ソードアート・オンライン~漆黒の剣聖~
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フェアリィ・ダンス編~妖精郷の剣聖~
第五十七話 面倒事
二〇二五年一月一五日(水)
姉はれいにならって大学に行き、もう一人の同居人は相変わらず帰ってこない。なので、現在品川のマンションにいるのは桜火一人となる。
「さて、そろそろ行きますか」
現在の時刻は午後二時三十分。昨日リーファと約束の時間まで三十分を切ったところで、ソファーから身を起こし、戸締りを確認しアミュスフィアを装着し自分の部屋のベッドへと寝っころがる。
「リンク・スタート」
そして、妖精郷へと旅立っていった。
◆
「まずはキリト君の装備をどうにかしなくちゃと思うんだよ」
「そうね。アルンに行くんだったらその装備はどうにかしておいた方がいいね」
ソレイユはログインした時はリーファもキリトもログインしていなかったので、観光と称してスイルベーンを探索するついでに必要となるであろうアイテムを買い込んでいた。三時近くになったということですずらん亭に足を運んでみると、リーファとキリトがちょうどログインしてきたところだったのでそのまま合流して今に至る。
「ああ、俺もそうしたい・・・この剣じゃ頼りなくて・・・」
「んじゃ、まずは武具屋だな」
「それよりも先にお金あるの?」
「えーと・・・」
リーファの言葉にウインドウを確認するキリト。なぜか顔をひきつらせていたが、その理由はソレイユには痛いほどよく分かった。
「この≪ユルド≫って単位がそう?」
「そうだよー・・・ない?」
「い、いや、ある。結構ある」
「だろうな(ボソッ」
SAOではトップレベルの攻略組として名を馳せていたキリトである。いくら無駄遣いが多かったとはいえ、ある程度はたまっているであろうとソレイユは見ている。
「なら、早速武具屋に行こうか。ソレイユ君もそれでいい?」
「ああ、かまわんよ」
それで歩みを進めようとしたところで、キリトが慌てた様子で口を開いた。
「お、おい、行くぞ、ユイ」
「ふぁー、おはようございます。パパ、にぃに、リーファさん!」
「おはよう、ユイ。そんじゃ、まずは武器屋からだな」
ユイが起きたのを見たソレイユが今後の方針を口にした。
◆
「なぁ、キリト君・・・」
「な、何だ、ソレイユ?」
「・・・いや、やっぱなんでもねぇや」
先ほどの武器屋の店主とキリトのやり取りを見ていたソレイユは呆れていた。店主が差し出す装備を悉く跳ね除けていたのだ。そのときの言葉が「もっと重い奴」と来たものだ。これを見たソレイユは呆れるしかないだろう。
「本当にそんな剣、振れるのぉー?」
リーファの言いたいことはもっともである。「もっと重い奴」と十数回連呼した末にたどり着いたのが大剣といっていいほどの片手剣だった。大きさはキリトの身長と同じくらいある。
だが、リーファの問いにキリトは涼しい顔で答えた。
「問題ない」
そういわれれば納得するしかないリーファ。
「ま、そういうことなら準備完了だね!これからしばらく、ヨロシク!」
そういって右手を差し出すリーファ。それにキリトとソレイユが手を重ねたところでギリトのポケットからユイが出てきて、三人の手をたたきながら言った。
「がんばりましょう!目指せ世界樹!」
元気な声が当たり一帯に響くのだった。
◆
「そういえば、出発する前にブレーキングの練習しとく?」
「・・・いいよ。今後は安全運転することにしたから」
「それでちんたらしている様だったら容赦無く置いて行くからな」
「・・・・・・そ、それはそうと、何で塔に?用事でもあるのか?」
何とか話題をそらそうとするキリト。だが、その質問に答えたのはリーファではなくソレイユだった。
「高度を稼ぐためだって。長距離を飛ぶ場合大抵こうやって飛距離を稼ぐんだって」
「へぇー、そうなのか」
ソレイユの説明にキリトは頷く。そんなキリトの背中を押しながらリーファは塔へと足を速める。
「さ、行こ!夜までに森は抜けておきたいからね」
「道案内よろしくな、リーファ」
「たのんだよー」
「任せなさい!」
そういって塔の中に入っていくソレイユたちご一行。そのとき、ちょうど降りてきた右側のエレベーターがあったので、それに駆け込もうとキリトを引っ張りながら移動していたら、不意にその行く手を阻むプレイヤーが現れた。そのプレイヤーに激突する寸前でリーファは踏みとどまることができたが――
「ちょっと危ないじゃない」
と反射的に文句を言いながら行く手をふさいだプレイヤーの姿を確認すると顔を引きつらせた。
「・・・・・・こんにちは、シグルド」
作り笑顔を浮かべながらリーファが挨拶するも、シグルドと呼ばれたプレイヤーはそれにこたえる気は無いらしく、いきなり切り出してきた。
「パーティーから抜ける気なのか、リーファ」
「(うわぁ・・・なんか、めんどくさい奴が現れたなー・・・)」
心の中で軽くため息を吐くソレイユ。ここで自分が出張っても面倒が増えるだけと考え静観することにするソレイユ。
「うん・・・・・・まぁね。貯金もだいぶ出たし、しばらくのんびりしようと思って」
「勝手だな。残りのメンバーが迷惑するとは思わないのか」
「(あー、そういうタイプですかー・・・)」
今の言葉を聞いてソレイユは大体察しが着いた。所謂、虚栄心が強いタイプの人間なのだろう。この手の人間は独善的で傲慢なところがあるのが特徴であるからすぐにわかる。
「ちょ・・・勝手・・・!?」
「お前はオレのパーティーの一員としてすでに名が通っている。そのお前が理由も無く抜けて他のパーティーに入ったりすれば、こちらの顔にd――」
「なぁ、リーファ。そんな奴放って置いてさっさと行こうぜ。ただでさえキリト君の武器選びに時間が掛かっちゃったんだしさ」
シグルドが何か言っていたようだが、そんなことをお構いなしにそういうソレイユ。その隣ではキリトが悪かったな、などといって口をとがらせているが今はかまう必要性が無いので無視する。いきなりの乱入者にシグルドの顔が不機嫌にゆがむ。
「・・・何だ、貴様。インプ風情がなぜこんなところにいる」
「どこにいようとおれの勝手だろうよ。それよりも、こんなザコ放っておいてさっさと行こうぜ、リーファ」
「・・・なんだと・・・」
ソレイユの言葉にシグルドは眉を顰めた。だが、そんなことは気にせずにソレイユはシグルドに向きなおり口を開いた。
「お前みたいな弱っちぃ奴に構ってる暇はないって言ったんだよ」
「きッ・・・貴様ッ・・・!!」
ソレイユのどストレートな物言いにシグルドは瞬時に顔を憤怒で染め上げ、長いマントを巻き上げ剣を抜き放ち、ソレイユに突き付けた。
「根暗なインプ風情がつけあがるな!どうせ、領地を追放された≪レネゲイト≫だろうが!」
「見せ掛けだけの奴にそんなこと言われたくないなー」
「ちょ、ソレイユ君!」
なおも挑発をするソレイユ。リーファが驚いたように声を上げるが、ソレイユは気にも留めない。
「・・・のこのこと他種族の領地まで入ってくるからには斬られても文句は言わんだろうな・・・」
「あんたごときにおれを斬ることができるんならなー」
額に青筋を立てながら剣を構えるシグルド。それを見たリーファがソレイユのことを庇おうとするが、ソレイユはそれを手で制した。
シグルドが臨戦態勢に入ったにもかかわらず、ソレイユは肩の力を抜き左手はズボンのポケットの中につっこんでいるだけである。腰に差した刀を抜くことをしないソレイユにリーファは声を荒げた。
「なにしてるの、ソレイユ君!シグルドはいつも私とシルフ最強剣士の座を争ってる剛のプレイヤーなのよっ!?」
「へぇー、そうなんだー」
それでも構えようとしないソレイユ。その余裕な態度にシグルドは腹を立てながら剣を振りかざしながらソレイユに突っ込んで行った。そこで初めてソレイユが右手だけを動かした。
「遅いわっ!!」
その激昂と共に振りかざした剣をソレイユに向かって振り下した、のだが――
「ふむ」
その刃がソレイユに当たることはなかった。リーファやキリト、いつの間にか集まっていたギャラリー、そして、当事者のシグルドでさえ何が起こったのか理解できなかった。そして、先ほどまでのような気の抜けた声ではなく、鋭さを含んだ声で――
「隙だらけだぞ」
そう言って右手でシグルドのことを軽く突き飛ばし、次の瞬間蹴った地面が抉れるのではないかと心配になるほど勢いよく踏込みシグルドを蹴り飛ばした。ダメージこそ喰らわないもののノックバックが発生し、シグルドは大きく吹き飛ばされてゴロゴロと地面を転がる。それを見るだけでソレイユが放った蹴りの威力が伺えた。
「えっと・・・ソレイユ君?さっきなにしたの?」
「蹴り飛ばした」
「いや、そうじゃなくて!その前だよ!」
「あの弱っちぃのを突き飛ばした」
「そこじゃなくて!?その前のことだよ!」
なんていうコントのようなやり取りをするリーファとソレイユ。もちろんソレイユは確信犯でやっているのだが。
「手の甲で剣筋をずらした」
「は、はぁ!?」
大声を出して驚くリーファ。信じられないような目でソレイユのことを見ている。
「そんなことできるものなのっ!?」
「現にさっきやっただろ?」
「うっ・・・確かに・・・」
ソレイユの言葉に言葉を詰まらせるリーファ。確かに先ほどやっていた。だが、あまりの有り得ない現実に頭が理解することを拒んでしまったらしい。
「そんじゃ、気を取り直して出発しますか」
「う、うん。そうだね・・・」
ソレイユの言葉に頷くリーファだが、釈然としないのか返事は曖昧だった。どうやらまだ頭の中は混乱しているらしい。
ソレイユの行動に呆れていたキリトを伴ってエレベーターのある方へと歩を進めていこうと踵を返したところで、背後から怨嗟が混じった声が響いた。
「せいぜい外では逃げ回ることだな、リーファ!!今オレを裏切れば必ず後悔することになるぞっ!?」
「留まって後悔するよりずっとマシだわ」
それだけ言うとリーファはキリトの手を掴んでエレベーターの方へ歩いていく。後ろでシグルドが何かしら言っているが無視を決め込んでいた。
「・・・・・・」
だが、ソレイユはそんなシグルドの姿を見据えていた。その瞳の色に見覚えがあったからだ。すなわち、欲望にかられた狂気の色。
「(・・・これは、何か一波乱ありそうだなー)」
と口には出さず心の中で呟くソレイユ。面倒なことにならなければいいなぁ、と思いながらリーファ達の後を追ってエレベーターに乗り込んでいった。
後書き
お、お久しぶりでござんす・・・
まずはじめに―――
一か月以上も放置して申し訳ありませんでした!!楽しみにしていただいている皆様に大変ご迷惑をおかけしました!!
ソレイユ「いるのか?こんな駄作者が書いたものを楽しみにしている人たちなんて」
ルナ「いないんじゃないの?」
ぐはっ!?
と、とりあえず、お待たせして大変申し訳ありません!これからはできるだけ早く上げていくつもりなので今後ともよろしくお願いします!!
そ、それでは感想などお待ちしております!!
ソレイユ「逃げたな」
ルナ「逃げたね」
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