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神々の黄昏

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第三幕その八


第三幕その八

「何故なの?それは」
「それは」
「けれどあの方は」
「グートルーネよ」
 ハーゲンが来た。そのうえで彼女に告げるのだった。
「ジークフリートを迎えるのだ」
「あの方をですか」
「そうだ、勇士が帰って来たのだぞ」
「けれどハーゲン」
 グートルーネは曇った顔のままハーゲンに言葉を返した。
「ジークフリートの角笛は」
「青ざめた勇士はもう角笛を吹かない」
「えっ!?」
 それを聞いてであった。グートルーネの顔はさらに曇る。そうして彼に問うのだった。
「では後ろのあの人達は何を」
 グートルーネは兄と家臣達が沈痛な顔で何かを運んで来るのを見ながらハーゲンに問うた。
「何を運んで来るというのです?」
「猪に後ろからやられたのだ」
 ハーゲンはそういうことにしたのだった。
「それによって御前の夫は」
「そんな、あの方が・・・・・・」
「グートルーネ」
 グンターは妹に優しい声で告げてきた。
「落ち着くのだ、ここは」
「そんな、そんな筈がないわ」
 グートルーネはすぐに事情を察した。これは勘で、である。
「あの方がそんな。猪に背を向ける筈もないし」
「それはだ」
「近付いてきても振り向ける。それなら」
 ここまで考えてである。答えを出したのである。
「貴方達があの方を」
「私ではない」
 グンターは己の罪から逃れた。そうせねば耐えられなかったのだ。
「その言葉を私に向かって言うな」
「ではまさか」
「そうだ、ハーゲンだ」
 ハーゲンを指差して言うのだった。
「彼こそその呪わしい猪だ」
「ハーゲンこそが」
「そうだ、この男が彼をだ」
「それで私を恨むというのか?」
「不安と不幸が永遠に御前を捉えるのだ」
「そう言うがだ」
 ハーゲンは反撃に出た。
「あの男は偽の誓いをしたのだ」
「それはそうだが」
「そして私の槍に誓っていた」
 ハーゲンは自分のその槍を前に突き出して語る。
「その誓いの通りにしただけだ」
「それで私の夫を」
「そしてだ」
 ハーゲンはさらに言ってきた。
「神聖なる獲物の権利を手に入れたのだ」
「神聖な獲物だと?」
「そうだ」
 まさにその通りだというのである。こうグンターに返すのだった。
「ジークフリートの手の中にあるその指輪を貰おう」
「それは違う」
 グンターもここでは強気になった。毅然として彼に言い返す。
「その指輪は御前のものではない」
「では誰のものだというのだ」
「指輪はグートルーネのものだ」
 そうだというのである。
「彼の妻だったグートルーネのものだ」
「諸君に問う」
 ハーゲンは周囲に顔を見回してから彼等に問うた。
「指輪は私のものだな」
「いや、それは」
「どうなのか」 
 しかしであった。彼等はその言葉には目を伏せた。賛成できないというのだ。
「やはりその指輪は」
「グートルーネのものではないのか」
「彼の妻だった」
「確かに」
「くっ、それではだ」
 ハーゲンは一歩前に出た。そのうえでジークフリートに向かおうとする。その前にだ。
 
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