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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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役者は踊る
  第十八幕 「秘めたる思いの丈」

 
前書き
ブン・カーツ 

 
前回のあらすじ:The Beast RinRin


~昨日のこと~

「・・・何所よここ。何で受付に向かってたのにアリーナ近くに辿り着くのよ~!」

本校舎一階総合事務受付に向かっていたはずの鈴は、IS学園がややこしい構造になっているせいで絶賛迷子中だった。うっかり学園案内のパンフを捨ててしまったのが運の尽き、学園関係者や生徒にも出くわせずにこんなところまでたどり着いてしまった。
一応弁明をするならば、IS学園はもともと部外者対策もあってか少々ややこしい構造をしているのは事実である。しかし彼女はかれこれ30分は敷地内を歩いているのに人っ子一人会っていないというのはある種の才能と言えるだろう。

「めんどくさいなぁ・・・ISで空飛べば一発だけど流石にそれはまずいわよねぇ・・・んん?あそこに見えるは・・・」

第一村人ならぬ第一生徒らしき影を発見。しかもその顔はどこか見覚えがあり、何より服装から彼が話題の男子生徒であることが解る。そして・・・

「ふぅー、今日もなかなかしんどかったな」
(この声は間違いない!一夏だ!)

小学校の頃からの友人にして幼馴染。2年前に突然の別れを告げてからこの時をどれだけ待ったことか。突然祖国に帰ることになったため、一夏や五反田兄妹、それにユウとジョウにも別れの言葉を言えないままだった。ずっとそれが気がかりで、どうにか日本に戻ろうと頭を絞った末の今。

日本に戻るには両親を納得させる理由が必要だったため、IS学園に入学すれば合法的に日本に戻れると考えた鈴は猛勉強をした。何せ中国は人口が多い分競争相手も多かったのだ。連絡すら取れない友人たちのために鈴が努力を続けた。途中父親に反対されたり富裕層の坊ちゃん嬢ちゃんに嫌がらせを受けたこともあったが、彼女は決してめげなかった。そしていつの間にか彼女は代表候補生という地位を掴み取り、ようやく日本に舞い戻ったのだ。

・・・あれ?そういえば何で中国に戻ることになったんだったっけ?うーん・・・何か忘れているような気がする。まぁ覚えてないものは仕方がないか。そんなことより今は一夏だ!2年ぶりの幼馴染と感動のご対面!

「い、いちか―――」

「にしても、イメージで分かれってお前・・・無茶苦茶言うなぁ?」
「何を言う。あんなの何回かやれば大体コツがわかるだろ?」
「だからってお前“くいって感じ”で分かるかよ普通?」
「・・・致し方あるまい。私は口下手で説明下手なのだから」
「そ、そう断言されると何も言えん・・・」

「・・・・・・・・・」

誰、アレ。その仲睦まじげに隣を歩いているスタイル抜群の黒髪女は誰よ。ねぇまさか私が中国に戻っている間に他の女を見つけて・・・?この私が、アンタと再会するために汗水たらして死ぬほど努力してる間に「リア充」になってイチャイチャしていたとでも!?ふつふつとした怒りがこみ上げる。私が2年かけて再開しようとしたのにアンタって奴は・・・!



「・・・ふ、ふん!いいもんね~!別にアンタ以外にも会いたい友達はいるしぃ?」

心に大打撃の鈴だが、別に一夏一人のために日本に戻って来たのではないと無理やり自分を納得させる。そう、この学園にはユウとジョウもいるはずだ。その二人に会いに・・・

「簪ちゃんのIS・・・打鉄弐式だっけ?機動力も高いしミサイルの命中精度も凄いし、いい機体に仕上がったみたいだね」
「うん・・・新型インターフェイスの稼働率もいい感じだし・・・倉持技研には感謝してる」
「風花は改修されて余計にピーキーになったような気がするよ・・・ねぇ、良ければ調整手伝ってくれない?」
「・・・いいよ」

「・・・・・・・・・・・・」

誰、アレ。その仲睦まじげに隣を歩いている清純そうな空色眼鏡っ子は誰よ。私が陰湿な嫌がらせを受けてまで必死に学園に転入するだけの結果を出してここまで来たのに、アンタもなの!?こちとら遊ぶ暇も友達作る暇もなく頑張ってたってのに・・・何よあんた達!私を置いて勝手にかわいい彼女作って学園ライフをエンジョイしてたわけ!?
理不尽な怒りさらに膨れ上がる。こんなに会いたかったのにお前らの中では私は過去の女ですかそうですか。
べ、別に妬んでなんかないんだからね!?少し先を越されて同級生として悔しいとか、青春2年も無駄に浪費した気がする敗北感とかそんなんじゃないんだからね!?



「・・・い、いいもんっ!流石にブラコンのジョウの奴は彼女なんて作れてないだろうし!?おアツい二人は勝手にイチャイチャしてればいいんじゃないの!?」

彼等は確かに仲は良いが、別に恋愛感情があって共にいるわけでは(少なくとも今の所)ない。それでも鈴が勝手な勘違いをしたのは2年という長い間別れの言葉も交わせなかった友人たちへの思いの大きさゆえである。
何はともあれ鈴はその場から踵を返し、明日にジョウに会うまでこのどす黒い感情を抑え込むことにした。ジョウはブラコンだが意外に話し上手で聞き上手だ。彼に愚痴をぶつければ、このやり場のない怒りも治まるだろう。



そして翌日・・・

「おお!お前、リンリンじゃないか!2年ぶりだな!」
「知り合いなの、ジョウ?」
「ああ。中学時代の後輩でな・・・って、おいどうした?いつものお前なら『リンリンって言うな!』とか突っ込んでくるところなんだが・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

誰よ、その横の金髪美女。随分仲がよさそうじゃないの。ふーん、へーえ・・・アンタも私を裏切るわけ?
アンタは・・・アンタだけは、私と同じだと思ってたのに・・・!どいつもこいつも・・・どいつもこいつも・・・どいつもこいつも!!
(勘違いで)最後の希望を断たれた鈴に、もはや内なる獣を抑え込む術はない。本能の赴くまま、親友だと思っていた者たちに嫉妬という名の暴力をぶつけるため――

「リア充なんてぇ・・・ ス ベ テ シ ネ バ イ イ ン ダ ー ! !」

「・・・はい?」
「ええ!?」

鈴は理性を手放した。



 = = =



「あっはっはっはっはっはっ!!お、俺とシャルが付き合ってるって・・・ブフー!!」
「僕たちはフツーの友達だよ?」
「箒は幼馴染なんだから仲良くて当然だろ?」
「それに、大体一夏がやたら女と一緒にいるのは今に始まったことではあるまい」
「べ、別に簪ちゃんとはそんな関係じゃないんだけどなぁ・・・」
「うわぁぁーーーん!!何よ何よ!これじゃあたし一人でバカみたいじゃないの~~!!」

結局のところ、すべて鈴の勘違いだったというわけだ。余程面白かったのかジョウはトントンリズムを取りながら「NDK?NDK?」などと煽っており、鈴の顔は怒りと勘違いした恥ずかしさで鬼灯のように真っ赤になっている。

「しかしそれにしても・・・良く暴れたなぁ?」
「うっ」
「これだけ暴れればさぞすっきりしただろうねぇ?」
「うう・・・悪かったわよぉ」

取り押さえ中に一夏は6メートルほど吹っ飛ばされたしシャルはシールドエネルギーがレッドゾーンに入りかけたし、机はことごとく壊れ窓ガラスも無事なものから数えたほうが早い。
ジョウのカバーで奇跡的にけが人は出なかったものの、転入初日にこれだけ暴れればヘタすりゃ停学どころか退学モノだ。
ジョウはちらりと鈴の方を見る。既にワイヤーの拘束は解かれているが、自身のやらかした事の重大さに気付いたのか顔が青ざめている。やれやれ、世話の掛かるお嬢さんだ。

「・・・わざわざ来たのに退学処分にさせるのも忍びない。楯無の奴に処理してもらうか」
「じ、ジョウ・・・!!」
「そうだな・・・それで駄目なら全員で暴れたことにして謝りに行こうぜ!」
「反省文何枚書かされるか分からないけどね・・・まぁ友達の為なら安い物、ってね」
「ユウ・・・一夏・・・!!」

相変わらずのお人よし発言。それが2年ぶりに皆に会った鈴にとっては何よりも心に沁みた。
いつしか話は逸れ、昔の思い出話が始まる。

「そういや昔も似たようなことがあったな?」
「ああ、兄さんが体育倉庫の出入り口を粉砕したあれ?」
「・・・ああ!あれは大変だったわね~!先生の誤解を解くために数馬や弾と一緒に土下座して・・・」
「あ、あははは・・・いやあの時はマジですまんかった!」

懐かしい。みんなあの時と全然変わってない。中学時代に一緒に馬鹿やって過ごし、帰りに寄ったファミレスで休日に何をして遊ぶか話し合い、ジョウの山籠もりに付いていって滝つぼに落ちかけたりしたっけ、と懐かしい思い出をありありと思いだし、少しだけ笑ってしまう。

(なんだ、皆全然変わってなかったんじゃない・・・私、馬鹿だなぁ)



 = = =



で、最終的には今回の被害を鈴達全員で弁償することで片が付いた。全員政府からそれなりの資金援助を受けているし、謹慎を免れたことも加味して考えると非常に軽い処置だったと言えよう。

「・・・で、先生に頼んだら何故か震えながらクラス代表を認めてくれたのよね~」
(一番被害を受けたのはあの先生の心か・・・)
「じゃあクラス対抗戦では鈴とぶつかる訳だな」
「手加減しないわよ?」
「上等!!こっちだってクラスの期待を一身に背負ってんだ!」
「ふん、そう来なくっちゃ!アタシが勝ったら昼飯奢りなさいよ?」

ぐいぐいと一夏を肘で押しながら快活に笑う鈴。その笑顔につられながら、一夏は思い出したように鈴へと向き直る。

「・・・あ、そうだ。すっかり言い忘れてたけど・・・」
「?」
「うーん・・・こういうのも変だけど、おかえり」
「おう、おかえり」
「おかえり、が一番しっくり来るね?」

「・・・ただいまっ!」

こうして凰鈴音は、第二の故郷である日本に真の意味で帰って来た。


人は時間とともに変わっていく。昔の事を忘れ去り新しいものに夢中になったり、大切な事や初心を忘れてしまったり・・・だが、鈴と一夏たちの間にある絆は損なわれてはいなかったようだ。
 
 

 
後書き
ちょっといい話的に終わらせたかった。
次回は対抗戦が始まるまでの日常をば 
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