少年は魔人になるようです
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第13話 黒翼は過去と戦うようです
AfterSide ノワール
「……行って来い、頑張れ。そして帰って来い、ノワール。」
「…Yes、mymaster.そっちこそ、頑張ってね。」
「ああ。『非対象者選択:≪ノワール≫≪ミカエル≫』
広がれ、『うんめいのうつくしきせかい』」
シュウが唱えると、私とミカエル以外の天使達を、その世界に飲み込んで行った。
「随分柔らかな表情をする様になりましたね、ルシフェル様。
以前の貴方は、そんな表情をすることは無かった……。決して……。」
ミカエルから、皮肉と喜びと、悲しみが混ざった言葉が、私にかけられる。
「…ええ、そうね。私が笑えるようになったのは、シュウ…、愁磨のお陰よ。
今はエヴァって言う妹もいるけどね。」
あのまま地獄に居たのなら、私の心はいつか壊れていたでしょうね。
でも、あの人が来てくれた。あの人は、とても脆い体で、私の所に来てくれた・・・。
「……本当に、貴方は変わられた。
かつての貴方は凛々しく、気高く、刀剣の如く鋭かった。」
「軽蔑する、かしら……?」
「…いいえ、まさか。
私の貴方への念は変わりません。貴方は、常に私の目標です。
幾ら乙女の様になろうとも、先程の武、全く衰えを感じませんでした。
いえ、更に鋭くすらなっていました。」
ミカエルが、私を褒めてくれる。この子は、昔と変わらないわね・・・。
「ありがとう。素直にうれしいわ。」
「貴方に礼などされると、変な気分です……。
昔は幾ら褒めようと、決まって
『ああ。修練の賜物だ。お前も人の事を褒めるより、自分を磨け。』
でしたから、褒め甲斐がありませんでした……。」
そ、そうだったかしら?///そう言われればそんな気も・・・・・・。
「そして、これが私の修練の賜物です。」
そう言って胸に置かれた指の先に光っていたのは――――
「『六対翼の章』……。」
かつて私がそうだった頃、私を象徴して作られた、最強の証。
「『神』の唯一上の位、『大天使長の証』です。
貴方が投獄されてから1000年、この証は主にクルセウスの胸に掲げられていましたが、
私が彼を負かし、以来3000年、私がこうして守っておりました。」
「そう……。所で、他の子たち、は…………?」
他の子と言うのは、ウリエル、ラファエル、ガブリエルの三人の事。
皆、私の副官だった子達。ミカエルに劣らない力を持った子達。
「生きておりますよ?最も、三人は貴方に会えないでしょうね……。」
生きていたのなら、良かったわ・・・・。でも・・・。
「会えないって、どう言う事?」
「私達は、貴方の為に何も出来なかった自分が許せなかったんです。
私は軍の上まで登り詰め、貴方を開放しようと思いました。
しかし、三人は待っていられないと言い、地獄に行きましたが……。」
「私の封印場所は軍の最高機密だったから、
あの子達は当ても無く探していた所を捕まった、と言う事ね?」
「ええ、そうです。しかも、一度や二度ではなかったのです。
100年の独房入りの罰を何度も受け、解ける度に貴方を探しに行きました。
皆が遂に『封印地獄』送りになったのは、3400年前。
私が大天使長の位に就く、僅か400年前でした……。」
あの子達は・・・いつもいつも無茶をして・・・・・・。
「ねぇ、ミカエル。その場所は分かるのかしら?」
「勿論です。私が軍で分からなかったのは、貴方の解放手段くらいです。」
「フフフ、ごめんなさいね。それで―――」
「教える訳にはいかない。」
今までの穏やかな雰囲気を消し、殺気を私に向けてくるミカエル。
「そうね………。そうだったわね、ミカエル。
貴方は何時も真っ直ぐな意見しか言わなかったわね。
…でも、ごめんね。無理にでも聞かせて貰うわ。」
私の言葉に、ミカエルは更に殺気を強くする。
「…あまり私を見縊らないで欲しい。私は貴方と違い、この4000年、常に技を磨き、
武を高め、精神を研ぎ澄ませて来た。
4000年前とは違うのだ、ルシフェル。貴方はもう、大天使長では無い!!
大天使長は、この私、ミカエルだ!!!」
ゴウ!!とミカエルの背中から白炎の翼が三対生え、頭上には炎の輪が浮かぶ。
大剣を横にし、突進する様に、眼前に構えるミカエル。
「武器を構えろ、侵入者ルシフェル!!貴方の伝説を今日、終わらせてやろう!!」
私は槍剣を回し、穂先を下に向け、構える。
「ねえ、ミカエル。変わらないモノって、無いのかしらね……。」
バサァ!と私は、全天使中唯一私だけが持つ、『六対の黒翼』を広げる。
「……貴方が居なくなった天界は、全てが変わってしまった。
変わらないのは、この証だけだ……!!」
キラ、と天翼章ともう一つ、何かが光った。
キィン!と私の頭上に、闇色の輪が現れる。
「ミカエル……。本当に戦うしかないの……?」
「くどい!!…戦う気が無ければ、来なければ良かった!!」
ミカエルは、構えた剣の先を僅かに下げる。
・・・昔からそうだった。動揺すると構えた剣が、僅かに下がるところ。
「もう、戻れないわよ。」
再度、剣が揺れる。
「『大天使長』、『炎』のミカエル!
信ずるモノは我が信念と、我が炎の魔剣『レーヴァンティン』!!」
そう。なら、私も、もう容赦しないわ・・・・・・!!
「『高貴な黒き翼』、ノワール・プテリュクス・エーデル・織原!!
私は、愁磨と、私と、エヴァと………。」
一瞬、言うか迷ったけれど、自分の信じる者を口に出す。
「私は!!愁磨と、私と、エヴァと、貴方達を信じるわ!!」
ミカエルはビクン!と震えたけれど、二、三度頭を振り、突進してくる。
私もそれに応え、突撃する!
「あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああ!!!!」
ドグォォォオオオオオオオオオオオオオオン!!!!
私達の刃先がぶつかり、衝撃波が起こる。
「はあああああああああああああああああああああ!!!!!!」
キィンキィンキィンキィンキィンキィンキィンキィンキィンキィンキィンキィン
「やあああああああああああああああああああああ!!!!!!」
大剣と槍剣は、ぶつかり合う激しさに似合わず、美しい音を奏で、
幾十幾百幾千とその音色を重ねていく、が―――。
「どうしたのミカエル!!貴方の4000年の修練はその程度なの!?」
キィンギィン!キィンキィンキィンギィン!ギィン!キィンキィンギィン!
「なめるなあああああああああああああああああああああああ!!!」
重ねる毎に、段々ミカエルが、私の槍剣を捌けなくなっていく。
が、これは彼女本来の戦闘スタイルで無いのだから、当然だ。
「チィィ!!!」
ガィィィン!!と大剣で私の槍剣を無理矢理パリィし、距離をとる。
「貴様の余裕も此処までだ、ルシフェル!
『燃え盛れ炎神!≪爆炎剣!!』」
ゴォウ!!とミカエルの剣『レーヴァンティン』から炎が噴き出し、
技名通り、巨大な炎の大剣になる。
副官時代の彼女の全力が5m程、しかも全く集束出来ていなかったのに比べ、
今の大剣の大きさは15m以上あり、炎は揺らぎ一つ見受けられない。
「奥義『武帝焔舞』!!」
剣の大きさを活かした、完全な間合い外からの攻撃。
しかし、剣自体の重さは変わっていないため、その一撃は音速を超えたままで襲ってくる。
「『闇帝旋風』!!」
それを、槍剣を円形の盾としか認識できない速さで回し、受け流す。
しかし、ミカエルも負けじと攻め立ててくる。
袈裟斬を受け流せば、放った力と受け流された力を利用し、逆袈裟を。
右薙を受け流すと、同様に左斬上を放って来る。
闇の風と王の炎が幾度も幾度もぶつかり合う。
それは回を重ねる毎に強さを増して行く。これが、彼女本来の戦い方。
強大な力と、経験に裏打ちされた確かな技術、炎の熱で相手を疲労させる。
圧倒的な戦力で相手を押し潰す、速く、巧く、重い剣。単純明快、だから強い。
「はああああああああああああ!!」
ザン!!
「でも、私には届かない!!!」
「私の炎を切るのなんて、貴方くらいですよ!!『炎神召喚!≪地裂爆炎衝≫!!』」
ドン!とレーヴァンティンを突き刺した瞬間、私の足元から
大気すら焦がす炎が出てくる。
「無駄よ!『祓え、天槍』!!!」
槍剣を目の前で一閃すると、出て来る筈だった炎は掻き消える。
「相変わらず、ふざけた能力だ!!!」
「言っておくけど、条件厳しいんだからね!?」
私の槍の能力の一つ、『魔法消去』。
この技で祓えるのは『その魔法を完全に知っている』場合だけ。
故に、消せるのは私がいた頃の天界魔法とシュウが使っていた魔法のいくつか。
「……やはり、貴方は強い。しかも、その技がある限り私の攻撃は貴方に届かない。
―――だから、見せてあげます!私の、『最大顕現』!!」
ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!
とミカエルの背中の炎翼が一つになり、3m程の鳥の翼の様になる。
深紅の鎧は全て炎で形成され、その姿はまるで鳥人のよう。
そしてレーヴァンティンの刀身も、全て炎で形成される。
「『焔鶯・鳳凰鳥』。これが私の新しい技です。
そしてこうなった私の力は――――!!」
ボウ、と私の横で炎が爆ぜる音がした瞬間、私は槍剣を薙ぐ。
ガィィィィィィィンンン!!
「貴方の力を凌駕する!!!!」
そこには、15m離れていた距離を、今の私に全く視認させずに迫り、
レーヴァンティンを振り下ろしたミカエル。
「はああああぁぁぁああああああぁぁああぁぁあぁぁあああああ!!!!!!」
ゴウ!ゴォウ!!ゴオ!!ボオォォォォ!!!
最早見えなくなった攻撃を、音だけで防ぐ。
「まずい……!!!」
「どうしました!やはり、今の貴方では最早私に勝てないと悟りましたか?!」
その通りだ。今のままでは、ミカエルの攻撃を受けてしまう。
そうなったら・・・・・シュウが、怪我をしている私を見たら、
ミカエルが死んでしまう――――!!
「……いい加減、遊ぶのは辞めようか。」
オオォオオオォオォォォォォオオオオオオオオ!!!
「―――――――――ッッッ!!?!?」
私が魔力を全て解放すると、ミカエルは攻撃の一切を止め私と距離を取る。
「ミカエル。確かにお前は強くなった。昔の私と比べても勝る力だ。
だが、忘れている様だな。私がなぜ、最強であったかを。」
「あ、……あ……………。」
「『魔』と『聖』。相反する力を使えたからこそ、私は最強だったのだ。
尤も、お前と居た時は、本気を見せた事は無かったな。」
「本気、だと……?今までは、全力で無かったとでも言うのか?!」
私は、その言葉を否定する。
「それは違うな。私の全力は、『その戦闘で必要な最大の力』の事だ。
しかし、お前の事を見誤っていた。そこまで力を着けているとは思わなかったよ。
……だから、お前には、私の本気を見せよう。本気を出すのは、二人目だ。
―――簡単に、終わってくれるなよ!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!
私の手に黒い魔力と白い魔力が溜まって行く。
私の使う『魔』と『聖』の属性。それは、『闇』と『光』の上位属性。
それを、純粋な魔力で構成し、融合させる。
「『魔合聖纏』!」
この技は『咸卦法』と『闇の魔法』と呼ばれる方法に酷似している。
相反する魔力を合わせ、自らに取り込む。
この力で強化される力は、『魔』と『聖』両方の適正によって決まる。
「―――暁の明星『最大顕現』≪暗逆併明≫」
コォォォォォォォォォォォォォォォォォと、
私の周りを白と黒の風が覆い、すぐに消え、変化した私が出てくる。
「さあ、行くわよ、ミカエル。」
その姿は、天使としては真に異様。
黒翼だけであった翼は半数が白くなり、天輪は白と黒の二つが浮かんでいる。
髪の所々が白く染まり、手に白と黒の『明星の彗星』が握られる。
「クッ、私は、貴方を超えるんだぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁあぁぁぁ!!
最終決戦奥義!!『熾焔鳥』!!!」
それを見たミカエルは、太陽に匹敵する炎を纏う鳳凰に姿を変え、突撃して来る。
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!
地面と大気を蒸発させながら近づいて来るミカエルの最強奥義に向かい、
柄を繋げ双槍となった『明星の彗星』を投擲する!!
「『奥義≪夢無明亦無≫!!!!』」
私の奥義は、強化された力を『投擲』を放つ為だけに使い、
放つと同時に『暗逆併明』のエネルギーに魔力を上乗せして発射する事。
光速に迫る速さを持ち、≪暗逆併明≫+αの魔力を纏った双槍の総エネルギー量は、
太陽など、簡単に吹き飛ばせる!!!
ズッ
と技がぶつかり合う音が聞こえた後、
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!
凄まじい音と光が放たれ、次元が歪む。
しかし音は直ぐに止み、『明星の彗星』は弾かれヒュンヒュンと飛んできて
私の2m程前方に突き立った。
その更に15m先には、最早、原型の残っていない鎧と、
レーヴァンティンを杖代わりに立っている、痛々しいミカエルが居た。
「ま、だだ…。まだ、私は……!たた、かえる!!」
ゴゥ!とミカエルは再度レーヴァンティンに炎を纏わせる。
が、その炎はチラチラと揺らぎ、剣も碌に構えられていない。
「ミ、ミカエル!もう止めましょう!!これ以上は……。」
「うるさい!!私は、貴方に勝たねばいかんのだ!」
レーヴァンティンを振り上げ、私に襲いかかって来る。
私は『明星の彗星』を取り、それを受け止める。
「な、なぜそこまでするの?!こんな事をしなくてもあの子達は―――」
「黙れ!!私が……私が助けたかったのは、あいつ等と、貴方だった!!」
ガイン!! ガイン!! ガイン!! ガイン!!
「私は、助けたくて!!貴方に、ただ認めて貰いたくて、
貴方の後ろで無く、横に並びたくて力を磨いた!!
1000年掛け、ようやく貴方と同じ地位に就いた!
3000年掛け、ようやく皆を助ける準備が整った!!なのに、何故!
何故貴方が此処に居る!?」
「ミカ、エル………。」
ガイン! ガイン! ガイン!
「私の!!!!!」
ガイィィィィィィンン ヒュン ヒュン ヒュン ドス! ドス!
「私の、してきた事が、・・・無駄ではないか・・・・・・。」
私達の武器が飛び、後方へと突き刺さる。
ミカエルが膝を付き、目の端に溜まっていた涙を流す。
「ミカエル。」
私も膝を付き、ミカエルをそっと抱き締める。
「貴方のして来た事は無駄じゃないわ。私を助けてくれたのは、貴方では無いけれど。
貴方のお陰で、あの子達を助けられる。
――それが、不満なのかしら?」
「そんな訳、無いです………。でも、それでも、私は……。」
「……ありがとう。それだけで、私はもう十分よ。」
と、その時不意に、パリィーーンと割れる音がした。
「さぁ、あちらも終わった所だし、行きましょう。」
「あ……。やはり、ダメです。だって貴方達は仲間を……………え?」
ミカエルが困惑した表情をする。
そうでしょう。死んだと思っていた人たちがゾロゾロと現れたんですから。
「え?あ、あの、どうして…………?」
「その説明は後でまとめてするから。さ、行きましょ。
ああ、そうそう。私はもうルシフェルでは無いわ。
だから、ノワールと呼んで頂戴。」
ミカエルを置いて、私は向かう。――シュウに説明して貰う為に。
「よ、ノワール。終わったんだな。」
「ええ、一応決着は着いたわ。―――でも、今からまた始まるのよ。」
「……デスヨネー。」
「で?何故その子が貴方に引っ付いているのかしら?」
―――仇であった筈の少女(シュウ曰く幼女)が生きていて、
何故、見た目通りの弱々しく、縋るようにシュウの足に抱き付いているのかを。
Side out
後書き
少々お疲れモードなので2話のみ。
夏なんてなくなればいいのに。ずっと春の気温・天気がいいです。
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