神葬世界×ゴスペル・デイ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第一物語・後半-日来独立編-
第三十九章 戦場で踊る者達《2》
前書き
今回は騎神同士の戦い。
どうなるスタート。
上空に緋と青の騎神が入り交じっている。
緋の騎神は日来所属の機体名・火炎ノ緋翼、鳥の顔を持つ騎神だ。作業用騎神に戦闘用騎神に使われる腰装着型加速機|《ウエストスラスター》を装備している。
青の騎神は辰ノ大花所属で機体名・戦竜、竜の顔を持つ騎神だ。実戦訓練機の隊長機だが実戦装備ではない。
どちらも不完全な装備のまま、しかし騎神同士の激しい戦闘を行っていた。
両機の違いは作業用騎神と戦闘用騎神もあるが、それよりも重要なのは個別式か同一式かの違いだ。
何故かと言うと、それによって騎神の設計が根本的に違う場合があるからだ。
作業用騎神は戦闘用騎神の劣化機と言われるが、その理由が操縦席が騎神本体に組み込まれている操作式からだ。
機体そのものに操縦席を取り付けることは、それだけ無駄な機材を取り付けることに繋がるので合理的では無い。
それに狭い空間内では視覚から得られる情報が少なく、視覚機器がやられてしまえば操縦者は何も出来無い。
それに比べて個別式と同一式は有利だ。
まず個別式は操縦者が外にいるため視覚による面で優秀で、更に騎神には脳となるOSがあるためある程度自立した行動が出来る。
そして同一式は視覚の面では人間の身体にいた時と変わりは無く、そのため慣れなど必要無い。他の利点としては痛覚を遮断出来ることや、万が一の場合は強制意識引き戻しによる離脱が出来るところだ。
勿論、これらにも欠点はあるが、操作式よりも技術面が然程必要無い点なので優秀なのだ。
だから作業用と戦闘用との戦闘とはいえ、一瞬の油断が危機を招く。
何せ、どちらも騎神なのだから。
「やるじゃないか」
火炎ノ緋翼の右肩に乗る操縦者、米田・入直は辰ノ大花の騎神に向かって言った。
空を駆ける青の騎神・戦竜は右手に握った流魔刀を構え、火炎ノ緋翼に正面から突っ込んで来た。
加速機により放出された青の塵が軌跡となり、広大な空に線を描く。
『お褒めの言葉とはありがたいな。お前も作業用騎神で良く戦えるなと褒めておこう』
言うなかで二機との距離は縮まり、戦竜は一閃を放った。
火炎ノ緋翼は一撃を上へ跳ねるように飛ぶことで回避し、操縦者である入直の止まれの合図によって火炎ノ緋翼は上空に留まる。
「褒めた矢先に攻撃なんて、ちっとも嬉しくないね」
『その腰装着型加速機……、見たことのない型だな。独自で造り上げたのか?』
「人の話し聞いてないさ」
戦闘に意識を集中しているため、敵との会話は必要最低限ということだろうか。
いや、どちらかというと真面目な性格ゆえに、人との会話も真面目にする人なのだろう。
勝手に思い、決め付けて入直は納得して頷く。
それなら彼方が問い掛けてきたのならば、出来るだけそれに答えなければ人として駄目というものだ。
うん、うん、と咳払いをし、
「日来にいる騎神に詳しい奴や整備班のエリート連中と一緒に二年近く掛かって造った品物さ。流魔結晶を左右三枚翼の外側に取り付け、コスメ面の軽減や重量の問題を解決したんさ。さすがにアンタらみたいな高級なのは造れなかったけどね」
『騎神製造の経験が無い日来にしては良くなったと褒めたいところだが、機体の軽量化を意識し過ぎた点がマイナス評価だな。必要以上に装甲が無い』
「ナメてもらっちゃあ困るね。緋翼はそのお陰で戦闘用騎神相手に機動面では負けてないさ。諸刃の剣、て言う言葉が似合うじゃないか」
『その点では納得だ。が、たった六枚翼でその三倍近い計十六本の流魔結晶を使用した、こっちの加速機と渡り合えるとは思えないな』
言葉通り、戦竜は十六本の流魔結晶を使った加速気機を携えている。
翼のように開いた腰装着型加速機を閉じ、行き場を探す流魔によって爆発するように吹き出した流魔を利用し、新たに噴かすことなく火炎ノ緋翼と開いていた距離を閉じた。
今は眼前にいる。
『これが実力だ。短距離ではこの加速機の性能をフルに引き出すことは出来無いが、得意でない短距離でもこの速度だ』
「ふ、そんな速度じゃ他国の機動性重視の騎神となんら変わらない。恐れるに足らないね」
『口だけは立派だが、なら実力の方はどうだろうな』
背にある武器装着部から短機関銃が跳ね、宙で数回転した後に銃口を火炎ノ緋翼へと向けた。
そして誰の手も借りずに、自動でトリガーを引き銃弾を放った。
「緋翼! ――防御だ!」
とっさの判断で入直は火炎ノ緋翼に指示を出し、左腕による防御を命じた。
加速機によるバックステップを入れ、その間に左腕を入直を覆うように防御の姿勢を取った。
至近距離による射撃を受け、火炎ノ緋翼の腕部の装甲には銃弾がめり込んでいたが防ぎはした。
何が起きたのかと考える暇は無い。今は相手との距離を離す。
入直の正面には青の騎神と、それとは別に一枚の映画面|《モニター》があった。
映画面が映しているものは、見なくても理解出来ている。火炎ノ緋翼の簡易的な図に負傷箇所を赤の点滅で、親切丁寧にアラーム付きで教えてくれてるのだ。
しかし今は邪魔なので、表示された映画面を割ることで見たこととし、負傷した自身の騎神と共に空を一時的に後退していた。
正面からは宙に放った短機関銃を左の手に握り、辰ノ大花の騎神が銃口を向けて追って来る。
こちらは迫る騎神の方に顔を向け、背中を正面に向けた前進を行っており、背後を見ながらの回避行動中だ。
まだなのか、焦る気持ちのなかで入直は思った。
火炎ノ緋翼のために造った騎神用武器のことを思いながら、彼方の騎神により放たれた銃撃を避ける。
「あれが来るまで何とかもたせないとね」
一言を言い、後は回避に集中するため口を閉じる。
自身の髪が乱れ、流れるなかで相手の姿を確かに目で捕らえていた。
●
辰ノ大花の騎神・戦竜を操る隊長の少年は目の前、こちらから逃げる日来の騎神を追っていた。
速度ではこちらが勝っている。何時でもその距離を縮められるが深追いは禁物だ。
慎重に、着実に攻めていく。
先程行った攻撃も成功し、彼方の騎神の左腕部を負傷させた。
武器装着部から短機関銃を放ち、その短機関銃が自動で敵に射撃を行う。
これは短機関銃にそのようにプログラムを組んでいたために、そのように出来たのだ。
仲間内では自分以外にこれをやる者はいなかったが、それが意外性をもたらし訓練ではあるものの幾戦の実戦を勝ち抜いてきた。
強くなるために、必死に考え編み出した戦い方の一つだ。
そして、強くなろうと思ったのは長を守るためだ。
いや、違うな。後輩に先輩としての威厳を見せ付けたかっただけなのかもな。
一つ下の長は自分にとっては守るべき存在であったが、現実ではこちらが守られる存在だ。
それが先輩として悔しくて、少しでも強いことを見せ付けたかったのだろう。
我ながら子どもだな、と思う。
今、その長は解放場と言う処刑場にいる。
御茶丸の前では吹っ切れたような感じを振る舞ったが、やっぱり長の死をただ眺めているだけでは気が済まない。
だから仲間内にはあることを伝えたが、それを外に漏らさないとも限らない。
そんな奴は後でボコろう、と考えた。
●
ネフィアと相対していた騎神は一瞬寒気を感じ、身震いをしてしまった。
意味深な発言したのにオレってカッコ悪っ!
何処かの誰かが、きっとカッコいい自分に嫉妬の念を送っているに違いないと納得する。
何故か顔を縦に振り、頷く騎神を見て、一方のネフィアはそれを不思議に思い首を傾げるだけだった。
●
左手に持った短機関銃を正面、逃げる日来の騎神に銃口を向けながら標準を合わす。
銃口を向けているからだろう。彼方は左右に揺れるように移動しているが、動きが単調で慣れてしまえばそれは意味をなさない。
トリガーに掛けている手に力を入れ、引いた。
耳障りな音と共に放たれる銃弾。
真っ直ぐに先を行く騎神に向かって行くが、急に彼方は逃げるのを止めた。
そして先程負傷した左腕を盾に、こちらに今度は前進して来た。
『馬鹿か!?』
とっさにその言葉が口から出た。
何を考えているのか。そんなことをしたら左腕が使い物にならない可能性があり、前進したところでこちらの流魔刀の攻撃範囲に入るだけだ。
そう言えば今更だが、彼方は武器を何も持たずに来た。日来は武装禁止だったため特に不思議ではないが、腰装着型加速機を造れる日来だ。
更には全長十五キロを越すあの化け物サイズの航空船を造れる程の技術を持った日来が、騎神の武器を造らないわけが無い。
しかし、今ここにいる騎神は武器を持っていないのは事実。
もし武器を隠し持っているとしても、その本体が見えないということは小型武器。
こちらを仕留めることは不可能。
行ける。
思い、向かって来る彼方をこちらは相対する形で迎え撃つ。
銃弾が鉄に当たる。冷たい音と共に、周囲には装甲が割れたために欠片が散る。
そのなかで右手一本、片手による斬撃を放った。
右から左へかけての一閃は確かに彼方を捕らえる範囲に放ったが、流魔刀の青い刃が切り裂くのは大気だった。
あまりにも軽い手応えに瞬時に反応、敵を視界に収めるべく周囲を見渡す。
が、姿を捕らえることは出来ず、変わりに聴覚機器により音を捕らえた。
上だ。
顔を上げれば、地上と身体を水平に保っていた緋の騎神がいた。
『イグニッションか!?』
それは加速機を一気に噴かし、余分に燃料を使う変わりに瞬時に短距離を行く移動方法だ。
特に珍しいものではないが、あんな風に一発本番で出来るものでもない。
だが、それが上手く行ったのは事実だ。
「こっちも反撃と行こうじゃないか!」
回避をする前に、彼方が放った打撃を受けた。
左拳による打撃は痛覚機器を通じ、意識へと痛みが伝わる。
打撃は顔面、それも顎の部分を的確に狙ったものだった。
揺れる視界のなかで乱れた姿勢を正し、緋の騎神がいた場所に銃撃を行う。
当たったようには感じなかったことから、彼方は回避を行ったのだろう。
視界から外れるように行く騎神を追い、加速機を噴かし追い掛ける。
●
やっと一撃を与えることが出来た。
追い掛けて来た戦竜から逃げるように火炎ノ緋翼を動かし、そのなかで入直は何処かすっきりしたものを覚えていた。
拳による攻撃を、彼方に当てることが出来たから。
こちらには遠距離武器は無く、近距離武器も無い状況だ。
これだったらあれ以外にも騎神用の武器を造っておくんだったと後悔するが、良く考えればそんなことを継叉が言っていた気がする。
そしてそれを自分が面倒臭いの一言を言い、やる気に満ち溢れていた継叉を抑え込んだ記憶がある。
つまり自分が悪い。
しょうがないさ、そうなっちゃたんだしね。まあ、あれさ、アタイは悪くないってことで……。
思いながらも戦闘は続いており、自分の顔すれすれに通る流魔刀に胸踊らせる。
今の火炎ノ緋翼と自分は一心同体だ。
どういう意味かというと、火炎ノ緋翼と自分は繋がっている。
火炎ノ緋翼が喜べば自分も喜び、嬉しければ自分も嬉しい。そして傷付けば自分も傷付き、痛ければ、自分も痛い。
だから今、左腕はすこぶる痛い。
痛覚の伝播を弱く設定してあるものの、それでも消えぬ痛みが身体を強張らせる。
こんな設定にしたのには理由がある。
一つは、火炎ノ緋翼の操作をし易くするため。
痛覚を共有しているということは感覚を共有しているということで、作業用騎神の割には大きい火炎ノ緋翼だが細かい作業が可能になる。
もう一つは、自分がイメージした通りの動きを再現するためだ。
先程イグニッションを行ったが、あれは練習無しの一発本番で成功するようなものではない。
加速機の噴射を間違えれば故障と見なされ、機体の操縦が一時的に無効となり、操縦不可能になる可能性がある。
しかし、一心同体ということはこちらが得たものは火炎ノ緋翼が得たものとなる。ので、やったことの無いイグニッションも成功をイメージしたならばそれが火炎ノ緋翼に伝播される。
後は機械的判断で、何処をどうすればイメージ通りに行えるかを計算してくれれば、ほぼ百パーセント成功するというわけだ。
ところで今の自分は制服兼作業着のまま、高速で空を行っているわけだが。何もしていない状態なら、確実にヤバいことになるだろう。
だが安心してほしい。
火炎ノ緋翼を中心に半径二五メートル以内では、自分はあらゆる状況下において無敵である。
これは火炎ノ緋翼を軸に加護を発動しているためであり、無論加護を使う際に金額や流魔やらの消費が頭を悩ます。
話しが逸れたが、一心同体であるため負けない。
絶対に負けない。
火炎ノ緋翼には、感情に似たものがある。
機械的なものではあるものの、自分をちゃんと自身の操縦者ということも理解しているし、機械音を使い笑ったりもする。
完成して幾年も経っていないが、四六時中一緒に一日を過ごしたことも何日もある。
だから、そんな仲である自分達が仲間を見捨てるような者に負ける筈が無い。
それに増田との賭け事もあるしね!
これに勝ったら、機械部の学勢達を仕切れるのだ。つまりは好き勝手出来る幅が広がると言うことだ。
急に高笑いした敵を見て、相手は別の意味で入直を怖がった。
よし、と一言。入直が再び仕掛ける。
一撃を与え、離れた距離を再び縮める。
「もう一発!」
『図に乗るな、今度はこっちの番だ!』
右の拳を振ろうとした火炎ノ緋翼に向かって、戦竜は右手に握る流魔刀を振る。
直線的な斬撃のため、回避は簡単だ。
バックステップを入れ、回避を行い攻撃を抜ける。
が、攻撃は当たった。
「何……!?」
腹部に痛みが走る。
これはなんだと、自分は怪我をしてないのだからこれは火炎ノ緋翼から伝播された痛みだ。
火炎ノ緋翼の腹部を見れると、そこには一本の流魔刀が突き刺さっていた。
理解出来た直後、機体に向かって銃撃による追撃を受けた。
全身に痛みが走り、一瞬気が遠くなる感覚に襲われた。
勘違いするなって、これは痛みを伝播してるだけさ。
そう自分に言い聞かせ、何とか意識を保つことが出来た。
機体の負傷を告げる映画面|《モニター》が表示されアラートが響くが、今回は映画面を割る程の気力が無い。
痛覚を伝播する設定を切り、これ以上身体を傷付けることはしない。
これによって感覚が共有出来無くなり、操縦精度はがた落ちだ。
くそっ、と一言。言い捨て一度距離を取る。
背後から銃撃による攻撃を受けるが運のいいことに、操縦精度が落ちたことにより機体が揺れて標準を上手く定められず直撃した銃撃は少ない。
が、このままではいけない。
「どうにかしないとヤバいね。機体が負傷したから燃料が外に流れてる。このままだと後五分が限界か……」
たった五分で勝てるのか、と不安になる。
多分、一番自分が負傷しているのではないかと思う。
二人。
マギトは魔法術師であり、公式試験を受けていないが魔女クラスの実力だと聞く。
ネフィアは戦闘貴族の御令嬢。半獣人族であるため人族の自分なんかより身体能力が圧倒的に上だ。
それなのに自分は火炎ノ緋翼の操縦者になっただけで、自分自身には機械いじりという特技しかない。
悔しいが、実力差でいえば三人中一番最下位だ。
それでも負けたくない。
思う入直に向かって、新たな攻撃が加わる。
流魔刀による投てき攻撃。
高速で回転し、こちらに向かって来る。
しかし、不思議なことにその投てきは手によって行われたものではなかった。
脚型加速機|《レッグスラスター》に装着された流魔刀が自動で宙に放たれ、回転を始め、向かって来たのだ。
不思議に思う入直に向かって、彼方の騎神は答えを与える。
『解らないか? 前に武器装着部から短機関銃が放たれ、お前の騎神を撃ったのと同じだ。流魔刀にそのようにプログラミングして、後はそれを行うだけだ』
「なるほどね。アンタが持ってる武器全部、そういう風になっているってわけかい」
『理解しても避け切れるものではないがな』
と、回転し行く流魔刀が回避を行う火炎ノ緋翼に向かって、軌道を変えて追って来た。
追尾の能力も持っているのかと、全く嫌になる。
『一本だけだと思うなよ』
言うと、火炎ノ緋翼から青のしぶきが上がった。
一瞬理解出来無かったが、後になって解った。
腹部に刺さったままだった流魔刀を、離れた距離から操作したのだ。
抜かれ、そこから燃料がしぶきを立てて放出された。
だが、それだけでは終わらない。
抜かれた流魔刀は先に放たれた流魔刀と同じく、回転しこちらへと迫る。
「ほんとにヤバいね、これ。まさか、こんなにボロボロになるとは思わなかったさ」
過信していたわけではないが、もう少しやれると思っていた。
しかし現実はそう甘くはなく、力の差は歴然だった。
今のままでは勝てない。
こりゃあ詰んだね、完全に。
こうなっては無気力になるのも無理は無いだろと、ため息を吐いた。
口だけ番長とはよく言ったものだ。自分のためにある言葉ではないのかと、そう思う。
今更後悔しても遅いし、それにまだ諦めたわけではないので、
「もう少し、頑張ろうか! 火炎ノ緋翼――!」
『ピ――ヒョロロ――――』
鳶|(とんび)に似た声が響いた。
これが合図となり、反転し、迫る二本の流魔刀を正面に置いた。
いけるか分からないが、迫る流魔刀を辰ノ大花の騎神の方へと誘う。そして、そのまま騎神本体に当たればそれでいいし、しなれけば流魔刀を導きながら戦闘を続行するまでだ。
上手く行けば流魔刀を奪えるかもしれないし、流魔刀が追って来るので彼方は無闇にこちらと接触して来ない筈なので、防御面においても一役任せられるわけだ。
迫る流魔刀をギリギリまで引き付けてからの勝負。
粘っこい汗をかきながら、集中は切らさない。
大気を切り裂く音と共に確実にこちらへと近付いて来る流魔刀を、ここぞというタイミングで避ける。
が、ここぞというタイミングで正面に下から何かが割り込んで来た。
それは長方形で、ケース代わりにコンテナを改造したものだ。
見覚えのあるそれに、驚きから入直は目を見開いた。
『かなりボロボロだね、大丈夫?』
同時に、入直の元に表示される一つの映画面。
映るのは日来にいる継叉であり、その背後には他の機械部の連中がいた。
目で彼らを捕らえる時、鉄のケースの向こうから冷たい金属音がした。
二本の流魔刀がケースに当たり、弾かれる際に生じた音だ。
彼方にも聴こえただろうが気にはせず、帽子の位置を整えながら継叉は言う。
『やっと整備終わったよ。機体の破損は予想よりも少しだけ酷い程度で、起動時間は後五分ってとこだね』
「一目見ただけでよく解ったね。つくづくアンタは操縦者向けだ思うさ」
『無茶言ってくれるよ。ぼくは騎神の整備が得意なだけで、そこから派生した知識で君より騎神に詳しいだけさ。操縦なんて目まぐるしいものはぼくには不向きだね』
「整備も忙しい時は目まぐるしいと思うけどね」
仲間の声が聞こえる。
何時も言葉を交わしている声が、この耳に届く。
『さあ、行っておいで。後数分で勝負が決まるんだから』
『オレとの賭け事忘れた訳じゃねえだろうなあ? お前があっちの騎神に負けたらオレの下で一生働くってな。嫌ならさっさと勝ってきな、日来の機械部がこんなにも弱いって広まったらこっちが堪ったもんじゃねえからよお』
増田が継叉の後ろで、堂々と腕を組ながら言った。
言ってくれる、と入直は思った。
正面にあるケースを見て、
「何発いける……?」
『十発射てればいい方だね。計算上、五発辺りからオーバーヒートの危険度がレッド』
「五発は射てるってことかい。まあ、機動性重視の騎神なら直撃しなくてもイケるだろうさ」
『じゃあね。緋翼に取り付けたアイカメラ越しに見てるけど、助言は必要?』
「いらん」
『了解』
と、言い映画面は消えた。
これは一対一の戦い。他人の手助けなど無用だ。
気を遣うだけのものは彼方は持っているようなので、ゆっくりと話すことが出来た。
お礼の代わりに、もう必要無いことを告げる。
「お待ちどうさん」
『案外短かったな』
「相手を待たされているんだ、会話を長引かせるわけにはいかないさ」
『なら、戦闘再開の準備は完了したってことだな』
「行こうじゃないか。こっちもやっと武器を手にすることが出来たんだからさ――!」
ケースへの火炎ノ緋翼は手を伸ばし、ケースの正面に映画面がロック解除の表示を行った。
青い線がケースを走り、直後にケースは四方八方へ飛び散った。
長方形をなしていたケースが無くなったことにより、収納されていたものが姿を現す。
それは火炎ノ緋翼のように緋く、日の光を反射に光沢を光らせていた。
緋と黒をベースにしたカラーリングの砲は火炎ノ緋翼に握られ、それによって砲は起動した。
起動するやいなや、もう砲からは陽炎が立つ。
砲を天に向かって上げ、砲口を彼方の騎神へ向かって下げた。
標準は完璧だ。
何も言わずに射つのはさすがに酷なので、この砲の名ぐらいは言っておこうと入直は口を動かす。
「吼えろ、炎熱火砲――!」
右手によってトリガーは引かれ、後から爆発するように、砲口から一線の砲撃が放たれた。
後書き
騎神対戦勃発。
今回は準戦闘用騎神と戦闘用騎神との戦いでした。
作中には書いてはいませんが、基本騎神は人型です。
人型なのは元々この星に帰って来た人類が、創生区域開拓のための作業目的で造られたものです。
なので作業用騎神は騎神の元祖と言うことですね。
見事、創生区域開拓に成功した人類はそこに住み、長い間平和に暮らしていました。
争ったりしたら人類絶滅しちゃうかもしれませんし、高度な技術があるにも関わらず住宅も今とそれ程変わりません。
しかし、冒頭にもあったように人類は考えてしまったのです。
この世界を実行支配出来無いものかと。
そこで人類は高度な技術を兵器開発や、作中に出てきました戦闘艦の開発を始めました。
騎神も戦闘用に改造され、戦闘用騎神となったのです。
騎神と呼ばれ始めたのはこの頃で、始めは“作業機”という手を抜いたような名称でした。
何時の日か“騎神無くして戦争ならず”、とまで言われるように騎神は戦況を揺るがす大きな存在となりました。
作中ではまだ実戦訓練機と準戦闘用騎神|(作業用騎神を改良したもの)しか出ていません。
実戦機はこれらよりも強いため、まず実戦機の相手は実戦機のみです。
それ以外のものは、相手にならない、または危険が高い理由で戦闘はあまり行われません。
まあ、国によっては実戦機相手に戦闘を挑む人もいるので、真の強者は実戦機を倒せる人なのかもしれませんね。
それでは次回はこの続き。
ではでは。
ページ上へ戻る