働く羽目になってしまった。まぁ、考え方を変えれば雨風を凌げる場を設けられたと言う訳であると言えるのだが、しかし喫茶店のバイトとは言えそれなりに人気の喫茶店である。毎日大量の客が押し寄せるためそれを捌くのもひと苦労と言える。
更に、この万事屋メンバーがそんな客の接待なんて高レベルの芸当をこなせる筈もなく、度々問題を引き起こすのは言うに及ばずであり。
「お待たせしましたアル。ご注文のチョコレートケーキアル」
神楽が御盆を片手に注文の品を置く、だが、その品には歪に齧られた跡が残っており、しかもそれが本来の料理のほぼ4分の3近くを食い尽くしている始末でもあった。
「え? 何コレ……誰かに齧られた跡があるんだけど……」
注文した男性が因縁をつけようと料理を持ってきた神楽を見る。その神楽の口元にはベッタリとチョコレートがこびりついていた。それを見て客の男性は悟った。
「犯人はこいつだ!」と……
「ちょ、ちょっとぉ! こんなの食べる気になれないよ。交換してくれ!」
「贅沢言ってるんじゃねぇよ! 男ならゴキブリがたかったケーキだろうと気にせず食べるもんアル! 女々しい事言ってるんじゃねぇよ」
「いや、そう言う問題じゃねぇから! これ明らかに食われてるじゃん! こんなのに俺金払いたくねぇし! つぅか何だよこの店ぇぇ! 店長を呼べ店長をぉぉぉ!」
怒り心頭となった男が大声で叫ぶ。するとそれに呼応するかの様に店の奥からやってきたのは、銀色のサラサラヘアーに黒いエプロンを携え、調理途中と思われるチョコソースの入ったボールを脇に抱えてそれをスプーンですくって食べまくってる銀時がやってきた。
「店長代理の坂田です。お客様、何かご不満な事が御座いましたか?」
「大有りだよ! ってかお前等の存在自体がご不満なんだよ! 何で注文した品を食うんだ! 何で調理途中の食材を自分一人で食いまくってんだ! しかも直食いすんな! それを客に食わす気か? もう駄目だ! 俺もうチョコケーキ食いたくない!」
頭を抱えて叫びだす男性。しかし、そんな男性の事などお構いなしのまま銀時はボール一杯に盛られてあるチョコソースを食い荒らし、神楽は食べ残しのチョコケーキを丸呑みにしてしまっていた。
「おい神楽。あのお客頭が変だぞ。何もないのに馬鹿みたいに叫びまくってるじゃねぇか」
「全くアル。この世界って凄く怖いアルよ。私早く江戸に帰りたいアルよパピィ~」
二人揃って自分は関係ないオーラを放っている銀時と神楽。だが、明らかに今回の騒動の原因はこいつらにある。そして、そんな銀時達を見て呆れ果てる新八がレジに立っていた。
「またやらかしてるよあの二人は……」
深い溜息をつきながら自分のポジションに立っていた。銀時達が此処で働いてから既に数日が経過している。本来なら既に代金分は働いたので自由の身になれる筈なのだが、銀時と神楽が好き勝手やらかしてる為に返って負債が増えまくってしまい、結局今日まで働く羽目になってしまったのは言うまでもない。
「すいません、これお願いします」
「あ、はい。ただいま!」
そうこうしている内に新八の元には食事を終えた客がレシートを手にやってきた。それを新八が受け取り早速レジを扱う。だが、其処で分かると思うのだが、新八はレジが使えないと言うかなり古い人間である。江戸のレジが使えないのにこちらのレジが使えると言うとんでも設定などある筈もなく……
「あ、あれ? こっちがこれで、ど、どうなってんだこれ?」
最早御馴染みとも言える感じでレジ相手に悪戦苦闘をする新八が其処にいた。
「ちょっとぉ、まだなの? 早くしてくれない」
「す、すみません。どうもレジってのが苦手なもんでして。生まれてこの方剣しかやった事がなくて……」
「いい訳は良いからさっさとやってくれない? こっちは急いでるんだけど」
「は、はいぃぃぃ! すぐにやります」
客に急かされ、急ぎ勘定を行おうとする新八。余談だが、支払いが遅延している要因は銀時、神楽だけでなく新八も加わっているのであったりした。
***
空は快晴、小鳥は歌をうたい、町では人が楽しそうに歩き回る。今日は誰が決めたか休みの日と名高い日曜日。その日は学校も当然休みだし、会社も一部を除き休みとなる。が、そんな世間一般の休日の日に、銀時達は相も変わらず翠屋にこき使われるのであったりした。
「くっそ、重てぇなぁ~。何だってこの日曜日にこんな重労働しなきゃなんねぇんだよ!」
「文句言うな! お前等が仕事場で好き勝手してるせいでこっちは被害が出てるんだぞ。その分の穴埋めを兼ねてこうして配達の仕事をして貰ってるんだ」
文句を言う銀時の前を同様に荷物を持つ恭也が戒めた。その後に続いて新八も同様に荷物を持っている。大きさ的には両手で持てる位の大きさと重さであり、中に入っているのは頼まれた菓子類やその他諸々だったりする。
そして、そのさらに後ろを定春に跨った神楽とユーノがついていくと言う図式が出来上がっていた。
「んで、今回これをお届けするっつぅその月村邸ってのはどんな家なんだよ。邸って名前がつくからにゃかなりの金持ちなんだろう?」
「銀さん、言い方があれですよ。もう少しソフトに聞いてあげて下さいよ」
ド直球に尋ねる銀時に新八のツッコミが炸裂する。が、そんな新八のツッコミなど銀時には何処吹く風であったりする。
「うっせぇなぁ、俺はなぁ何でもかんでも自分の言いたいことをビブラートに包み込んで柔らかく言うようなソフトな時代はもう飽き飽きなんだよ。これからはど真ん中、ドストレートに行く時代なんだよ。その先駆けを俺が成し遂げようとしてんだろうが。察しろやボケェ」
「あんた先駆けを思いっきり誤解してるだろうが! 第一それを言うならビブラートじゃなくてオブラート! あんたボケもいい加減になってきてんぞ最近」
「っせぇなぁ。あんまギャーギャー喚くなよ。持ってる荷物が更に重くなるだろうが」
「何時か覚えてろよ」
とまぁ、そんな感じで言い合いをしつつも目的地である月村邸の門をくぐり、広大な庭先へと入る。それだけでも銀時達にとっては圧巻の眺めと言えた。
広大で手入れの行き届いた庭。その庭一面で遊びまわる猫達。そして、日の光の当たる丸テーブルの上で優雅にお茶を飲む小さな乙女達。正しく絵に描いた様な光景と言えた。
「銀さん、僕は夢を見てるんでしょうか? これって正に絵に描いたような豪邸ですよ。金持ちの家ですよ! ブルジョワですよ!」
「落ち着け新八! 此処は気前良く動いてこの家の人達に顔を覚えて貰うんだ! そうすりゃいざとなったら金の力で俺達を助けてくれる筈だ。良いか、優雅に振舞え。どんな時でも平静を保ち、優雅に、きらびやかに振舞え。金持ちってのはそう言うタイプを好むんだからなぁ。分かったか神楽!」
そう言い振り返る銀時、だが、其処に既に神楽と定春の姿はなく、振り返ると、其処には庭先で自由気ままに遊びまわる定春と神楽の姿があった。その光景を目の当たりにした途端、二人は血の気が引く思いがした。
(俺達の計画発動前からおじゃんになってるんですけどぉぉぉ! 最悪だぁぁ! 覚えを良くして貰うどころか別の意味で顔を覚えられちまったよ。あれじゃ正しくブラックリストに載っちまったよ。もう駄目だ。これじゃ助けて貰うどころか金の力で俺達処分されちまう。明日の朝日なんて絶対拝めねぇぞ。多分今夜辺り俺達コンクリート漬けにされてどっかの港で捨てられちまうよ)
(そんなの嫌だぁぁぁ! まだ僕は死にたくない。まだお通ちゃんの夏の生ライブ見てないしサードシングル買ってないしまだやりたいことたくさんあるのにこんな所で死にたくないぃぃぃ!)
二人揃ってブラックな妄想を抱きまくる。きっと二人の頭の中では月夜の荒れ狂う波止場でコンクリート漬けにされた銀時、新八、神楽、定春、ユーノらが謎のスーツ達の手により人知れず海底に沈められていく光景が浮かんでいるのであろう。
正しく人生の終わりと思える瞬間でもあった。が……
「うわぁ、何この犬。凄い大きいじゃない!」
「本当ね。見た目は子犬なのに大きさは熊さんみたいに大きいねぇ」
銀時達の予想とは裏腹に先ほどまでテーブルでお茶をしていた少女二人が定春と神楽に群がっていた。どうやら二人は定春が物凄く珍しいようだ。神楽もすっかり上機嫌になり胸を張って二人を迎え入れている。
「こいつは定春って言うアル。私の心の友アルよ」
「へぇ、犬を心の友って言うなんて、あんた見所あるじゃない」
どうやら少女の中の一人は結構な犬好きなようだ。金髪の少女でありもう一人は紫色の髪をした少女であった。
金髪の少女と神楽が犬に関して話し合ってる横で、紫色の髪の少女は腹を出してじゃれている定春のお腹を摩ってその感触を楽しんでいた。
どうやら思っていたよりも好印象だったようだ。
「よし、計画通りだ。流石は神楽だぜ」
「嘘こけ。あんた思いっきり動揺してたじゃないですか。でもまぁ、これで僕達が今夜殺される心配はありませんね」
ホッとする二人。どうやら明日の朝日は拝めそうである。まぁ、別に金持ちが皆アッチ系ではないのだが。
「おぉい、二人共何してるんだよ。早く荷物置いてくれよ」
「あ、はぁい!」
見れば既に恭也は屋敷に入っている。二人も急ぎそれに続き屋敷の要り口に荷物を置き、ようやく一息入れることが出来た。
「お疲れ、この後は少し此処でゆっくり休んでてくれ」
「おいおい、此処で待ち惚けかよ。お前はどうすんだよ?」
「俺は……ちょっと野暮用があってさ」
銀時の問いに恭也は頬を赤らめながら指で搔いていた。その仕草は明らかである。そして、その仕草を見た銀時と新八は悟っていた。
この屋敷にこいつの彼女の類が居る。と……
「けっ、そうかよ。じゃぁごゆっくりリア充してな。俺達は外でお子ちゃま達と戯れてるからよ」
「あぁ、だけどくれぐれも粗相のないようにな。一応お得意様なんだから」
「わぁってるよ。黙っといてやるからその分上乗せ頼むぜ」
手をヒラヒラさせながら銀時と新八は退散した。他人のリア充になど興味はない。今はそれよりも神楽が何か問題をしでかさないか監視をする必要がある。幾ら仲良くしていたからと言って神楽は普通のお子ちゃまじゃない。
下手な事をしてこの家の子に怪我などさせたらそれこそ大問題になってしまうのだ。
「おぉい神楽。お前何か問題しでかしてないだろうなぁ?」
「ん? 何あんた……」
いきなりやってきた銀時に対し金髪の少女が銀時を見上げる。が、銀時は鼻を穿りながら明後日の方を向いていたので目の前には神楽が居るのかとばかりに思っていたようだ。
「んだよお前、何時ものアルアル口調はどうした? キャラがぶっ壊れてるぞ」
そう言いながら穿った方の指を迷う事なくその少女に向かい突き出して来た。当然少女は抵抗する。銀時の手を両手で掴み必死にそれを防いでいたのだ。
「ちょっ、あんたいきなり何すんのよ! その汚い指を私に向けてどうするつもり?」
「んだよ。お前何時からそんなブルジョワ気取りになった訳? 俺達は常に貧乏と肩を組んで歩く天下の万事屋トリオだろう……」
言い終わる途中でそれを見た為に気付いた。其処に居たのは神楽ではなく金髪の少女であった。声が同じだったが為に全く気付かなかったのだ。
そして、それと同時に前方から神楽が、後方から新八が飛び掛かり前後を挟みこむ形で蹴りを放ってきた。
「私のダチ公に何さらすアルかこの腐れ天パー!」
「おめぇさっき言ってた事とやってる事がまるっきり矛盾してるじゃねぇか糞ボケェ!」
前後からの同時の蹴りを叩き込まれた銀時の口から苦痛の声が漏れ出し、その後地面に倒れて転げまわる。誠に無様な光景であった。
「大丈夫アルかぁアリサ? この駄目人間に何か卑猥な事されなかったアルか? もしされたんなら今すぐこの男を簀巻きにして三日三晩焼き焦がして定春の餌にするアル!」
「あ、有難う神楽。もう少しでこいつの汚い指が顔にこびりつけられる所だったわ……」
どうやら金髪の少女はアリサと言うらしい。で、そのアリサと言う少女は目の前で転げまわっている銀時に対してまるで蔑むような視線で見ていた。
「あんた、大人の癖してそんな事してるの? 本当に最低よ!」
「ぐおぉ! 普段から聞きなれた毒舌声なのに何故こうも心に響くんだ! あれか? これが金持ちの持つ力なのか? 俺達庶民にとってこうかはばつぐんだ! なのかぁ?」
アリサの吐き捨てた言葉に銀時のハートが粉々に粉砕されてしまった。青ざめた顔で胸を抑えながら必死に天に向かい手を伸ばす。その姿は余りにも滑稽であり、また余りにも無様に見えた。
(もうあの人の事は放っておこう。それにしても、あのアリサちゃんって子。確かに神楽ちゃんに声が似てるや)
新八も薄々そう感じていた。確かにアリサと神楽は声が同じなのだ。まるで声優が同じみたいな感じである。
メタ発言であった。
とにもかくにも、そんな感じで銀時を除く四人が机に座り楽しく会話をしていた。
で、銀時はと言うと、先ほどの行いのせいですっかり悪い印象を植え付けてしまったらしく、二人共銀時から半径50メートル以上近寄らなくなってしまったのだ。
その為銀時は一人庭の隅っこで寂しく座るしかなかったのである。
「へぇ、神楽も新八も万事屋ってのをやってるんだ」
「そうアル! 子猫の捜索から要人の護衛まで何でも引き受けるアルよ!」
「凄いじゃない。まるでスペシャリストね」
どうやらアリサにはその万事屋と言うのが聞き慣れていないらしく、彼女の脳内ではどんな危険な任務もこなすパーフェクトソルジャーを思い浮かべていたのだろう。だが、実際には何でも屋らしく仕事などあってないような物であり、なのはが仕事を見つけてこなかったら基本的に何もない毎日でもあったりする。
「そう言えば、此処はすずかちゃんの家なんだよね。君って猫好きなんだ」
「うん、だから私の家ではこうして子猫を放し飼いにしてるの。その方が猫も喜ぶし」
紫色の髪の少女こと、すずかは回りを見渡してじゃれあう子猫を見ていた。彼女は正真正銘の猫好きなのだろう。そう新八は思えた。新八もまた回りでじゃれあっている子猫達を見ていた。
その子猫達の中に混じって一緒に遊びまわる定春。そして、一匹の子猫に激しく追い回される一匹のフェレットことユーノ。因みに子猫といえどもフェレットはそれより更に小さい。鼠に近い動物なので子猫にとっては絶好の獲物でもある。
(た、助けてえええぇぇぇぇぇ!)
聞こえもしない叫びを挙げながらユーノが激しく逃げ回っていた。そしてその後ろを一匹の子猫が激しく追い掛け回す。捕まれば最期、散々弄ばれた挙句今晩のディナーにされてしまうのは間違いない。
と、とうとう我慢の限界に達したのかユーノが庭の向こう側にある茂みへと入って行ってしまった。それに続いて子猫も茂みの奥へと行ってしまう。
「あ、奥に行っちゃ駄目だよ! 帰ってこれなくなっちゃうよぉ」
「そ、そんなに広大なのこの庭!」
「うん、此処から先って結構視界が悪いから、あの子戻れなくなっちゃうよ」
余ほどあの子猫が心配なのだろうか、今にも泣き出しそうになるすずか。こうなれば直に探しに行くしかない。が、そんなに広大な森であっては言った途端自分達も迷子になってしまう危険性すらある。
と、其処へ……
「だったら俺達に任せな」
「出た、鼻くそ男!」
いきなりな言われようをされるのはご存知銀時である。そしてそんな言いようをしたのはご存知アリサである。
それは良いとして、銀時は名誉挽回のチャンスと悟り、こうして目の前に参上したのである。
「子猫の捜索ならお手の物だぜ。此処は俺達万事屋に任せな」
「でも……」
「大丈夫だよすずかちゃん」
答えに渋るすずかに新八がそっと言い寄った。
「僕達に任せてよ。こう見えても、子猫の捜索には自信があるからさ」
「新八さん……分かりました。お願いしますね、万事屋さん」
「オッケェイ、わが命に変えても!」
最早お決まりの台詞を吐いた後、銀時、神楽、新八の三名は茂みの奥へと消えていった子猫の捜索と、ついでに逃げ出したユーノの捜索に踏み出したのであった。
「へっへぇん、こりゃ棚からイチゴ大福だな。これで無事猫を見つけた日にゃこの家の奴等に俺の顔が覚え良く見てもらえるぜ。そうすりゃたらふく糖分を貰えるしいざとなったら金の方も工面して貰えるだろうしな」
「人間として腐ってますねこの人は……とにかく、今は子猫を捜索しないと」
早速仕事モードに切り替え、三人は子猫を捜索し始めた。すずかの言う通り、辺りは視界の悪い樹海となっている。先ほどの手入れの行き届いた庭とは雲泥の差である。
これは相当骨の折れる作業になる予感がした。
「み、皆さん……来てくれたんですねぇ」
と、其処へボロボロになったユーノがやってきた。が、そんなユーノの存在に気付かなかった銀時の足が無情にも振り下ろされて……
「みぎゃぁぁ!」
「あん、何か踏んだか?」
変な奇声を聞き、銀時は足をどかす。其処に居たのはくっきりと足跡が体一面にこびりついたユーノが瀕死の状態で横たわっていたのであった。
「あ~らら、勢い余って踏んじまったよ。ったく、人間は急に止まれないって教わらなかったのか? これだから最近のガキは教養がなってねぇんだよ」
「教養のきょの字もないあんたが何言うか!」
全くその通りである。そんな訳で意識が朦朧としているユーノを無理やり起こす。
「おい起きろ! でねぇとフェレット丼にして食っちまうぞゴラァ!」
「美味そうアルなぁ。今夜の晩飯に食べたいアル!」
早速涎を垂らしてユーノを見る神楽。このままだと本気で食べられてしまいそうだ。身の危険を感じ取ったユーノは渾身の力を振り絞って目を覚ました。
「た、食べないで! 目を覚ましますからお願いします! だから食べないでぇぇ!」
「お、起きたか。早速で悪いが、お前を追い駆けてた子猫は何処行ったんだ? さっさと教えろ」
「すみません、無我夢中で逃げ回ってたもんでして、其処まで気が回んなくて……」
「何だよ、使えねぇなぁ。新八だったら一度見た猫は死んでも覚えてる位のスキルは持ってるぜ。お前はあれですか? カ○・コバ○シですか? ニュータイプの癖に全く使えないあの○ツ・コ○ヤシですかぁ?」
「あんたどんだけカ○に恨みあるんですか!」
どうやら面倒な事になってしまった。ユーノを見つければ自ずと子猫も見つかると思ったのだが、結局見つかったのはユーノ一人であった。この後更に子猫も探さねばならないとなると気が重くなってしまう。
「ったく、おい神楽ぁ、この駄目フェレットその辺にぶら下げとけ。そうすりゃ自然と子猫が寄って来るだろうよぉ。最悪こいつが食われても咥えこむまで放って置くんだぞ」
「ラジャーアル!」
ビッと敬礼し、ユーノを受け取ろうとする神楽。
「止めてぇぇぇ! 探します。僕も一緒に探しますからお願いだから生贄だけは止めてぇぇぇ!」
「だったら身を粉にしてでも良いから探せや。こちとらてめぇの仕事する上に翠屋の雑用までさせられてんだぞ! てめぇはフェレットだからのんべんだらりんとしやがって。羨ましいんだよコンチクショウ!」
とことん人間として腐ってる発言であった。まぁ、元々駄目人間であル銀時故の発言と言えるだろうから。
正にそんな時であった。突如地面が揺れ始めたのだ。
「何だぁ? どっかで誰かがスーパーサイヤ人化でもしたのかぁ? クリリンが空中で破裂したかぁ? それとも16号の頭がペシャンコにされたのかぁ?」
「違いますよ。これ、何か巨大な生き物の歩む振動ですよ!」
其処はリアルに推測する新八。そして、茂みの上、遥か頭上に顔を出したのは、先ほどユーノを追い掛け回していた子猫であった。だが、その大きさは桁外れになっている。実に定春の10倍近くはある。(予想)
「てっ、でかあああああぁぁぁ! 何あれ! 一体何であぁなっちゃったのぉ?」
「きっとあれアル! いちご牛乳飲んで大きくなったネ!」
「いちご牛乳にそんな成分があったら二度と呑まんわぁぁ! ってか、絶対に違いますよ! 一体何なんですかあれはぁ!」
驚きながら指差す新八。確かに異常な光景であった。目の前に現れたのは巨大になった子猫である。さっきまで小さかった子猫が何故あぁなってしまったのか?
「あれは、多分ジュエルシードの影響ですよ!」
「え? 何それ。ジュエルシードがこの世界にもあるなんて俺聞いてないよ。ってかそのジュエルシードってあんな効果もあんのぉ? だったら俺にも一回使わしてくんない? ちょっとパチンコでぼろ儲けするだけだからさぁ」
「ロストロギア使って何する気ですかあんたはぁ! ってか、駄目ですよ! あれはすぐに封印しないととんでもない事になるんですから!」
ユーノの怒号が飛び交う。この男はロストロギアを使って金儲けをしようと企んでいるようだ。正しく駄目人間を通り越してド悪党であった。
「とにかく、あれが本格的に暴走する前に封印しないと!」
「ったく、面倒くせぇなぁ。おい神楽、適当に気絶させろ。その後新八が体内に入って取り出してくるからよぉ」
「って、結局人任せですか貴方は」
「何だァ? それじゃお前が入るか? 確かに丁度フェレットだし大きさ的には丁度良いなぁ。いや、寧ろお前いっそ食われちまえ。そうすりゃお前体内に入ってジュエルシード封印出来るから万々歳じゃねぇか。あ、ナイスアイディア!」
「人の事殺す気かてめぇはああぁぁぁ!」
遂に新八と口調が被ってしまったユーノ。哀れユーノ・スクライア。君は今日から新八ポジションだ。きっと近い将来君は眼鏡を掛けるだろう。これは予想ではなく必然なのである。多分。
「そんな訳だからお前一丁人助けだと思って食われて来い。安心しろ、死んでも骨があったら拾ってやるよ!」
「安心できないぃぃぃ! 止めてぇぇぇ!」
暴れるユーノを片手に子猫の口目掛けて投げつけようとした正にその時であった。突如子猫に向かい金色の閃光が飛び込んできた。かと思うとそれが爆発し、ビックリした子猫が地面に倒れこむ。
凄まじい振動が辺りを襲い、思わず尻餅をついてしまう三人。
「な、何だ何だぁ? 今のは!」
「今のは、魔力弾! まさか……」
「おいおい、何思わせぶりな発言してんの? やめてくんない。これ以上話がややこしくなるの俺嫌なんだけどさぁ」
「あんたは少しは緊張感持って下さいよ! とにかく、今のは魔力弾でして、魔力エネルギーの塊です。つまり、この近くに魔導師が居るって事なんですよ」
ユーノの発言は由々しき事態であった。只でさえ銀時達はこの世界に来た影響で弱体化している。その上魔導師が来たと言うのは正しく頂けない情報だった。
そして、その情報通りの事態が起こってしまった。子猫と銀時達の間に割って入るかの様に空から一人の少女が舞い降りてきたのだ。
「そ、空から女の子が降りて来た!」
「親方ぁ! 空から女の子が降って来たアルよぉ!」
「気をつけろぉ、今度は巨神兵とかが落ちてくるかもしんねぇぞぉ」
「ちったぁ真面目にやれ馬鹿コンビ!」
ギャーギャー騒ぎあう一同。その騒ぎを耳にしたのか金髪の少女が振り返る。黒いマントを羽織り、同様の色の服を身に纏っていた少女の手にはこれまた黒い鎌にも似た杖が持たれていた。
「なんですかぁこのガキはぁ? 死神気取りですかぁ? デスサイズですかぁ? 俺の姿を見た奴は皆死んじまうぞぉって言いたい盛りですかぁ? 時代はWじゃねぇんだよ。時代遅れも甚だしいぞコノヤロー」
「そうアル! 時代はGアルよ! 俺のこの手が真っ赤に燃える時代アル!」
「いい加減ガンダムネタから離れろテメェ等!」
相変わらず騒ぎまくる三人。その三人を少女はじっと見ていた。すると、その少女はいきなり杖を両手に持ち構えだした。
「其処に居る銀色の人」
「あん? 俺に何か用かよ。言っとくが俺はロリコンは趣味じゃねぇぞ。俺を口説きたかったら後10年は年取りな。そうすりゃ考えてやるからよぉ」
「貴方、坂田銀時?」
「……なんで俺の名を知ってるんだてめぇ」
途端に銀時の顔色が変わった。普段のだらけた印象から一転して真剣な面持ちとなった。それもそうだ。この世界は言ってしまえば異世界。自分達のいた痕跡など全く無い未知の世界だ。
その世界にも関わらず自分を知っている。その疑問を知りたかったのだ。
「答えて、貴方が坂田銀時なの?」
「そうだったらどうだってんだ?」
「そうだったら……此処で倒す!」
言葉と同時にその少女は一気に加速してきた。一瞬の内に銀時のまん前に少女は現れる。そして、杖から金色の刃を展開して頭上に振り上げていた。
(は、はえぇ!)
驚く銀時。咄嗟に木刀を引き抜こうとしたがその直後に少女の姿は消えた。目の前には何も映っていない。
目を見開いて驚愕する銀時。更に、腰に挿してあった筈の木刀がないのだ。
見れば其処にあった筈の木刀が忽然と姿を消していた。
「無い! 俺の木刀が無い!」
「木刀ならあるよ」
「何!?」
声のした方を振り返った。其処は丁度銀時達の真後ろだった。其処には先ほどの少女が銀時の腰に挿してあった木刀を持っていた。その証拠に持ち手の部分に洞爺湖と彫られている。あれは紛れも無く銀時の木刀だ。
「早い、一体何なのあの子は?」
「最悪だ、まさか他の魔導師まで来ていたなんて……」
ユーノは舌打ちした。現状でユーノはこの魔導師に対抗出来そうにない。それに銀時や神楽でも怪しい。新八は言う間でもない。
「坂田銀時、貴方を倒します。私の全力を込めて!」
「その前に俺の木刀返せ! てめぇ無抵抗の人間に対して切れるのか?」
「普通の人間だったら切りません。だけど、貴方みたいな駄目人間には容赦しません!」
待ったなしで切りかかってきた。初撃を横飛びで回避する。だが、その直後に刃の展開されていない峰の部分を振るってきた。それは丁度銀時の背中に命中し、激痛が全身に襲い掛かる。
(な、何だコイツ! 本当にこいつガキか? 子供の力じゃねぇぞこれ!)
ダメージを負いながらも銀時は悟った。この子は紛れも無く強い。更に言えば銀時自身も弱体化しているせいか全く相手にならないのだ。
地面に倒れ付した銀時に向かい少女は閃光の刃を向けた。
「おいおい、一体何だってんだよ。俺ぁ自慢じゃないがお前みたいな可愛い顔の女の子に恨み買うような事した覚えはないんだけどよぉ」
「貴方にはなくてもこっちにはあるわ。覚悟して!」
そう言い少女が杖を振りかぶる。
「銀ちゃん、今助けるアルよぉ!」
すると其処へ神楽が少女目掛けて傘を振るってきた。岩すらも砕く神楽の一撃だ。まともに食らえば骨すらも砕ける威力である。
だが。
「ちっ!」
少女は咄嗟に神楽に向かい手を翳す。するとその手を中心に奇妙な魔方陣が展開される。その魔方陣が神楽の傘の一撃を防いだのだ。
「ま、魔力結界! 間違いない、この子はかなりの使い手だ!」
「言ってる場合かよ! てめぇもそっちの類なら何とかしろよボケェ!」
銀時が叫んだ直後、神楽が後方に吹き飛ばされた。見れば少女が杖を振るっていたのが見て取れる。幾ら弱体化したとは言え神楽を吹き飛ばすとは相当な強さである。
「邪魔しないで! 私の目的はジュエルシードと、坂田銀時だけなんだから!」
「冗談じゃねぇ。まだ幕府から懸賞金貰ってねぇってのにこんな辺境の地で死んで溜まるか! 俺ぁ死ぬ時ぁ腹一杯糖分を食ってから死ぬって決めてるんだよぉ!」
断末魔の叫びをあげる銀時。そんな銀時に向かい少女が迫って来る。木刀の無い銀時にそれを止める手立てはない。
このまま銀時は少女の手により真っ二つに切り裂かれてしまうのだろうか?
その一撃を今度は新八が防いだのであった。
「銀さん、大丈夫ですか? 今の内に早く木刀をぉ!」
「新八ぃ、お前何時からそんなキャラになったの? すっかり成長したじゃない! 俺見直しちゃったよ!」
「無駄口叩いてねぇでさっさと木刀取りに行けってんだよ糞ボケぇ!」
怒号を振り上げながら叫ぶ新八。そんな新八に対し少女が杖を振るう。されど、それを新八は必死に受け止める。
「なる程ね。君達の中では君が一番の実力者なんだね」
「嫌、違うんですけど。って、あれ? 何で僕には弱体化の影響がないんだろう」
新八自身も驚いていた。銀時と神楽が揃って弱体化していると言うのに何故か心配だけは弱体化の影響を受けていないのだ。
「やるじゃねぇか新八! その調子でしっかり頼むぜ!」
光明が見えてきた。どうやらこの影響は新八には見られないようだ。つまり、新八は元の世界と同等の力が出せると言うようだ。
しかし、良く考えてみて欲しい。元の世界で新八の強さがどの位だったかと言う事を。
そして、その強さがこの世界でどれ位の強さなのかと言う事を。その強さは即ち。
「ぎ、銀さん……そろそろ交代して下さい……」
銀時が木刀を手に取った頃にはすっかりボコボコにされた新八が地をはっている状態にまでなっていた。顔はこれまたボコボコになり衣服もボロボロである。
「よくやった新八ぃ。後は真打に任せておきな!」
「ぎ、銀さん……」
「サブキャラはメインキャラを目立たせてこそ意味があるんだ。サブキャラがメインキャラを食ったらそれは作品が駄作になっちまうからな。気をつけねぇとな」
「グダグダ言ってないで早くやって下さい」
そう言い残し、新八は意識を手放した。が、そんなのはどうでも良い。どうせ次回辺りにはケロッとしているのだろうし。
「おい、神楽ぁ、お前の方は大丈夫かぁ?」
「おう、吹っ飛ばされただけだから問題ナッシングネェ! 今すぐにでもそっちに行くアルよぉ!」
そう言ってる神楽だが、その姿と言えば高い枝に引っ掛かった状態で身動きが取れないようにも見えた。
「強がってないでそう言う時は素直に助けてとか言えよ。しょうがねぇなぁ」
頭を搔きながら銀時は少女の前に立つ。今度はしっかりと木刀を握り締めている。もう二度と取られないようにだ。
「さぁて、てめぇにゃたっぷりと聞きてぇ事があるんだ。悪いがちょいと痛い目にあって貰うぜ。その前にせめてもの情けって奴だ。お前名前は?」
「フェイト・テスタロッサ。駄目人間で悪鬼の男、坂田銀時を葬る為にやってきた」
「けっ、俺ぁ確かに駄目人間だが、悪鬼なんて言われる筋合いはねぇぜ。だが、お前が俺の名前を何で知ってるのか、それを教えてもらうぞ」
木刀を構え戦闘状態に入る銀時。それに対し、デバイスを構え同じく戦闘状態に入るフェイト。
侍対魔導師。本来だったら絶対ありえないような対決が、今此処に始まろうとしている。
が、此処で今回は終わり。続きは次回っつぅ事で。
つづく
後書き
次回【人は守るものがあってこそ強くなるもの】
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