とある鎮守府の日常
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深き夢見る水の底
前書き
ふと思いついたネタ。
艦これ楽しいな
きっとこれは悪い冗談だ。
動かず沈んでいく自分の体を見て、彼女はそう思った。
それは一発の砲弾だった。
何時ものように艦隊を組んで信頼する提督の指揮の元、彼女は海へ出た。
提督とは彼が未熟だった頃からの付き合いだ。今でこそ空母や戦艦だが、彼女が旗艦だった時も何度かあった。
少しずつ成長し仲間が増え、何度も傷ついてきた。彼女の傷が癒えるまで提督は待ち、第1艦隊には常に彼女の席が空けられてきた。
そして今日も仲間と共に海へ出た。
何の問題もなかったはずなのだ。何度も出た海域。彼女たちを打ち倒せる存在などいなかった。……きっと、その油断が悪かったのだろう。
この程度は平気だと。傷を負ったまま彼女たちは進撃した。会敵した敵艦隊は大した相手ではないはずだった。
油断。驕りもそこにはあったはずだ。ふとした一瞬。気づけば当たっていた一発の砲弾が彼女の船体に大穴を開けていた。
僅かに残った無事な動力を動かし彼女は必死で動いた。愛しの提督の元へ帰るのだと、いつもの日常に戻るのだと……こんな現実なんて嘘なのだと、必死で動こうとした。けれどその思いとは裏腹に彼女の体は動かなかった。
浮遊力を無くした体は少しずつ水の底に沈んでいく。エラーの音が鳴り響き破損と浸水を知らせ、沈んでいく体がこれは現実なのだと彼女に教える。
助けは無い。沈み行く艦に近づけばそのうねりに巻き込まれてしまう。水面の下から見た仲間は彼女から離れた場所にいた。
仲間たちは沈んでいく彼女を見ながら涙を流していた。ああ、もう助からないのだと、彼女はそう悟った。伸ばした手を掴まれることは有り得ないのだ。
彼女の心はストンと落ち着いていた。彼女自身、数多の戦艦を沈めて、その姿を見てきた。それが自分の番になっただけなのだとそう思った。
思うことは色々あるけれど、自分は提督の役に立てたのだろうか。それが彼女の心残りだった。
大きな音と波を立て、渦に飲まれ体が沈み切る。僅かに残った空気が泡となって昇るのを見ながら、彼女は最後に一目、彼の姿が見たいと視線を向けた。
揺らぐ水面の向こう、その最後の姿を見届けようと、提督の視線はこちらを向いていた。それだけで彼女は嬉しかった。お別れの言葉は言えなかったけれど、彼女の心は安らいでいた。
仲間の一人が耐え切れないように提督の手を取った。提督もその手を握り返したのが彼女には見えた。その瞬間、安らいでいた彼女の心が揺れた。
彼女たちはこれからも彼の横にいるのだろう。彼の指揮の元で戦い続けるその姿が、彼女の脳裏には描かれていた。それを彼女は羨ましいと思ってしまった。自分が伸ばした手は取ってもらえなかったのに、提督に掴まれた仲間の手が酷く羨ましかった。彼の隣に収まった仲間が妬ましかった。
ずっといた彼のとなり、そこに自分はもういられない。しょうがないことだけれど、彼女は思ってしまうのだ。彼女たちでもよかったじゃないかと。何故、ここにいるのが自分なのだと。
暗い嫉妬と恨みが彼女の心には芽生えていた。その思いが口から溢れるより早く、彼女の瞳は仲間が流した涙を捉えていた。彼女たちは確かに自分を心配し、悲しんでくれている。そこに沈む彼女を想う追悼の思い、それ以外の色はなかった。
彼女たちは自分がこんな思いを抱いたことなど知らぬだろう。脳裏によぎることすらないはずだ。それなのに彼女は仲間を妬んでしまった、恨んでしまった。
唇がわななく。仲間たちの想いを踏みにじったことに気づき、彼女は己が取り返しのつかぬ事をしてしまったのだと気づいた。何故、自分はそんな事を。
砂煙を巻き上げ彼女の体が海底に刺さり、横たわる。もう、彼女の鼓動は止まっていた。
絶望の底で呆然と涙を流しながら、光届かぬ深い海の底、彼女は物言わぬ存在として横たわっていた。
そして今日もまた、その海上では仲間達が戦う。彼女が愛した提督の指揮の元で……
後書き
まだ轟沈したことはないけど、したら多分めっさ凹む。
損傷を気にかけて艦これはやりましょう。
ちなみに初艦娘は電ちゃんです。僕は暁型と睦月型が好きです
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