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駄目親父としっかり娘の珍道中

作者:sibugaki
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第7話 甘い菓子には渋いお茶が一番

 源外から告げられた内容に激しくショックを受ける銀時。そして、その内容を同様に新八、神楽、ユーノに告げた所、同様に他の皆もショックを受けてしまっていた。
 特に先ほど石つぶてを握り潰せなかった神楽のショックは相等な値になるであろう。

「マジアルかぁ。道理で体が妙にだるかった筈アルよぉ。おい其処の淫獣。ちょいと肩揉むアル。このままじゃ私の肩がガチガチになっちゃうアルよぉ」

 訂正しよう。大して気にしてなかったようだ。しかも彼女の中ではユーノの存在は新八と同程度として見られているらしく、すっかりユーノを手駒の如く使っている始末である。

「あの、僕の手じゃ無理なんですけど……今の僕フェレットだし」
「んじゃ人間に戻って肩揉めよ! 言っとくけど肩意外のとこ触ったりしたら只じゃおかないアルよ。銀魂のヒロインに手ぇ出したって事でお前の会社に被害届出してやるから覚悟しとくアル」
「すんごいハードル高いんですけどぉぉぉ! 僕じゃ無理だ。あんな針山みたいな肩をマッサージするなんて僕には出来ない! あんなの触っただけで僕の両手は血塗れになってしまう。無理だ、僕には絶対に出来ないよぉぉぉ!」

 どうやらユーノには神楽の肩を揉むと言うのは相等難易度の高い事だったようだ。その証拠に神楽のすぐ後ろにてユーノは頭を抱えて苦しんでいる。流石に世界が違うと考え方が違うようだ。

「いい加減にしなよ神楽ちゃん。ユーノ君だってわざとやったんじゃないんだから、それを汲み取らなきゃ駄目じゃないか!」
「し、新八さん……」

 この中に唯一自分に味方が居た事に感動するユーノ。フェレット姿のまま大号泣しながら新八を見ていた。恐らく今のユーノには新八はとても輝いて見えていたのだろう。
 が……

「何同族同士の慰めあいしているアルか? マジキモイアルよ。暫く私から半径50メートル位離れてるヨロシ!」
「察してやれよ神楽。どうせこのガキも新八と同じで故郷じゃツッコミと影薄だったんだろうよ。だから新八ともこうして息が合うんだ。悲しき同族愛って奴だよ」

 そんな二人に対し銀時と神楽の冷たい言葉と言う名の刃が次々に突き刺さっていく。とても鋭利な切れ味だった。その切れ味は一振りで心と言う名の肉を引き裂き、理性と言う名の骨を粉砕していく程でもあったのだ。

「あんたら意地悪も大概にしろよ! どんだけツッコミに恨みがあんだよ! ほら、ユーノ君も何か言ってあげて! こいつら黙ってると調子に乗りまくるから言い返さないと飲み込まれてしまいますよ! カオスと馬鹿と言う名の無限ループの渦に君も飲み込まれちゃうんだよぉ!」

 流石は新八である。長年銀時達馬鹿共達の中を生きぬいて来ただけありこの程度の事では屈しない鋼の魂を手にしていたのだ。
 が、それは新八の話。見も心も華奢な初心ボーイであるユーノ君に居たっては……

「ははっ、そうだよねぇ。僕って考えてみたら部族の中でも影薄かった面もあった気がしたけどきっと気のせいだって言い聞かせてきただけだったんだ。本当は僕は部族の中で一番影が薄い可愛そうな子だったんだなぁ。そう言えば今回のあれだって―――」

 その後も暫くはユーノの自虐ネタが続いていた。流石に新八はユーノからそっと身を退いた。このまま彼の側に居ては自分もあのダークなオーラに飲み込まれてしまいそうだからだ。

「それで、これからどうしましょうか?」
「このまま此処に居たって埒が開かねぇ。こうなったら人の居る所に行って此処が何処なのか情報を集めるっきゃねぇだろうなぁ。それにそろそろ俺の糖分タイマーが激しく赤点滅してやがんだ。これ以上糖分を取らないで居ると銀さんはもう二度と立ち上がる事が出来なくなっちまうんだよ」
「さりげなくウルトラマンっぽくしないで下さい。そんな事したって貴方は光の巨人にはなれないんですから。なれたとしてもせいぜい堕落の魔人とかそんな感じですよ!」

 とまぁ、結局このままずっと此処に居たのでは埒が開かないと言うのと空腹も癒せないと言う結論の元、人の居る場所に向う事を決める銀時。その意見に新八は反対はしなかった。正論だと思ったからだ。どの道このまま此処に居ても事態は進展しないだろうし、第一まごまごしていたらその間にもなのはの侵食は進んでしまう。
 一刻も早く彼女を見つけて侵食を止めなければならないのだ。

「っつぅ訳だからこれから移動するぞお前等。おい神楽」
「何アルか? 今私は定春とモフモフタイムを満喫中アルから話しかけないで欲しいアル」
「てめぇは何時でもフリーダムだな。良いからよく聞け! これから人の住んでそうな場所に行くぞ。そんで情報収集なり腹ごしらえなり済ますんだよ」
「マジアルか! いくいく絶対いくアル!」

 神楽が乗り気になってくれた。しかし、恐らく神楽の事だろうから情報収集と言うよりも腹ごしらえと言う単語で乗ってきたと思われる。まぁ、今はそれでも構わないのだが。とにかく移動する必要があった。

「新八は其処でダークオーラを出しまくってる色違いを連れて来い」
「色違いって何だぁぁぁ! 確かに僕もユーノ君も地味でツッコミ担当だけどだからって同類として扱って欲しくないわぁぁぁ!」

 銀時のあんまりな言い分に怒号を張り上げる新八。ふと、新八は後ろに居るユーノの方を向いてみた。もしかしたらさっきの言葉を変な風に聞いていたかも知れないと思えたからだ。
 そっと振り返ると其処には更にド暗いオーラを放っており、フェレットだと言うのに器用に三角座りしていたのだ。

「どうせ僕なんか、新八さんよりも使えないキャラですよ。最初の時だって禄にロストロギアの封印も出来ないのに新八さんはちゃっかり戦ってたし、それに新八さんはそれなりに戦えるキャラなのに僕ときたらこの通り全然使えない駄目駄目やろうだしそれに……」
「御免、マジ御免ユーノ君! 謝るから機嫌直して! そのままだと流石に僕も持つ気になれないから! 嫌、マジで!」

 必死にダークゾーンへと陥ったユーノの救出作業に勤しむ新八。そんなこんなで色々とあったがようやく移動を開始した万事屋ご一行。
 目を覚ました場所は一面草原の場所だったが少し歩いた辺りで湖のほとりに出た。
 其処には数籍の足漕ぎ型ボートが浮かんでおりその付近に貸しボート用の建物も建っている。だが、生憎今日は定休日だったのか閉まっていた。入り口の看板にも『定休日』と看板がぶら下げられており付近に人気は全くない。

「んだよ間が悪ぃなぁ。定休日の日にちぐらい考えて休めってんだよ」
「いや、僕等がとやかく言える事じゃないですから。それよりこうして人工物が付近にあったって事は近くに町とかがあるって事じゃないですか」

 新八の推理が冴え渡る。これは明らかに娯楽を目的とした施設だ。即ちその付近に人の暮らす町なりがなければ経営は成り立たない。そう判断したのだ。

「なる程ねぇ。んじゃさっさと行くとすっか。さっさと茶店見つけて糖分を補給したいぜ」
「私も酢昆布が食べたいアル」
「はいはい」

 相変わらず好き勝手な事を言いまくる二人に心底呆れる新八であったりする。
 一向は人気のないボート施設を後にし、更に道を適当に進み続けた。未開の地故に地理などあってないような物な上に先導しているのがよりによって銀時な為に結構行き当たりばったりだったりするのだ。
 
「あの、銀さん……ちゃんと道考えて歩いてます?」
「歩いてるよ。俺の本能に従って」
「結局適当に歩いてるだけじゃねぇかぁぁ! もう良い、あんたが先導して歩いてたら何時まで経っても人の居る所に着く訳ないんだ! 今度は僕が先導して歩きますよ!」
「んだお前。此処に来て目立ちたがりやですかぁ? 年下は年上を敬うもんだろうが。何前に出ようって顔してんだ? これを起にこの作品の主人公になろうって魂胆が見え見えで先生凄く怖いでぇす」
「何時から先生になったんだてめぇは! ってか色々と黙れ! あんた相変わらず人の揚げ足取ったり傷口ほじくってばっかじゃねぇか!」

 とうとう口論にまで勃発してしまった。神楽と定春、そしてユーノの前で銀時と新八が激しく言い争っている。
 その様を神楽が心底呆れた顔で眺めているのであった。

「本当に男って馬鹿アル。定春、構う事ないからこの馬鹿二人の頭を噛み砕くヨロシ」

 神楽のその言葉に大層嬉しく吼えた定春。そして、有無を言わさず銀時と新八を抱え込み、そのまま巨大な口の中へと放り込んでしまったのであった。

「うおっ! 画面がいきなりブラックアウトしやがった! ってか定春! お前また勝手に人の事噛み付いたんだろう! 出せコラァ!」
「暗いぃぃぃぃ! 此処は何処? 私は誰ぇぇぇ!」

 巨大な定春の口に咥えられた状態で下半身だけが露出し暴れまわってる銀時と新八。かなりシュールな光景であった。その光景を見てユーノは青ざめてしまうのであった。

「あの、神楽さん……もうその辺にしてあげた方が良いんじゃ」
「この程度じゃ駄目ネ。こいつらこれ位じゃへこたれないネ。定春、構う事ないからそのまま粉々に噛み砕くヨロシ」

 神楽の命令を受けた定春の顎がより一層強く閉まる。その勢いにより口の中にあった銀時と新八の上半身はどうなったかは、此処では記さないで置く事にする。
 だが、このままだとちょっと面白くないので、最後に二人の断末魔で一応この場面を締めさせたいと思います。

「「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」




     ***




 そんな事があった。と言う懐かしい思い出を胸に、銀時達は強く歩みを進めた。結局、あの後はユーノを頭に乗せた定春を先頭にして歩く事となった。かく言うユーノも此処の地理はさっぱりだが、少なくとも銀時よりは任せられる。だが、生憎ユーノはフェレットのままだし、しかもどう言う訳か人間に戻れないと言うのでそのままだととても見辛いので同じ動物と言う繋がりから定春の頭に乗せて道案内をすると言う形で先導する事となった。
 しかし、流石はユーノである。幾ら知らない道とは言え銀時みたいに行き当たりバッタリで行く事はしないので的確に進んでくれている。そのお陰か徐々に人が使って居そうな道に出てきた。

「おぉっ、こりゃもしかしたらもしかするんじゃね?」
「ってか、銀さんがずっと適当に歩き回っていたから此処まで時間掛かったんでしょ? これなら初めからユーノ君を先頭にして歩いてた方が早く着きましたよ」
「へいへい、そうかも知んないねぇ。それよりも俺ぁ早く糖分を摂取したいんだけどよぉ。近くに茶店とかねぇ訳?」
「知りませんよ。ってかもうちょっとだけ待ってて下さいよ」

 どうやら銀時の糖分タイマーもそろそろやばめらしい。見れば銀時の額のあちこちに歪な形の血管が浮かび上がりだしてきている。相等なまでに銀時の体内の糖分が切れ始めているのだ。急がなければ銀時は二度と立ち上がれなくなってしまうのだ。
 しかし、別に戦闘に支障が出る訳じゃないので特に問題はないのだが。そうこうしながら歩いていた時、ふと、銀時の異常に鋭くなった嗅覚が何かを捉えた。

「こ、この匂いは……」
「どうしたんですか銀さん。糖分を使い過ぎて幻覚でも見たんですか?」
「黙ってろ新八! この匂いは間違いねぇ。糖分の匂いだ! それも、この匂いはかなり上等の砂糖を使ってやがる! 俺には分かるんだ。今の俺は異常なまでに糖分に飢えている。だから俺の嗅覚が、視覚が、聴覚が、五感全てが糖分を求めてその能力をフル稼働させて探っていたんだ」
「何であんたはそう言う超絶パワーアップフラグをどうでも良い事に使うんですか? 此処で使ったらもうこの後のバトルでそう言うネタ使えないんですよ!」

 新八のメタ発言にも似たツッコミをガン無視しつつ、銀時は己の五感が感じ取った史上の糖分を目指し一目散に突き進んだ。その速さは既に人の速さを超えた獣の速さとも言えた。

「ちょっ、銀さん速いですよ! ってかあんたそう言う時だけ何で何時も全力全開なんですか! その力を少しは普段にでも出して下さいよ!」
「うっせぇぇぇ! 俺ぁ今糖分が欲しくて欲しくて溜まらないんだよ! 邪魔するんならてめぇも纏めて頭冷やさせるぞゴラァ!」
「誰の台詞だそれぇぇぇ!」

 走りながらでもボケとツッコミを忘れない。これぞ銀魂クオリティ!
 等と言いつつも気がついたら一同は見慣れない町に来ていた。海辺に作られた小さな町みたいであり、海岸には綺麗な青い海が無限に広がっている。
 だが、今の銀時にそれを見る余裕など全く無く。只糖分を取りたいと言う欲求の元動いていたのであった。
 そして、銀時が辿り付いた場所。それは一軒の喫茶店であった。
 入り口には緑色の雨避けが飾られており外には数点のテーブルと日傘と言う割と小奇麗な風景であった。
 そして、其処には『喫茶 翠屋』と言う名前の看板が立て掛けられてあった。

「此処だ! 此処から俺の求める糖分の匂いがする!」
「本当ですか銀さん。って、言うか……喫茶 翠屋って……聞いた事ない店ですね」

 新八が繁々とその看板を見る。確かにこんな名前の店など聞いた事がない。それに字を見ても何処か江戸のそれとは微妙に違う気がする。

「どうでも良いね! それより私もお腹空いたから此処で腹ごしらえするアル! 定春だってそろそろ歩き疲れた筈アルよ」
「そう言う訳だ。てめぇら此処で飯にすっぞ。御代は全部其処の淫獣に任せるって方針で」

 銀時のその言葉を聞き、定春の頭部に居たユーノが激しく青ざめた。当然だろう。彼にはこの世界の通貨など持ち合わせていないのだ。即ち無一文にも等しいのである。
 それなのに払えと言うのは一重に物々交換の出しにでもしようと言う腹なのは見て取れた。

「そんな訳でたのもぉぉぉ!」

 扉を開き店内へと入る一同。因みに、何故か定春も店内に入っていた。どうやって入ったかは、其処は突っ込まないお約束と言うものですたい。

「へぇ、結構洒落た店内ですね」
「そうみたいですね。洋風の喫茶店って感じがしますね」

 新八とユーノは店内の雰囲気を見てそう感じ取っていた。ユーノは勿論新八もこう言った店の雰囲気は珍しいのだろう。
 無論、江戸にも喫茶店はある。だが、こう言った小洒落た感じの喫茶店は少ないのだ。

「どうでも良いんだよ。俺は花見をしたって桜より団子を取る派だ。一々外見なんか見てらんねぇんだよ。それよりさっさと糖分が欲しいぜ」
「とことん自分勝手ですねあんたは」

 新八の呆れも無視し、銀時は手近なテーブルに腰を下ろす。それに続いて神楽も座り、新八も溜息混じりに椅子に腰を掛ける。
 定春は床に寝転がっていた。流石に椅子には座れない。あれだけでかいのだから座った途端椅子が潰れるのが目に見えているのだ。

「さぁてと、この店のラインナップはどうなってっかなぁっと……おっ、結構な品揃えじゃねぇか。銀さんワクワクしてきたぞぉ」
「でも酢昆布置いてないアル。この店は駄目アルな。近い内に不況の嵐に飲み込まれて人知れず消えていく運命が見えるアル」
「店内でそんな不吉な事言うんじゃねぇよ! 少しは空気を読めこの毒舌チャイナ!」

 等と様々な言葉が飛び交っていた時、店の奥から誰かがやってきた。
 出てきたのは青年であった。すらりとした背丈に黒いストレートな髪形をしており黒いエプロンを装着し、手には鉛筆と注文用のカードが握られていた。

「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか……ってかデカッ! 何この犬でかすぎ!」

 流石の青年も定春を見た途端驚く。そりゃそうだ。定春は見た目こそ子犬に見えるが実際は軽自動車以上の大きさを誇っているのだ。因みに軽自動車でピンと来ない人は小さい車を連想して貰いたい。大体そんな感じなので。

「お、お客様! 当店ではペットの入店はお断りしてますんで、誠に申し訳ないんですがペットを外に出して貰えませんか?」
「んだよゴラァ! 定春はペットじゃないヨォ! 私達の大事な家族ネ」
「嫌、家族だってのは分かりましたから。でも衛生上の面もありますんでご了承頂けませんと……」
「そんな小難しい言葉並べたって駄目アル! 私騙されないヨ! そう言って外に出た所で定春にあぁんなことやこぉんなことする腹積もりアルよ。男は皆獣アル! 信用出来ないアルよ!」
「人を変態みたいに言うなぁぁ! っとと、とにかく一刻も早くペットを出して下さい。これじゃ他のお客様のご迷惑になりますし、何よりこのままじゃ注文も受けられませんよ」

 青年と神楽の言い争いは続く。店員と思われる青年は定春を外に出せと言うが、神楽は頑としてそれを聞き入れようとしない。このままだと永遠にこれが続いてしまい、銀時は糖分を摂取できなくなってしまう危険性がある。

「おい神楽。その兄ちゃんの言う通りだろうが。さっさと定春を外に出せよ。でねぇと俺が糖分をとれねぇだろうが」
「嫌ネ! 定春は私と一心同体アル! 私が定春と離れたら誰が定春を育てるアルか?」
「一生の別れじゃねぇんだよ。うだうだ言ってねぇでさっさと出せってんだよ」

 今度は銀時とも喧嘩し始める始末である。このままでは埒があかない。そう思った時、別の店員がやってきた。どうやら注文が遅いので見に来たのだろう。
 今度は女性の店員だった。だが、青年と比べると結構年上のようだ。栗色の長い髪をした綺麗な女性だった。

「どうしたの恭也。注文まだ?」
「あぁ、母さん。注文受けに来たんだけど、此処の客達がちょっとさぁ―――」

 お手上げと言った顔で恭也と呼ばれた青年が銀時達の居るテーブルを差す。其処では銀時と神楽が激しい口論を勃発し、それを止めようとしたであろう新八が無残な姿で横たわっていたのであった。

「どうしましたか? ご注文はお決まりですか?」
「って、母さん。それ以前にこの人達ペットを連れてるんだ。家はペットの入店は禁止だろ?」
「それもそうね。でしたら外でお召し上がりになられてはどうですか?外から眺める海も良いですよ」

 恭也とは違い柔らかい物腰でそう告げる女性。その言葉を聞いた銀時達も頷く。このままこうしていても注文は取れないし料理も来ない。だったらいっそ全員外で食べれば問題ないではないか。そう言う結論の元一同は一路外に用意された丸テーブルに腰を掛けた。
 そして、それを見計らってか恭也が再び注文を受けに来た。

「お待たせしました。ご注文をお伺いします」
「あぁ、とりあえずこのジャンボチョコレートパフェってのくれ」

 銀時はまずメニューに乗っていた直径約60センチ位の巨大パフェを頼んだ。彼曰くこれ位の糖分がないとやっていけないのだろう。

「私は酢昆布1ダース位で良いアル」
「す、酢昆布って……生憎家には酢昆布を置いてないんですけど」
「んだよ品揃え悪い店だなぁ。人気店なら必ず酢昆布を置いておく物アル。察しろやゴラァ」
「あんたの常識なんか知るかぁぁ!」

 幾ら言われても無い物はない。結局、仕方なく神楽はフルーツ盛り合わせビックサイズで手を打つ事となった。本当に仕方なくなようで。

「はぁ……それじゃ、君は何にする?」
「あぁ、それじゃ僕は餡蜜でお願いします」
「嫌、あのさぁ君。此処喫茶店だよ。そう言うのって茶店で頼む物だと思うんだけど」
「あ、すみません。つい癖で……」

 恥ずかしそうに頭を搔きながら新八は再度メニューを開く。目を必死に泳がせて何を注文するか探していたのだ。

「あぁ、もう面倒くさいからこいつ適当で良いっすよ。何ならクッキーの欠片でも良いんで」
「おいぃぃぃぃ! 本当にあんたは何なんだよ! 人が必死に何を頼もうか考えてるってのに揚げ足取ってるんじゃねぇよ!」
「うっせぇ! こっちゃ注文が終わって後はこの兄ちゃんが店に引っ込むのを待つだけなんだよ。それをてめぇがふざけた物注文するから時間掛かっちまってるんだろうが。察しろやボケがぁ!」

 糖分が不足した銀時はかなり毒舌になるようだ。結局、この後新八は銀時や神楽の弄りに苦しみ抜いた末にアップルパイを注文するに至った。

「ご注文は以上でしょうか?」
「あぁ、以上ですんでちゃっちゃと作ってくれやぁ」
「か、かしこまりました」

 注文を無事に終えてホッとしたのか恭也は肩を落としながら店内へと消えていく。それが消えたのを確認した後、ユーノが机の上に降りて来た。

「どうにか人の住んでる所に来ましたね。この後はジュエルシードやなのはの事について情報を収拾するだけですね」
「そうだね。でもそれも大事だけど今日の寝泊りする場所も探さないと駄目だよねぇ」

 新八とユーノがそう話し合っている。だが、そんな中、銀時だけはかなり険しい顔でユーノを見下ろしていた。結構機嫌が悪そうな面持ちで。

「おい、ユーノ」
「はい?」
「お前さっきなのはって呼び捨てしてたよなぁ。何時からお前あいつとそんな仲になった訳?」
「えぇ!」

 其処は流石に父親っぽかった。幾ら疫病神だとか言っても銀時が9年間も手塩に掛けて育てた大事な娘だ。その娘を何処の人間とも分からない奴に呼び捨てされた事が気になったのだろう。
 娘親ってのは意外と細かいのである。

「い、嫌。僕は別にそう言うつもりで言ったんじゃないんですよ。只、何て言うかその……」
「何ですかこの青少年は。ちゃっかり家の屋台骨といい関係になろうって魂胆ですかぁ? 言っとくがなぁ。何処の馬の骨とも分からん野郎に家の大事な屋台骨はやらねぇぞ。どうしても欲しいってんなら年収少なくとも3千万位稼げる仕事につくか世界を救ったって言う位の業績を出してから来いや。そんでもって俺に毎月小遣いとして月の稼ぎの30パーセントを寄越せ。そしたら考えてやるよ」

 殆ど追い剥ぎにも似た言い分であった。銀時にとってなのはは大事な屋台骨であると同時に貴重な戦略素材とも言えるのだろう。お登勢曰くなのははかなり需要があるらしく大事に育てれば後10年したらかなりレベルの高い女性に育つと言うそうだ。
 そうなれば自ずとなのはも彼氏を作ったり大人の階段を上っちゃったりもする筈だ。
 しかし、それをおいそれと認める気は銀時には無さげであり。立派な父親としてやっているのか、はたまた単に自分の欲望に正直なのか微妙な所でもあったりした。

「はいはい其処まで其処まで。なのはちゃんが誰を彼氏に選ぶかはなのはちゃん次第って事で良いじゃないですか」
「良い訳ねぇだろうが! もしそれを良しとした途端全身黒こげのチャラ男を連れてきて『この人私の彼氏なんだ』なんて紹介された日にゃ俺どう対応したら良いんだ? その彼氏の顔面に鉄拳ぶち込むべきか? それともそのチャラ男を素っ裸にして三日三晩業火で焼くべきなのか?」
「結局殺す気満々なんじゃないですか。ってか、銀さんもやっぱりなのはちゃんが心配なんですね。なんだかんだ言って良いパパさんじゃないですか」
「そうじゃねぇよ」

 新八の言い分に不貞腐れたのか、それとも照れ隠しなのか微妙な感じにそっぽをむき出す銀時。腕を組み椅子にもたれ掛かりながら無限に広がる海を見ていた。

「只よぉ、あいつを立派に育てねぇと婆からとんでもない請求が来るんだよ」
「少しでも尊敬した僕が馬鹿でしたよ」

 結局金絡みか。等と落胆する新八であったりした。

「はぁい、お待たせしましたぁ」

 そんな時、店の中から注文した料理を持って先ほどの恭也とまた別の女性がやってきた。
 今度の女性は恭也と同じかそれより少し下な感じの女性だった。恭也と同じ色の髪をし丸眼鏡を掛けたこれまた綺麗な女性でもあった。

「はい、ジャンボチョコレートパフェにフルーツ盛り合わせビックサイズとアップルパイです」
「きゃっほぉぉうい! お腹ペコペコアル!」
「どうぞごゆっくり」

 料理を置き、恭也とその女性は退散した。テーブルには注文した料理が並べられており、それを見た途端今まで感じなかった空腹感を感じ出す。

「あぁもう耐えらんねぇ! とっとと食うぞ!」
「この世の全てに感謝を込めて……頂きますアル!」
「はは、ユーノ君は僕のを分けてあげるよ」
「有難う御座います」

 一同は早速旅の疲れと空腹を癒す為に料理を口に運んだ。どの料理も結構なグレードであったのか一同は一口を口に入れた途端、その後は一言も喋る事なく食べる事に集中していた。それから数分と経った頃にはテーブルには空になった皿が置いてあるのであった。

「ふぅ、ようやく一息つけたぜ」
「本当ですね。何か僕達結構長い間あの場所で屯してた気がしますよ」
「まぁ良いさ。今はそれよりもこれからどうするかってのが重要だ」

 糖分を取り終えた為か、普段の銀時に戻っていた。口調も落ち着きを取り戻しており何時ものやる気はないけどやる時はやる銀時に戻っていた。
 すると、其処へまた恭也がやってきた。今度は注文の際のカードを持っての状態でである。

「毎度有難う御座います。お会計はこちらになります」

 恭也がそう言って銀時にカードを手渡す。それを受け取り見た銀時の顔が突然青ざめたのを新八は見逃さなかった。
 まさか、この男……

「ぎ、銀さん……お支払いしないんですか?」
「ぱっつぁんよぉ……非常に残念な事なんだが……考えてみたら俺、財布万事屋に置いてきちまったの食ってる時思い出したんだよ」
「マジかああああああぁぁぁぁぁぁ!」

 要するに銀時は一文無しだったのだ。神楽も当然持ってる訳ないし、新八に至っても同類であったりした。ユーノに頼むのも無理な話だ。
つまり、此処に居る一同全員お勘定を払えないのである。

「お客様、どうしたんですか?」
「悪ぃ、俺等急用を思い出したからちょっと失礼するわ、んじゃ!」

 明らかに逃げる気満々の言い分を残して銀時達は一目散に逃げ出そうとする。その銀時に便乗してか、神楽や新八、仕舞いには定春までもが逃げ出し始めた。

「逃がすと思ったか!」

 だが、それよりも早く恭也が一番先頭の銀時に飛びかかってきた。背後から掴みかかり、そのまま地面に押し倒す。

「ぐえぇっ!」
「無一文の癖にご大層な注文を取るとは良い度胸だ! お前等ちょっと店まで来て貰おうか? 答えは聞かないぞ」

 恭也の目つきが変わっていた。その目つきのまま銀時の顔面を地面に押し付けている。本来ならこんな位軽く跳ね返せるだろうが、今の銀時は弱体化している為にそれが出来ずに居る。
 そして、もしこのまま逃げたら自分達も同様な目に会わされる。そう判断したのか神楽も新八も逆らわずに従う事になった。
 こうして、無銭飲食をした万事屋ご一行+αは、仲良く揃って喫茶翠屋に御用となったのであった。




     つづく 
 

 
後書き
次回【どんな些細な事でも懲り過ぎると案外大変】お楽しみに 
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