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万華鏡

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第三十話 江田島その十三

「一体」
「北朝鮮を支持というか賛美していまして」
 こうした教師が実際に今でもいるのだ、北朝鮮がどういった国かなぞは最早天下の誰もが知っていることであるがだ。
「他にも言っていることが滅茶苦茶で暴力も振るいまして」
「そうした先生っていますよね」
「最初からおかしいと思いました。そして自衛隊で」
 彼が今いるその世界でだというのだ。
「真実を知りました」
「戦争のことをですね」
「祖父が正しかったです」
 彼が敬愛しているその祖父がだというのだ。
「そうでした」
「だったんですね」
「それがわかりました」
 自衛隊に入ってだというのだ。
「とはいっても私は防衛大学ではないですが」
「あれっ、違うんですか」
「防大じゃないんですか」
「はい、一般の大学からです」
 そこから入ったというのだ。
「東京の方の大学から」
「東京ですか」
「そこからですか」
「入りました、ただ出身は東京ではなく」
 では何処かというと。
「千葉出身です」
「あっ、ロッテの」
「そこですか」
「しかし野球はヤクルトです」
 自衛官は微笑んで五人に自分が応援している球団のことも話した。
「最近優勝していなくて残念です」
「九十年代何度も優勝してますよね、ヤクルトは」
 彩夏がヤクルトの黄金時代のことを話す。
「四回は」
「はい、二〇〇一年にもです」
 その年にも優勝している、しかも日本一にもなっている。
「合わせて五回ですね、七十八年に一回です」
「合わせて六回ですか」
「多いですね」
「阪神なんてな」
 美優は自分の贔屓の球団のことを眉を曇らせて話した。
「五回優勝しててもな」
「日本一になったの一回だけで」
「バースの時にね」
 四人も美優に残念そうに応える。
「ヤクルトって確か何回も日本一になってるから」
「いいわよね」
「日本一には五回なっています」
 こう話す自衛官だった、かなり嬉しそうに。
「西武に一回負けていますが」
「五回も日本一って」
「羨ましいですよ」
「阪神っていつも負けますから」
 一回だけしか日本一になっていないというのだ、二リーグ制になってから。
「海軍にあやかりたいですね」
「もっと強くなりたいです」
「東郷司令にお願いしたら強くなりますか?」
 自衛官に結構切実な顔で尋ねる程だった、阪神ファンにとってはまさに阪神こそが生活になっているからである。
「それで」
「海軍みたいに」
「ならないです」
 それはないというのだ、自衛官は真面目だが苦笑いになって答えた。
「海軍精神を学ぶことは出来ますが」
「というか打線学んで欲しいわよね」
「いつも打たないからね」
「毎年毎年打たないで負けて」
 これが阪神の常である。
「いつも優勝逃して」
「ロッテとのシリーズなんか」
 阪神ファンにとっては忌まわしい顔である、巨人に目の前での胴上げを許した位の。
「あの時は打てなくて打たれて」
「それで四連敗」
「こっちは四点位で?」
「向こうは三十点以上取られて」
 五人で話していく。
「しかもあれから優勝してないし」
「打線がねえ」
「ピッチャーはいいのに」
「それなのに」
 その四連敗のシリーズについて話す五人だった、そうした話をしながら。
 五人もまた東郷平八郎の絵を見た、そして言うことは。
「それじゃあせめてね」
「そうよね、私達だけでもね」
「この人みたいにはなれなくても」
「もっと真面目にな」
「生きていこうかしら」
「五省はどうでしょうか」
 自衛官は東郷の絵を見続ける五人にこれを紹介した。
「幹部候補生学校でも教えられていますが」
「ええと、五省ですか?」
「そんなのもあるんですか」
「要するに自分への戒めです」
 それだというのだ。
「それを学ばれてはどうでしょうか」
「ちょっと教えて頂けます?」
「そのことを」
「はい、それでは」
 自衛官はにこりと笑ってその五省のことを話したのだった、このことも五人にとっては素晴らしいことであった。
 五人は江田島を回り続ける、そのうえで人生を学び続けるのだった。


第三十話   完


                    2013・4・11 
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