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八条学園怪異譚

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第三十一話 マウンドのピッチャーその十二

 その茉莉也を見て二人はこう言った。
「私達どうして先輩が嫌いじゃないかよくわかりました」
「自分達でも」
「何か変な言葉ね」
「いえ、先輩にそうしたところがあるからですね」
「だからなんですね」
「まあね、子供の頃から人との約束は絶対に守れって言われてきたから」
 それでだというのだ。
「ちゃんとしてるのよ」
「やっぱり約束は守らないといけないですね」
「そういうのって出るんですね」
「まあそうでしょうね」
 茉莉也もそのことはと返す。
「人間の人品骨格っていうかね」
「出ますよね、本当に」
「ちょっとしたことで」
 二人もよくわかった、茉莉也の言葉を受けて。
「人間のそういうのって」
「素っていうのが」
「そういうものよ、人間は注意しないとね」
 巫女姿で右膝を立てた姿勢で酒を飲みながら言う。
「出るわよ、ちょっとしたことから」
「それで先輩って人がわかりました」
「そういう人なんですね」
「まあね、確かに飲んでセクハラもするけれどね」
 自覚はしていた、とはいっても飲むことは止めない。
「人間としての最低の仁義とかは守らないとね」
「さもないと人間でなくなってしまうからな」
 日下部は飲んでいないがそこにいた、そのうえでの言葉だった。
「その点お嬢はしっかりしている」
「日下部さん程じゃないけれどね、じゃあそろそろね」
「うむ、プレーボールだな」
 日下部は今度は茉莉也に応えた、そのうえで。
 グラウンドに顔をやる、するとだった。
 もう一塁側ベンチも三塁側ベンチも選手達がいた、一塁側は白い野球帽とユニフォーム、三塁側は黒いそれ等だった。
 愛実は両方のユニフォームを見て言った。
「何かあのユニフォームって」
「古いわね」
 聖花がここで言う。
「今のユニフォームじゃないわね」
「そうよね、高校野球のユニフォームにしても」
「色彩とかデザインがね」
「古いわよね」 
 愛実は素振りをしたりキャッチボールをする彼等を見たまま聖花に答える、そのバットやグローブにしてもだ。
「何か違わくない?」
「特にグローブとかミットね」
「今のとは違うけれど」
「ええと、あの感じは」
「昭和の三十年代?違うわね」
 愛実は首を傾げさせながら述べた。
「若しかして、防止といい」
「三十年代の帽子とかはまだ立派だったから」
 聖花は写真で見たその頃のプロ野球の帽子を思い出していた、ユニフォームもだ。
「あれはもっと昔ね」
「三十年代より前っていうと」
「終戦直後、いえあれは」
「そうね、多分だけれど」
「戦争前よ、昭和十年代」
「丁度その頃よね」
「そうだ、あのユニフォームは戦前の八条中学のものだ」
 日下部はここで二人に言った。
「今の八条高校だ」
「ああ、昔の中学が今の高校でしたね」
 このことは愛実も知っていた、八条学園の歴史でも明記されていることだからだ。
「そうでしたね」
「そうだ、私も旧制中学出身だった」
 日下部の年代ではそうであるのだ。 
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