万華鏡
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第三十話 江田島その十二
「政治問題解決の一つの手段なのです」
「絶対にしてはいけないことじゃないんですね」
こう問うたのは美優だ、学校の教師がよく話すことでもある。
「そうなんですね」
「確かにしないに越したことはないですね」
「そうですよね」
「しかしです」
だがそれでもだというのだ。
「しなければどうにもならない時もあります」
「外交でどうにかならない時もですか」
「日露戦争がそうでしたから」
勿論日清戦争や第二次世界大戦もだ、どの戦争も日本にとってはどうしても避けられない戦争だったのである。
そして避けられないなら、というのだ。
「戦うしかない場合もあります」
「だから戦ったんですか」
「そうでした、そしてその時の世論ですが」
「反対する人はいなかったんですか?」
「殆どいませんでした、といいますか」
「というか?」
「世論はほぼ全て主戦論でした」
そうだったというのだ、実は。
「ロシアの驚異はすぐそこ、半島にまで迫っていましたので」
「確か朝鮮の王様がロシアの大使館に逃げ込んだんですよね」
里香がここで自衛官にこのことを問うた。
「そうですよね」
「その通りです、ロシアはどんどん半島に進出していまして」
「半島がロシアの手に落ちれば」
「日本はまさに死命を決されました」
ロシアによってそうさせられていたというのだ。
「ですから絶対にです」
「避けたくて、ですね」
「戦争しかなかったのです」
ロシアとの、それが日本の限られた選択しだったというのだ、
「他には何も」
「若しそこで何もしなかったら」
「ロシアは半島からです」
さらにだというのだ。
「日本に来ていました」
「この日本に、ですよね」
里香もここまで聞いて唇を噛んだ。
「迫ってきたんですね」
「はい、そうなっていました」
「だから戦争をするしかなく」
それでだというのだ。
「その選択肢を選んだのです」
「戦争を、ですね」
「そうなんですね」
里香以外の面々もここで頷く。
「するしかなくて」
「それで戦争になったんですね」
「私も高校の頃よく先生に言われました」
自衛官は東郷の絵を見続けながら話していく。
「日本は侵略国家で」
「日露戦争もですか」
「侵略の戦争と言われたんですね」
「はい、言われました」
実際にそうだったというのだ。
「日清戦争も第二次世界大戦も」
「そのどちらもですか」
「侵略戦争って」
「そう言われました、ですがおかしいと思っていました」
高校の頃に既にそう思っていたというのだ。
「祖父の言っていることと違っていたので」
「お祖父さんの仰っていることと、ですか」
「違うんですね」
「はい、それでおかしいと思っていました」
その教師の言うことが、だというのだ。
「それにその先生もおかしかったので」
「どんな先生だったんですか?」
景子がその教師がどんな教師だったか尋ねる。
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