ソードアートオンライン VIRUS
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違和感
本戦突破を果たしたゲツガは控え室となっている大広間に帰って来る。あの戦いでは三十分ぐらいしかったっていないと思う。そして、ゲツガが入ってくるとほとんどのプレイヤーが道を開けて通る道を作る。
先ほどの試合を自分のウィンドウで見たのか上にあるホロウィンドウで見たのかはわからないが今はどうでもいい。少し休みたいと思い、先ほどと同じ壁まで移動して背中を預けて座る。
「お疲れ様」
突然上から女性の声が聞こえたのでそちらのほうを向く。そこには、昨日あったナナミの姿があった。しかし、喋り方が若干違う。
「えっと、ナナミだよな?昨日と全然喋りか……あぁ、そういえば、昨日のは三咲さんのほうだったな。つうことは今入ってるのは奈美か」
「うん。でも、そっちの名前では呼ぶのは禁止だよ。ゲツガ君」
「悪い、ナナミ」
「何かこうやって会うのも新鮮に感じるね。一緒に住んでるのに顔も違ったアバターで会話するなんて」
「そうか?そんなの気にしてなかったからな」
「そうなの?」
そして、しばらくナナミと会話をしているとブザーが鳴る。そして、ナナミは視界の端を見て立ち上がった。どうやら、ナナミは出番らしい。ナナミが行くと今までこちらにあった殺気交じりの視線が消えた。女性プレイヤーが圧倒的に少ないだろうこの世界ではどうやらナナミは相当人気者なのだろう。
「頑張って来いよ」
「うん」
そして、ナナミは扉のほうに足を向けて歩いて行った。ナナミに手を振って送るとすぐに自分の世界に入る。
(あのときの声……それに背筋どころか体を不快にする声……まさか……奴らか……いや、ありえない。あいつらは、確かにALOの時にあそこでどこかに消えた。それに、俺は今、ナーヴギアじゃなくて、アミュスフィアをかぶってるんだ。特定なんて不可能なんじゃないか?だけど、可能性はゼロじゃないか。実際に、あの神経逆撫でされたみたいに不快な声はウィルスしかいないだろうし)
先ほどの試合中のことを考える。急に聞こえたあの声だ。しかし、自分はこういうネット関係には強いくない。こういうのは和人とかに任せるのが普通だが、実際にこれは自分の問題だろう。自分でどうにかするしかない。
「だけど、さっきの声はまったく聞いた覚えがないし、探すにしても今はほぼ無理だな。接触してくる可能性もあるからそっちにかけるか、こっちが探すかのどっちかだな」
考えはそこで一度切って、自分のウィンドウを開く。そして、ウィンドウで今ある試合を見物する。
「ナナミはっと……いたいた。そういえばナナミもこっちでは有名だったんだよな。つうか、これは紅一点だな。周り男ばっかだし。若干観客席の方でもフラッシュみたいなものがあるし」
アバターも普通に可愛いものになっているから注目を集めるのも仕方ないのだろう。しかし、どこかいやらしいことをしようとナナミに突っ込んで来るプレイヤーも見受けられたが一瞬でナナミに叩き落されていた。
そして、さっきの予選では見事ナナミが勝った。観客席では、かなりの大盛り上がりであったのかウィンドウからものすごい音声が流れ込んでくる。こちらの控え室でも少し騒がしくなっている。
そしてナナミが帰ってくると、かなりの数のプレイヤーに囲まれていた。まあ、SAOでもこんなこと会ったし、女性のプレイヤーの少ないVRMMOでは仕方にことなのだろう。
それを見て苦笑する。そして、ウィンドウが急にノイズが発生した。
「やっぱり接触してくるか!?」
小声でそう言うとウィンドウを食い入るように見る。しかし、ウィンドウには何も映されておらず真っ黒だ。
しばらくするとノイズは収まり、元のウィンドウに戻った。
「なんだったんだ……さっきのはただのバグか?」
突然のノイズで警戒したが特に起こらなかった。息を吐いて、ウィンドウをしまう。まあ、考えても見れば、さっきの試合で聞こえた声がウィルスだったことも疑問だ。自分の思い過ごしであって欲しい。
十六組の予選が同時に行われている。ようやく最後の八試合目。この試合には前大会の優勝者であるジュンが出る試合だ。たぶん相当盛り上がるだろう。しかし、こちらの控え室は百人以上いたプレイヤーはもうすでに十四人しか残っていない。
そしてウィンドウを見ながら試合を観戦する。ジュンのプレイスタイルは空手のような構えだが攻撃の仕方がほぼ全般の格闘技の技のようなものがあったり、拳で殴ったり、蹴ったりする動きも、まるでばらばら。だが、それでも動きは鋭く、速く、そしてウィンドウから見てもわかる一撃一撃の重さ。しかし、これはアイテムの効力も入っているだろう。
「こりゃ、戦うにも骨が折れるな。っと、そういえばもう一方の奴は誰が勝ってるのかな?」
もう一方の方を見るがこれといって注意すべきプレイヤーがいないと思い、目を離そうとすると、端っこのほうに何か動いていないプレイヤーを見つけた。
「こいつ……戦う気あるのか?」
そのプレイヤーはただ傍観してるだけで何もしていない。でも、こんな奴があがってこれるわけないだろうと思い、ウィンドウを閉じる。
この後は、休憩に入り次の試合開始時間は夜の七時からだったはずだ。それからは普通に飯食って、シャワー浴びてまたログインするだろうな。そんなことを思いながら今日の晩御飯の献立を考えながら、待っているとようやく試合が終わったようで少し音の割れている歓声が聞こえてくる。
「よし、片方はジュンとしてもう片方はどいつが勝ったんだ」
もう片方の予選では誰が上がってきたのか確認する。そこには、先ほど何もしていなかった、あのプレイヤーがいた。
「こいつが勝ったのか?どうやってかはわかんねえけど最後までHPをとっといたから勝てたのか?最初から見ときゃよかったな」
そう呟くと、アナウンスが流れる。
「勝ち残ったプレイヤーの皆さん。今から三時間ほどの休憩を挟みます。各自自由に行動しても構いませんが本戦に間に合うように戻ってきてください」
そしてアナウンスが切れるとゲツガはログアウトができることを確認してログアウトした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ログアウト後は、飯を全員分作っているとき、キッチンに純が入ってきた。
「お前か……。飯は俺の分を少なくしてくれ。この後はちょっと多く食いすぎると駄目だからな」
「ああ。今日は三人分は少なく作るつもりだから別にいいぞ」
「ん?何で三人なんだ?俺と美奈ぐらいしかいないはずだろ。あの大会に出てんのは」
「そこまで知ってるんならわかるだろ?」
「まさか、お前も出てるとか言うんじゃないよな?」
「そうだ」
「……ちっ、お前も出てるのかよ。どんなアバターだ?もしかして、あの俺と同じ時間に上がったあのぱっとしない奴じゃないだろうな?」
「まさか、そんな奴じゃねえよ。俺とお前はあの時顔をあわせたはずだぜ?」
「お前、もしかして……あの最近出てきたゲリラを一撃で倒したあいつじゃないだろうな?」
「察しがよくて助かるよ」
「最悪だな。まさか、あのプレイヤーがお前だったなんてな。通りで最初から何か気に食わないと思ったぜ」
嫌そうな顔をして睨んでくる。それを無視して自分や奈美、純の分のおにぎりを作る。もちろんお袋たちのはちゃんと別に用意して作ってある。
「だけど、お前にはこっちで負けたけどあっちでは負けないぜ。あの世界では俺はどのくらい頑張ったと思ってるんだ」
そう言って皿に置かれたおにぎりを取ると食べ始める。
「その頑張りをこっちの方にも活かして欲しいね。そしたら義父さんも義祖父さんも喜ぶのに」
「別に頑張らなくても俺はいいんだよ」
その言葉を言った純の顔はどこか複雑そうに見えた。しかし、すぐにいつもの敵対心のある目で見てきた。
「もしお前と当たった時は俺が瞬殺してやるから首を洗って待ってな」
そう言って水を飲んですぐにキッチンから出て行った。
「……何か、負ける奴が言う台詞ばっかはいて言ったな……俺と当たる前にあいつが負けるんじゃないかとか思ってきた……」
そんな心配をしながら準備を終えたため調理道具を片付けて自分もご飯を食べるために席に着く。その時、ちょうど奈美が入ってくる。
「お、奈美。今ちょうどご飯出来たから食べるか。まあ、料理っていえる代物じゃないんだけどな」
「うん、食べる」
そして奈美も座り、ともにおにぎりを食べ始める。
「そういえば、奈美。あの時、純と一緒に上がったあのプレイヤーいただろ?あいつどうやって勝ったんだ?」
「ん?あのプレイヤー?あのプレイヤーはチェックしてなかったから私も見逃したんだ。どうやって勝ったかまではわからないけどとりあえず逃げてやり過ごしたんだと思うよ」
「いや、たぶん違うと思うんだよな。あいつ若干モニターに移ったときは動いてなかったからそれはないと思う」
「そうなの?それなら、私もわからないよ」
「やっぱり、戦うしかないか」
「何でお兄ちゃんじゃなくてそっちのプレイヤーの方を気にするの?」
「ちょっとな」
そう言ってお茶を飲み干すと自分の分の皿を水につける。
気にする理由は、違和感である。どこかあのプレイヤーは雰囲気が普通のプレイヤーとじゃ感違う。しかし、これは自分だけが思ってることであり、他人にはわからないであろう。
「じゃあ、先にシャワー使わせてもらうからな」
「うん。じゃあ、次はあっちでね」
「ああ」
そして優は素早くシャワーを浴びてラフな格好に着替えると、自室に向かう。と、急に携帯が震える。
「誰だ?」
取り出すと相手はユイだ。
「もしもし、ユイか?」
「あ、お兄ちゃん、久しぶりです~」
久しぶりに聞く、SAOでの妹の声を聞いて頬緩ませる。
「どうしたんだ?」
「ちょっと、お兄ちゃんが元気か声を聞きたくなりまして……」
少し恥ずかしそうに声で言うユイ。
「ああ、俺は元気だよ。キリトやアスナ、ユキは元気か?」
「はい、パパとママはいつもどおりラブラブです。お姉ちゃんはお兄ちゃんがいなくて寂しそうですが、定期的に電話やメールをもらってるから大丈夫って言ってます」
「そうか、ユイ。ユキにはなるべく早くそっちに行ける様に頑張るからって伝えといてくれ」
「わかりました。さよならです、お兄ちゃん」
「ああ、また今度な」
そして電話を切る。
「さてと、元気ももらったことだし、もう一頑張りするか」
そして優は大会本戦へと進む。
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