ドン=ジョヴァンニ
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第一幕その二十
第一幕その二十
「うちの旦那が皆様を宴にお招きしております」
「おお、それは有り難い」
オッターヴィオが明るい声を作って彼の申し出に応えた。
「それでは是非」
「はい。じゃあどうぞ門のところへ」
こう言って窓を閉めるレポレロだった。三人はここでまた言い合うのだった。
「それではいざ」
「勝負の時に」
こうして三人は門のところに向かう。確かに今勝負の時が迫ろうとしていた。
舞踏の間は華やかに黄金や赤い装飾で満たされていた。シャングリラから光が絶えずキャンドルも部屋の中を眩く照らしている。多く置かれたテーブルの上には様々な御馳走や菓子が置かれワインが次々と飲まれていく。そこに皆が集まり中心にはジョヴァンニがいて陽気にシャンパンを飲み皆に告げていた。
「さあ皆さん楽しんでくれているでしょうか」
「はい、充分に」
「楽しませてもらっています」
皆陽気にその言葉に応える。
「御馳走もお酒も美味しい」
「最高ですね」
「遊んで騒いで踊って下さい」
彼が言うのはこのことだった。
「まだまだありますから」
「そうですね」
「レポレロ」
隣で一人御馳走を貪りワインを瓶ごと飲むレポレロに声をかけた。
「コーヒーをお出ししろ」
「コーヒーですか」
「それにチョコレートもだ」
「わかりました。それじゃあ」
「シャーベットにビスケットもだ」
菓子が続く。
「とにかく何でも出すのだ。いいな」
「わかりました。それじゃあ」
彼はここで一旦後ろに下がる。ジョヴァンニは一人になるとマゼットの横に立っているツェルリーナに対してそっと近寄ってきたのだった。
「来たね」
「ええ」
二人もそれは見ていた。そうして頷き合うのだった。
「いよいよだな」
「そうね」
「はじまりが楽しければ」
「終わりは苦くなるかも」
こんなことを言い合いながらやって来るジョヴァンニを見る。彼はにこやかな笑顔でツェルリーナのところに来てその手を取って言うのだった。
「やはり奇麗で可愛いね」
「いえ、そんな」
「いや、本当に」
マゼットをよそにの言葉だった。
「奇麗だよ。本当に」
「おやおや、早速仕掛けてるね」
部屋に戻ってきて主に言われたものを置き終えたレポレロはここで言った。
「相変わらず素早いことで。ジャネッタにサンドリーナ」
主の真似をして言ったりもする。
「こんなふうに」
「今は我慢だ」
マゼットは二人の横でそっと呟く。
「我慢しないと」
「怒ったら駄目よマゼット」
ツェルリーナもこっそり呟く。
「ここはね」
「さて、マゼットを煙に捲いて」
ジョヴァンニもジョヴァンニで呟く。
「話はそれからだな」
「おお、来られましたね」
ここでレポレロが部屋の入り口を見て声をあげた。見ればあの三人が来たのだ。
「お待ちしていましたよ」
「ようこそ」
ジョヴァンニはツェルリーナの傍から離れて客人に向かいながら声をかけた。
「よくぞ来られました」
「いえ、お招き頂いて有り難うございます」
「どうもです」
三人も三人で恭しさを作って挨拶をする。
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