神々の黄昏
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第三幕その七
第三幕その七
「その時のことか」
「グンター様」
「ここは」
「最後まで言わせてやるのだ」
家臣達は止めをというのだが彼はそれを許さなかった。
「決してだ。いいな」
「ではこのまま」
「いいのですか」
「それが彼の望みだ」
読み取って。そうしてだった。
「だからだ。いいな」
「わかりました」
「それでは」
「私は来た」
また言う彼だった。
「そして御前をこの口付けで目覚めさせる」
言葉は続く。
「そして」
「そして?」
「今度は何と」
「新妻の為にその戒めを断ち切り御前の微笑を受け」
その時のことが彼の瞼に浮かんでいた。
「瞳よ永遠に開け、息吹は快く、そのブリュンヒルテが私に」
ここまで言って倒れ伏した。グンターはそれを見届けてからだ。
周りの者達に顔を向けて。厳かに告げた。
「いいな」
「はい」
「全ては終わりました」
「宮殿に戻る」
こうしてだった。彼等はグンターに命じられるままジークフリートを運んでいくのだった。ハーゲンは今は沈黙していた。その顔には笑みもなくただ黙っているだけであった。
ギービヒ家の宮殿の庭。そこにグートルーネが出ていた。
夜になっているその庭の中に出た彼女にだ。宮殿の女達が声をかけてきた。
「グートルーネ様」
「どうして庭に」
「何かあったのですか?」
「胸騒ぎがするの」
だからだというのだ。その暗鬱な顔でだ。
「何かが起きそうで」
「何かとは?」
「一体何が」
「あの人の身に何が」
こう言うのである。
「何かが起こったのかしら。不吉な気がするの」
「それは気のせいです」
「御気になさらずに」
侍女達はそのグートルーネを宥めるのだった。
「ですからお屋敷の中に戻られて」
「それであの方を待ちましょう」
「嫌な夢を見たし」
しかしグートルーネはまだ顔を曇らせている。
「だから」
「夢とは」
「どんな夢ですか?」
「ブリュンヒルテ様の笑い声が聞こえて」
こう話すのだった。
「あの方がそうして火の中に」
「あの方がですか」
「火の中に」
「そうです。あの夢は一体」
「ホイホーーー!ホイホーーー!」
ここでハーゲンの声がしたのだった。
「起きろ、誰もが起きるのだ」
「あの声は」
「ハーゲン様の」
「燈火を掲げよ、明るく火を焚くのだ」
ハーゲンの声が宮殿に次第に近付いてきていた。
「狩りの獲物を運んできたぞ」
「帰って来ました」
「あの方も」
「いえ」
しかしだった。グートルーネはここでも不吉な顔のままで言うのだった。「角笛が聴こえなかったわ」
「角笛?」
「それがですか」
「そうです。それが聴こえませんでした」
そうだというのである。庭に宮殿に残っている家臣達や女達も出て来た。そのうえで帰って来た彼等を迎えるのだった。
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