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ドン=ジョヴァンニ

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第二幕その十四


第二幕その十四

「今の私には」
「アンナ・・・・・・」
「言わないで」
 その辛い顔でオッターヴィオに告げた。
「貴方は私にとってかけがえのない人」
「はい」
「冷たくなんてしないわ。現に私は貴方とずっと共にいたい」
「それはわかっています」
 二人は互いの感情を確かめ合った。
「ですが」
「私の真心も貴方の苦しみを鎮めたい」
 こう願ってはいるのだ。
「若し貴方がその深い悲しみで私を救って下さるのなら」
「そうならば」
「神が御覧になられています」
 神をその言葉に出してみせてまで語るのであった。
「私達に対して御加護を与えて下さるでしょう」
「では僕はです」
 オッターヴィオはアンナの今の深い悲しみを知り彼女自身に告げるのだった。
「貴女の歩みに従おう」
「頷いて下さるのね」
「僕は貴女の為にあります」
 跪くようにしての言葉であった。
「ですから」
「ですから」
「共に苦しみを分かち合いましょう。その溜息も共に」
「有り難う」
 今はオッターヴィオのその言葉に頷くアンナだった。
「私のこの悲しみを受け止めてくれて」
「受け止めない筈がありません」
 彼は最初からこのことを覚悟しているようであった。
「だからこそここにいるのですから」
「有り難うございます」
「いえ」
 二人は抱き締め合った。その悲しみは癒えないまでも。それでも互いの温もりは感じ合うのであった。
 ジョヴァンニは今は広間にいた。村人達を招いたあの舞踏の間ではなかった。今はそこにいて大きなテーブルを出させて美酒と御馳走を前にしていた。
「さて、用意はできたな」
「ええ、それはもう」
 レポレロが彼の傍に立って頷く。
「できましたけれど」 
 召使達が蝋燭にも火を点けていく。そうして灯りが点いた中でさらに話をしていくのであった。
「では次は音楽だ」
「はい、どうぞ」
 後ろに控えていた楽師達がレポレロの言葉と指揮者のはじまりを受けて演奏をはじめた。
 ジョヴァンニはここで席に着く。そうして楽師達に顔を向けて告げるのだった。
「曲はだ」
「曲は」
「コシ=ファン=トゥッテだ」
「コシですか」
「そうだ。女は皆そうする」
 こうレポレロに対して述べた。
「それを頼む」
「旦那はあのオペラが好きですね」
「大好きだな」
 応えながら今は馳走を食べている。
「それにしてもこの料理はだ」
「料理人の自慢のものですが」
「美味いな」
 御満悦といった様子であった。
「実にな」
「そうですか。それは何よりです」
「酒はだ」
「ええ。お酒は」
「マルツィミーノを頼む」
 それだというのである。
「それをな」
「わかりました。どうぞ」
「うむ」
 グラスにレポレロがその酒を注ぐのを見守る。レポレロはそれが終わるとこっそりと雉肉を焼いたものをつまみ食いするがジョヴァンニは見て見ぬふりをするのだった。
 
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