ソードアート・オンライン〜Another story〜
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SAO編
第26話 忍者?フウマ?
リュウキは痕跡を見つけつつ、そして連中の後をつけながら考えていた。
先ほど追いかけていた方の連中、あの第1層の攻略の際には見かけない姿だったからだ。上からだったし、そこまで長く見れた訳じゃないから、一概には言えないが。
そして、それ以上に思ったのが、敏捷力が相当高い奴らだという事。恐らくはスピード型。敏捷値極上げステータスにしているのだろう。
「……《アイツ》の後を追い、且つ振り切れない程のモノだからな」
リュウキはそう思いながら先へと進む。
そして、その場所はウルバスの西平原。β時代は確かこの場所はどういうものだったか、とリュウキは記憶を揺り起こした。
「ん……大型の野牛モンスターの巣窟……だったな、このサバンナは」
確かに、2層に来たばかりでは、かなり危険マップに分類されるところだと思い返していた。
だが、リュウキは……今のレベルでも、まるで問題なしと判断したようだ。例えレベルが低かったとしても。全てを見切る事が出来ればどうとでも出来る。
そして、更に先に進むと、ある事に気づいた。
「……足跡を見る限り……スピードが落ちているな。追いつかれそうだ」
スキルで確認すると、スピードを上げた。
足跡の一つの歩幅が極端に狭まっているのだから、同スピードならば、追いつかれてしまうだろう。……如何にリュウキにとっても、癖が有ると強く思える《アイツ》だからといっても、やられてしまうのは流石に目覚めが悪い。
そして、少し小柄な岩山2つに挟まれた谷の奥から聞き覚えの有る声が響いてきた。
『………んだと言ってるダロ!この情報だけは幾ら積まれても売らないんダ!!』
かなりでかい声は、岩山地帯に響いている。
リュウキは、声を訊いて、軽くため息を吐いた。
厄介なプレイヤーと言えば厄介なプレイヤー。だが……それ以上に頼りになると言えば頼りになるんだ。そう、先ほどの人影、そしてこの声の主は、情報屋の《鼠のアルゴ》だ。
そして、あのお調子者が普段より3割増しで険悪な声を上げている。続けてこちらも刺々しい男の声が響いてくる。
『情報を独占するつもりは無い。しかし 公開するつもりも無い。それでは値段のつり上げを狙っているとしか思えないでござるぞ!!』
声が、こちらも響き渡る。その珍妙な喋り方が。
(――――……? ござる?)
アルゴに負けない妙な気配がを感じた。語尾に妙な気配を感じたのだ。
とりあえず、リュウキは目の前の岩山、岩壁を登る。約5mくらいだろう。
確かに難しい地形、場所だが、上れなくは無い。手早く上り詰めるリュウキ。声の発生源よりやや高い位置まで上りつめた。
頭上と言う死角から 連中を視てみるためだ。
「って! 値段の問題じゃないヨ! オイラは情報を売った挙句、恨まれるのにはゴメンだって言ってるんダ!」
アルゴは、そう言い返していた。
確かにそれはあるだろう。ましてや、この生と死の世界。情報を売り、そしてその情報が元で壊滅的な被害にあったとしたら? そして、何より 死者まで出てしまえば?その出来事から、下手をすればトラウマになりかねないだろう。
そして、如何に注意書きを書いていたとしても、逆恨みもあり得る。
だが、それを聞いた男達は、決して譲らなかった。
「なぜだ! なぜ、拙者たちが貴様を恨むのだ!? 金は言い値で払うし、感謝もするといっているでござる!! この層に隠された―――≪エクストラ・スキル≫獲得クエストの情報を売ってくれればな!!」
その言葉で全て察した。
確かに、この第2層では初の《エクストラ・スキル獲得》のクエストはある。
β時代だが、確かにあったものだ。
リュウキは、少しばかり厄介なものだったと記憶している。《エクストラ・スキル》については主にNPCが教えてくれる。
ただし、そのNPCは、この スキルを得られる層にはおらず、随分上の方に存在しているのだ。
故に、経験をしていなければ、現段階では高確率で取得するのは不可能だろう。
そして、アルゴが知っているスキルの解除の《フラグクエスト》を売れと言う話だろう。
そう結論づいていた時、男達の声のボリュームがいっそうに増した。
「今日と言う今日は絶対に引き下がらないでござる!」
「そう! あの《エクストラ・スキル》は拙者たちが完成する為に絶対必要なのでござる!!」
2人掛りで、アルゴに詰め寄るが、アルゴも負けてはいない。
「わっかんない奴らだナ!! なんと言われようと、《アレ》の情報は売らないのでゴザ……じゃない! 売らないんダヨ!!」
アルゴはうつりかけてた、語尾を慌てて戻していた。
語尾など、釣られるものなのか? と疑問に思ったが、リュウキは一先ず置いといた。なぜなら、アルゴの最後の拒絶で、ぴりっ……と空気に流れる緊張感が電圧を更に一段階はあげたからだ。
戦って奪う様な勢いになりそうだ。
「ふむ……、他人のトラブルには、とは思うが 顔見知りだし、それに2対1は随分卑怯だな」
リュウキは、そう判断すると、 約5m下にいる3人の間を狙い跳んだ。
そして、砂埃を上げつつも、着地する。この程度の高さであれば、HPゲージが減らないのは確認済みだ。 そして、突然の来訪者に目を見張った男達は驚き声を上げた。
「――何者でござるか!!」
「おのれ! 他藩の一派か!」
近づいてみたらよく判る。その2人組姿は……、そう あれだ。時代劇とかで出てくる、そう この容姿+語尾からも判るとおり。
見たとおりの《忍者》だった。
この世界には、職は無いから、そのコスプレのようなものだった。確かに、ビジュアルはその人々の好みに合わせて、選べるものだ。
姿形を自身の希望に優先するのであれば……ステータスは保障しかねるが。
そして、リュウキはその面子に身に覚えが有る。
「……お前らあれか。ギルドの……忍者軍団?」
「ちがう! フウマでござる!」
「そう! ギルド・風魔忍軍! のコタローとイスケとは拙者たちの事でござる!」
リュウキは、簡単に裏が取れた。
この連中は、元βテスターの間なら結構有名だと言っても過言じゃない。なぜなら、このギルド、この連中は性質の悪いことで有名だからだ。
βテストの時…… 敏捷力AGIを極上げし、極端なスピード型の性能に仕上げ、攻略の際敏捷性AGI壁だけのめまぐるしい戦闘を繰り広げていた。……それだけなら 別に何も問題ないのだが、性質が悪いのはその先だろう。
このギルドの面々は、どう教育?されているのか、危なくなるとその敏捷生……ダッシュ力にものを言わせ逃走するのだ。
それだけなら、構わない。だが、悪質なのは その上近くのパーティを見つけたら、モンスターのタゲをなすりつけてく。標的を見失ったモンスターは、他のパーティに標的だと向けられてしまう。
悪質なPK行為。《MPK》 若しくは《トレイン》とも呼ばれる行為だ。
だから、何をどう考えても悪のシノビギルドだ。下手をしたら《オレンジギルド》だろう。
「………ふぅ、相変わらずお前らは変わってないな」
リュウキは、やれやれと苦笑いしつつそう発言した。その語尾もよくよく思い返して見れば聞き覚えがあるのだから。
「知っていつつその言動! おのれ! きさま拙者らを愚弄するか!」
イスケが忍者刀、……じゃなくシミターへと手が伸ばした。その後、コタローと共に、2人はそのまま、リュウキへジリジリと間合いを詰めてきた。
(……オレとやるつもりか? 以前どんな目にあったか……。ああ、そうか アバターが違うからわからないか)
リュウキは思い出していた。
実は、彼らとリュウキは以前に対峙したことがあるのだ。アバターが変わっているからこそ、当初は自分も気付かなかったが、忍者の格好、そして その名前を訊いて思い出したのだ。
出会ったその時も、奴らは他のパーティにモンスターを押し付け、逃げ去ろうとしていた。
そこに通りかかったのがリュウキだ。 それを見るなり、モンスターを弾き飛ばし、退路を断ってやったのだ。その後の連中は、逃げるのを止め、死に物狂いで倒すことに成功、無事戦闘は終了したが、そいつらはリュウキに難癖をつけてきたのだ。
最初から、倒せるだけの力量なら 戦えよ。と思ったリュウキだったが、まずその連中がこれまでにしてきた事を 端から順番に言っていた。
そして、タゲを擦り付けらていれたパーティも全員が同意し、最早言い逃れできない空気にすると逆上した忍者軍団が一気に襲い掛かってきたのだ。
その後は……どうなったか 説明するまでもない。
結果的に言えば、リュウキのカーソルが“オレンジ”になってしまったが、誰も責める者は1人もいなかった。
「やれやれ……」
デス・ゲームと化したこのSAOで、プレイヤー間での闘争はあまり好ましくないが、仕掛けられているとなればしょうがない。連中も命を賭けてまで……とまでは考えていないだろう。そんな根性がある連中なら、最初からそんな手段はしない。簡単にあしらって終わらそう、そう思い男達を見据えた時だ。
「ん……?」
リュウキは、あることに気が付いた。それが事態を収拾することになるのだ。
「………おい、後ろ気をつけた方がいい」
リュウキが指をさし、言うが、《あからさまな手》と思われたようだ。
「「バカめ!その手は喰わないでござる!!」」
と、言われた。
確かに、そう思っても無理ない事だけど……、益々ため息をすることになるリュウキだ。
「はぁ、忍者を名乗るんなら、背後の気配ぐらい察しろ……」
呆れ果ててものも言えないとはこの事だろう。
気配を感じる事は勿論この世界でもできる。こいつらの様に前にしか目がいっていなかったら、無理だが。
「何をい『ブモオオオオッ!!』おおっ!!!」
背後にいた《そいつ》は、完全に射程距離範囲内に入った為、雄叫びをあげた。それで漸く自称《忍者》達は気が付いたようだ。
自分達が置かれた状況を。
新たなる闖入者。いや、闖入牛が現れた。
この辺りを住処とする野牛。正式名を≪トレンブリング・オックス≫。
肩までの高さは約2m半はある。その姿形から勿論。高い攻撃力とタフさを兼ね備えた前半の難敵に分類されるだろう。その上、ターゲット持続時間とその距離も長い。そして、ターゲットをその自称忍者たちに絞った猛牛は……。
「ブモオオオオオオオオオオッ!!!!!」
攻撃体勢のまま吼え、そして忍者の2人は。
「「ご……ごさるううぅぅぅッ!!!」」
と、訳のわからぬ悲鳴と共に駆け出していた。
だが、確かに忍者を自称するだけの事はある。中々にすばらしいスピードで街の方へと向かって逃げたのだ。だが、それは勿論持続時間の長いこの猛牛も負けていない。巨体に似合わぬ敏捷さで追いかけた。
そして、そいつらがいなくなるまでの所要時間は約5秒。
「……多分 逃げ切れるだろうが、追いかけっこは随分続くだろうな」
2人の逃げ足の速さ……敏捷性とモンスターの敏捷性。
それらを視た所……簡単には振り切れないと思っていた。如何に小悪党と言っても、これを最後に死んでしまえば……アルゴの時と同じで 流石に目覚めが悪い。
とは言っても、アルゴの時の様に追いかけたりはしない。
つまり、別段そこまで、リュウキは心配はしていない様子だった。
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